王太子殿下はTシャツを捲りたい。

平山美久

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第2章

その7

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「リリアさ…リリア、ドレスの進み具合はどうですか??」

相変わらずエリックは呼び捨てに
慣れてないらしく
いつも"さ"まで言いかけて改める。
敬語はもう癖みたいなものだから
そこはリリアも諦めたらしく
突っ込むこともやめた。

「ドレス?…あ、あードレスね!ドレス!そうねお目当の生地は全然見つからないけど代用で考えてるわ!」

ドレスと言われて最初
頭にハテナが浮かびキョトンとしていた
リリアだけどハッとして慌てて適当に誤魔化す。

咄嗟にドレスと言ったけれども
Tシャツとドレスは全く別物だ。
ゆくゆくはドレスにも手をつけたいけれど
今はとりあえずTシャツをつくりたい。

そもそも現世でドレスを着る機会なんて
全くと言っていいほどないのだ。
将来は結婚するときに自分で
ウエディングドレスを作りたいなって
夢はあったものの半ばで
こっちの世界に来たわけで。

今でこそ普通に令嬢として
ドレスを着てはいるものの
現世ではドレス=ウエディングドレスだ。

Tシャツのパターンから仕上げまでは
わかっていても
ドレスの裁縫に関しては
全くと言って無知である。

そういうことで、ドレスの仕立てを
早急に勉強しないとなと思うリリアであった。

「ところでリリアは王太子様とはどうなんですか??」

これ以上ドレスのことを聞かれると
ボロが出そうになっていたところに
違う質問をされてリリアは安心する。

しかしその質問が自分と婚約者である
アベルとのことだと理解すると
なぜいきなりその質問をしてきたのかと
訝しみながらエリックを見た。

厚い眼鏡の奥にある瞳は見えづらく
じっとリリアを見るだけでそれ以上は
言ってこない。意図がわからず困惑する。

仕方なくリリアはうーん。と唸りながら
アベルのことについて考えてみる。

アベルとは確かに王様の命令で
幼い頃から婚約者として
行事があるたびに顔をあわせて
一言二言交わすけれど
あまり彼のことはよく知らない。

踏み込んだ会話なんてしたことない。

おそらくあの日、図書館で再会した時が
一番多く話したのではないだろうか。

それくらい彼とは接してこなかった。

遠巻きに見てるだけの皆んなと
同じでリリアもアベルのことを
いつも王子様然として
微笑んでるくらいの印象である。


「うーん。別に特に親しくないかな?」

「よく舞踏会でご一緒されてるのにですか?」

「うん。挨拶とか一言二言交わすだけはするけれど、私自身彼のことはよく知らないわ。…なんていうかちょっと彼怖いのよね。」

「怖い?」

アベルは王族特有の
鼻にかけるような傲慢な俺様!っていうのは一切なくて
誰からみても物腰柔らかくて
誰にも優しく微笑みが絶えない。
それこそ物語に出てくる王子様だ。

だけど

「なんかいつも笑っているけど本当は全然笑ってないんじゃないかって思うの。」

実際リリアに対しても幼い頃に
聞いた罵倒以来、
和かに微笑んでくれるけれど
それだけだ。

それ以上詮索せず詮索させず
ただ笑って流している。
そんな気がする。

実際その笑顔の下に何を隠しているの?

と何度も問いかけそうになったことを
おもいだす。

しばらく黙っていたエリックは
きっと…と前置きを置いてから

「王太子だから皆の期待に応え本音を隠していつも凛としていないといけないんじゃないでしょうか。」

エリックは机に置かれた
自分の手を見つめながら言った。
それはアベルに対して言っているはずなのに
リリアはなぜかエリック自身のことを
言っているように聞こえた。

エリックは確か大商会である
ルトファン家の子息だ。

数年前に遠い国から取引に来た
ルトファン商会を王様が大層気に入って
サライラ国の永住権と
一代限りの男爵という爵位を授けたって
聞いている。

何か商家の子息であることと
王太子であるアベルと共通点でも
あるのだろうかと殊更訝しむリリアであった。




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