魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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五月十四日土曜日 曇天「母VS祖母」

5/14②

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――そうして、今朝早く電車と高速バス、そしてまた電車を乗り継いで四時間近くかかって、ようやくこの町に辿り着いたのだ。
 途中の車窓からも見えたけど、ここは海が近い。
 普通に歩いていても潮の匂いがする。
 私は、今日なぜこの町に来たのか、よくわかっていない。
 急に私と祖父母を合わせてみたくなったのか?
 昨日ママが泣いていたのはなぜなのか?
 なぜ、今まで私に祖父母の存在を隠していたのか?
 なにも言ってくれないママの背中をただ追いかけるしかなかった。

「あそこ、なの」

 青い屋根の小さな平屋の家。そこに掲げられた白いトタンの看板には『シバタ駄菓子店』とはげかけた黒色の文字で書かれていた。

「ママの実家?」

 私の質問に、無言で頷くママがその店先で椅子に座る初老の女の人をじっと見ていた。
 一目でわかってしまった、少しママに似てるんだもん。
 佇む私たちの存在に、向こうも気づいたのだろう、ふと顔をあげてママをじっと見ている。
 ママの背中に隠れて私もおばあちゃんを覗き見た。
 二人とも何も言わないその様子に、ただならぬ緊張感を感じる。

「何しに来たんだい?」

 ようやく口を開いたのは、おばあちゃんだった。

「あ、の」
「お客さんかい? だったら歓迎するよ、いらっしゃいませ。何がほしいんだい?」

 ママの肩が、握りしめた拳が、震えていた。
 泣いてるんじゃないかって、思った。

「用事がなきゃ、私だって来たくなかったわよ」

 あれ?

「都合がいいねえ? あれだけの啖呵たんか切って出て行ったんだろ? こっちは、あんたになーんも用事なんかないよ」

 あれれ?

「相変わらずね、母さん。思い出したわ、そういう母さんの性格と合わないから出て行ったんだってこと」
「はいはい、あんたも相変わらずね? そんなこと言うために帰ってきたのかい」

 待って? 十二年ぶりの感動の再会はどこに?

「もう、いい。やっぱ自分でどうにかする。帰るよ、キラリ」

 クルリと私を振り向いたママは泣いてなどいなかった。
 むしろこめかみあたりが怒りでヒクヒクと震えているような。
 宿題をやり忘れた時、塾をサボってしまった時に私に対してみせた顔だった。
 ヒッと首をすくめた私だったけど、その時見えてしまった。
 私に気づいたおばあちゃんが椅子から立ち上がったのを。
 あわててペコリと頭を下げたら、おばあちゃんは私に向かって少しだけ口角をあげて目を細めて頷いた。
 その優しそうな顔は、ママに見せていたものとは全く違っていて。

「行くよ、キラリ」

 歩き出さない私に業を煮やしたママが手を引こうとするのを拒否した。

「キラリ?」
「ダメだよ、ママ。何か話があったんでしょ? ちゃんと話さないと」

 だって、おばあちゃんは心配そうな顔でママの背中を見つめていたから。
 私は、おばあちゃんの元に走り出す。

「え、やだ、キラリってば!」

 ママの声を背に、おばあちゃんの目の前まで走って。

「はじめまして、おばあちゃん。柴田希星です。今日は、ママと一緒におばあちゃんにお話があって来ました」

 緊張で笑えずに挨拶をした私に、おばあちゃんはウンウンと頷いて。

「はじめまして、じゃないよ? キラリ。ずいぶんと大きくなったね、美人になった」

 そう言って私の手を握り、おばあちゃんは少しだけ涙ぐむ。
 その頃には私を引き戻そうとしたママも側まで来て、何も言わずに立ちすくんでいて。

「上がんなさい、遠いところから来たんでしょ? お茶でも淹れるから、少し休みなさい、

 そう言って駄菓子屋の中に入っていくおばあちゃんの言葉を聞き、ママと顔を見合わせる。
 おばあちゃんはきっと引いてくれたんだ。
 だから、今度はママが引く番だよ、と無言でママのシャツをツンツンと引っ張ったら、わかってると頷いてくれた。
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