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第2章
その8
しおりを挟むその日は珍しく王太子であるアベルから話しかけられた。
「リリア。明後日の放課後王宮に来て欲しいんだ。王妃が久しぶりに夕食を共にしたいと言っていて。」
王太子然とした乙女ゲーム鉄板の
キラキラ王子スマイルで言われる。
しかしその笑顔は本当に笑っているのだろうか?
「かしこまりました。ぜひお伺い致しますわ。」
教室で次の授業の準備をしていた
リリアは手を止めてアベルに向き合い
優美に笑って返事を返す。
ここは教室で相手は婚約者である王太子様。
(えぇ。ボロは出しませんわ。)
完璧淑女のお面を被り
アベルに対峙すれば、
アベルはそんなリリアをみて
一瞬なにかを言いかけるように
口を開きかけてから少しの後
口角を上げて
「明後日の放課後迎えにくるよ」
ニコリと微笑みその場を後にした。
リリアは別段気にもせずに
アベルを見送った後、
次の授業の準備を再開した。
アベルは
婚約者としての義務的な事柄に対して
素直に従う。
王様や王妃様が二人で一緒に。
と言えばアベルは必ずリリアを招待する。
それが大きな舞踏会の場でも
身内だけの食事でも。
ユリアという恋人がいても何か公の行事に関してはアベルは常にリリアを伴い
婚約者としての責務をそつなくこなしていく。
ただそこに親しさはない。
お互いに笑顔を振りまくだけで
ことが済むのだから、
本音など見せる必要もないのだと
リリアは思っていた。
-------
アベルは教室を出る際振り向いて
リリアの後姿を見つめていた。
何かを言いたそうに
じっとリリアを見るが
リリアは決して振り向きはしない。
しばらくしてふっと息を吐いてから
教室を後にした。
それをずっと見ていたエリックは
面白くなさそうに
厚いメガネのブリッジを中指で
クイっと上げたあと
せっせと準備をするリリアをこっそりと
眺めた。
-------
2日後の放課後
授業終了とともに迎えに来たアベルと
共に彼専用の馬車へと乗り込んだ。
馬車に乗る前には
手を差し出されてその手を取り
乗り込む。
どんな時でも紳士的なアベルには
正直リリアは戸惑ってしまう。
恋人というユリアがいるのに
彼は決してリリアを邪険にすることはない。
必要最低限の会話はなくても
彼がリリアを蔑ろにしたことなど
一度もないのだ。
だけど二人きりになると途端に
アベルは表情をなくしてしまう。
きっと外面だけはよく見せておきたい。
とかそういうことなんだろうと
リリアは思った。
(この人絶対腹黒よね。)
馬車の扉が閉められた瞬間から
アベルは一切こちらをみずに
窓の外ばかり眺めている。
リリアはなんだか少しだけムッとして
そんなアベルを睨んだけれど
何かを言うつもりもなかったので
さっさと諦めて同じように反対の窓の外を眺めた。
今日も綺麗な夕日だ。
こんな日は町に出ていろんな糸や生地を
みに行ってから
甘いスイーツを食べて
ナナと女子トークを楽しみたい。
こんなものを作るとかあんな風なデザインもいいとか
洋服について話したい。
王妃様とのお食事は勿論
有意義で楽しいけれど
婚約破棄を望んでる身としては
なんだか居た堪れないよね。
早くアベルにはユリアを選んでもらいたい。
そんなことを思っていれば
あっという間に王宮についてしまう。
王宮はこの王都一の大きいお城で
街を一望できてしまう。
白亜でできたお城は
まさに物語に出てくるように
素敵で煌びやかで何度もここにくるたび
身を引き締まる思いにさせてくれる。
またアベルのエスコートで馬車を
降りれば侍従たちが王太子の帰城に
恭しく腰折って出迎えてくれる。
王宮内に入ればすぐに王妃様付きの侍女がリリアを迎えてくれて
夕食に行く前の身支度のために
別室に連れていかれる。
ここでアベルとはしばらくのお別れだ。
お互いにニコリと微笑み合い
また後でとだけ言うと
リリアは侍女たちに従って
別室に向かった。
ただ、王妃様とアベルの三人での
夕食なのだが
そこは国のトップの人たちとの食事なので
湯あみから始まり
マッサージまで甲斐甲斐しくお世話になった後に
これから舞踏会ですか?というくらいに
丁寧に髪を編まれて
ドレスも最高級のものに着替えさせられる。
王妃様たちとの食事は
わりと頻繁にあって
毎度こうやって着飾るのだけど
その度に新しいドレスを渡される。
しかも、採寸した覚えはないのに
毎度私の身体にぴったりなので
その度に悩まされるのだ。
おそらくはうちのものが
王宮御用達の仕立て屋に情報を
渡しているのだろう。
そんなこんなで可愛いドレスに着替えてから
王妃様とアベルの三人での晩餐に向かった。
「まぁリリア!なんて素敵なの!」
部屋に入ると開口一番
王妃様は私をみて両手を組んで
うっとりする。
「王妃様この度はご夕食にご招待いただきありがとうございます。」
リリアはいつもと同じ
完璧なカーテシーを取った。
「堅苦しい挨拶は抜きよ!さぁいらっしゃい!」
「はい王妃様。」
すでに王妃様とアベルが
席に座って待っていたので
リリアは遅くなってしまったと
内心慌てつつも冷静に自分に当てられた
席へと向かう。
今日の席に王様はいない。
王様はサライア国の北の方を
視察に出かけているとのことなので
今日は三人なのだ。
だからリリアの斜め前に王妃様。
そしてリリアの前にアベルが座っている。
「久しぶりに会えて嬉しいわ。元気にしてたかしら?」
侍従の方に椅子を引いてもらってから
座るとさっそく王妃様は話しかけてくれる。
「はい!最近は特に楽しく過ごさせてもらってます。」
前世の記憶を取り戻して
ナナと夢に向かって前進してるし
エリックという友人もできた。
王妃様に聞かれて
最近とっても充実しているなと
リリアは改めて思った。
「リリアは最近何かにハマってるみたいで生き生きしてますよ。」
すかさずアベルも会話に入ってくる。
いつもならアベルは黙っているのだけど
今日に限って話してくることに
リリアは驚いた。
しかもリリアが何かにハマっている
ことを知っているのだ。
たしかに洋裁にハマっているけれど
それは家の中、あるいは図書館の中での
話で教室やアベルの前で話ことない
のにどうしてアベルは知ってるのだろうと訝しむ。
「まぁ!何にハマってるのかしら??」
王妃様はそれに食いついて
リリアに聞いてくる。
「え!?えっと、そうですね今刺繍にハマってまして。」
アベルの発言に訝しんでいたら
王妃様の質問に動揺してしまった。
咄嗟に刺繍だと言ってしまったけれど
まぁあながち間違いではないと
立て直す。
「あら?リリアはもともと刺繍が得意ではなかったかしら??」
はて?と首をこてんと傾げる王妃様。
この国の女性のトップなのに
お茶目で可愛らしく
とっても親しみやすい。
「えっと、最近また再燃してしまって。刺繍は奥が深くて飽きませんわ」
オホホ。と笑いながらも
背中には冷や汗が流れる。
貴族の子女が洋裁にハマってるのは
あまり聞こえが良くない。
変わった趣味の持ち主だと
思われるの嫌だ。
「今度僕にもリリアの腕前を見せてね。」
目の前に座っているアベルが
いつものように微笑みながら言ってくる。
だけどいつもはニコリと笑うだけなのに
今日は珍しく話してくるのが
なんともリリアには不可解で
ならなかった。
(今日のアベルはやけに話してくるわね。)
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