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93.布石①
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この日を境に私たちのデートに『愛し合う』という行為が加わる。
私は藤澤さんに抱かれて、あの頭が真っ白になる快楽と素肌で触れ合うことの心地よさを覚えた。
『好きだよ 』そう甘く囁かれ、身体の内側から蕩けるような愛撫をもらい、何度も愛される。藤澤さんに求められるのが嬉しくて、心も身体もすべてを彼に委ね、身体を開き、彼を受け入れることにより、女性として花開く。
そんな私を親友の由香は「愛されオーラが出て変わったわ」と言っていた。
...愛されオーラとは?変わったというのは?
行為の後に自分の裸を彼に見せるのが恥ずかしい私は、寝具を肩までいつもスッポリと被る。それを纏ったまま、彼に腕枕されるのが当たり前になりつつある日に。
「私って見た目がどこか変わりましたか?」
1番身近で私の変化を見ているであろう藤澤さんに尋ねた。
すると、けだるい雰囲気のまま、いつものように私の髪を撫でていた手が止まる。
「えーと、それは細かいところが違う種類のものを当てるの?髪を切ったとかみたいな」
甘い雰囲気ぶち壊しのような質問に、彼は少なからず動揺していた。こういう時間は思考が麻痺しているのは私と同じのようで、細かな観察力を問う質問だと勘違いされそうになる。
「い、いや、違うんです。ただ、友人に変わったと言われたもので」
私が言葉足らずだった質問の意図を話すと、彼はホッとしたようだった。
「なんだ、そんなこと。そうだな、優里は...」
そう言いかけると、ギュッと私を抱きしめるように自分の腕の中へと閉じ込めて、それから。
「...初めて見かけたときから可愛かったけれど、今はもっと可愛い」
顔を見ずに耳元で囁くように言われた私の顔は、きっと、ゆでダコのよう赤くなっているに違いなく。藤澤さんも、私を自惚れさせるような甘い言葉を以前よりもたくさん伝えてくると思ってしまった。
そんなものだから、あった日は彼の自宅に泊まることになり、今週もてっきりそうだと思っていると、週の半ばに藤澤さんから珍しく写真付きで連絡がくる。
『これから出張に行ってきます。今回の出張は長くなりそうなので、すみませんが落ち着いたら連絡します』
...え?これから!?
今週の予定は既に先週末に聞いてあり、イレギュラーな予定に驚いて添付されいた写真を開く。
その写真はどこかの見慣れない空港っぽかった。
メールはこんな他人行儀な感じな文面ではあったけれど、最近は本当にマメにもらうから、いつも身近にいてくれるような錯覚を起こしそうになる。それだから、少しでも連絡がないと私は不安になってしまう。
いいんだか、悪いんだか。
後に判明したけれどその出張先が海外だと知り、二度びっくりだった。
※※※
「こんにちはー」
今日は久々に営業先から受け取った生体標本を研究室へと届けに来た。受付カウンターでうちの担当の松浦が来るのを待っている間、私は藤澤さんのデスクの方をいつものクセで見てしまう。
...いないや、藤澤さん。今は実験中なのかなぁ...?
まだ、仕事が落ち着かないのか、彼とはかれこれ一週間近く連絡もなく、あってもいない。メールで予告はあったものの、少し寂しい。その流れで実験室へとつながるドアを見つめていると、そこからは松浦がちょうど出てきた。
「よ、久しぶり!」
「ん」
私がここに来るのは毎日ではなくなったから、松浦と会社で会う機会はかなり減っている。だから、藤澤さんとはもっともっと会えないのだ。
「何、ボサーっとしてんだよ?」
標本の引き渡しは手慣れた作業だから、考え事をしながらしているのがばれてしまう。
「あ、ごめん...」
「ったく、しっかりしろよな?お前がちゃんとしてくれないと俺が主任に後で怒られるんだから。まぁ、今は留守中だからいいけど」
「...藤澤...主任、今日はお留守なの?」
「あぁ。...今日だけじゃないよ。かれこれ1週間くらい。後、1週間くらいは帰ってこないんじゃないのか?出張先は海外だし」
松浦は話しながら慣れた手つきで生体標本にラベリングしていく。その反面、私の手元は覚束無くなった。
「...ここの研究員って海外出張もあるんだ?」
「そりゃあるさ。ま、今回の主任のは、ちょっと特別な案件みたいだけど。うちの会社の研究所は何カ所か、海外にもあるんだよ。普段から主任はそっちとも交流あるみたいだし。これからは、研究員も専門分野だけでなくグローバルな視点でだなぁ...って、おいっ!?人の話をちゃんと聞けよ?せっかく珍しくいい事言ってんだからさ」
「え?クローバーがどうかしたの...?」
彼の言葉を上の空で聞いていたのが気に障ったのか、その後、松浦のつまらない講釈を延々と聞かされてしまう。その間も私はずっと藤澤さんの事を考えていた。
...海外だといつ戻ってくるんだろう?
藤澤さんの出張はいつもは国内だったので、海外はおろか国内出張ですら経験のない私には、何も想像がつかない。
私は藤澤さんに抱かれて、あの頭が真っ白になる快楽と素肌で触れ合うことの心地よさを覚えた。
『好きだよ 』そう甘く囁かれ、身体の内側から蕩けるような愛撫をもらい、何度も愛される。藤澤さんに求められるのが嬉しくて、心も身体もすべてを彼に委ね、身体を開き、彼を受け入れることにより、女性として花開く。
そんな私を親友の由香は「愛されオーラが出て変わったわ」と言っていた。
...愛されオーラとは?変わったというのは?
行為の後に自分の裸を彼に見せるのが恥ずかしい私は、寝具を肩までいつもスッポリと被る。それを纏ったまま、彼に腕枕されるのが当たり前になりつつある日に。
「私って見た目がどこか変わりましたか?」
1番身近で私の変化を見ているであろう藤澤さんに尋ねた。
すると、けだるい雰囲気のまま、いつものように私の髪を撫でていた手が止まる。
「えーと、それは細かいところが違う種類のものを当てるの?髪を切ったとかみたいな」
甘い雰囲気ぶち壊しのような質問に、彼は少なからず動揺していた。こういう時間は思考が麻痺しているのは私と同じのようで、細かな観察力を問う質問だと勘違いされそうになる。
「い、いや、違うんです。ただ、友人に変わったと言われたもので」
私が言葉足らずだった質問の意図を話すと、彼はホッとしたようだった。
「なんだ、そんなこと。そうだな、優里は...」
そう言いかけると、ギュッと私を抱きしめるように自分の腕の中へと閉じ込めて、それから。
「...初めて見かけたときから可愛かったけれど、今はもっと可愛い」
顔を見ずに耳元で囁くように言われた私の顔は、きっと、ゆでダコのよう赤くなっているに違いなく。藤澤さんも、私を自惚れさせるような甘い言葉を以前よりもたくさん伝えてくると思ってしまった。
そんなものだから、あった日は彼の自宅に泊まることになり、今週もてっきりそうだと思っていると、週の半ばに藤澤さんから珍しく写真付きで連絡がくる。
『これから出張に行ってきます。今回の出張は長くなりそうなので、すみませんが落ち着いたら連絡します』
...え?これから!?
今週の予定は既に先週末に聞いてあり、イレギュラーな予定に驚いて添付されいた写真を開く。
その写真はどこかの見慣れない空港っぽかった。
メールはこんな他人行儀な感じな文面ではあったけれど、最近は本当にマメにもらうから、いつも身近にいてくれるような錯覚を起こしそうになる。それだから、少しでも連絡がないと私は不安になってしまう。
いいんだか、悪いんだか。
後に判明したけれどその出張先が海外だと知り、二度びっくりだった。
※※※
「こんにちはー」
今日は久々に営業先から受け取った生体標本を研究室へと届けに来た。受付カウンターでうちの担当の松浦が来るのを待っている間、私は藤澤さんのデスクの方をいつものクセで見てしまう。
...いないや、藤澤さん。今は実験中なのかなぁ...?
まだ、仕事が落ち着かないのか、彼とはかれこれ一週間近く連絡もなく、あってもいない。メールで予告はあったものの、少し寂しい。その流れで実験室へとつながるドアを見つめていると、そこからは松浦がちょうど出てきた。
「よ、久しぶり!」
「ん」
私がここに来るのは毎日ではなくなったから、松浦と会社で会う機会はかなり減っている。だから、藤澤さんとはもっともっと会えないのだ。
「何、ボサーっとしてんだよ?」
標本の引き渡しは手慣れた作業だから、考え事をしながらしているのがばれてしまう。
「あ、ごめん...」
「ったく、しっかりしろよな?お前がちゃんとしてくれないと俺が主任に後で怒られるんだから。まぁ、今は留守中だからいいけど」
「...藤澤...主任、今日はお留守なの?」
「あぁ。...今日だけじゃないよ。かれこれ1週間くらい。後、1週間くらいは帰ってこないんじゃないのか?出張先は海外だし」
松浦は話しながら慣れた手つきで生体標本にラベリングしていく。その反面、私の手元は覚束無くなった。
「...ここの研究員って海外出張もあるんだ?」
「そりゃあるさ。ま、今回の主任のは、ちょっと特別な案件みたいだけど。うちの会社の研究所は何カ所か、海外にもあるんだよ。普段から主任はそっちとも交流あるみたいだし。これからは、研究員も専門分野だけでなくグローバルな視点でだなぁ...って、おいっ!?人の話をちゃんと聞けよ?せっかく珍しくいい事言ってんだからさ」
「え?クローバーがどうかしたの...?」
彼の言葉を上の空で聞いていたのが気に障ったのか、その後、松浦のつまらない講釈を延々と聞かされてしまう。その間も私はずっと藤澤さんの事を考えていた。
...海外だといつ戻ってくるんだろう?
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