約束の未来~Re:set~

東 里胡

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第四章 許されないことだとしても

4-1

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 進路希望を提出したその日の放課後、指導室に呼び出された。

 第一希望職種 保育士
 第二希望職種 裁判官

 私の成績ならば裁判官は夢ではない、何故突然保育士なんだ、と先生は嘆いていた。
 多分私が教師でもそう思ってたかもしれない。
 だけど、今の気持ちに正直になると保育士の方へと気持ちが傾いているんだ。
 先生の一方的な説得に異論を唱えたならば、きっと遅くなると感じ、素直にウンウン頷いて「前向きにもう一度考えます」と頭を下げて指導室を出た。

「終わった?」

 廊下の壁にもたれて私を待っていたらしい碧が微笑んでいる。

「珍しいよね、紅がこんなとこに呼び出されるなんて」

 嫌味かな? 心配かな? 碧の本音はよくわからない。

「将来の心配を先生がして下さってたの、羨ましいでしょ?」

 ふんっと笑い返したら、そうだね、と私に並んで歩き出す。

「宵は?」
「先に保育園行ってるってさ、紅が遅くなるのも伝えておくって」
「最近使える男になってきたと思わない?」
「うん、よくまあ黒をあんなに手なづけたよね、感心するよ。」

 隙さえ見せなければ可愛い? いや、可愛くはないけれど。

「で? 裁判官になるの止めるの?」
「……聞いてたの?」
「聞こえてたの、先生の声が大きすぎる、説得するにしたってあんなに興奮しなくてもいいのにね」

 クスクスと思い出し笑いをした碧が、意外なことを口にした。

「保育士、紅には似合ってると思うよ」

 ……あ、れ?
 目を細めて笑った碧が、優しい顔をしていたから、何だか見ていられなくなってしまう。

「でも、また気が変わるかもしれないけどね」

 照れくさくなって、夕べ母さんに言ったのと同じような憎まれ口をたたいてた。


 保育園に行くといつものようにメイちゃんがお出迎えをしてくれる。
 碧はとっととおままごと集団に連れて行かれて、宵は外で男の子たちを中心に鬼ごっこをしていた。
 窓からその様を見ながら、今日はメイちゃんと二人きりの折り紙をする。
 私の人気の無さ、こんなんで保育士なれるのかしら?



―――
 
「コウ先生、今日は何作ろう?」
「何作ろうかなあ」

 メイちゃんは私を独り占めできるのが嬉しいみたいで、ずっと笑っているから、可愛くて仕方ない。
 二人でいっぱいお花を作って糊でくっつけて、花冠みたいに頭に飾り合う。
 
「メイちゃん、お姫様みたいだね」
「コウ先生もだよ」

 ふふふと笑ったメイちゃんが急に静かになった。

「どうしたの? メイちゃん」
「あのね? コウ先生は、どうして毎日保育園にいないの? どうして、ちょっとの時間しかいないの?」
「ん~、まだコウ先生は本当の先生じゃないんだよね、もっと大人になって本当の先生になったら……いられるかなあ」

 雇ってもらわないことには、ここでは働けないから現実的な部分は濁した。

「後どれくらいで、大人になるの?」

 そう問われて、ふと思い出す。
 本当は私は一度大人になってたんだなってこと。

「後、そうだなあ、高校は二年あるし短大出てとなると、少なくとも4年かな」

 子供相手にきちんとした説明をした自分がバカだった。
 メイちゃんはうるうると瞳を潤ませてしまう。

「メイ、小学生になっちゃうよ! 来年1年生になっちゃったら保育園に来れないよ、そしたらコウ先生ともう会えないの?」

 うわああんと大声で泣き出したメイちゃんを慌てて抱きしめる。

「できるだけ、来るから! メイちゃんと遊びに来るから、ね?」

 泣かないで、と抱きしめたら胸が苦しくなる。
 私が保育士になろうかな、と思ったのは母に憧れてだけじゃなくて、メイちゃんの笑顔もあったんだ。

「絶対? いっぱい来てくれる?」

 指切りして、と差し出した小さな小指に自分の指を絡めた。

「はりせんぼん、のーます、指きった」

 ようやく少し笑顔を取り戻したメイちゃんと仲直りができたんだ。




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