王太子殿下はTシャツを捲りたい。

平山美久

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第3章

その14

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周りの令嬢達の変わりようや
尚も睨み合うエリックとクラスメイトに
リリアはどうしたものかと困りかけていた時
扉の方からアベルが姿を現した。

ざわめきの中でもはっきりと聞こえた
アベルの声は人々の上に立つものにふさわしい
声音でみながアベルの立つ扉の方に向く。

リリアもアベルの登場に少なからず驚いていた。
それはアベルが言った言葉に耳を疑ったからだ。

“私の婚約者のリリア”


今まで周りやまして自分だけの時でさえ
婚約者だと言われたことはないし何より
必要最低限接することはないのだから。

それともリリアがはじめてクラスメイトと対峙したことで
アベルもはじめてそういう風に言ったのだろうか。

リリアが目を丸くしてアベルから
視線を逸らせないでいると
アベルは颯爽とこちらにやってくる。

リリアの前までくるとごく自然に
腰を抱いてニコリと微笑む。

それまでエリックで騒ぎ立てていた
令嬢達は今度はアベルの微笑みに
浮き足立つ。

そんな中突然のアベルの行動にリリアは
パニックになりかけている。


(待って!え!待って!アベル!?え!?)

アベルの行動にリリアは口を開いては何かを言いかけるが
いきなりの事で言葉が出てこない。

そんなリリアをフッと鼻で笑った後
目線をエリックとクラスメイトの方に向ける。

「私の婚約者のことで何か誤解させたようだが
 君たちが思っているような間柄ではない。これ以上
リリアのことで揉めるのであれば私は許しはしないが?」

未だにプチパニックになっているリリアは
自分が顔を赤くしていることも
アベルがすごい視線をクラスメイトに投げかけていることも知らない。

言われたクラスメイトはアベルの機嫌が最高潮に
悪いのを瞬時に察した。
鋭い目線は今にも刺殺さんとしている。

震え始める自身の体を抱えるにしたいのもやまやま
クラスメイトはアベルに謝罪した。

「も、申し訳ありませ、ん!」

アベルは謝罪に対して何も返すことはなかった。
アベルの視線は震え上がっているクラスメイトから
エリックへと向ける。

エリックはクラスメイトと違い
まっすぐにアベルを視線を受け止めている。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

しばらく睨み合ったのち
エリックの方から視線を外し
佇まいを正してから腰を折りアベルに謝罪する。

「申し訳ございませんでした。」

プチパニックになっていたリリアは
エリックの声で正気に戻り
慌ててアベルに向かって言う。

「エリックはなんにも悪くないわ!彼は絡まれただけなんだから!」

必死にエリックの弁解をしようとする縋り付くリリアに
アベルの片眉がぴくりと動く。

「・・・エリック・・・。」

ボソリと何か呟いたかと思えば
リリアの細い腰をグイとより寄せて
ニコリと微笑む。

「うん。とりあえずリリアは一緒に来てもらおうか。」

どこに?と問おうとしたリリアに
アベルは更に笑みを深くする。

その笑顔に何故か身震いしたリリアは大人しく
アベルについていくことにした。

「わ、わかったわ」

みんながいる前でアベルはリリアの腰をだきながら
教室を後にする。

突然のアベルの急接近で頭がこんがらがってしまう。
鐘が鳴り始業の時間になろうと
アベルの足は止まることはなかった。

チラリと横を歩くアベルを見やる。

今まで必要最低限でしか話してこなかったし
お互いに何かあっても存ぜぬでやり過ごしてきた。
皆がリリア達二人は親が決めた政略結婚の象徴であると。
だからアベルからはリリアを婚約者だと周りに
断言せず、恋人も堂々と作っている。
それに対してリリアも何も言わないから
本当に冷め切っている二人なのだと誰もが噂していた。

リリア自身もそう思っていた。
アベルとは親が決めた政略結婚だからこそ
いずれはアベルが本当に好きな人と結婚したらいいって。
だからこそ自分はいつでも婚約破棄してくれていいと
何度も思ったし何度も彼に言ってきた。

それがさっきはっきりとアベルは言った。

(私の婚約者のリリア…)

胸がトクトクと静かに鳴っていく。

(どうしてだか…なんがか嬉しいかも…)

歩きながら胸元にそっと手を添える。

仮にあの場を宥める為に言ったのだとしても
リリアはちょっとだけ嬉しい気持ちになった。


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