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二人の王子
しおりを挟む「アルヴィン。リアのこと頼んだぞ。」
そう言ってケルヴィンは
アルヴィンの肩を叩いたあと
ユーフォリアに向き直り
「リア。一時的な別れだ。そんなに泣くな。」
ポロポロ溢れる涙を
その優しい大きな手で
呆れながらもユーフォリアの涙を
拭ってくれる。
「わかっているわ。でも心配くらいさせてよ。」
「心配なら私だってそうだ。くれぐれも弟に絆されるなよ。」
そう言って優しく微笑んでくれる。
言いながらもケルヴィンは
ユーフォリアがそんなことに
ならないのをわかっている。
だけど少しでもユーフォリアを元気付けるようにおどけて見せるのだ。
「アルにそんな気持ちにならないわよ。」
少しだけむすっとすれば
ハハッと軽く笑うケルヴィンは
いつもと変わらない。
「アルヴィンもこんな茶番に付き合わせて申し訳ないな。」
「全くですよ兄上。さっさと帰ってきて
この泣き虫姫を引き取ってくださいよ。」
「何よ。アルのくせに生意気よ。」
キッとアルヴィンの方を睨むと
アルヴィンはユーフォリアの額に
デコピンをする。
「いったいじゃない!」
違う涙が眦から溢れそうになる。
ヒリヒリする額をさすっていると
ケルヴィンがボソッと何かをつぶやく。
「本当にのんびりしていたら
アルヴィンに盗られるな。」
「…何?ケルヴィン様?」
何でもないとにこやかに笑うと
後ろに控えていた馬車に乗り込んでいく。
座席に座ると
「では少しばかり隣国を堪能してくるよ。」
そう言って見送るユーフォリア達に
手を振るとあっさり御者に扉を閉めさせて
隣国へと旅立っていく。
あの執務室から3ヶ月後のことだった。
「行っちゃった。」
どんどん見えなくなる馬車を
いつまでも見る。
数分でこんなに寂しいのに。
(早く帰ってきて)
「リア。兄上は必ず迎えにくるから待っときな。」
アルヴィンはいつまでも動かない
ユーフォリアのそばにいてくれる。
「そうね。信じて待つわ。」
ユーフォリアが二人に出会ったのは
6歳の時。
アルマニー家当主の父に連れられ
登城した時に紹介された。
ケルヴィンはユーフォリアの
二つ年上で
アルヴィンはユーフォリアの
一つ年下だ。
二人とも王族特有の金色の髪に
青い瞳。
ケルヴィンは深い海のような瞳だけど
アルヴィンは青空のような明るい瞳だ。
父の登城に合わせてふたりと会う回数が
増えるたびに徐々に仲良くなり
知り合って半年もせずに
気兼ねなく話せる関係になった。
アルヴィンは当時まだ5歳だし
ユーフォリアだって6歳だ。
二つ年上のケルヴィンは
二人の面倒をよく見てくれていた。
優しくてかっこよくて頼り甲斐のある
ケルヴィンに恋心を抱くのは
すぐだった。
何でも知っていて
いつでも優しく笑ってくれる
お兄さま。
周りにそんな少し上の男の子や
女の子なんていなかったものだから
ユーフォリアにとって
ケルヴィンははじめて憧れを抱く人物だった。
憧れが恋に変わったのは
いつだったか。
ケルヴィンがどこかの貴族の令嬢と
仲良く話をしていところを見た時かもしれない。
私以外の女の子に笑いかけないで。
そんな負の感情に支配されそうになった時
これは憧れだけじゃないことを知った。
アルヴィンがよその女の子と
話したり笑いあったりしているとこを
見ても何も思わなかったのに
ケルヴィンだとどうしても嫌だった。
それを幼心に素直に泣きながら
ケルヴィンに話したら
ケルヴィンは優しく笑って
ユーフォリアの額にキスを落とした。
『僕が好きなのはリアだけだよ。』
今思えばケルヴィンは
10歳そこそこなのに
ませていた気がする。
でもストレートに言ってくれるのが
嬉しくて大好きが止まらなくなった。
いつかケルヴィン様のお嫁さまに
なりたい。
そう思うようになった。
そこからケルヴィンとの関係は
兄や妹というような間柄から
恋仲へと変わっていった。
「リア。もう兄上の馬車は見えなくなった。城に戻ろう。」
そう言ってアルヴィンは
ユーフォリアの肩を抱いて
城の中へと入っていった。
ユーフォリアはアルヴィンに
肩を抱かれるまま
さっきまで頬に触れていた
ケルヴィンの指の感触を思い出しながら
こらから待っている期間に
少しだけ不安を抱いた。
(ケルヴィン様。)
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