王太子殿下はTシャツを捲りたい。

平山美久

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第2章

その3

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昼休み。
 
なんだか午前中ずっと後ろからの強い視線に加え
周りの男たちの顔が赤らんだり青ざめていたりと
妙にざわついていてとても疲れたように感じた。
 
少し一人になりたいなと思い
思考を巡らせたあと
そういえばと思いリリアは学園の図書館に向かった。
 
学園の歴史は、それはそれはとても長く
学舎を何度も修繕してはいるが
古いのには変わりはない。
学園内の図書館も例外にもれず古臭い。
修繕ももう何十年もされておらず
最新ものを好む貴族子息令嬢達には
最近新たに立て直された王都内にある図書館にこぞって通うので
この学園の図書館に通う人はあまりいない。
 
そう思いだしたためリリアは図書館の前にたつと
扉を開いた。
 
案の定、図書館は一人しかいなかった。
司書の人もすごく怠慢で滅多に準備室から出てこないので
 
実質やりたい放題だ。
 
(こっそりデートするならここよね)
 
と思うが古臭い故に匂いも少し若い彼らが気に入るようなものではない。
 
掃除をしてくれる学園の使用人たちも
あまり人が使わないので掃除も結構ひどい有様だ。
床の隅のほこりとか色々。
 
なのでリリアは今日からここを学園の拠点にする。
記憶を取り戻した自分からすれば多少のほこりや匂いなんて気にしない!
専門学校のマイロッカーや一人暮らしの汚部屋に比べればなんてことはない。
 
寧ろ紙やインクのにおいがして落ち着く感じだ。
 
(さっそく家庭科系の本棚を探さなくちゃ)
 
リリアは落ち着く場所を求めてここに来たが
来た理由にはもう一つある。
 
この世界の服飾関係について勉強しなおしたいと思ったからだ。
前世の記憶をもちつつも赤子から始めたので
勿論自由に歩けるわけもなく4年ほど待って屋敷にある本で片っ端から
勉強したわけだが記憶喪失になったことで
10年以上も歳月がたっている。
やはり日本よりも文明は劣るもののかなり色々進んでいるはずだ。
そう思ったからリリアはこの図書館で空いてる時間に勉強をし直そうと決めた。
 
「んー…あ!このあたりね。」
 
本棚前に項目が書かれていてひとつひとつゆっくり
見て回ると中ほどまで歩いて目的の場所を見つける。
 
「わ!けっこう種類豊富だ!」
 
ざっと本のタイトルを見たが高く長い本棚まるまる服飾関係のもので
驚いてしまう。
がそれも一瞬。
 
この学園に平民の方たちはいないものの
下級貴族の方がたがいる。
彼の多くは将来上級貴族や王宮で使用人として使えることが多い。
 
侍女となるにはいろいろなことができないと意味がないので
ハンカチの手直し一つのノウハウ本があるのは納得がいく。
 
リリアは大いに満足した。
 
元々学園で学ぶすべての勉学を習得している。
その中でこれから卒業までどうしようかと悩んでいたのだ。
この学園にいる間はここの本を存分に読ませてもらおう。
そう思うと自然と胸も弾んで
とりあえずと今読もうと思う本を探す。
 
(あれ?)
 
そうして本棚から1冊の本を取り出すと
読んだことはないはずなのに何故か夏かしいと言う気持ちにされる。
 
裏返してみたりタイトルを読んでみても
全く記憶にない。
パラパラとめくっても見たことはあるみたいだったが
記憶にはなかった。
 
(記憶喪失になる前に読んだものだから覚えてないのかしら?)
 
ううんとうねりながらパラパラとめくり続けると
ある挿絵が書かれたページにたどり着く。
その時少しだけ誰かと一緒に読んだ記憶がフワッと浮上してきた。
 
その直後ズキッと頭が痛くなりその浮上した記憶もまた沈んでしまった。
 
(きっとそのうち思い出すわ。)
 
そう思って特に今読みたい本でもなかったため本棚に戻した。
 
 
本を2.3冊取ると
周りに誰もいないのを確認してから
リリアはその場にしゃがみ込んだ。
 
(ナナには絶対秘密ね)
そう企み顔をしてから本棚に背を預けて手に取った本を読み始めた。
 
 
ゴーンと大きな鐘の音がなる。
奥ばったこんなところまで音が届くのだから
より近いところで聞くと耳がキンとするだろう。
 
リリアはまだ読み足りない気持ちになる。
せっかく集中しだしていいところだったのだ。
 
(このままサボる?)
 
そう頭が悪いほうに流されかけたが
いけないいけない。と思い本を1冊だけ残して
立ち上がった。
 
ドレスについたほこりをさっさと払ってリリアは図書館の扉に向かう。
 
すると入って手前にある大きな机に座っていたらしい彼もまた
立ち上がったみたいだった。
 
(そういえば入ってきたときそこで彼が本を読んでいたっけ)
 
図書館に入った時真っ先に彼と目が合った。
眼鏡と前髪に隠れていて目は全然見えず
いつも猫背でどこか印象の薄い彼。
こげ茶色の髪色がそれをさらに助長している。
 
リリアは真っ先に淑女の礼をしたが
彼はおどおどしたかと思えば小さい声で
どうも。と言ったきり再び本に目線を落としたみたいで
それから沈黙が続いたので
早々に彼への興味を無くして奥に進んだのだ。
 
彼の名前はエリック・ルトファン。
元隣国の大商会をしていた彼の父がで現王…アベルのお父様に
商会の手腕を認めてもらえて
こちらに移住してくるとともに男爵家の爵位を承った。
しかしそれも彼の父の代だけだ。
彼は貴族になったものの爵位は継げない。
 
エリックもまたリリアからすれば何考えているのか
全くわからない変わった人だと思う。
本当に影が薄いのか。それとも薄く見せているのか。
 
そんなエリックがリリアの気配に気づくと
慌てて首を垂れてリリアが先に出るのを待つようだった。
 
(気にしないで先に出ればいいのに。)
 
そうは思うもきっと先に出ていいと言っても彼はしないだろう。
諦めてそのまま扉に向かった。
 
「エリック様。ありがとう」
 
彼の横を通り過ぎる際お礼を言って図書館を後にした。
 
残されたエリックが驚いた顔でリリアの消える背中を
見ていたことをリリアは知らない。
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