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115.異動④
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山本さんは私が異動してくるまでうちの課の最年少だった。と言っても年齢は藤澤さんと同じくらいか、もう少し歳上くらい。
それでも、富永課長はうちの若手のホープと自己紹介の時に話していた。彼はこの若さで管理職が持つ難関資格保有。あながち、富永課長の言う事は大げさではなさそう。そんな紹介の後、課の中では1番年が近くという事もあり、異動してから彼には分からない事を教えてもらったり、何かと親切にしてもらっている。だから、今回の事もその親切の延長なのだと思っていた。
「何か手伝うことない?」
いつものように優しく差し伸ばされた手を有難く思いつつも。
「お気遣いありがとうございます。私の方は大丈夫です。それに先ほど課長代理もお手伝い来てくださって...ちょうど、今、会議室に」
ここまで話しておいてから余計な事を話したとバツが悪くなる。さっき気を利かせて課長代理と真央ちゃんを2人きりにしたばかりなのだ。私は足りない脳みそをなんとかフル回転させ、彼を足止めしようと画策する。
「...す、すみません、ちょっと、これを一緒に資材室まで運んでいただけますか?」
「了解」
人の好い山本さんはそんな私の策略を疑いもせず重い紙袋を受け取ってくれた。そのうえ私の分まで持ってくれようとして、そこまでは甘えられなかった。それに手ぶらになった私が向こうに戻ったら、元の木阿弥。押し問答の末、お揃いの一つずつ紙袋を持ちあう事に落ち着き、資材室へと向かう。ただ、いつも周りには他の人がいたし、こんな風に山本さんと2人きりで歩くのは初めてのことだった。
藤澤さんだったら沈黙してても並んで歩くだけで心が弾んだのに、今は緊張してしまうだけ。こういう時どんな話題をふっていいか、男性慣れしていない私には分からない。山本さんも私に付き合って黙々と歩き、2人とも言葉を発する事はなく。間が持たないと思ったのか、最初に沈黙を破ったのは彼だった。
「管理部にはもう慣れた?」
「は、はい...雰囲気にはなんとか。でも、仕事内容では、まだまだで...」
「ハハハ。三浦さんは正直だね。正直ついでに言うと、最初は三浦さんみたいな子が管理部にくるなんて、あり得ないと思った」
「ふ、普通は、そうですよね...」
いつも温和な山本さんから容赦ない言葉を言われてしまったけれど、本当のことだから反論の余地なしで、私は愛想笑いする事しかできなかった。
それでも彼はまだ何か言いたげで、私がその横顔を伺い見ると彼も偶然私の方を見ていた。
「三浦さんは営1にいたんだよね?」
「はい...」
「...じゃあ、やたら背の高い見映えのいい研究員がいたの知ってる?」
「あ、あの...?」
知っているも何も...私が思いつくのは藤澤さんしかいない。でも、山本さんが私にわざわざそんな事を聞くのか見当もつかず、否定も肯定もできなかった。すると、私の答えをどう捉えたのかわからないけれど。
「...三浦さんって」
何かを言いかけ、山本さんは言葉を濁す。その後、話題はなんとなく変えられ藤澤さんの事は聞かれずじまい。何かとボロを出してしまいそうな私としては、ホッとした。
※※※
講座2回目の日に、私と真央ちゃんは席に着くなり松浦と出くわす。この場で私と会う事を想像すらしていなかったようで。
「なんで三浦がここに?お前には全く必要性のない講座だろ?暇人の冷やかしか?」
椅子から身を乗り出して驚いているわりに相変わらず歯に衣着せぬ物言いの松浦。いつもなら言いたい事を返し応戦するのだけれど、今は一対一ではなく真央ちゃんが一緒。ここは大人の対応をしなければ、と。コホンと1つ咳払いしたのち平静を装う。
「...管理部の仕事の一環だよ。この講座はウチ主催の講座だもの。因みに講師は私の今の上司だから」
松浦はそれを聞くなり、目を真ん丸くして両手を挙げ大袈裟なリアクションを返してきた。
「お前があの管理部なんてマジ!?はっ、ありえねー」
流石にこの態度にはカッチーン!!(怒)
「うるさいやい!」
真央ちゃんがいるにもかかわらず、つい、いつも通りの返しをしてしまう。すると、隣に座っていた真央ちゃんが堪り兼ねて、コソッと小声で聞いてきた。
「誰、この人?もしかして、優里ちゃんの彼氏...とか?」
彼の馴れなれしい態度に彼女は盛大な勘違い。すぐさま、あからさまな嫌な顔で返事をする。
「や、やだやだ!違う違う!!誰がこんな奴と!!」
「...何が違うんだよ?」
今度は私たちの話が聞こえていないであろう松浦が眉をつり上げ、私の挙動不審さを勘繰る。こうなったら、早く誤解を解かないと焦った。
「この人はね大学時代からの友達の松浦..君。で、こちらは鳴沢さん。営業部の研修の時、仲良くなったの」
2人を交互に紹介すると松浦と真央ちゃんは初対面だった。
「ども...研究室の松浦です。なんか三浦の世話大変ですね。こいつ、おっちょこちょいで、バカだから付き合うの大変でしょう?」
「い、いえ...そんな。三浦さんにはいつもお世話になっているのは、こちらの方で。あ、自己紹介が遅れまして...。鳴沢です。営業部3課所属です」
松浦にはすごい言われようだけれど、もうそんなの言われ慣れっこな私はそこはスルー。ようやく2人の誤解が解けた時。
「悪い。遅れちゃって!」
開始時刻ギリギリに会議室に入ってきた男性は前触れもなく松浦の隣に座る。そのついでに私たちにも何となく会釈してくれて、この人は誰?と、私たちの顔には、はてなマークが浮かんでいたに違いない。そこを察した松浦が今度はすぐに彼の正体を教えてくれた。
「こちらは今年の春にうちに赴任してきた松田さん。ほら、藤澤さんが異動したからその代わりの...」
...この人が。
藤澤さんが年度の途中で異動。そのおかげで、松浦はいつも人手不足だとぼやいていたのを思い当たる。松浦に促された彼は、先ほどの他人行儀な態度から少し目を細め、柔和な笑みを私たちに向けた。
「...松浦と同じ所属の松田です。因みに藤澤さんとは以前の研究所の後輩で、大学の後輩なんです」
「それじゃあ、K大の?」
藤澤さん絡みの話だったので思わず口に出してしまっていた。ただ、そこに食いついたのは私だけではなく、何故か隣にいた真央ちゃんも。
「...松田さんってK大のご出身なのですか?」
「ええ、それが何か?」
女性陣からの思わぬ食いつきに、松田さんは少々怪訝な顔をする。
それでも、富永課長はうちの若手のホープと自己紹介の時に話していた。彼はこの若さで管理職が持つ難関資格保有。あながち、富永課長の言う事は大げさではなさそう。そんな紹介の後、課の中では1番年が近くという事もあり、異動してから彼には分からない事を教えてもらったり、何かと親切にしてもらっている。だから、今回の事もその親切の延長なのだと思っていた。
「何か手伝うことない?」
いつものように優しく差し伸ばされた手を有難く思いつつも。
「お気遣いありがとうございます。私の方は大丈夫です。それに先ほど課長代理もお手伝い来てくださって...ちょうど、今、会議室に」
ここまで話しておいてから余計な事を話したとバツが悪くなる。さっき気を利かせて課長代理と真央ちゃんを2人きりにしたばかりなのだ。私は足りない脳みそをなんとかフル回転させ、彼を足止めしようと画策する。
「...す、すみません、ちょっと、これを一緒に資材室まで運んでいただけますか?」
「了解」
人の好い山本さんはそんな私の策略を疑いもせず重い紙袋を受け取ってくれた。そのうえ私の分まで持ってくれようとして、そこまでは甘えられなかった。それに手ぶらになった私が向こうに戻ったら、元の木阿弥。押し問答の末、お揃いの一つずつ紙袋を持ちあう事に落ち着き、資材室へと向かう。ただ、いつも周りには他の人がいたし、こんな風に山本さんと2人きりで歩くのは初めてのことだった。
藤澤さんだったら沈黙してても並んで歩くだけで心が弾んだのに、今は緊張してしまうだけ。こういう時どんな話題をふっていいか、男性慣れしていない私には分からない。山本さんも私に付き合って黙々と歩き、2人とも言葉を発する事はなく。間が持たないと思ったのか、最初に沈黙を破ったのは彼だった。
「管理部にはもう慣れた?」
「は、はい...雰囲気にはなんとか。でも、仕事内容では、まだまだで...」
「ハハハ。三浦さんは正直だね。正直ついでに言うと、最初は三浦さんみたいな子が管理部にくるなんて、あり得ないと思った」
「ふ、普通は、そうですよね...」
いつも温和な山本さんから容赦ない言葉を言われてしまったけれど、本当のことだから反論の余地なしで、私は愛想笑いする事しかできなかった。
それでも彼はまだ何か言いたげで、私がその横顔を伺い見ると彼も偶然私の方を見ていた。
「三浦さんは営1にいたんだよね?」
「はい...」
「...じゃあ、やたら背の高い見映えのいい研究員がいたの知ってる?」
「あ、あの...?」
知っているも何も...私が思いつくのは藤澤さんしかいない。でも、山本さんが私にわざわざそんな事を聞くのか見当もつかず、否定も肯定もできなかった。すると、私の答えをどう捉えたのかわからないけれど。
「...三浦さんって」
何かを言いかけ、山本さんは言葉を濁す。その後、話題はなんとなく変えられ藤澤さんの事は聞かれずじまい。何かとボロを出してしまいそうな私としては、ホッとした。
※※※
講座2回目の日に、私と真央ちゃんは席に着くなり松浦と出くわす。この場で私と会う事を想像すらしていなかったようで。
「なんで三浦がここに?お前には全く必要性のない講座だろ?暇人の冷やかしか?」
椅子から身を乗り出して驚いているわりに相変わらず歯に衣着せぬ物言いの松浦。いつもなら言いたい事を返し応戦するのだけれど、今は一対一ではなく真央ちゃんが一緒。ここは大人の対応をしなければ、と。コホンと1つ咳払いしたのち平静を装う。
「...管理部の仕事の一環だよ。この講座はウチ主催の講座だもの。因みに講師は私の今の上司だから」
松浦はそれを聞くなり、目を真ん丸くして両手を挙げ大袈裟なリアクションを返してきた。
「お前があの管理部なんてマジ!?はっ、ありえねー」
流石にこの態度にはカッチーン!!(怒)
「うるさいやい!」
真央ちゃんがいるにもかかわらず、つい、いつも通りの返しをしてしまう。すると、隣に座っていた真央ちゃんが堪り兼ねて、コソッと小声で聞いてきた。
「誰、この人?もしかして、優里ちゃんの彼氏...とか?」
彼の馴れなれしい態度に彼女は盛大な勘違い。すぐさま、あからさまな嫌な顔で返事をする。
「や、やだやだ!違う違う!!誰がこんな奴と!!」
「...何が違うんだよ?」
今度は私たちの話が聞こえていないであろう松浦が眉をつり上げ、私の挙動不審さを勘繰る。こうなったら、早く誤解を解かないと焦った。
「この人はね大学時代からの友達の松浦..君。で、こちらは鳴沢さん。営業部の研修の時、仲良くなったの」
2人を交互に紹介すると松浦と真央ちゃんは初対面だった。
「ども...研究室の松浦です。なんか三浦の世話大変ですね。こいつ、おっちょこちょいで、バカだから付き合うの大変でしょう?」
「い、いえ...そんな。三浦さんにはいつもお世話になっているのは、こちらの方で。あ、自己紹介が遅れまして...。鳴沢です。営業部3課所属です」
松浦にはすごい言われようだけれど、もうそんなの言われ慣れっこな私はそこはスルー。ようやく2人の誤解が解けた時。
「悪い。遅れちゃって!」
開始時刻ギリギリに会議室に入ってきた男性は前触れもなく松浦の隣に座る。そのついでに私たちにも何となく会釈してくれて、この人は誰?と、私たちの顔には、はてなマークが浮かんでいたに違いない。そこを察した松浦が今度はすぐに彼の正体を教えてくれた。
「こちらは今年の春にうちに赴任してきた松田さん。ほら、藤澤さんが異動したからその代わりの...」
...この人が。
藤澤さんが年度の途中で異動。そのおかげで、松浦はいつも人手不足だとぼやいていたのを思い当たる。松浦に促された彼は、先ほどの他人行儀な態度から少し目を細め、柔和な笑みを私たちに向けた。
「...松浦と同じ所属の松田です。因みに藤澤さんとは以前の研究所の後輩で、大学の後輩なんです」
「それじゃあ、K大の?」
藤澤さん絡みの話だったので思わず口に出してしまっていた。ただ、そこに食いついたのは私だけではなく、何故か隣にいた真央ちゃんも。
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