異世界と現代兵器 ~いや、素人にはちょっと~

霞草

文字の大きさ
89 / 155
第五章

88話

「お待たせしましたぁ。朝食セットです」
「お姉さん、ごちそうさま」
「はい、ありがとうございます。皆様、いってらっしゃいませ」

 朝御飯を食べ終わった客達はウエイトレスに見送られ、それぞれの仕事に出かけて行く。
 客は商人や冒険者が殆どだ。

 朝の混雑が一段落したころ、ウエイトレスは女将に声をかけられた。

「そろそろ落ち着いてきたわね。もう上がってもいいわよ」
「はい。ではお先に休憩します。今日のお昼は私が厨房でしたよね?」
「ええ、今日は私が表でエルビラさんが厨房の日よ。頼むわね」
「はい」

 女将のドロシーに一礼して自分が借りている一葉の部屋へ戻って行った。

 ドルテナがランクアップのために狼の魔物討伐に出かけて6日目。
 予定通りなら明日の夕方には帰ってくるが、狼の群れの捜索に手間取れば数日は延びる可能性もある。

 エルビラはドルテナが出かけて行ったその日。1人ですることがなく、ただボーッと1日を過ごした。
 しかしこれではいけないと思ったエルビラは、一葉の女将のドロシーにお願いして仕事をするようになっていた。

 エルビラが一葉の仕事を始めたその日、一葉には大人数の商隊が宿泊していた。
 料理が出来ると聞いていたドロシーは、大量の料理を作らなければならない厨房の手伝いをエルビラの仕事とした。
 手伝いのつもりで厨房の仕事を割り当てたのだが、エルビラの料理の腕前が殊の外よく、今では調理まで行うようになっていた。
 早くに母親を亡くし、小さい頃から料理を含めた家事全般を熟していたエルビラは一葉の即戦力となった。

 今では昼の厨房を女将のドロシー、ドルテナの母、エルビラの3人でローテーションするようになっていた。
 一葉の主でドロシーの夫のクストディオは、朝は休んで昼から夜の仕込みをするようになっていた。
 少し余裕が出来たことで、新作メニューを考案する時間が取れるようになり、クストディオは喜んでいる。

 部屋へ戻ってきたエルビラは、昼の仕事までの間に部屋の掃除や片付けをする。
 宿に泊まっているのだから、本来は客が部屋の掃除をする必要はない。部屋の掃除は宿代に含まれているのだから。
 ここ一葉の掃除はペリシアの仕事となっている。
 つまり、自分の部屋を婚約者の妹に掃除させることになる。

 それはエルビラが耐えられない。

 ということで、自分の泊まっている部屋の掃除は自分ですることにしたのだ。
 小さい頃から家の家事全般を熟していたエルビラにしてみれば、今泊まっている一部屋程度大したことではない。

 予定通り討伐が終わったドルテナが、予定通り明日帰ってくる可能性がある。
 父や自分を襲ってきた蛇の変異種を1人で、それも無傷で倒せる力を持っている未来の亭主が魔物に苦戦するとは考えられない。

「予定通りなら明日かぁ。お義母さんは2人だけで家に住んでもいいと言ってくれたけど……同棲生活……考えただけでドキドキするわ」

 もしかすると明日の夜から2人だけの生活が始まることを想像して、1人勝手に顔を赤くさせているエルビラであった。



 休憩が終わったエルビラは厨房へやって来た。
 そこには既にドルテナの母、キャシーの姿があった。
 キャシーは商店から届けられた食材を確認しているところだった。

「エルビラさん、ちょうどよかったわ。これとこれを食料庫へ持ってくれる?」
「はい、わかりました」

 エルビラはキャシーが示した食材を厨房横の食料庫へ運ぶ。

 昼に厨房へ入るときは、女将のドロシーかキャシーに色々な料理を習うようになっていた。
 エルビラは物覚えがよく、2人が教える料理をスポンジが水を吸うように瞬く間に覚えていった。



 昼時が終わり、厨房の忙しさも一段落した頃、エルビラがキャシーにある提案をした。
 これはエルビラが厨房に入り、料理を教わるようになってから考えていたことだ。
 それがキャシーに受け入れられたなら、自分の夢が叶うかも知れない。

 その夢とは、得意な料理を仕事にすること。つまり食堂やカフェといった飲食店をやりたい。
 この世界の女性は、結婚して子供を授かると基本家庭に入る。所謂専業主婦ってやつだ。

 なのでエルビラも、結婚するまでに1度は飲食店で働いてみたいと思っていた。
 そして子供が手から離れた後、叶うことなら自分のお店を持ちたいとも思っていた。

 キャシーに提案したのは、ドルテナが帰ってきた後、直ぐでなくてもいいからお義母さんと義妹を含めた4人で食堂をやらないかと。
 父の残してくれた薬剤店をリノベーションして食堂をオープンさせる。
 資金は薬剤店に残っていた薬草などを売却すれば改装費は工面できるはずだ。

 料理が得意な自分とお義母さんがいれば厨房は回るはずよね。
 表はペリシアさんにお願いして……。
 ドルテナ君にはお肉やハーブを取ってきてもらう。
 家族でお店ができるって夢のようだわ。

「エルビラさんの夢。そうね、家族だけで暮らせるのは私としても嬉しいけど、いいの?大切なお店なんでしょ?」

 エルビラの父、ヘイデンの形見でもあるお店を食堂に作り替えてしまうことをドロシーは気にしていた。

「はい、父の残してくれた大切なお店です。だからってあのまま、誰も使わずに朽ちていくのは嫌です。かといって売るのはもっと嫌です。確かに薬剤店ではなくなりますけど、自分の帰る場所であることは変わらないんです。自分が生きていくために必要なことならば父も許してくれます」

 エルビラはしっかりとドロシーの目を見て自分の気持ちを伝えた。
 それを感じたドロシーは首を縦に振り、エルビラの提案を受けることにした。

「テナーが帰ってきたらまたお話しましょう。テナーもいいとなれば話を進めましょうね。その前にお姉さんに相談して置かないといけないわね。私達の後任を見つけないと一葉が大変だわ」 
「わかりました。ドルテナ君早く帰ってこないかな」
「早くても明日でしょ?そんなに急いで進める話ではないわよ?」

 そう言って優しい笑顔を将来嫁となる可愛らしい少女へ向けた。



◆◇◆◇◆◇


 翌日。

 日が傾き始めた頃、エルビラは自分が借りている一葉の1室で寛いでいた。
 いや、寛いでいるつもりでいたと言うべきか。

 椅子を窓辺へと近づけて座り、外を眺めている。
 その視線は部屋から見える通りへ向けられており、宿の前を通り過ぎていく人々の顔を見逃さまいとしていた。

 仕事の方は、今日と明日の2日間お休みをもらっているので決してサボりではない。
 今日はドルテナが帰ってくる日だから休みをもらい、明日はドルテナと2人でゆっくり過ごしたい為に休みをもらった。
 ドルテナが討伐から帰ってくるまでの間だけ一葉で仕事をするつもりだったが、ドロシーやクストディオから料理を教えてもらえるのが楽しくなり、暫く続けることにしたのだ。

 気が付けば外は既に日が暮れていた。

「門が閉まるギリギリに帰ってきて、ギルドによるとしたら……もう少し時間がかかるのかな?」

 自分しかいない部屋で呟かれた言葉は誰に届くこともなく夜の闇に消える。

 その後、いくら待っても待ち人は来ず、ドロシーが一向に晩御飯を食べに来ないエルビラを心配して部屋まで様子を見に来るまで外を眺めていた。



◆◇◆◇◆◇


 翌日。

 今日もエルビラは部屋から見える通りを歩いて行く人々の顔を、お昼御飯を食べるのを忘れるほど眺めていた。

 そして日が暮れ、昨日と同じく心配したドロシーが様子を見に来るまで外を眺めていた。
 そんなエルビラをドロシーは優しく抱き寄せた。

「エルビラさん。1日中部屋の中にいては体に毒よ?テナーを心配してくれるのは嬉しいけれど、それであなたが体を壊したらテナーは悲しむわ」
「でも、昨日帰るって言ってたんです」
「そうね。でも遅くなる可能性もあるって言っていたわ。今回は探しながらの討伐になるって言う話だから数日は延びても不思議ではないわよ?それにあの子のことだから大丈夫。私はテナーの戦うところは見たことないけれど、エルビラさんは見たんでしょ?」

 エルビラがドロシーに抱かれたまま頷く。

「ならテナーの強さをエルビラさんは知ってるのよね?変異種を1人で倒すなんて我が息子ながら信じられないけど、その強さがあるならそうそうやられはしないはずよ。私達はテナーを信じて待ちましょう。ね?」
「はい、……お義母さん。うぅ…っ…う……」

 ドロシーの言葉に今まで堪えていたものが堰を切ったようにあふれてきた。


 しかし、翌日もそのまた翌日もドルテナが帰ってくることはなかった。

感想 22

あなたにおすすめの小説

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。