社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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50.trigger①

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藤澤さんは約束通りすぐに連絡をくれて、正月三が日が過ぎた頃、私たちはいつもより遠出してドライブデートをすることになった。

前回の時もそうだったけど、彼と会う時は服装に悩んでしまう。

今回は昼間だし、観光地みたいだからたくさん歩くかもしれないとか予想する。
部屋にある姿見と悩んだ挙句、髪は片側に纏めて結び、普段の歩きづらいスカートはやめて、選んだのはシンプルなニットに膝丈まであるキュロットスカート。
でも、アクセサリーだけは既に決まっていた。
藤澤さんからもらった小さなフープのピアス。
これは私のお1番の気に入りだから、彼と会う時はいつもこれに決めている。

※※※

ドライブデート当日。

今朝の天気予報を思い出し空を見上げると、冬の日差しのわりには春を思わせるような陽気で、今日の日を楽しみにしていた私は絶好のドライブ日和に一安心。
彼に会える嬉しさと楽しみで、心が弾み、待ち合わせの自宅近くのコインパーキングへと急いだ。

...もう着ているかな?

彼は仕事柄、時間を特に厳守するタイプだと思う。私も10分前行動を心がけてはいるけど、彼の方が早く着いている事が圧倒的に多かった。

...今日こそは!

意気込んで息を切らせながら着いたコインパーキング。
車種は分からなかったけれど、車の色は覚えているからそれを頼りに彼の車を探してみる。

...確か、綺麗なブルーだったはず。あれ...かな?もう、来てる?

思い当たる色の車の後方から運転席の方にまわり、中を覗いてみると藤澤さんの姿を確認できた。彼はなにやらスマホをいじっていて、近づいた私に気がついていないみたい。そこで。

コンコン。

運転席の窓ガラスを静かに叩くと、すぐに気がついてくれ、優しく眼を細めてくれる藤澤さん。車内から助手席へとジェスチャーされたのでそちらへ。
私の定位置の助手席に座り、早速、新年のご挨拶をと。

「お、おはようございます。あけましておめでとうございます.......っ!?」

でも、その途中で、いきなりチュッと軽く唇を奪われてしまったものだから、私は最後まで言えずじまい。

...い、いま、何をしましたか!?朝ですよ!?

驚くあまり続く言葉を見失ってしまうと、彼には、お茶目な笑顔で今言おうとしていたセリフを横取りされてしまう。

「今年もよろしくね」

「......」

それを聞いて私が無言で抗議をしても、彼は今の行為に対して、反省するどころか、全然笑っているし。

...会ってすぐにキスなんて...もしかして、藤澤さんってキス魔なの?

新年早々、私が彼に思ったことはこんなコトだった。

「優里...優里さんってばー...」

名前を可愛く呼ばれても、大事な新年の挨拶を奪われてしまった私はシートベルトを締めながら、許してあげない。

...もう、せっかくの挨拶が。

少々、むくれていると、彼は全然悪びれるどころか。

「優里。あまりむくれてると、またキスするよ。今度はもっと凄ーいやつ」

笑いながら冗談では済まないような事を言ってくるので、それには瞳を大きく見開き、ブンブンと顔を横に振った。

「わ、分かりました。普通にします、します!」

「うん、素直でよろしい」

私が態度を改めると、彼は満足そうに頷きその長い指先でカーナビの操作を始める。
複雑なタッチパネルの地図を何やら動かし。

「そうだ。せっかく、江ノ島まで行くのだから、先に鎌倉の方に行ってみない?」

「鎌倉?」  

彼の言葉をつられておうむ返ししたものの、実は鎌倉も行ってみたい場所の1つだったので、テンションが分かりやすく上がった。

「私、鎌倉って好きなんです。でも、なかなか行く機会がなくて」

「それは良かった。じゃ、決定」

私の了承を得るなり、早速、彼はカーナビの目的地に鎌倉をセット。
すぐさま車は目的地へと走り出し、車のオーディオからはノリの良さそうなBGMが流れてくる。

聞いたことのあるこの曲は、ポルノグラフィティの『ハネウマライダー』

藤澤さんは運転をしながらも指先でハンドルにリズムを打ち始め、私は絵になるような外の景色より、サングラスをかけて運転している彼の端整な横顔の方が気になって仕方がなかった。

...サングラスが似合って、めちゃくちゃカッコいいんですけど。

ただ、この心の声はダダ漏れというか恥ずかしげもなく彼をガン見していたので、当の本人には、見ていたことが呆気なくバレてしまう。

「どうしたの?気分でも悪い?それとも、休憩入れる?」

私の体調を気にかけてくれる彼には、嘘がつけず。

「あ、いや...その...藤澤さん、運転中サングラスかけるんですね。それが素敵だなって......思いまして...つい、」

見惚れていましたと、素直に話すと彼には予想外の答えだったようで。

「あー...うん、瞳の色素が薄いみたいで紫外線には弱いんだ。だから、これは紫外線よけ」

サングラスを弄りながら歯切れ悪く答えてくれた彼に対して、何か変なことを言ってしまったかなと心配していると、鎌倉の地に到着した。



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