ヒロインと呼ばれても〜自称悪役令嬢に王子をお勧めされましたが、私の好みは貴女の従者様です

春日千夜

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第三章 運命を変える7ヶ月間

87:知られていたなんて(アルフィール視点)

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 ずっとおかしいとは思っていた。けれど最初はほんの小さな些細な事ばかりで。ここはゲームではなく現実だからだと、そう思えば納得出来る程度の事だったから見逃してきた。
 それなのに違和感は徐々に大きくなっていった。考えられるのはたった一つの可能性だけれど、今さらそれを突き詰めてもわたくしの願いは絶たれてしまうから。見ないように、気付かないように。そう、してきたというのに。

(さすがにこれは看過できないもの……)

 冬のダンスパーティーを逃せば、もう新たなルートは開けなくなる。だからこそわたくしは、決して間違えないようにと最後の最後に信じて流れに任せた。
 けれど現れた結果は、だった。

「フィー、ここでいいかな?」
「ええ、問題ありませんわ」

 後夜祭の賑わいを遠く耳にしながら、殿下と共に空き教室に入る。
 ダンスパーティーの間、サロンは休憩室として解放されているため誰でも自由に出入り出来るから「二人きりで話したい」というわたくしの望みを叶えるには、ここが最適だと殿下は考えられたみたい。

 いくら婚約者とはいえ年頃の男女が密室にいては醜聞に繋がるから、扉は開けたままだけれど。
 殿下が防音結界シールドを張って下さったし、ゼリウス様は通路に立って下さってるから、わたくしには充分だった。

「冷えてはいけないから、これを」
「ありがとうございます」

 殿下はわたくしに椅子を勧めると、上着を貸して下さった。婚約者の義務として過去に数回、二人でお茶会をした事もあったけれど、その時は常にイールトをそばに置いていた。
 こうして本当に二人きりになるのは初めてだというのに、殿下は緊張した素振りを一切見せない。向かいに座った殿下は、いつもの完璧な王子様の微笑みを浮かべたままだった。

「まさか君からこうして誘ってもらえるとは思わなかったよ。もっと早くに言ってくれれば、サロンの一つでも空けさせておいたというのに」
「皆様にも休憩室は必要ですわ。これはわたくしの我儘ですもの。ここで構いません」
「そうか。茶の一つもあればゆっくり話していたい所だが、よほど大事な話のようだ。本題に入った方が良さそうだな」
「ええ」

 不気味なほど殿下は落ち着いて話を進めて下さる。真っ直ぐに向けられる瞳には、こちらを探る意図すら見えない。
 殿下が何を考えてわたくしの話を待っているのかは分からないけれど、前置きなど必要ないというのはわたくしも同じだもの。単刀直入に聞いてしまいましょう。

「話というのはとても簡単なことですの。殿下はシャルラさんをどう思ってらっしゃいますの?」
「シャルラなら、とても好ましい女性だと思っているよ。平民として長く暮らしてきたのだから、貴族社会に溶け込むには苦労も多いだろう。それでもあれだけ健気に努力しているんだ。素直に称賛出来るよ」
「つまり恋愛感情はないと?」
「可愛らしいとは思っている。私に言えるのはそこまでだ」

 殿下のお立場を考えれば、たとえ本音ではシャルラさんを愛してらしたとしてもそう簡単に口に出来ない事は分かっている。それでも、もし本当にシャルラさんに心を向けているなら、何らかの熱は瞳に籠るはず。だからやはりこれは……。

「シャルラさんのドレスは、殿下のプレゼントではなかったのですね」
「なぜそう思う?」
「アクセサリーが違いましたもの。殿下なら、全てご自身のお色で揃えたがるはずでしょう?」

 前世のわたくしは、ディー様の事だけをひたすら見つめていた。だから殿下の事は、誰よりも知っていると思う。
 ディー様は五人の攻略対象者の中で最も独占欲の強いキャラクターだった。現実に目の前にいらっしゃる殿下を見ても、それは変わらないとわたくしは感じている。
 だからおかしいと思ったのよ。シャルラさんのアクセサリーが、殿下の色ではない事が。

(ラステロをあんな風に牽制なさるぐらいなら、をちゃんと付けるはずだもの。……わたくしのように)

 今日わたくしが身に付けているアクセサリー類は全て、婚約の証にと贈られたもので。プラチナシルバーにダイヤモンドやエメラルドを配したものばかりだ。
 形式的なプレゼントでさえ、こうだったのだもの。シャルラさんを愛してらっしゃるなら、もっと素晴らしいものを贈られていいはず。
 けれどシャルラさんのアクセサリーは殿下のお色ではなかった。ダンスではあれほど親しげに顔を寄せて微笑みあっていたのだから、明らかに不自然なのよ。

 確信を持って問いかければ、殿下は肩をすくめた。

「驚いたな。フィーは私に興味がないと思っていたが。そんな風に考えられるほど、私を見通してると?」
「何でも分かるわけではありませんわ。たとえば、なぜわたくしがマダムに頼んだドレスが、殿下からの贈り物に成り代わっているのかなんて、全く予想出来ませんもの」

 わたくしが今日着ているドレスは、わたくし自身がマダムに作らせたものだけれど。珍しいことに、使用予定だった布地が足りないため、違うデザインに差し替えたいと相談を受けていた。
 そうして出来上がったドレスには、使われる予定のなかった銀糸の刺繍がさり気なく増えていた。それは、ジミ恋のヒロインが王子以外のルートになった時、悪役令嬢アルフィールが着ていたドレスにそっくりだったけれど、その時はまだ「まさか」と思うだけだった。
 でもラステロのイベントまで起きかけたんだもの。嫌な予感は膨らむばかりだった。それでも何か証拠があるわけではないから、シャルラさんのドレスを見るまで判断を待っていたのよ。

(そのために今回は、全てを話さなかったのだし)

 シャルラさんにドレスの色しか伝えなかったのは、本当に殿下の気持ちがシャルラさんにあるのか確かめたかったから。わたくしのドレスにしてもそう。イールトには、どのルートでも同じエメラルドグリーンのドレスだと伝えはしたけれど、刺繍の有無については話さなかった。
 それなのに結果はこの通りだったのだから、きっと殿下は今もわたくしを諦めていないのでしょう。

 かといって、こんな風に直球で問いかけても、正直に答えてもらえるとは思っていない。ほんの少しでも糸口が見えればそれでいいと、わたくしは思って口にした。
 けれど意外にも、殿下はあっさりと頷いた。

「確かにすぐに本題にとは言ったが、こんなに早く言われるとは思わなかったな。いつ気付いた?」
「疑問を持ったのはドレスが届いた時ですわ。確信を抱いたのは、シャルラさんのドレスを見てからですが」
「さすがだよ、フィー。やはり君こそが、私に相応しい」

 熱っぽく見つめられて、ドキリと鼓動が跳ねる。向けられた艶やかな笑みは、シャルラさんがやって来るまでに何度も向けられてきたもので。ジミ恋で何度も見た、好感度が最大になった時の表情だった。

(最初から何も変わっていなかった。わたくしはずっと、殿下の手の上で遊ばれていたんだわ)

 なぜわたくしの話を、ここまで冷静に待っていられたのか腑に落ちた。殿下は、わたくしが気付く事を見越してらしたのでしょう。もしかしたら、わたくしのドレスに刺繍を入れたのもあえて気付かせるためだったのかもしれない。
 完全無欠の完璧王子と言われていたディー様だもの。智略にだって当然長けていらっしゃるから、シャルラさんが成功出来るかは一か八かの賭けだった。それでも賭けるしかなかったのよ。そうでなければ、わたくしは死ぬしかなかったのだから。

「わたくしの負けですわね」

 自分の手でジミ恋のストーリーを大きく変えてしまったから、これから先どんな結果が訪れるのか全く予想がつかない。
 けれどわたくしの意図しないイベントもいくつか起こっていたのだから、間違いなくゲームの強制力は存在するはずだし、あの最終イベントも必ず起きるに違いないのよ。

(どちらにせよ王子ルートでないなら、わたくしに取れる行動はひとつだけ)

 ぎゅっと手を握りしめて内心を押し隠し、精一杯の微笑みを浮かべる。押し寄せる恐怖に叫び出したくなるけれど、殿下の前で無様な真似はしたくなかった。
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