False love

平山美久

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届かない手紙

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ケルヴィンが隣国に留学にいって
半年が過ぎた。

ユーフォリアは今日も父について
登城している。

日課のアルヴィンとのお茶
の前にケルヴィンが使っていた
執務室へと足を運ぶ。

トントン。

軽快な音で扉をノックすると
中からケルヴィンの近習がでてくる。

「ユーフォリア様。おはようございます。」

「おはよう。ケルヴィン様からのお手紙は?」

「はい。今朝方届きました。どうぞ。」

そう言って用意周到に
近習はユーフォリアに持っていた手紙を
渡してくれる。

質のいい封筒を裏返せば
ケルヴィンの優しい字で
"リアへ"
と書かれている。

その字を見ると頬が緩んでしまう。
ユーフォリアは大切に手紙をそっと開けた。




ケルヴィンが旅立って2週間。
ずっと落ち込んでいた時に
ケルヴィンの近習がユーフォリア宛にと
手紙を渡してきた。
それはケルヴィンからの手紙で
隣国について少し落ち着いた。と
ケルヴィンの優しい筆圧で書かれていた。
嬉しくってその手紙を何度も繰り返し
読んだ。
そしてアルヴィンとのお茶の時間も
忘れてケルヴィンの執務室で
必死にお返事を書いた。

出来るだけ丁寧に。綺麗に。
そうして時間も惜しまずに書いていたら
執務室にアルヴィンが
呆れた顔をして現れた。

『庭園で待ってたんだけど。』

ふぅとため息を吐いてから
執務机で手紙を書いていたユーフォリアに近づいてくる。

『あ!お茶の時間!ごめんなさい!』

『いいよ。リアは兄上の事になると私のことなんか御構い無しなんて慣れてるさ。』

不貞腐れているアルヴィンに
ユーフォリアは申し訳なくなった。
そんなことをしていた自覚がなかったために
知らぬ間にアルヴィンのことを
蔑ろにしていたらしい。

『アル。ごめんね?もう書き終わるから!そしたらお茶しましょ?』

アルヴィンはユーフォリアの
手元にある手紙を見ながら
まだむくれている。

『リアにだけ手紙をよこすなんて兄上もリアに依存しているな。』

『アルのとこには手紙はこなかったの?』

『なかったよ。旅立って2週間で手紙を送るってことはよほど急いでいたんだろな。』

『ん?落ち着いたって書いてあるわよ?』

ケルヴィンの手紙には
やっと落ち着いたとしっかり書いて
あった。

『2週間そこそこで落ち着けるわけないだろ。兄上もリアに会えなくて寂しいから早々に手紙を送ってきたんだ。』

『そう…なのかな?…だったら嬉しい。』

ケルヴィンからの手紙を大事に
胸に抱く。
ほのかにケルヴィンが使っている
香の匂いがして心が温かくなる。

『はぁ。婚約者という私がいるのにお姫様は浮気ですか?』

そんな面白くもない冗談を言う
アルヴィンにムッとして
つい言い返してしまう。

『いっときの!一時期の婚約者でしょ!』

はいはい。そう言ってアルヴィンは
庭園で待ってるから急いでこいよ。と
執務室から出て行った。

『アルったらあんな冗談。少しも面白くないのに。』

消えたアルヴィンの背中に向かって
ユーフォリアはポツリと独り言をこぼした。


それからケルヴィンと手紙での
やりとりがはじまった。
隣国での出来事。食事や娯楽。
案外思っていたよりも隣国は繁栄していて
国の人たちもいいひとたちばかりだそう。
2ヶ月も経たないうちに
ケルヴィンは隣国が好きになったと
手紙に書かれていた。

たまにアルヴィンや国王様にも
手紙を書いているのに
アルヴィンからは一切返事がないらしく
リアから送れと説教しといて。
なんて書かれていた手紙は
アルヴィンと一緒に読んで笑いあった。


ケルヴィンがいなくなってから
幾度となく眠れない夜もあったけど
こうやって手紙のやり取りを
するたびに勇気がわいてくる。

手紙には甘い言葉は一つもない。
それはユーフォリアがアルヴィンと
婚約しているから。
手紙のやり取りをしていたとしても
昔の兄妹のようだと皆が思っているから
こうしてできるだけ。

だけど手紙が届くたび
ケルヴィンも同じ気持ちなんだって
信じていた。

元々ケルヴィンは面倒くさがりだ。

そんな彼がこうやって
頻繁に送ってくれるのは
まだ気持ちがあるからだと
ユーフォリアは思っている。

だから手紙が届くたびに
喜びと安堵でいっぱいになる。

そしてユーフォリアも間をおかずに
返事を書くようにしている。



しかしケルヴィンが留学に
旅立って1年が過ぎた頃から
頻繁に届いていた手紙が
2週間に1回。1ヶ月に1回と
徐々に回数が減っていき1年と半年が
過ぎた頃には手紙は1通も
届かなくなった。

その間もユーフォリアは
手紙を書き続けた。
はじめは返事を書いていたものが
いつのまにか一方通行になるなんて
思いもしなかった。

はじめは何か事件に巻き込まれたと思った。
それとも恐れていたことが起きたのかと
心配もした。

しかしたまに国王様やアルヴィンには
手紙が届いているらしいことを知ると
ユーフォリアは愕然とした。

手紙が来ないのはユーフォリアだけだった。

それがどんな意味なのか。
もうケルヴィンはユーフォリアのことを
忘れてしまったのか。
それとも何か送れない事情ができたのか。
いろんなことを考え不安になりながらも
ユーフォリアは手紙を書くたび
涙で滲まないように何度も
手の甲で拭いながら
丁寧に綺麗に返事がこない
手紙を書き続けた。
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