5 / 8
「命」
あれから数ヶ月が過ぎた。
「お腹……大きくなってきましたね」
鏡に映る自分の姿に驚きながら呟く。
蛇神との子を宿した証である腹部は、人間の妊娠とは明らかに異なる変化を見せていた。
普通なら少しずつ膨らんでいくはずの腹が、月の満ち欠けに呼応するように成長しているのだ。
「よいよい、今日は龍脈が強い日だからな、健やかに成長せよ」
背後から抱きしめてくる蛇神の声が温かい。
彼は常に私を後ろから包み込むように過ごすようになった。
「この子も龍脈を感じ取っているのでしょうね」
自分の胎内で確かに鼓動する存在を感じながら答えると彼は嬉しそうに頷いた。
「そうだとも。我らの子は特別な存在になるであろう」
優しくお腹を撫でてくれる手つきは壊れ物を扱うかのように慎重で慈しみに溢れている。
ある夜のことだった。
「…そろそろ、産まれるかもしれません」
予兆ともいえる胎内の動きを感じ取り告げると蛇神は緊張した面持ちになる。
彼自身初めての経験であり未知への不安があるようだ。
「大丈夫ですよ。貴方との子ならきっと丈夫ですから」
微笑みかけると彼は複雑な表情を見せた後小さく息をつく。
「そうだな。お主を信じて待とう」
深夜を過ぎた頃だったろうか。
急激な陣痛が始まり身体中が熱くなる。
「うぐ……ッ」
苦悶の声を上げると即座に駆け寄ってきた彼が支えてくれた。
「落ち着け。深呼吸をするんだ」
言われた通りにすると少し楽になった気がした。
しかし痛みは治まらず次第に強まってくるばかりだった。
「ああ……うぅ来る!」
本能的に理解した瞬間体内から強い波動が放たれ辺り一帯を明るく照らし出した。
眩い光と共に現れたのは―――
「……蛇!?」
予想外の姿に驚愕しつつもすぐにそれが我が子だと気づく。
銀色に輝く鱗を持つ小さな蛇が一生懸命にもがき出てきたのだ。
「あぁよくやったぞ!我が愛しい者達よ!!」
興奮した様子で叫ぶ蛇神を見て自然と笑みがこぼれる。
こうして我々夫婦の間に一人の子供が誕生したのである
「よくやってくれた……本当に素晴らしいぞ」
私の腕の中で眠る小さな命を見つめる蛇神の瞳には、嘘偽りのない喜びが溢れていた。
だがその眼差しの奥に潜む別の感情を、当時の私は知る由もなかった。
「お前の力強さに感動した。これで我らの一族はさらに繁栄すること間違いない」
優しく頭を撫でられると自然と笑みが零れる。
愛する夫と我が子に囲まれたこの上なく幸福な時間。
まさかこれが全て計算尽くされていたとは……夢にも思わなかった
あなたにおすすめの小説
日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。
そんな彼に見事に捕まる主人公。
そんなお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました
ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
憐れな妻は龍の夫から逃れられない
向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。