61 / 79
第四章 許されないことだとしても
4-12
しおりを挟む
「何やってんだよ」
怒りを含むその声と腕の強さに、いつもの冷静な碧ではないことに振り向かなくても気づいてしまう。
「あー、もう、早すぎるよ、碧くんてば。本当、紅ちゃんのこととなると必死になりすぎ」
クスクスと笑う宵。
その瞬間、私の背中側にあった気配が消えた。
「次はない、二度と人間界に来られないように特別に手配しようか?」
碧が宵のシャツの首元を締め上げていた。
宵の顔が苦悶に歪んでグッと苦しがった声に、ようやく碧は手を離した。
「宵、大丈夫?」
咳き込む宵に近づこうとする私の腕を強く掴み引き留める。
「帰るよ、紅」
碧が冷酷に私を見下ろしていた。
しゃがみ込み苦しそうな宵と怒っている横顔の碧を見比べてから首を振る。
「ちょっとだけ、待って! 碧」
近くの自販機の水のペットボトルが目に入って碧の手を振りほどき、それを一本購入し宵の元へと届けた。
「はい、……じゃあね」
手渡した瞬間、悲しそうな目をした宵が捨て犬みたいに見えて、見ていられずに目を背け待っている碧の元に走り出す。
ごめんね、今はこれ以上碧を怒らせたくない。
早足で歩き出す碧の歩幅に合わせるのは、息が切れる。
ほんの一年前まで変わらなかった私たちの身長差がこんな時に思い知らされるのだ。
いい加減に怒るの止めてよ。
確かに私が悪かったとは思うよ。
隙を見せないように、ずっと碧が言っていたことを、何となく大丈夫だろうって油断して破ってしまったんだもの。
だけど、自分が悪いと思ってはいるけれど、そんな風に冷たく突き放すような碧の背中をずっと見ているのが辛い。
必死にそれを追いかけているのも何だか悲しくなって私は不意に足を止めた。
碧はそれから二、三歩歩いてすぐに気づいたように私を振り返る。
「ズルイよ、紅は」
私の元に戻って来た碧は、
「前はそんな風に泣いたりしなかったくせに」
伸びて来た指が私の目尻をなぞっている。
「だって碧が」
「俺が?」
「置いてくから」
何を、私ってば言ってるんだろう。
子供みたいなこと言っている。
こんなんで泣くなんて恥ずかしいのに、涙が止まらない……。
「……、置いてなんかいけないよ」
行こうと私の手を握り歩き出す碧の手を、ふりほどけないまま、泣きじゃくって、とうとう子供のように泣きじゃくった。
そんな私に碧は何も言わず、繋いだ手を時折力強く握りしめて歩いてくれた。
怒りを含むその声と腕の強さに、いつもの冷静な碧ではないことに振り向かなくても気づいてしまう。
「あー、もう、早すぎるよ、碧くんてば。本当、紅ちゃんのこととなると必死になりすぎ」
クスクスと笑う宵。
その瞬間、私の背中側にあった気配が消えた。
「次はない、二度と人間界に来られないように特別に手配しようか?」
碧が宵のシャツの首元を締め上げていた。
宵の顔が苦悶に歪んでグッと苦しがった声に、ようやく碧は手を離した。
「宵、大丈夫?」
咳き込む宵に近づこうとする私の腕を強く掴み引き留める。
「帰るよ、紅」
碧が冷酷に私を見下ろしていた。
しゃがみ込み苦しそうな宵と怒っている横顔の碧を見比べてから首を振る。
「ちょっとだけ、待って! 碧」
近くの自販機の水のペットボトルが目に入って碧の手を振りほどき、それを一本購入し宵の元へと届けた。
「はい、……じゃあね」
手渡した瞬間、悲しそうな目をした宵が捨て犬みたいに見えて、見ていられずに目を背け待っている碧の元に走り出す。
ごめんね、今はこれ以上碧を怒らせたくない。
早足で歩き出す碧の歩幅に合わせるのは、息が切れる。
ほんの一年前まで変わらなかった私たちの身長差がこんな時に思い知らされるのだ。
いい加減に怒るの止めてよ。
確かに私が悪かったとは思うよ。
隙を見せないように、ずっと碧が言っていたことを、何となく大丈夫だろうって油断して破ってしまったんだもの。
だけど、自分が悪いと思ってはいるけれど、そんな風に冷たく突き放すような碧の背中をずっと見ているのが辛い。
必死にそれを追いかけているのも何だか悲しくなって私は不意に足を止めた。
碧はそれから二、三歩歩いてすぐに気づいたように私を振り返る。
「ズルイよ、紅は」
私の元に戻って来た碧は、
「前はそんな風に泣いたりしなかったくせに」
伸びて来た指が私の目尻をなぞっている。
「だって碧が」
「俺が?」
「置いてくから」
何を、私ってば言ってるんだろう。
子供みたいなこと言っている。
こんなんで泣くなんて恥ずかしいのに、涙が止まらない……。
「……、置いてなんかいけないよ」
行こうと私の手を握り歩き出す碧の手を、ふりほどけないまま、泣きじゃくって、とうとう子供のように泣きじゃくった。
そんな私に碧は何も言わず、繋いだ手を時折力強く握りしめて歩いてくれた。
40
あなたにおすすめの小説
『Dystopia 25』 ~楽園~
シルヴァ・レイシオン
SF
閉鎖された大きくて深い、密林のジャングル奥地。
その空間の中心には、秘密裏に作られた大きな集落『コロニア』
そこに今では万に近い数の人類が住み、独自世界の発展を継げていた。
「衣」 「食」 「住」
全てが「配給・配備」され、なに不自由が無い楽園のような生活が確保されている。
人類が主権による争い、天災や厄災による不幸も無く、貧困や差別も無い平和が約束されたこの世界の未来は、どうなっていくのだろうか。
その先に、本当の「人間」が浮き彫りになっていく・・・・・・
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
25階の残響(レゾナンス)
空木 輝斗
ミステリー
夜の研究都市にそびえる高層塔《アークライン・タワー》。
25年前の事故以来、存在しないはずの“25階”の噂が流れていた。
篠原悠は、亡き父が関わった最終プロジェクト《TIME-LAB 25》の真実を確かめるため、友人の高梨誠と共に塔へと向かう。
だが、エレベーターのパネルには存在しない“25”のボタンが光り、世界は静かに瞬きをする。
彼らが辿り着いたのは、時間が反転する無人の廊下――
そして、その中心に眠る「α-Layer Project」。
やがて目を覚ますのは、25年前に失われた研究者たちの記録、そして彼ら自身の過去。
父が遺した装置《RECON-25》が再起動し、“観測者”としての悠の時間が動き出す。
過去・現在・未来・虚数・零点――
五つの時間層を越えて、失われた“記録”が再び共鳴を始める。
「――25階の扉は、あと四つ。
次に見るのは、“未来”の残響だ。」
記録と記憶が交錯する、時間SFサスペンス。
誰もたどり着けなかった“25階”で、世界の因果が音を立てて共鳴する――。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
最弱弓術士、全距離支配で最強へ
Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」
剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。
若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。
リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。
風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。
弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。
そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。
「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」
孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。
しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。
最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!
【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約
Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。
腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。
地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。
彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。
「死んで、私の影になれ」
彼女は知っていた。
この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。
そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。
これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。
アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!
古森真朝
ファンタジー
大学生の理咲(りさ)はある日、同期生・星蘭(せいら)の巻き添えで異世界に転移させられる。その際の着地にミスって頭を打ち、いきなり流血沙汰という散々な目に遭った……が、その場に居合わせた騎士・ノルベルトに助けられ、どうにか事なきを得る。
怪我をした理咲の行動にいたく感心したという彼は、若くして近衛騎士隊を任される通称『銀鷹卿』。長身でガタイが良い上に銀髪蒼眼、整った容姿ながらやたらと威圧感のある彼だが、実は仲間想いで少々不器用、ついでに万年肩凝り頭痛持ちという、微笑ましい一面も持っていた。
世話になったお礼に、理咲の持ち込んだ趣味グッズでアロマテラピーをしたところ、何故か立ちどころに不調が癒えてしまう。その後に試したノルベルトの部下たちも同様で、ここに来て『じゃない方』の召喚者と思われた理咲の特技が判明することに。
『この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!』
趣味で極めた一芸は、異世界での活路を切り開けるのか。ついでに何かと手を貸してくれつつ、そこそこ付き合いの長い知人たちもびっくりの溺愛を見せるノルベルトの想いは伝わるのか。その背景で渦巻く、王宮を巻き込んだ陰謀の行方は?
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる