芽吹く二人の出会いの話

むらくも

文字の大きさ
7 / 25
協力

7.遭遇

しおりを挟む
 ……少しだるい程度だったのに、段々と足取りが重くなってきた。
 ただ部屋に向かって歩いてるだけで息が上がる。心臓がばくばく動いてるのに全然酸素が回ってこなくて苦しい。
「っ……なん、だこれ……」
 ついには足すら動かなくなって、寮へ向かう廊下の途中でしゃがみこんだ。体が熱い。これじゃさっきのΩの生徒みたいだと頭の隅で考えて、ざあっと血の気が引いた。
 まずい。自分はアイツと違って何も持ってない。薬どころか首輪ですらも。
 だって、だって今までこんなになった事はなかった。薬を多少飲み忘れたって平気だった。しかも今日はちゃんと飲んでるのに。
 とにかく人の通らないところに籠らないといけない。そう思うけれど焦りとパニックで体が固まってしまって動かない。
 
 αが、通りかかったりしたら。
 他のΩより特徴が薄いと言われてるとはいえ、もしこれがヒートだったりしたら何が起きるか分からない。
 じわじわと嫌な汗が滲んでくる。
 動かないと。床を這ってでも。
 今日の騒動で見たα集団の様子を思い出して寒気がした。
 何とか体を追い立ててずるずると進んでいく。だけど、それすらも危うくなってきて。
「おい、大丈夫か?」
 急に声をかけられてビクッと体が震えた。恐る恐る振り返ると、さっきの騒動で活躍していたβ様の顔。
 ――よかった、αじゃない。
 ホッとしたせいか一気に体から力が抜けた。向こうは完全に動けなくなってしまったオレを見て何か察したらしい。肩を貸して貰って、すぐ近くの教室へ移動した。
 
 
 廊下側の窓の下まで何とか移動してうずくまってると、パチンと鍵のかかる音がして足音が近付いてくる。
「ほら、これを飲め」
 しゃがんだ生徒会長に差し出されたのは青みがかった丸い錠剤。正体が分からずにじっと手の主を見ると、少し困ったように笑った。
「ああ悪い、得体の知れないものは飲めないな。貰い事故対策用の鎮静ピルだ」
「ちん、せい……?」
「αやΩの緊急抑制剤のようなものだ。これで少しは楽になるだろう」
 βにそんなもの要るんだろうか。普段なら絶対手を出すとは思えないけど、今はそれどころじゃなかった。苦しい、熱い、この状態をどうにかしたい。
 その一心で手を伸ばそうと力を入れる。だけど上手く腕が上がらない。見かねたのか錠剤の乗った手が近付いてきて口元を塞いだ。ころんと転がり込んできた塊の縁がじわりと唾液に溶けて、少し苦味が広がった。
 何とか飲み下すと背中をさすってくれる。落ち着くまでずっと、大丈夫、大丈夫、と囁く声が鼓膜を揺らしていて。
 背中の暖かい手のせいもあるんだろうか。何だか酷く……安心した。
 
 しばらく背中をさすってもらって、やっと落ち着いてきた。息を深く吐き出してゆっくりと吸う。何度も何度もしつこいくらい繰り返して、ふうっとひとつ息をついた。
「落ち着いたか?」
「んん……なんとか……」
 動けなくなるまでが早すぎて本気でどうなるかと思った。もしも生徒会長が通りかからなかったらと考えるとゾッとする。
「何だったんだ今の……」
「さっきのΩのフェロモンだろうな」
「でも、Ωのフェロモンはαに影響するんじゃ」
 Ωのフェロモンは子作りの相手を呼ぶためのものだって教わった。オレも男だし、そういう意味では射程範囲かもしれないけど。
 だったらさっきの反応はおかしい。呼んだのに相手が動けなくなったんじゃ意味ないだろ。
「意外とそうでもないようだ。Ωが影響を受けたのか連鎖的に発情してしまったりするケースも何度か見かけたし」
「えっ」
 生徒会長が言ってるのって、αのヒートじゃなくてΩのヒート状態になるって話か。Ωのフェロモン浴びて同じヒートになるっていうのか。流石に影響する対象に見境が無さすぎるだろ。
 でも……それが有り得るんだとしたら説明は一応つく。
「個人差があるらしいから、αへの影響のように絶対的な話ではないが。むしろその個人差で予測がつかなくて厄介なんだ」
「へ、へぇ……」
 頭痛くなってきたぞ。
 ヒートって自分だけ気にしてたらダメなやつなのか。よりによってこの学校は他の学校よりΩの人数が集められてるっていうのに、それは難易度が高すぎる。
「βでもフェロモンに敏感な体質だとあてられてしまうようだ。とはいえβ故に軽微だがな」
 
 ふと気がついたら、生徒会長の手が頭を撫でていた。
「だからあまり気にするな。別におかしい事じゃない」
「……ありがとう、ございます……」
 優しい顔と声。どうやら元気づけてくれてるらしい。確かにフェロモンの影響を受けないはずのβがこんなになったらショックかもしれない。
 オレΩだからやっちまった感しかないけど。
「紛いとはいえヒート状態は消耗するから部屋でゆっくり休むといい。ほら、手」
 差し出された手を取って取ろうとして――違和感に気付いて引っ込めた。
 
 やばい。
 
「ん? どうした」
 少し心配そうな顔が見つめてくる。
 いやそんな心配されるような事でもない。大丈夫だから、そんな顔させてこっちが申し訳なくなるような表情はしないでほしい。
「いえ、あの……後で行くんで、その」
 今立ち上がる訳にはいかない。ヒートもどきみたいな状態になったせいか、固くなってる下半身が丸分かりになってしまう。
 ここでバレるのはさすがに恥ずかしすぎる。
 
 
 しばらく不思議そうにこっち見てたけど、ああなるほど、なんて呟きが聞こえてきた。
「思ったよりしっかり当てられていたか」
 そう呟くと、ポーチから何かのシートを引っ張り出した。アルコールみたいな匂いがする。ウエットティッシュだろうか。
 不思議に思ってると前屈みになってた肩をとすんと後ろの壁に押し付けられて、生徒会長の右手が脚の間に滑り込んでくる。何が起こったのか理解しきる前にベルトは外れるし前は寛げられるし。
「ひっ!? うあ、ちょっ、何すんだよ!」
 ……下着の中に手突っ込まれるし。
 慌てて暴れるけど、固くなってるそれを擦られて一気に力が抜けた。
「出してやる」
「い、要らな……っ、う……!」
 にーっと悪戯っ子みたいに笑った生徒会長の手はもぞもぞと股間を撫でてる。やっぱりヒートになりかけて過敏なのか、他人に触られる違和感を軽く通り越して気持ちよさが押し寄せてきた。
「遠慮するな」
 にっこり笑う顔の持ち主はその手でオレのをがっつり立たせて、外へ引っ張り出す。
 よく知らない先輩に触られてあっという間にコレは……あっさり陥落しすぎだろオレ……っ!
「え、遠慮なんかっし、てな……っっ」
「ほら、力抜け」
 泣きたくなりながら頑張って押し返しても、優しい声が耳のすぐ近くで囁いてどんどん力が抜けていく。こんなのたちの悪いセクハラだろって頭は考えてるのに、よりによって体が持ち主のオレじゃなくて生徒会長の言うことを聞く。
「っ、ぅ……う゛ーッ……!」
 ぐるぐる混乱する思考からはもう何の反論の言葉も出てこなくなってしまった。
 頑張って唸りながら睨むけど、情けないし恥ずかしいしでもう訳が分からない。おまけに生徒会長がつけてる香水の甘い匂いのせいなのか頭がくらくらする。
「恥ずかしいならもたれ掛かってるといい」
「っ、は……っつ……」
 ぽんぽんと背中を優しく叩かれて、くらくらして、逆らえなくて。誘導されるまま生徒会長の肩に頭を預けてしまった。
「ふふ、いい子だ」
 優しい声が鼓膜を揺らして、背中をさすってた暖かい手のひらが今度は頭を撫でる。
 あの時Ωの生徒相手に生徒会長がこの声で話しかけてた理由が分かった気がする……逆らえない、全然。いっぱいいっぱいで苦しい状態にこの声で囁かれると言うことを聞いてしまう。
 
 ……結局、オレの頭も触られてる気持ちよさに負けて。なけなしの抵抗心もしばらくすると消え失せてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

攻められない攻めと、受けたい受けの話

雨宮里玖
BL
恋人になったばかりの高月とのデート中に、高月の高校時代の友人である唯香に遭遇する。唯香は遠慮なく二人のデートを邪魔して高月にやたらと甘えるので、宮咲はヤキモキして——。 高月(19)大学一年生。宮咲の恋人。 宮咲(18)大学一年生。高月の恋人。 唯香(19)高月の友人。性格悪。 智江(18)高月、唯香の友人。

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

処理中です...