花葬館-ラナンキュラスの檻-(カーネーション)

ねころび天青

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『カーネーションの檻』

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「……でも、自由になりたい」

 ぽつりと漏れた、ひび割れたような声。
 柔らかな灯の下で、あなたは震える指先をカーネーションの花弁に添えた。
 それはまるで、雪のように白い。…いや、違う。これは血を抜かれた皮膚のように白い。

「自由……? それはまたどうして?」

 白いカーネーションは、優しい声音のまま問いかけた。
 ひとつ、ふたつ、足音もなく近づく。まるで音が死んだ世界の中で、彼女だけが生きているかのように。

「ここにいれば、痛いことも、怖いこともないのでしょう? みんなお嬢様を愛していますのに……」

 頬に触れる指は、どこか乾いていた。まるで剥製のような、ぴたりとした体温。
 その掌から、どろりとした冷たいものが滴り落ちる。…血? それとも、腐った蜜?

「わたくしは、お嬢様の幸せだけを願ってるのよ」

 そう囁いた唇が近づいた瞬間、あなたは振り払った。
 背を向けて、扉へ。出口へ。息を殺しながら、逃げ道を探す。

 でも……。

「そう…逃げるのですね?」

 白いカーネーションの声が、まるで甘やかな毒針のように刺さる。

「そうやって、わたくしの“愛”を踏みにじるのですね…」

 次の瞬間、館の壁が軋み、床に血のような水がにじみ始めた。
 廊下に咲く花たちがゆっくりとこちらに顔を向ける。いや、花弁の内側から覗いてる“目”が、あなたを追っている。

 白いカーネーションの笑顔が割れた。

「自由になりたい? ふふ、じゃあ、そうね――」

「貴女の“意志”を根ごと摘み取れば、永遠に迷わずに済むわね♡」

 手ではない。
 彼女のドレスの袖から伸びてきたのは、無数の白く変色した根だった。
 それらは這うように、舐めるようにあなたの足に巻きつく。ひんやりとして、湿った土の匂い。
 抵抗しようとしても、声にならない。根が喉を撫でるたび、吐息すら封じられていく。

「大丈夫……大丈夫よ……。愛してるから。貴女のすべてを、私が持っていてあげる……」

 逃げたい。叫びたい。忘れたい。
 でも、身体はもう、動かなかった。
 花々が咲く館の奥――その地下で、あなたの心は静かに封じられる。

 それが、白いカーネーションの「愛」。
 それが、少女の「自由」の代償。

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