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27.I have feelings for you.
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「...驚かせて、すみません」
さっき声を荒げた彼の声がまるで別人のよう。
話しかけてくる声が弱々しく聞こえ、その声を振り返らずに頭越しに聞いていた。
藤澤さんは私の後ろ姿に謝り、私はそれにも返事を全くしない。
彼もしばらく黙っていたのだけれど、その代わり、目の前で大きく開いていた彼の左手がゆっくりと動き出し、次第に拳になってゆく。その動きは何か躊躇っているような、苛立っているような、言葉にできない彼の複雑な胸中を表しているみたいで。
私がその左手の動きからずっと目が離せずにいると、ため息のようなものが聞こえてきた。
そのおかげで、今更ながらに自分の行動の幼稚さを自覚してしまい、自己嫌悪に陥る。
...こんな事をしていたら、いくら藤澤さんでも怒って当然。
彼が選んだのが大人の女性の鈴木さんだった意味も、何となく今なら分かる。
私は彼女に比べて、言っていることもやっている事も幼いのだ。
もう、どんな事を言われても仕方ないし、彼のことは...と自分なりに覚悟して身構えたその時。
「三浦優里さん。誤解しないで下さい。...俺はあなたのことが好きなんです」
...え?
さっきまで抱いていた自分への嫌悪感とか諦めの気持ちとかが一気にごちゃ混ぜになる。それ以上に、今、自分が置かれている状況が把握できなくて、聞いたばかりの彼の言葉を何度もリピート。
それでも今の状況を理解するのには時間がかかり、一言も発する事が出来ない私へ、藤澤さんが噛んで含めるみたいにもう一度言ってくれた。
「...こんな事をして信じてもらえないかもしれませんが、俺はあなたのことが好きなんです。もし...いや、あなたが宜しければ、なのですが...俺と付き合ってください。でも、そういう気持ちがなければ...そのまま黙ってそこから帰ってくれて構いません」
彼らしくない歯切れの悪い言葉が、彼の自信のなさを伝えくれる。
その証拠に、私を閉じ込めていた両腕がすんなり外され、クルリと背を向けられてしまう。それは私がそのまま帰ってしまうのを予想しているかの行動に見えた。
藤澤さんはさっきと同じように背を向けているけれどトゲトゲしい話しかけるなオーラは全くない。それどころか、同じように見ていた緩やかなカーブを描く肩のラインを可愛いと感じてしまうほど、温かな気持ちで私の胸が満たされる。
ここで勇気を出さなければ、また、見ているだけの片想い。
ずっと、私はこの人に恋い焦がれていたのだから...。
私のすべき行動はただ1つ。
緊張しながら、離れてしまった距離を自分から詰めてゆく。そして、彼の白衣を軽く引っ張る。
「藤澤、立さん...」
彼は私の本当の気持ちを知ったら、さっきの私と同じように振り向いてくれるだろうか?
そんな思いを胸に、生まれて初めて自分の『好きという気持ち』を口に出して伝えた。
「....私も、あなたの事が好き...です。その...これからよろしくお願いします...」
その後、彼は少しの間、無言だったけれど、しばらくするとおそるおそるこちらを振り返る。その時に白衣を掴んで離さなかった私と目が合い。
「三浦さん...」
真っ直ぐ私を見るその瞳で、熱っぽく私の名前を呼んでくれて。
「...はい、なんでしょう?」
私が彼の顔を見て眩しそうに目を細めると、少し照れたみたいに彼は人差し指で頬をかく。
「その...スゴく、嬉しいです」
「私も...です...」
入社1年目の冬。
ずっと片想いしていた憧れの人が、私の初めての恋人になった。
さっき声を荒げた彼の声がまるで別人のよう。
話しかけてくる声が弱々しく聞こえ、その声を振り返らずに頭越しに聞いていた。
藤澤さんは私の後ろ姿に謝り、私はそれにも返事を全くしない。
彼もしばらく黙っていたのだけれど、その代わり、目の前で大きく開いていた彼の左手がゆっくりと動き出し、次第に拳になってゆく。その動きは何か躊躇っているような、苛立っているような、言葉にできない彼の複雑な胸中を表しているみたいで。
私がその左手の動きからずっと目が離せずにいると、ため息のようなものが聞こえてきた。
そのおかげで、今更ながらに自分の行動の幼稚さを自覚してしまい、自己嫌悪に陥る。
...こんな事をしていたら、いくら藤澤さんでも怒って当然。
彼が選んだのが大人の女性の鈴木さんだった意味も、何となく今なら分かる。
私は彼女に比べて、言っていることもやっている事も幼いのだ。
もう、どんな事を言われても仕方ないし、彼のことは...と自分なりに覚悟して身構えたその時。
「三浦優里さん。誤解しないで下さい。...俺はあなたのことが好きなんです」
...え?
さっきまで抱いていた自分への嫌悪感とか諦めの気持ちとかが一気にごちゃ混ぜになる。それ以上に、今、自分が置かれている状況が把握できなくて、聞いたばかりの彼の言葉を何度もリピート。
それでも今の状況を理解するのには時間がかかり、一言も発する事が出来ない私へ、藤澤さんが噛んで含めるみたいにもう一度言ってくれた。
「...こんな事をして信じてもらえないかもしれませんが、俺はあなたのことが好きなんです。もし...いや、あなたが宜しければ、なのですが...俺と付き合ってください。でも、そういう気持ちがなければ...そのまま黙ってそこから帰ってくれて構いません」
彼らしくない歯切れの悪い言葉が、彼の自信のなさを伝えくれる。
その証拠に、私を閉じ込めていた両腕がすんなり外され、クルリと背を向けられてしまう。それは私がそのまま帰ってしまうのを予想しているかの行動に見えた。
藤澤さんはさっきと同じように背を向けているけれどトゲトゲしい話しかけるなオーラは全くない。それどころか、同じように見ていた緩やかなカーブを描く肩のラインを可愛いと感じてしまうほど、温かな気持ちで私の胸が満たされる。
ここで勇気を出さなければ、また、見ているだけの片想い。
ずっと、私はこの人に恋い焦がれていたのだから...。
私のすべき行動はただ1つ。
緊張しながら、離れてしまった距離を自分から詰めてゆく。そして、彼の白衣を軽く引っ張る。
「藤澤、立さん...」
彼は私の本当の気持ちを知ったら、さっきの私と同じように振り向いてくれるだろうか?
そんな思いを胸に、生まれて初めて自分の『好きという気持ち』を口に出して伝えた。
「....私も、あなたの事が好き...です。その...これからよろしくお願いします...」
その後、彼は少しの間、無言だったけれど、しばらくするとおそるおそるこちらを振り返る。その時に白衣を掴んで離さなかった私と目が合い。
「三浦さん...」
真っ直ぐ私を見るその瞳で、熱っぽく私の名前を呼んでくれて。
「...はい、なんでしょう?」
私が彼の顔を見て眩しそうに目を細めると、少し照れたみたいに彼は人差し指で頬をかく。
「その...スゴく、嬉しいです」
「私も...です...」
入社1年目の冬。
ずっと片想いしていた憧れの人が、私の初めての恋人になった。
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