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アルとの時間
しおりを挟むアルヴィンとの婚約期間は
以前と何一つ変わらなかった。
いつも通りに父に付き合って
登城して
アルヴィンの執務の休憩時間に
一緒にお茶をする。
他愛もないやりとりをして
美味しいお茶と美味しいお菓子を
堪能する。
ただそこにケルヴィンがいないだけ。
アルヴィンとのお茶の時間は
ケルヴィンと3人での楽しい時間だった。
「リア。もう一週間たったんだ。そろそろ元気出せよ。兄上に依存しすぎだ。」
「煩いわね。アルだってはじめは泣きそうにしてたじゃない。」
ケルヴィンが旅立って
早1週間。
たった1週間。
それでもユーフォリアにとって
すごく長い時間だ。
こんな気持ちがずっとずっと
続くと思うと美味しいお茶もお菓子も
味気なくなる。
「泣きそうなのはお前だ。」
そう言って慣れ親しんだ
デコピンが見事にユーフォリアの
額に直撃する。
アルヴィンはユーフォリアが
落ち込んだり泣きそうになると
昔からデコピンを仕掛けてくる。
アルヴィンなりの慰め方だ。
「歳下のくせに本当に生意気ね。」
「たかが1つ違いに姉面されたくないね。」
ふっと意地悪い笑みで紅茶を
すするアルヴィンは全くもって
可愛げがない。
元々出会ってからすぐ
アルヴィンはユーフォリアに
やたらと意地悪いことばかりしていた。
たかが1つ違いのくせに。と。
それでも昔は天使のような笑顔が
とっても可愛かった。
イタズラが成功して
ユーフォリアを半泣き状態にするけど
その時の笑顔は屈託のないものだから
ついやられたユーフォリアは
許してしまっていた。
「アルごめんね。一時的とはいえ婚約することになって。醜聞もいいとこね。」
婚約が一時的なものだとしても
事情を知っているのは
アルマニー家と王族と宰相様とタスリア国の王族たちだけ。
他の貴族は本当の婚約だと思っている。
その方が反対の隣国の思惑に
乗るふりを見せられるから。
はじめはタスリア国には
黙っているつもりだったらしい。
しかしタスリア国と懇意にしている
アルマニー家当主の父が
信用に関わることは。と言って
父自らタスリア国の王様に話に行った。
そんな事情を他国にやすやすと
話せるのは本当に
両国での信頼関係が確固たるものだからだ。
父曰く次代のタスリア国の王子は
すごく才ある人たちらしく
本来はタスリア国にユーフォリアを
嫁がせたかったらしい。
話を直々にしに行った際に
王子をみて父は一目惚れをした。
なんて言っていた。
帰ってきた父は早速お母様に
妹を作ってタスリアに嫁がせるぞと
張り切っていたのをみて
呆気にとられていた。
父はタスリアもシンフォニアも
愛しているのだ。
「私は別に構わない。リアの方こそ私たち王族に振り回して悪いな。」
珍しくアルヴィンがへこんでいるのを
みてユーフォリアは少し驚く。
「アル。お菓子かお茶に毒入ってた?」
そう聞いたユーフォリアにアルヴィンは
ベーっと行儀悪く舌を出して
睨んでくる。
「アル!」
慌ててあるの肩を叩いたら
アルヴィンは戯けて笑う。
その顔はどこかケルヴィンに
似ていて一瞬で
心が寂しくなった。
「まぁ俺も兄上もリアには飛び切り甘いからな。心配しなくても醜聞に晒されないようにしてやるさ。」
そう言って昔のように
俺と言うアルヴィン。
「アルが甘いのは嘘でしょ。それにアルが"私"っていうの違和感しかないからやめてほしい。」
「アホか。私は王族だ。王族らしく威厳に満ちていないとな。」
「ふふ。アルに威厳ねぇ。」
ふふふと堪え切れなくて笑ってしまう。
「あるだろ。私でも。」
そう言うアルヴィンも一緒になって
笑い合う。
ケルヴィンはいなくて
寂しいけど
アルヴィンとこうやって
笑いあっていれば
すぐに時間がたってくれるといいな。
「リア。今だけは俺の婚約者になって。」
アルヴィンがそう言って
ユーフォリアの頭をひと撫でしてから
いつものようにデコピンをする。
その時一瞬アルヴィンの顔に
僅かな憂いが帯びたことに
ユーフォリアは気づかない。
赤くなってるだろう
ヒリヒリする見えない額に
目を向けているユーフォリアに
アルヴィンは少しでもこの時間を
惜しむようにいつまでも
ユーフォリアから目を離さなかった。
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