約束の未来~Re:set~

東 里胡

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第四章 許されないことだとしても

4-21

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「メイちゃん、起きて? ママが迎えに来ちゃうよ?」

 可哀そうだけれど揺すって起こしてみると、ゴシゴシと目を擦りボンヤリと私の顔を見ている。

「コウ先生?」
「ん?」
「明日は何作ろっかあ」

 笑ったメイちゃんに、涙が零れ落ちそうになってギュッと抱きしめた。
 無事で良かった。
 メイちゃんの笑顔がまたみられて本当に良かった。
 
「コウ先生? どうしたの?」
「どうもしないよ、また明日までサヨナラのギュッ」
「ふふっ、メイもギュッ」

 私の首筋に絡みつく小さな手が温かいのが嬉しい。

「紅? メイちゃん?」

 廊下を駆ける音が近づいてきて教室に飛び込んできたのは碧。

「アオ先生だ、あ!! ヨイ先生も」

 続けて碧の後ろから宵も駆けつけてきた。
 二人とも何とも言えない安堵の表情を浮かべて、私とメイちゃんを見て微笑んだ。

「あと帰ろうか、紅」

 碧が意味するのは、さっきの事故が起きた時間をここで過ごそう、ということだろう。
 宵もそれに同意と頷いている。

「んじゃ、あと十分、メイちゃんにお魚折っちゃおうかな」
「やったあ」

 目尻の涙を拭って赤や青のカラフルな魚を折りあげる。
 碧や宵も隣で私の指導を受けながら一緒に追ったけど、メイちゃんの方が上手だった。

「コウ先生、アオ先生、ヨイ先生、そろそろお時間ですよ~!! メイちゃんもママがお迎えに来るから上着着て待ってましょうね」

 いつもよりも遅くなっている私たちの元へ、時間を知らせに来た母の笑顔にホッとした。
 さっき会ったばかりなのに何だかとっても懐かしい気分になって、また鼻の奥が熱くなって、泣きそうになってしまう。

「ん? 紅、顔が赤いけど? 風邪でもひいた?」

 伸びて来た母の手が温もりが染み入るみたい。

「お母さん」
「ん?」
「今日食べたいものある? 何でも作るよ?」
「どうしたの? 突然! やっぱり熱?」

 う~ん、平熱っぽいけどおかしいなあと首を傾げるお母さんに、何でもないよ、と微笑んだ。
 二度と会えなくなっちゃうとこだったからなんて、何も知らないお母さんからしたらビックリだよね。

 本日二度目の退園時、念入りに門扉の鍵をきっちりと閉めた。
 一度目、多分私はそれを怠った。
 園児が出て行ったりしないように、門扉の内側にある鍵をロックすること。
 それは園を出入りする者の絶対的掟だったのに、慣れや確認不足、それが一人の尊い命を奪うことになるんだ。
 メイちゃんはママのお迎えを待ち、母と手を繋ぎ寂しそうな顔をしながらだけれど、玄関ホールでまた明日、と笑顔で手を振り私たちを見送ってくれている。
 それを見ながら私たちは門の外から、もう一度メイちゃんと母に手を振って、青になった横断歩道を渡り出す。
 三人とも今きっと同じ気持ちなんじゃないかな?
 一つの命を守れた喜び、あの笑顔をもう一度取り戻すことができて本当に良かった。

 横断歩道を渡り切る前、先ほどと同じ立ち位置、もうすぐ赤信号になるタイミングで、突然はやってきた。

 まばゆいばかりの光が私たちを包み込む。
 あの時と全く一緒だ。
 見逃してはくれないとは思っていたから覚悟はしていたものの、やっぱり来ちゃったかと肩を落とす。
 周りの景色が夕闇から一転、白と金の世界に変わっていく。
 眩さに慣れ目を凝らした先に、青色の椅子に腰かけた3人が渋い表情を浮かべて私を見ていた。
 真ん中のオジサンの顔は見忘れることはない。
 二十五歳の私を裁き、十年前にリセットした張本人、碧のお父さんだからだ。
 そういえば気マジメそうな碧の目とよく似てるわ。
 あの時はわからなかったそれに今更気付くなんて……。
 こんな場所で苦笑なんて不謹慎だとは思うけれど、ふっと息を漏らして苦笑した。

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