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第一章 人生が変わった7日間
16:転生したら悪役令嬢だなんて(アルフィール視点)
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子爵家のエントランスから馬車に乗り込むと、どっと疲労が襲ってきた。ようやく叶ったヒロインとの対面は、自分で思っていた以上に緊張していたみたい。
贅を尽くした公爵家の馬車は魔法で揺れを抑えていて、地球の車のように乗り心地が良い。少し肩の力を抜いて車窓から外を見れば、小さな屋敷が遠ざかっていった。
(どれほど嫌がっても、わたくしはもう完全にアルフィールね……)
ここが日本だったなら、豪邸と言っていいはずのモルセン子爵の屋敷だけれど。王国一の貴族令嬢として生まれ変わった今のわたくしには、ささやかな住まいにしか思えない。
わたくしが前世の記憶を思い出してから、もう八年が経つ。その間に、日本で暮らした想い出はどんどん薄れていき、現代日本人としての感覚は遠いものになってしまった。
けれどようやく目にしたヒロインの姿に、靄がかっていた過去が再び色付いた。変わってしまった自分自身に気付いてしまうと、言いようのない寂しさが胸に広がる。
気持ちを落ち着けようと、そっと息を吐き出せば、向かいに座るイールトが心配そうに眉根を寄せた。
「お嬢様、お疲れでは?」
「イールト……。そうね、少しは」
「ここには私しかおりません。楽になさってはいかがですか」
「ありがとう。そうするわ」
イールトの提案を受けて、少し姿勢を崩し、クッションにもたれかかる。
わたくしに忠実に仕えてくれるイールトは、ジミ恋には登場しない。つまり彼は、名もなき脇役。
それでもきっとイールトも、ゲーム中にはいたんでしょうね。悪役令嬢アルフィールが、たった一人であれだけの罪を……ヒロインを殺してしまうなど、出来るはずもないのだから。
(ここまで長かったけれど、準備期間はもう終わり。ディー様と過ごす時間も、もうすぐ終わるんだわ……)
前世を思い出したのは、わたくしが七歳の頃。第一王子ディライン殿下と婚約するため、顔合わせを行った時だった。
思い出したと言っても、生まれてから死ぬまでを追体験したわけではない。王宮の庭園で、殿下のお顔を見た瞬間。脳内を駆け巡ったのは、映画を倍速で眺めているような、どこか他人事に思える記憶だった。
でも不思議と、それがわたくしの記憶なのだとハッキリ感じられた。そして幼いわたくしは、歓喜と絶望に落ちた。
喜びはもちろん、最推しのディー様にリアルで会えた事。当時のディー様はまだ八歳で、背は低くて声は高かった。それでも面影はちゃんとあって、将来はあのイケメンになるのだとよく分かる、天使のような可愛らしさだった。
そのあまりの神々しさが幼いわたくしの心臓を直撃し、呼吸困難で危うく二度目の人生を終える所だったわ。
そして絶望は、ここがジミ恋の世界で、わたくしが悪役令嬢アルフィールだった事。
思い出したゲームの記憶は、わたくしが未来に犯すだろう罪の数々と迎える結末を示していて。幼いわたくしにはあまりに刺激が強過ぎたから、結局わたくしは気を失った。
(あのまま婚約話が流れてくれたら良かったのだけれど……。そうはならなかったのよね)
前世にあった異世界転生モノの小説や漫画、アニメのように。ゲームの強制力があるのか、わたくしと殿下の婚約は恙無く進んでしまった。ジミ恋の設定、そのままに。
ジミ恋の悪役令嬢アルフィールは、攻略対象である第一王子ディライン殿下の婚約者。王国一の貴族令嬢に相応しい美貌と魔力、プライドを持つ女性で、王子を一途に愛していた。
そんなアルフィールは十五歳で王立学園へ入学し、その後中途入学してきたヒロインと出会う事になる。そして二人は、同じクラスになるの。
アルフィールは平民から貴族になったばかりのヒロインに、最初は親切に振る舞った。貴族のルールやマナーを教えたりして。
けれどヒロインが王子や他の攻略対象者と親しくなっていくと、アルフィールはヒロインに厳しくあたるようになっていく。
婚約者の王子はもちろんのこと、その側近となる者たちにまで、ヒロインは平民感覚のまま無邪気に絡んでいくから。
(真面目に考えれば、婚約者がいる王子に不用意に近付くヒロインの方が問題なのだけれど。そういうゲームなのだから、深く考えてはいけないのよね。わたくしもプレイしていた時には、ヒロイン目線で楽しんでいたわけだし。生まれ変わった今だからこそ、アルフィールの気持ちが分かるんだわ)
アルフィールは貴族家のトップ令嬢としてのプライドを持つ女性だった。そんな彼女だもの。良く言えば天真爛漫、悪く言えば思慮の浅いヒロインを、許せなくても当然だと思う。
王子の側近候補たちには婚約者がいないけれど、ヒロインが彼らに近付くのも我慢ならないぐらい、アルフィールはヒロインを嫌いになる。彼らがヒロインから悪影響を受ければ、立太子前の大事な時期にいる王子の足を引っ張りかねないと危惧してね。
そうしてアルフィールは、ヒロインを虐げ始める。最初は小さな嫌がらせ程度だけれど、最終的には殺害を企むほどに。
(普通に考えれば、悪役令嬢アルフィールは嫉妬に狂った女になるのでしょうけれど。運営的には、ゲームシステムに必要だっただけなのよね)
ジミ恋は、イベントやデートパートでの好感度上げと、日常パートでのステータス上げで進んでいくアプリゲームだった。
好感度上げは簡単な選択肢を選ぶだけだけれど、ステータス上げのミニゲームに悪役令嬢アルフィールのイジメが関わっていた。
ジミ恋ではステータス値と好感度が組み合わさって、どの攻略対象ルートに進むかが変わっていく。
そして攻略対象ルートの進行度によってアルフィールのイジメが加速していき、同時にミニゲーム難易度も上がる仕様だった。
パズルやシューティング、音ゲーなど数種類あったミニゲームは、それ単体で遊ぶモードもあるほど本格的なもので。なかなかに難しく、課金アイテムを何度も使った記憶がある。
最初はミニゲームに失敗しても、ステータスが上がらずに終わるだけ。でも中盤以降のミニゲームで失敗すると、ヒロイン死亡のバッドエンドになってしまう。
そんなバッドエンドにも一応選択肢があったり、死亡スチルがあったりして……軽くスプラッタだったために年齢制限が設けられていた。
そしてそのスプラッタな恐怖スチルは、悪役令嬢アルフィールの死亡シーンにも出てくる。
ゲームの最終イベントにて。王子ルート以外、全てのルートで、アルフィールは魔獣に食い殺されてしまうから。
(本当にトラウマものだわ。蝶よ花よと愛されて育った七歳の女の子が、思い出すようなものじゃないのに)
そんなエンディング間際の恐怖映像を思い出して気絶した、幼いわたくしだったけれど。本当にここがジミ恋の世界なのかを確かめるために、目を覚ました直後から動き出したのよ。
贅を尽くした公爵家の馬車は魔法で揺れを抑えていて、地球の車のように乗り心地が良い。少し肩の力を抜いて車窓から外を見れば、小さな屋敷が遠ざかっていった。
(どれほど嫌がっても、わたくしはもう完全にアルフィールね……)
ここが日本だったなら、豪邸と言っていいはずのモルセン子爵の屋敷だけれど。王国一の貴族令嬢として生まれ変わった今のわたくしには、ささやかな住まいにしか思えない。
わたくしが前世の記憶を思い出してから、もう八年が経つ。その間に、日本で暮らした想い出はどんどん薄れていき、現代日本人としての感覚は遠いものになってしまった。
けれどようやく目にしたヒロインの姿に、靄がかっていた過去が再び色付いた。変わってしまった自分自身に気付いてしまうと、言いようのない寂しさが胸に広がる。
気持ちを落ち着けようと、そっと息を吐き出せば、向かいに座るイールトが心配そうに眉根を寄せた。
「お嬢様、お疲れでは?」
「イールト……。そうね、少しは」
「ここには私しかおりません。楽になさってはいかがですか」
「ありがとう。そうするわ」
イールトの提案を受けて、少し姿勢を崩し、クッションにもたれかかる。
わたくしに忠実に仕えてくれるイールトは、ジミ恋には登場しない。つまり彼は、名もなき脇役。
それでもきっとイールトも、ゲーム中にはいたんでしょうね。悪役令嬢アルフィールが、たった一人であれだけの罪を……ヒロインを殺してしまうなど、出来るはずもないのだから。
(ここまで長かったけれど、準備期間はもう終わり。ディー様と過ごす時間も、もうすぐ終わるんだわ……)
前世を思い出したのは、わたくしが七歳の頃。第一王子ディライン殿下と婚約するため、顔合わせを行った時だった。
思い出したと言っても、生まれてから死ぬまでを追体験したわけではない。王宮の庭園で、殿下のお顔を見た瞬間。脳内を駆け巡ったのは、映画を倍速で眺めているような、どこか他人事に思える記憶だった。
でも不思議と、それがわたくしの記憶なのだとハッキリ感じられた。そして幼いわたくしは、歓喜と絶望に落ちた。
喜びはもちろん、最推しのディー様にリアルで会えた事。当時のディー様はまだ八歳で、背は低くて声は高かった。それでも面影はちゃんとあって、将来はあのイケメンになるのだとよく分かる、天使のような可愛らしさだった。
そのあまりの神々しさが幼いわたくしの心臓を直撃し、呼吸困難で危うく二度目の人生を終える所だったわ。
そして絶望は、ここがジミ恋の世界で、わたくしが悪役令嬢アルフィールだった事。
思い出したゲームの記憶は、わたくしが未来に犯すだろう罪の数々と迎える結末を示していて。幼いわたくしにはあまりに刺激が強過ぎたから、結局わたくしは気を失った。
(あのまま婚約話が流れてくれたら良かったのだけれど……。そうはならなかったのよね)
前世にあった異世界転生モノの小説や漫画、アニメのように。ゲームの強制力があるのか、わたくしと殿下の婚約は恙無く進んでしまった。ジミ恋の設定、そのままに。
ジミ恋の悪役令嬢アルフィールは、攻略対象である第一王子ディライン殿下の婚約者。王国一の貴族令嬢に相応しい美貌と魔力、プライドを持つ女性で、王子を一途に愛していた。
そんなアルフィールは十五歳で王立学園へ入学し、その後中途入学してきたヒロインと出会う事になる。そして二人は、同じクラスになるの。
アルフィールは平民から貴族になったばかりのヒロインに、最初は親切に振る舞った。貴族のルールやマナーを教えたりして。
けれどヒロインが王子や他の攻略対象者と親しくなっていくと、アルフィールはヒロインに厳しくあたるようになっていく。
婚約者の王子はもちろんのこと、その側近となる者たちにまで、ヒロインは平民感覚のまま無邪気に絡んでいくから。
(真面目に考えれば、婚約者がいる王子に不用意に近付くヒロインの方が問題なのだけれど。そういうゲームなのだから、深く考えてはいけないのよね。わたくしもプレイしていた時には、ヒロイン目線で楽しんでいたわけだし。生まれ変わった今だからこそ、アルフィールの気持ちが分かるんだわ)
アルフィールは貴族家のトップ令嬢としてのプライドを持つ女性だった。そんな彼女だもの。良く言えば天真爛漫、悪く言えば思慮の浅いヒロインを、許せなくても当然だと思う。
王子の側近候補たちには婚約者がいないけれど、ヒロインが彼らに近付くのも我慢ならないぐらい、アルフィールはヒロインを嫌いになる。彼らがヒロインから悪影響を受ければ、立太子前の大事な時期にいる王子の足を引っ張りかねないと危惧してね。
そうしてアルフィールは、ヒロインを虐げ始める。最初は小さな嫌がらせ程度だけれど、最終的には殺害を企むほどに。
(普通に考えれば、悪役令嬢アルフィールは嫉妬に狂った女になるのでしょうけれど。運営的には、ゲームシステムに必要だっただけなのよね)
ジミ恋は、イベントやデートパートでの好感度上げと、日常パートでのステータス上げで進んでいくアプリゲームだった。
好感度上げは簡単な選択肢を選ぶだけだけれど、ステータス上げのミニゲームに悪役令嬢アルフィールのイジメが関わっていた。
ジミ恋ではステータス値と好感度が組み合わさって、どの攻略対象ルートに進むかが変わっていく。
そして攻略対象ルートの進行度によってアルフィールのイジメが加速していき、同時にミニゲーム難易度も上がる仕様だった。
パズルやシューティング、音ゲーなど数種類あったミニゲームは、それ単体で遊ぶモードもあるほど本格的なもので。なかなかに難しく、課金アイテムを何度も使った記憶がある。
最初はミニゲームに失敗しても、ステータスが上がらずに終わるだけ。でも中盤以降のミニゲームで失敗すると、ヒロイン死亡のバッドエンドになってしまう。
そんなバッドエンドにも一応選択肢があったり、死亡スチルがあったりして……軽くスプラッタだったために年齢制限が設けられていた。
そしてそのスプラッタな恐怖スチルは、悪役令嬢アルフィールの死亡シーンにも出てくる。
ゲームの最終イベントにて。王子ルート以外、全てのルートで、アルフィールは魔獣に食い殺されてしまうから。
(本当にトラウマものだわ。蝶よ花よと愛されて育った七歳の女の子が、思い出すようなものじゃないのに)
そんなエンディング間際の恐怖映像を思い出して気絶した、幼いわたくしだったけれど。本当にここがジミ恋の世界なのかを確かめるために、目を覚ました直後から動き出したのよ。
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