6 / 199
6.既視感、それとも...。①
しおりを挟む
その数ヶ月後、会社命令だった試験をなんとかパスして、営業職として1人立ち出来るようになった頃、外の季節は秋に差し掛かろうとしていた。
そんなある日のこと。
いつもの課内全体の朝礼の後、田山さんにチームの営業職全員がミーティングルームへと呼び出された。
こんな風に一同に同じ部屋で会するのは珍しく、私以外に集められた他の人間も何事かと緊張しているような面持ちで、田山さんの話を聞いている。
召集された理由はというと、来月から新しく立ち上げられるプロジェクトの為だった。
私には初めて聞く話だったけれど、他の先輩社員にとってはこういう研究所と合同のプロジェクトは初めてのことではないらしく、配布された資料を読むだけでどんな事をするのかはすぐに分かったらしい。
だから、ある程度の概略を聞いてチームの先輩方はすぐにいつもの仕事へと戻り、その中で要領の得ないであろう新入社員の私と山崎さんだけ、田山さんに残されたようだった。
私と山崎さんは、資料を片手にさっき聞いたものとはまた別の詳細な部分とか、資料に書かれていない役割分担とかの話を細かく教えられる。
そんな中でも私は初めての大きな仕事にずっと緊張で顔が強張りっぱなしだったみたいで、田山さんには緊張し過ぎと笑われた。
「今回の案件は俺の大学時代の友人の藤澤ってヤツがいる研究所のチームと組むから、他のチームと違って融通がきくんだよ。だから、失敗を恐れず軽い気持ちで取り組んで大丈夫」
「そ、そうだったんですか...」
この頃には松浦が藤澤さんという人のチームにいる事を既に知っていた。
だから、そのミニ情報は私の緊張を幾らかほぐしてくれるのに役立ち、その横で山崎さんが色めき立つ。
「今回、藤澤さんのチームと一緒なんですか?ラッキー!」
彼は独り言のように「今度こそ飲みに」と呟き、田山さんはそんな彼に、少々顔を引きつらせつつも、苦笑。
「ま、そういうことだから。あと、定時になったら俺のとこに2人とも寄ってくれる?」
そして、約束通り定時に田山さんの元へいくと私と山崎さんの目の前にはドンと大きな白い紙袋2つと、段ボールが置かれる。
私たち2人ともがその荷物の前で揃って首を傾げていると。
「まずはこれを2人で仲良く研究所まで運ぶこと」
田山さんは素敵な笑顔で言い残し、忙しそうにどこかに消えた。
そのまま取り残されてしまった私たちは、同じく目の前に残された荷物を手分けをして持ち、研究所へと向かう。
大きい段ボールは山崎さん、紙袋2つは私と、わりと男女差に配慮してくれた優しい振り分け。
それで、最初は並んで歩いていたつもりが。
彼はスーツだからもちろん大股で歩きやすい。私はというと同じくスーツだったけれど、スカートにローヒール。その歩幅は彼よりも当然小さく、並んで歩いていたつもりが距離がどんどん広がる一方で。
山崎さんは普通に歩いているけれども、途中から私は小走り気味になってしまっていた。
....もう、スカートってこういう時、本当歩きづらい。
これからはパンツスーツの方が動きやすくていいかもと思い直していると、少し前を歩く山崎さんが。
「あっ...」
小さく声をあげたかと思うと、歩くスピードを速めてしまった。
そうなると、どんなに急いでもお手上げ状態。
追いつけないと悟った私は諦めて、ゆっくり彼の後を追うことにする。
そして、大して慌てもせずいつものペースで歩いていくと、ようやくあの通路に差し掛かった。この辺りから白衣の人の姿をポツポツ見かけ、すれ違う。
...あの時もこんな感じで、そうそう、向こうから男の人が歩いてきて。
こういう現象ってなんていうんだっけ?
そんなある日のこと。
いつもの課内全体の朝礼の後、田山さんにチームの営業職全員がミーティングルームへと呼び出された。
こんな風に一同に同じ部屋で会するのは珍しく、私以外に集められた他の人間も何事かと緊張しているような面持ちで、田山さんの話を聞いている。
召集された理由はというと、来月から新しく立ち上げられるプロジェクトの為だった。
私には初めて聞く話だったけれど、他の先輩社員にとってはこういう研究所と合同のプロジェクトは初めてのことではないらしく、配布された資料を読むだけでどんな事をするのかはすぐに分かったらしい。
だから、ある程度の概略を聞いてチームの先輩方はすぐにいつもの仕事へと戻り、その中で要領の得ないであろう新入社員の私と山崎さんだけ、田山さんに残されたようだった。
私と山崎さんは、資料を片手にさっき聞いたものとはまた別の詳細な部分とか、資料に書かれていない役割分担とかの話を細かく教えられる。
そんな中でも私は初めての大きな仕事にずっと緊張で顔が強張りっぱなしだったみたいで、田山さんには緊張し過ぎと笑われた。
「今回の案件は俺の大学時代の友人の藤澤ってヤツがいる研究所のチームと組むから、他のチームと違って融通がきくんだよ。だから、失敗を恐れず軽い気持ちで取り組んで大丈夫」
「そ、そうだったんですか...」
この頃には松浦が藤澤さんという人のチームにいる事を既に知っていた。
だから、そのミニ情報は私の緊張を幾らかほぐしてくれるのに役立ち、その横で山崎さんが色めき立つ。
「今回、藤澤さんのチームと一緒なんですか?ラッキー!」
彼は独り言のように「今度こそ飲みに」と呟き、田山さんはそんな彼に、少々顔を引きつらせつつも、苦笑。
「ま、そういうことだから。あと、定時になったら俺のとこに2人とも寄ってくれる?」
そして、約束通り定時に田山さんの元へいくと私と山崎さんの目の前にはドンと大きな白い紙袋2つと、段ボールが置かれる。
私たち2人ともがその荷物の前で揃って首を傾げていると。
「まずはこれを2人で仲良く研究所まで運ぶこと」
田山さんは素敵な笑顔で言い残し、忙しそうにどこかに消えた。
そのまま取り残されてしまった私たちは、同じく目の前に残された荷物を手分けをして持ち、研究所へと向かう。
大きい段ボールは山崎さん、紙袋2つは私と、わりと男女差に配慮してくれた優しい振り分け。
それで、最初は並んで歩いていたつもりが。
彼はスーツだからもちろん大股で歩きやすい。私はというと同じくスーツだったけれど、スカートにローヒール。その歩幅は彼よりも当然小さく、並んで歩いていたつもりが距離がどんどん広がる一方で。
山崎さんは普通に歩いているけれども、途中から私は小走り気味になってしまっていた。
....もう、スカートってこういう時、本当歩きづらい。
これからはパンツスーツの方が動きやすくていいかもと思い直していると、少し前を歩く山崎さんが。
「あっ...」
小さく声をあげたかと思うと、歩くスピードを速めてしまった。
そうなると、どんなに急いでもお手上げ状態。
追いつけないと悟った私は諦めて、ゆっくり彼の後を追うことにする。
そして、大して慌てもせずいつものペースで歩いていくと、ようやくあの通路に差し掛かった。この辺りから白衣の人の姿をポツポツ見かけ、すれ違う。
...あの時もこんな感じで、そうそう、向こうから男の人が歩いてきて。
こういう現象ってなんていうんだっけ?
1
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる