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30.いつもと違う彼の顔③
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お互いに帰り支度を済ませ、駐車場の近くの出入り口で待ち合わせ。
ここは駅とは逆の方の出入り口なので私は使ったことがなかった。
駐車場はあの通路から見えていた場所で、行った頃には社内に殆ど人がいなかったせいか、閑散としていた。
「藤澤さんって、車通勤だったんですか?」
「ええ。研究職って時間が不規則なんですよ。それに実験室に篭ってしまうとキリがいいところで終わらせたいので、変な時間に終わることが多くて。それなら電車より車の方がよいかと...」
彼は話しながら、リモコンキーでロックを解除。
藤澤さんはそのまま運転席に、私は営業車に乗る時の定位置へ乗ろうとしたのだけれど、後部座席のドアを開けようとしたら驚かれた。
「...そこで何しているんですか?」
「え?...空いているところに座ろうと?」
「あの...余計なお世話だと思いますが、そちらに乗るスペースはありませんよ。それに三浦さんが乗るのはこちらだと思うのですが...」
言われてみれば、後部座席の方は割とに荷物が積まれていて、人ひとりがようやくな感じ。ただ、彼が苦笑しながら、指差しで教えてくれたのは助手席だった。
...いきなり、そこですか!??
それでも躊躇ってしまうと彼の方からダメ押しの一言。
「彼女は助手席に乗るものですよ。だから、この車だと助手席が三浦さんの指定席。今度からは言われなくても、こちらに乗ってくださいね」
...か、彼女?指定席?
その二つの単語で、もう藤澤さんの中では彼女認定されていると知ったけれど、私は憧れの人が彼氏になったからといって、いきなり、そんなに距離を詰められるかといえば出来なかった。
彼はその戸惑いを見透かしたのか、わざわざ助手席の方まで回ってきてくれて。
何をするのかと思いきや。
「寒いから、中へどうぞ」
執事にごとく開けてもらい、憧れの人にここまでされて逆らえるはずもない。
「お、お邪魔します...」
こんなに車に入るのに緊張したことが今まであったかというくらい身体がギクシャク。オマケにシートベルトもつけるのにも時間がかかった。
そして、なんといってもここは私の指定席。運転している彼の横顔が間近で見放題なのである。見てはいけないと思いつつ、もう習慣の様に気になるし、見たかった。そんなわけで、途中からは開き直り、その端正な横顔に見とれていると流石に本人にばれてしまう。
「どうかしましたか?」
彼は運転中なので顔は前を見ている。それをいいことに。
「いや、その...運転がお上手ですね。それに...運転している姿が、その...」
小さく「かっこいいです」と独り言のように言ってみる。
憧れの人に「かっこいい」なんて大それたことを言ってしまうなんて、今までの私には考えられない言動で、相当浮かれている証拠だった。
それには藤澤さんも返事に困っていたようだし、調子に乗ったと反省していると。
「...それはどうも。お褒めにあずかり...恐縮です」
彼も照れながらもまんざらでもないみたいで、少し安心した。
それから終始、私は緊張しっぱなしで行き先をうちの近くのお店にしてもらったというのに案内が怪しくて、何度も「大丈夫?」と心配されてしまう。
憧れの人が彼になったはなったで、ドキドキする回数は増えるばかり。
早くこの状況に慣れないと自分の心臓は持たないのではという新たな悩みができてしまった。
このままだと、心臓がいくつあっても足りないかも。
ここは駅とは逆の方の出入り口なので私は使ったことがなかった。
駐車場はあの通路から見えていた場所で、行った頃には社内に殆ど人がいなかったせいか、閑散としていた。
「藤澤さんって、車通勤だったんですか?」
「ええ。研究職って時間が不規則なんですよ。それに実験室に篭ってしまうとキリがいいところで終わらせたいので、変な時間に終わることが多くて。それなら電車より車の方がよいかと...」
彼は話しながら、リモコンキーでロックを解除。
藤澤さんはそのまま運転席に、私は営業車に乗る時の定位置へ乗ろうとしたのだけれど、後部座席のドアを開けようとしたら驚かれた。
「...そこで何しているんですか?」
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「あの...余計なお世話だと思いますが、そちらに乗るスペースはありませんよ。それに三浦さんが乗るのはこちらだと思うのですが...」
言われてみれば、後部座席の方は割とに荷物が積まれていて、人ひとりがようやくな感じ。ただ、彼が苦笑しながら、指差しで教えてくれたのは助手席だった。
...いきなり、そこですか!??
それでも躊躇ってしまうと彼の方からダメ押しの一言。
「彼女は助手席に乗るものですよ。だから、この車だと助手席が三浦さんの指定席。今度からは言われなくても、こちらに乗ってくださいね」
...か、彼女?指定席?
その二つの単語で、もう藤澤さんの中では彼女認定されていると知ったけれど、私は憧れの人が彼氏になったからといって、いきなり、そんなに距離を詰められるかといえば出来なかった。
彼はその戸惑いを見透かしたのか、わざわざ助手席の方まで回ってきてくれて。
何をするのかと思いきや。
「寒いから、中へどうぞ」
執事にごとく開けてもらい、憧れの人にここまでされて逆らえるはずもない。
「お、お邪魔します...」
こんなに車に入るのに緊張したことが今まであったかというくらい身体がギクシャク。オマケにシートベルトもつけるのにも時間がかかった。
そして、なんといってもここは私の指定席。運転している彼の横顔が間近で見放題なのである。見てはいけないと思いつつ、もう習慣の様に気になるし、見たかった。そんなわけで、途中からは開き直り、その端正な横顔に見とれていると流石に本人にばれてしまう。
「どうかしましたか?」
彼は運転中なので顔は前を見ている。それをいいことに。
「いや、その...運転がお上手ですね。それに...運転している姿が、その...」
小さく「かっこいいです」と独り言のように言ってみる。
憧れの人に「かっこいい」なんて大それたことを言ってしまうなんて、今までの私には考えられない言動で、相当浮かれている証拠だった。
それには藤澤さんも返事に困っていたようだし、調子に乗ったと反省していると。
「...それはどうも。お褒めにあずかり...恐縮です」
彼も照れながらもまんざらでもないみたいで、少し安心した。
それから終始、私は緊張しっぱなしで行き先をうちの近くのお店にしてもらったというのに案内が怪しくて、何度も「大丈夫?」と心配されてしまう。
憧れの人が彼になったはなったで、ドキドキする回数は増えるばかり。
早くこの状況に慣れないと自分の心臓は持たないのではという新たな悩みができてしまった。
このままだと、心臓がいくつあっても足りないかも。
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