社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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34.社内恋愛のオキテ④

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「こんな遅くまで...お疲れ様です。いつものメールだと思ってしまったので、出るのに遅くなってすみません」

話しながらも、ふと、今朝のおはようメールに、彼が「今日は忘年会で出るのが面倒くさい」と書いているのを思い出していた。

...その後にわざわざ連絡くれたんだ。

考えるだけで、胸がジンと熱くなる。

「...遅いって分かってて、電話したのは俺の方だから。...こっちこそごめん。迷惑だったらすぐに切るけど」

「いやっ、そんな、全然迷惑だなんて。すごく嬉しいくらいですっ」

「なら、良かった。少しいい?」

「は、はいっ」

「三浦さんの声が無性に聞きたくなってさ」

この人は、サラッと私が喜ぶ事を言うのが上手だ。それは女性慣れしているからかもしれないけれど。

「わ、私も藤澤さんと話せて嬉しいです...」

「今、何してたの?」

まさか、ずっとスマホを持って貴方の連絡を待っていたとは言えず。
今も因みに畏まってしまい正座である。

「...その、寝る前に本を読んでいました。いつもの習慣で」

それは本当の習慣で、ベッドには昨日読みかけた本が何冊か置いてあった。それをちらりと見ながらとってつけたような言い訳。特に藤澤さんは本とかは興味なさそうなので内容を話さなかったら、そこを何故か食いつかれてしまう。

「本?三浦さんは本が好きなんだ。...どんな本読んでいたの?」

...なぜ、今日に限って!?

「え...と、そのぉ........」

実は読書が趣味と言っても大半は漫画。これはあまり知られたくないと思っていたけれど、嘘をついても彼にはばれそうだったので小さな小さな声で「漫画です」とだけ答えた。

「漫画って、アニメの原作とかになるやつ?」

...え、まだ続くの?この話。

もうどうにでもなれと、ぶっちゃける。

「...そうです。その漫画です。すみません、変な趣味で」

「三浦さんが読んでいるなら、気になる。タイトル教えてくれれば読んでみたいかも」

...ええ!?

藤澤さんが漫画を読むなんてイメージに合わないし、私が好んで読むのは恋愛ものばかり。心の中でありえないと3回ぐらい叫んだ。

「あ、いや、本当に。それだけは許してください!藤澤さんは絶対、読んじゃだめです!」

「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。別に漫画を読んでいるからって、三浦さんのことを変な目で見る気もないし、嫌いになるわけじゃない。もっと極端な話、俺は三浦さんがオタクでも...」

途中まで漫画とかに偏見持たなくて優しいなって思っていたのに、さりげなく、彼が言うには似つかわしくない単語が混じっていたのを聞き逃せなかった。

「なんですか、そのオタクって..?だ、誰がそんなことを藤澤さんに...?」

「あー...」

藤澤さんが言葉を濁したので、すぐにどこからかの情報だったのか分かる。
多分、犯人は大学時代からの友人の松浦で付き合いも長かったので、私の趣味を熟知していた。

もう、この話はやめにしたいと心底思ったので私から彼に頼んだ。

「お願いですから、この話はやめて下さい。恥ずかしいです...」

私が頼むと流石にそれ以上の事は追求されず、話が思ってもみない方へと進んだ。

「別に三浦さんが嫌がることを話したいわけじゃないから、ごめん。ただ、今、電話かけたのは、三浦さんの予定を聞こうと思って」

「...予定ですか?」

彼の方から予定を尋ねられると、もしかしたらと期待してしまう。
それが、予想通りだとすごく嬉しい。

「そう。もうすぐクリスマスだから、三浦さんと一緒に過ごしたいと思って。ただ、22.23は金沢出張で、25も予定が入っているので、必然的に24しか空いてないんだけど」

12月24日ということは...。

「...クリスマスイブ、私と一緒に過ごしてくれるんですか?」

実は、私が話したかった事はこの事だった。ただ、お付き合いしてから間もなかったのと、彼の忙しさから、自分からは聞くに聞けなかった。

「もちろん。付き合って最初のイベントで、しかも三浦さんには初めてのクリスマスだよね?彼氏としては外すのはどうかと思うよ。だから、予定が合えばどこかの店でも予約しておこうかと思っているんだけど。いかがですか?」

彼は本当に私が喜ぶ事がなんでわかるんだろう?
予定が合えばなんて言ってくれたけれど、そこは絶対、外せない。

「...24日、絶対あけます。憧れの藤澤さんとクリスマスを過ごせるなんて夢にも思いませんでした。だから、すごく嬉しいです」

スマホ越しでこの気持ちが面と向かって分かってもらえないのが残念だったけれど、何度も「その日は空けます」と伝える。

すると、彼の方も。

「三浦さんが喜んでくれると俺も嬉しい。24日、楽しみにしているから」

何となく、話し方が嬉しそうにも聞こえた。
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