王太子殿下はTシャツを捲りたい。

平山美久

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第2章

その2

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学園の門前につき扉を開けて馬車から降りると
すでに学園についていた令嬢たちがリリアを見つけると
途端に色めきだった。
 
「リリア様!そのお髪すっごく素敵です!可愛いですわ!」
 
周囲にいた令嬢たちがリリアの周りに近寄ってくる。
 
(ツインテ―ルはどこの世界でも共通なのね。)
 
少し緊張していたが彼女たちの顔を見ると
嫌悪とか抱いているようには見えず
むしろ流行ものが大好きな女性特有の
新しいものに興味を惹かれている目に見える。
 
とりあえず内心でホッとする。
 
「うちの侍女と一緒に考えたの。素敵だったから皆様にも教えたいわ。」
 
 
ポニーテールほどではないが
男の人は揺れるものに興味を持つと聞く。
男性の反応はどうだろうと思い
チラリと周りの男性に視線を送ると
最初は頬に赤味も増すのだけど
途端に青ざめてすぐに視線を外される。
 
どうやらこの世界の男性は揺れるものには興味ないみたい。
ツインテ―ルは男性に不人気らしい。
少し納得がいかない。
 
ムッとしていると急に後ろに誰かいる気配がする。
振り返ってみるとすごく真後ろにアベルが立っていた。
 
夜会でダンスを踊るでもないのに
こんなに至近距離は記憶をたどる限り初めてだ。
「アベル様?…おはようございます」
 
訝しみながらも少し下がってから
11年で培った淑女の礼を
寸分の隙もないようにドレスの裾をつまみ
軽く腰を折った。
 
アベルはフッと笑ったかと思うと
目を少し細めておはようと言った。
 
「また奇抜な髪型だね。君には似合わないんじゃないのかな。」
 
一瞬呆気にとられる。
いつもにこやかに王太子然として爽やかなのに
今日のアベルはどこか言葉に棘がある。
 
(というかストレートに言われましたわ!)
 
どうしたのかとアベルをじっと見つめると
アベルはさらに笑みを見せて
 
「お願いだからその髪型は止めてほしいな。」
 
そういうとスタスタと学舎内に入っていく。
その姿勢は堂々としていて
本当の王子様が登場したかのように
見えない花弁が待っているみたい。
 
周りの令嬢たちは遠回しにうっとりとアベルが通るのを
見守っている。
 
だけどリリアにはその背中には真っ黒い悪魔の翼が一瞬見えた気がした。
 
今まで公式の場や身内だけで会う時はいつも
二言三言交わすだけだった。
それも“王太子様がいうであろう”言葉の返しだ。
いつもニコニコしていてユリアの件以外は
至極まっとうなそうな性格。
しかし興味のない事には極端に干渉しない。
それがリリアからみたアベルのイメージだった。
 
その興味がないところにリリアは入るのであろうと思う。
再開した初めのころはなんだかリリアを憎いと言うような目で
見ていたのだが
リリア自身アベルを心から追い出した時からかはわからないが
アベルもまたリリアに何の感情も見せなくなった。
 
 
だからリリアの前でも“王太子”をしているように見えた。
 
そう“しているように”。
 
(きっとさっきのが彼の本性なんだわ。前々から怪しいと思っていたのよね。)
 
彼の相まみえた黒い部分に少しゾッとしてから
少しだけツインテ―ルが恥ずかしくなり
結局、先生が来る前にピンで纏める形に変えてから
教室に入った。
 
アベルと一瞬目が合うと
これまた珍しく一瞬目が見開かれたと思うと
大きくため息をつかれた。
 
(な、なんなのよ!)
 
イラっとしながらも平然と自分の席について
何食わぬ顔で授業に取り組んだ。
 
 
 
 
 
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