社内恋愛はじめました。

柊 いつき

文字の大きさ
73 / 199

73.多分、決戦は金曜日。②

しおりを挟む
偶然とか、運命とか。


そんな風に彼との出会いを思ってみたいけれど、鈴木さんみたいなときめくようなものでもなく、ただの片想いの延長上の出会いで彼女とは雲泥の差に思えた。入社式における私は群衆の1人なので、藤澤さんだって私の事は気がつかなかったに違いなく。

...私って、なんてこんなに平凡なんだろう?

そんなことを自覚してしまうと目の前の華やかな2人の顔を見ていられなくなり、手元のウーロン茶ばかり眺めてしまう。それを楽しく飲んでいた美波ちゃんに気がつかれた。

「優里どうしたの?黙って」

「え...?」

「さては...。優里も本命チョコをどうやって本命にあげようか考えていたんでしょ?」

彼女は的外れなことを言いながら悪戯っぽく笑い、鈴木さんも小さく笑う。

「あら、三浦さんもうちの会社に本命チョコの相手がいたの?」

「そ、それは...」

私が言葉に詰まってしまうと、美波ちゃんが横槍を入れた。

「はい、私、知ってます!」

...うっそぉー!!

驚きのあまり目を見開いて絶句。そのまま明るく話す彼女の口を止め忘れ...。

「ほら、クールビューティー...」

かなり核心に迫る単語を言われ、ここでハッと気がついて。

「あー!それは...!」

よりによって鈴木さんの前で言おうとしている美波ちゃんを止めにかかると。

「今更、隠したってダメよ。皆、ここで告白したんだから諦めなさいって。ほら、クールビューティーの下で働いている...」

「その相手って、松浦君?」

鈴木さんがサラリと言葉を被せると美波ちゃんがそれに同調した。

...なんで、そこで松浦が?

藤澤さんではない名前が出てきて、なお、びっくり!

「い、いや、ちが...」

私が否定の言葉を並べても、お酒の入っている2人には聞こえないようだ。

「ねぇ、2人の馴れ初めは?」

「馴れ初めもなにも...彼とは大学からの友達で」

「やだー、王道!」

友達だという言葉は無視して、きゃあきゃあと騒いでいる2人。これは何を言っても無駄かもしれないと諦め、ウーロン茶を飲んでいると、鈴木さんが不思議がる。

「でも、そんなに付き合い長いのに、恋愛関係に発展しないものかしら?」

...恋愛関係もなにも...松浦とはそんなんじゃ。

ウーロン茶を飲みながら心の中で反論していると、今度は美波ちゃんが突拍子もないことを。

「優里はこう見えても恋愛関係は疎くて超奥手だし。だから、相手も強引に事をすすめられないんじゃ...」

「...ブッ...◯△※◇」

貴女はどこかで私たちを見たんですかと聞きたくなるくらいの鋭さが刺さる。
そのおかげで喉を通過するはずのウーロン茶は方向を変え、別のところへ入ってしまう。

「ゲボッ、ゴホ...」

私が激しくむせてしまうと、隣に座っている鈴木さんが背中を優しくさすってくれた。

「三浦さん、大丈夫?」

「....っ、す、すみません」

「全く、美波ったら。お酒飲んでいるから変な冗談言って...ゴメンなさいね」

鈴木さんはそう言いながら優しくしてくれて、美波ちゃんはちょっと口をとんがらす。

「もう、いつも鈴木先輩は私のこといい加減だと思って。こう見えても、私はこういう事に鼻が効くんですよ」

「...まさか。三浦さん...本当に?」

美波ちゃんの言葉に驚く鈴木さんに、お酒の席もあり、つい頷いてしまった。
これでは自分から白状したも同然だ。でも、こういう席でないとこういう事も聞けないだろうなって。

「その...男の人にとって、初めてって面倒くさいものですか?」

これは、ずっと頭に引っ掛かってたこと。藤澤さんが何かと躊躇う理由ってこれしかないと思っていたから。私の赤裸々な告白を、同性の2人がどう捉えるのか不安だった。2人とも、うーんと少し考えてくれて、最初に言葉を発したのは美波ちゃんだった。

「女の子の大事な初めてを面倒くさいっていう男なら付き合うのをやめた方がいいと思うけどなぁ。こっちこそ、願い下げ」

「そうそう。そういう男性と付き合うのは時間の無駄ね。かえって、躊躇って気にしてくれる方の男性の方が私は良いわ」

「...そういうものですか?」

「そうよ。面倒くさいって思うのは勝手な男の都合だもの」

いつもやんわりと話す鈴木さんは珍しくキッパリと言い切り、私に微笑む。

「まあ、ここまで話しておいて今更なんだけど。初めてはその時に本当に好きな人が良いわよ。ずっと、忘れられない想い出になるもの」

「あ、それ分かります!別の人と付き合っていてもたまに思い出すんですよね。いい意味でも悪い意味でも。私なんか高校の時だったから懐かしいなぁ」

...こ、高校?

高校時代リアルな同級生より、受験と二次元の方へ頭がいっぱいだった私は耳を疑う。

「あの、つかぬことをうかがいますが...。2人とも初めての時って...」

「私、高2!」

美波ちゃんが手を挙げて言うと、その後おずおずと鈴木さんも手を挙げ。

「同じく...」

...は、早い。

私はどれだけ恋愛に疎かったんだとますます自己嫌悪に陥ると、楽しそうに美波ちゃんに笑われた。

「初めてを焦ることないって。そんな事より大事なのは、その時に優里の1番好きな人とすることだよ」

今、1番好きな人。そう思ったら真っ先に藤澤さんの顔が浮かぶ。

...やっぱり、私は藤澤さんが好き。

だから、初めてが彼とだったらきっと後悔することはないって思った。


しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...