花葬館-ラナンキュラスの檻-(カーネーション)

ねころび天青

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『献身的ルート』

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 まだ朝とは言い難い、蒼白い光がカーテン越しに差し込んでいる。

 シーツのなかでまどろむあなたの髪を、誰かの細い指が梳いていた。
 指先はまるで祈りを捧げるように静かで、微かな震えを含んでいる。触れるたび、祈るように。

「お目覚めにはまだ早いかと存じておりましたが……やはり、わたくしの手は少々、不器用でしょうか?」

 柔らかな囁き声。
 声の主は――白いカーネーションの侍女頭。純白のドレスに身を包み、伏し目がちに微笑んでいる。

「……わたくし、ずっと見ていたんですよ。お嬢様が微かに息を漏らすたび、心臓が跳ねて――あぁ、今日も生きてくださっている、と……」

 彼女の両手は冷たいが、その奥には凍てついた忠誠ではなく、燃え尽きそうなほど一途な熱が灯っていた。

「ねぇ、白いカーネーション……」

 あなたが目を細めてそう呼ぶと、彼女は膝をついて、手を取る。
 指の背に唇を寄せて、まるで聖女のように言った。

「どうか今日も、私に“お嬢様の一日”を使わせてくださいませ。私の命を、お嬢様のためだけに――」

 彼女の言葉に、嘘はない。
 この館で“花の名を持つ者たち”があなたをどう扱おうとも、この侍女頭だけはいつも静かに、その影のように付き従っている。
 命じられずとも、命令されることを望んでいる。

 そう、彼女は――

「わたくしは、お嬢様に触れるだけで、すべて報われてしまうのです。…どんな日であっても。たとえ、お嬢様がわたくしのことを忘れてしまう未来が来ようとも」

 あなたが何も言わなくても、彼女は微笑み続ける。
 あなたの沈黙すら、祝福と捉えるのだ。

「ですから……どうか、今日も“わがまま”を仰ってくださいませ。
 お嬢様の願いを叶えるために、わたくしがここにいるのですから」

 そして、あなたが「……じゃあ」と口を開くと――

 彼女は目を細めて、少しだけ笑った。

「はい。何なりと。たとえそれが、花にとって枯れる選択であっても。
 お嬢様の願いを叶えるのなら、わたくしは喜んで朽ち果てましょう」

 まるで祈りのように――
 白いカーネーションの朝は、こうして始まる。
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