約束の未来~Re:set~

東 里胡

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第一章 リセットされた世界

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「紅~? やだ、もう電気真っ暗じゃない」

 母の声で目が覚めた。
 気が付けばまた小さな私の自室、そう十九歳まで母と過ごした部屋だった。
 さっきと違うのは、どうやらもう日は落ちていて、だから部屋が暗いのだということ。
 窓から見える外の景色は一転、満月が覗いている。
 蒸し暑いせいか、夜でもまだ蝉の鳴き声は聞こえているのを、ぼんやりした頭で確認した。
 さっきまで私はあおの家にいなかったっけ?
 のそのそと起き上がり、部屋の電気をつけて鏡を見た。
 今朝、私が着替えた服だ。
 髪の長い自分、中学生の時に好んで着ていたTシャツとデニム姿。
 よく見たらTシャツの裾に茶色いシミがついている。
 正体はきっと空中に止まったあのお茶だと思う。
 うん、夢じゃない、全部全部覚えている。

「紅~? ねえ、起きてるの?」

 ノックもなしにガチャリと私の部屋の扉を開けるのは母の悪い癖だ。
 何度言っても直す気がないようなので、私は不機嫌にそれを見るだけになった。

「起きてたのね、ご飯食べようよ。お腹すいたでしょ」

 言われて初めて、それに応えるように、私のお腹がぐううっと大きな音を立てる。
 
「冷蔵庫に入ってたおかずも減ってないし、パンも減ってない。お母さんがいないと何も食べないで一日中勉強ばかりしてるんだから」

 もう、と笑う母の能天気さが本当に羨ましい。
 私本当にこの人の子供なんだろうかって、昔から思ってた。
 母は、年中無休じゃないかってぐらい安月給で保育士として働いている。
 小学校高学年になると学童に行かなくなった私はいつも夜の十九時頃まで一人きりだった。
 母子家庭だから仕方ない、割り切って小さい頃から冷めてた気がする。
 いつも夕飯に並ぶのはスーパーの見切り品の札のついた総菜ばかり、私はそういうのの全てが嫌だった。
 母子家庭が嫌なわけじゃない、貧乏ったらしいのが嫌いだったんだ。
 五百円玉一枚で一日生活しないといけなかったり、見切り品の値札だったり、母の口癖の『もったいない』が、大嫌いだったのに――。
 なのに、どうしてだろう?

「紅、どうしたの?」

 この安っぽい食事が美味しいと感じている。

「別に」

 こみ上げる物を誤魔化すように、この夕飯で唯一母が作ってくれた即席みそ汁と共に飲み込んだ。
 その夜は、ひどい倦怠感から布団に入るとすぐに眠ってしまったようだ。
 翌朝、物音で目覚め台所に向かうと、既に母は朝の支度を始めていた。
 その背中をしばらく眺める。
 そういえば確か五年ぐらい会ってなかったな。

「お母さん」

 声をかけると母が驚いた顔で振り返った。

「おはよう、珍しいわね、学校休みなのに紅が早起きなんて」

 あの頃は、早起きしたくないわけじゃなかった。
 母と顔をあわせるのが嫌だったから、ってだけのこと。
 玄関で私を起こさないように小さな声で「いってきます」が聞こえて、それから外から鍵をかけた母の足音が遠ざかるのを確認してから、布団から出ていたんだ。
 
「私、自分でやるよ、支度したら?」
 
 自分の支度よりもいつも私の朝ご飯を作るのが先だった。

「あら、いいの? お母さん楽させてもらえちゃう、ありがとう」

 母はニコリと笑い、すれ違いざまに私の頭を優しく撫で、朝の身支度に取り掛かりだす。
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