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25.これが最後だから。
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呼び出されたのは、今夜七時。
彼からもらったメモをデスクに置き、残っていた仕事を懸命に頑張ってのだけれど、終わったのは約束の時間をとっくに過ぎた七時半だった。
私は腕時計の時間を確認して、はぁと小さなため息をつく。
...どうしよう。今から行っても約束の時間が。
これだけ時間が過ぎてしまっては、約束なんてあったものではない。
それでも、彼は待っていてくれているだろうか?
それとも、約束を反故にされたと帰ってしまっているだろうか?
ぐるぐると出口のない迷路に思考が迷い込んでしまったけれど、傍においたメモの藤澤さんの字を見たら、ふんぎりがついた。
いいや。もう、そんなのどうだっていい。
私は自分の気持ちの赴くまま、研究所の方へと向かう。
『どうせ、これが最後なんだから』
それは素直な今の気持ちでもあり、自分がダメージを受けないための言い訳。
それでも彼に会いたいという気持ちに、嘘はない。
社内には殆ど人がいないことをいいことに、私は小走りどころか普通に走り、研究所の棟へと急いだ。
いつも通っている通路の外はもう真っ黒で、研究所の照明もところどころ落とされていたり、そうでなかったり。
...人が殆どいないや。藤澤さんも遅いから帰っちゃった?
半ば諦めの気持ちでドアノブを捻る。
すると、そこには帰っていると思っていた藤澤さんが自席に座っており、私の顔を見て呆気にとられていた。
「...す、すみません。仕事が立て込んでしまって、約束の時間に遅れてしまいました。ま、まだ、大丈夫でしょうか?」
そう早口で捲し立てる私に向かい、彼はフッと口元を緩め目を細める。
「...ええ。本当に待ちくたびれて、このままここで化石になるかと思いましたよ。そうなったら責任とってもらえますか?」
「え?え?え?か、化石?せ、責任ですか!??」
彼の言葉を鵜吞みにして私が慌てふためくものだから、彼は席からは椅子から立ち上がり近づいてきて、なおも笑う。
「...なんて、冗談です。三浦さんが来てくれただけで良かったんですから。さあ、立ち話もなんですから、こちらにどうぞ。コーヒーでも淹れますよ」
優しい顔で手招きされて、私はさっきまで彼が座っていた席に座らせられた。
約束の時間を遅れたことについては、これまで話題にも上がらないし、まったくと言っていいほど彼からのお咎めなし。
それには彼にちゃんと謝りたかったので、自分から切り出した。
「あ、あの...今日は...その...」
「砂糖とミルクはいりますか?」
それなのにコーヒーを入れるために背を向けた藤澤さんに、途中で言葉を遮られてしまう。私はそれ以上言葉を続けられなくて。
「あ、はい。お願いします...」
「了解です。そこで少し待っててください」
彼はいつも通りの口調だった。ただ、ずっと私に背を向けたままコーヒーを淹れているので、今、どんな表情をしているか分からない。
彼がコーヒーを入れる動作の音がこの空間で唯一耳に届き、私の不安を煽る一方で、いつの間にかピンと張り詰めたような緊張感が漂っている。
彼からもらったメモをデスクに置き、残っていた仕事を懸命に頑張ってのだけれど、終わったのは約束の時間をとっくに過ぎた七時半だった。
私は腕時計の時間を確認して、はぁと小さなため息をつく。
...どうしよう。今から行っても約束の時間が。
これだけ時間が過ぎてしまっては、約束なんてあったものではない。
それでも、彼は待っていてくれているだろうか?
それとも、約束を反故にされたと帰ってしまっているだろうか?
ぐるぐると出口のない迷路に思考が迷い込んでしまったけれど、傍においたメモの藤澤さんの字を見たら、ふんぎりがついた。
いいや。もう、そんなのどうだっていい。
私は自分の気持ちの赴くまま、研究所の方へと向かう。
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それは素直な今の気持ちでもあり、自分がダメージを受けないための言い訳。
それでも彼に会いたいという気持ちに、嘘はない。
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半ば諦めの気持ちでドアノブを捻る。
すると、そこには帰っていると思っていた藤澤さんが自席に座っており、私の顔を見て呆気にとられていた。
「...す、すみません。仕事が立て込んでしまって、約束の時間に遅れてしまいました。ま、まだ、大丈夫でしょうか?」
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「え?え?え?か、化石?せ、責任ですか!??」
彼の言葉を鵜吞みにして私が慌てふためくものだから、彼は席からは椅子から立ち上がり近づいてきて、なおも笑う。
「...なんて、冗談です。三浦さんが来てくれただけで良かったんですから。さあ、立ち話もなんですから、こちらにどうぞ。コーヒーでも淹れますよ」
優しい顔で手招きされて、私はさっきまで彼が座っていた席に座らせられた。
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それなのにコーヒーを入れるために背を向けた藤澤さんに、途中で言葉を遮られてしまう。私はそれ以上言葉を続けられなくて。
「あ、はい。お願いします...」
「了解です。そこで少し待っててください」
彼はいつも通りの口調だった。ただ、ずっと私に背を向けたままコーヒーを淹れているので、今、どんな表情をしているか分からない。
彼がコーヒーを入れる動作の音がこの空間で唯一耳に届き、私の不安を煽る一方で、いつの間にかピンと張り詰めたような緊張感が漂っている。
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