異世界わんこ

洋里

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第二章

魔法バッグ

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 とりあえず、宿にもうひと部屋取るためにも、一度、街に入り直しをしようという事になる。
 そこで、わたしが魔法バッグの中にもどる、という段階で、
「マナ、魔法バッグの中に入れるなんて、魔力が相当大きいんだね。 中がどうなってるのか見せてよ」
と、フレッドが言いだした。
 フレッド、と言うのは、フレデリック王子の愛称で、わたしが王子様と呼んでいたら、
「王子様はやめて、フレッドって呼んで」
と、言われたのだ。
「暗殺で命を狙われてるから、やっぱり、王子様はまずいからね」
と。
 そのフレッドが、ニコニコしながら魔法バッグが開くのを待っている。
 うーん、あの異空間を見せるの?
 しかも今、一戸建てとかも入っちゃってるのに?
 人が入っていられるのですら、珍らしがられてるのだから、いかに非常識な状態なのか、とは察せられる。
 見せてもいいものなのかしら。
 困っていると、フレッドがさらに言いつのる、
「マナ、これから当分は、一緒に命を懸けた冒険の旅をする仲間なんだから、お互いの魔力量や、魔法バッグの容量くらいは、把握し合っていた方がいいと思うんだ。 僕達を信用できない?」
「いえ、そういう訳では……。 あの、わたしの魔法バッグの中、今、かなり非常識な事になっていまして」
「いいよ、何でも受け入れるから。 そんなに警戒しないで?」
「あの、では、みんなで一緒に入りますか?」
「いいの? わぁ、嬉しいな。 ぜひお願いするよ」
 そうして犬達と男性2人を、順にバッグに入れていく。
 最後に私が中に入ると、セイさんは呆然としているし、フレッドは笑いこけていた。
「マナ、君やっぱり凄いね! まさか、魔法バッグに家が入っているとは」
「……しかも、この広い空間、どこまで続いているんだ」
 あぁ、やっぱり。
 ここまで見せたのだから、もう仕方ない。
「おふたりとも、家の中に入られますか? 飲み物くらいは、お出ししますけれど」
 そう言って、玄関を開けて招き入れる。
「へぇ、なかなかいい家だね」
と、フレッドは感心したように言いながら、2人とも素直についてくる。
 リビングのソファに腰かけてもらい、台所でジンジャーエールをカップに注ぐ。
 生活魔法で少し冷やしてから、テーブルに運んでお出しする。
「アウラで、家具付きで手に入れたんですけれど、まだ、食器などは少ししかなくて。 グラスは買っていないので、マグカップですいません」
「いやいや、十分だよ。 いただきます」
 フレッドは興味深げに眺めながらも、ジンジャーエールに口をつける。
「本当に、君はおもしろいね、マナ。 アウラで、そんな事をしてたんだ」
「はぁ、農作業と引き換えでしたけど」
「ふっ、農作業までしてきたの?」
「はい。 家の持ち主のおじいさんと交渉をしていたら、なぜかそういう事になりまして」
「ははははは、本当に、面白い」
 フレッドは、既に涙目で笑っている。
「しかし、これなら、魔法バッグの中で、普通に生活できてしまいますね」
 それまで黙っていたセイさんが、口を開く。
「あー、それがそうでもなくて、お水が出ないんですよね。 だから、お風呂やシャワーはあるんですが使えないんです」
「えー、そうなの? それは不便だなぁ。 じゃあ、その辺の対策も考えようか」
 フレッドは、楽しそうに続ける。
「何とかなりますか?」
「うん、多分ね。 大きな貯水槽を買って、水源と繋げばいいんだよ。 そういう魔道具として細工して、水源地まで持って行ければ、余裕で出来ると思う」
「それは助かります」
「あ、どうせならさ。 貯水槽2個買って、片方は、これから行くロック山脈の温泉と繋いじゃえばいいんじゃないかな? お風呂がいつでも温泉になるよ」
 お風呂がいつでも温泉……、なんて魅惑的な響きだろう。
「最高ですね」
「普通は、かなり大規模な事になるけど、マナのこの魔法バッグなら、全然 余裕で出来るもんね。 あとで業者を探してみよう」
「はい! あ、でもそういうのって、かなりお高いのでは?」
「大丈夫だよ、僕が持つから」
「いえ、そういう訳にはいきません。 わたしの持ち物になるんですから」
「えー、僕達にも、温泉のお風呂使わせてくれないの?」
「そ、それは旅先では使っていただいても、構いませんけれど」
「じゃあ、その使用料の前払いって事で」
「え、そんな事で、お金をとったりはしませんけど」
「じゃあさ、僕達にも、この家の部屋をそれぞれに貸してよ。 そしたら、賃料は発生するでしょ?」
「なるほど」
 2階の部屋は、丸々余っている状態だから、2部屋をおふたりに貸すのはやぶさかではない。
「そしたら、旅の野宿するような場面でも、ここで、ゆっくり寝られるでしょう」
「分かりました。 では、それぞれの部屋に取り付ける、鍵も買いましょう」
「え? 鍵? 僕は別にいらないけどなぁ」
「いえ、男女がひとつ屋根の下になるのは、あまりよろしくないので。 せめて、きちんと鍵は閉められるようにします。 これは、絶対条件です」
「はいはい。 マナは、結構しっかりしてるよね」
「あ、では、今夜の宿も、マナさんには必要ないのでは?」
と、セイさん。
「いえ、それはちゃんと、料金を支払ってお部屋を借ります。 バッグだけ置いて、タダで泊まるみたいなのは、何となく嫌なので」
「なるほど」
「じゃあ、早速だけど、僕達が借りる部屋を見せてもらってもいい?」
「はい、どうぞ。 2階の3部屋の内、お好きな部屋を選んでください」
 そう言って、2階に案内する。
 選ぶと言っても、どの部屋も同じ間取りなので、変わりばえはしないのだが。
 中の家具が、青系で統一されている部屋、同じく水色、パステルグリーン、と、家具の色合いが違っているだけだ。
「へえ、ベッドやクローゼットもあるし、すぐに使える状態だね」
「ええ、元は子供部屋にするつもりだったようで、成長しても使えるようになのか、大人仕様の家具が入れてありますね」
「僕は、こっちの水色の家具の部屋にするよ」
「では、俺は、こちらの青い部屋で」
「マナは、パステルグリーン?」
「いいえ。 わたしは、1階にもう一部屋ありますので、そちらを使います」
 にっこり笑顔で答えると、フレッドは、あからさまに残念そうな顔になる。
「なんだ、つまらないなぁ」
「つまる、つまらないじゃありません。 こちらにシャワー室があって、こちらがトイレです」
「ふうーん。 あ、ねぇ、トイレは、どこかに繋げてあるの?」
「そちらは、大丈夫です」
「そっか、よかった」
 何だか、どんどんフレッドの印象が、子供っぽくなっている気がするのは気のせいだろうか。
 やっぱり、元が王子様だから、ちょっと我儘わがままだったり、天真てんしん爛漫らんまんな感じだったりするのかな。
「あと、ここは、あくまでもわたしの魔法バッグの中なので、出入りがおふたりの自由にはなりません。 わたしが、出し入れする形になりますので」
「じゃあ、その辺が余裕でできる状態でない限り、使い放題って訳にはいかないね」
「そういう事になります」
「ま、それでも、ダンジョンに潜った時なんかは、かなり助かると思うよ。 あとで、この家に必要なものも買おうね、まずはグラスとかさ」
「そうですね」

 さらに、地下の倉庫2部屋も案内しておく。 
 片方は食料を置いていて、もう片方には水のタンクを置いていた。
「ねぇ、マナ。 これだけ食材があるって事は、もしかしてマナは料理ができるのかな?」
「はい? まぁ、人並みにはできますが」
 そう言ったとたん、フレッドに、ギュッ、と両手を握りしめられる。
「ぜひ、食べさせて!」
 ただでさえキラキラしているアクアマリンの瞳が、さらに輝いているように見える。
「は、はい。 今度、機会がありましたら……」
 りょ、料理をするのは構わないので、その手をまず離していただきたいです。
 いちいちドキドキするので、本当に困る。
 赤面して、はわはわしていると、そっと隣から手が伸びて、セイさんがフレッドの手を外してくれた。
「フレッド、さわりすぎです」
「えぇー、コミュニケーションだよ」
 ふくれるフレッドを意に介さず、セイさんは、わたしに向き直る。
「マナさん」
「はい」
 セイさんが、真面目な改まった表情で言う。
「俺は、肉じゃがをお願いしたいです」
「はい、いいですよ」
 そういえば、セイさんは、いつごろ日本から、こちらに来たのだろう。
 ある程度、似たものはあるとはいえ、そりゃあ日本食も恋しくなるよね。
「そういえば、ハンブルでカレー粉も手に入れたので、よければカレーライスも作れますよ」
「本当ですか!」
「はい。 今度、ご馳走しますね」
「あ、ありがとうございます」
 セイさん、ちょっと涙目かも。
「ただ、コンロと換気の問題があるので、いますぐって訳にはいきませんけど」
「どんな問題?」
 セイさんに手を外されてから、むくれていたフレッドが興味を示す。
「単純にコンロがないのと、換気を、できれば外にしたいっていうだけです。 何となく、バッグの中に臭いがついちゃいそうなのが抵抗あるので」
「じゃあコンロを買って、換気も外と繋げる魔道具化したのがいいね。 だったら、台所の大きな換気は、まぁどこでもいいだろうけど。 部屋の換気口を、雪山とか南の暖かい所に繋いだやつを用意すれば、冷房・暖房として機能しそうだよね」
「暑い季節に、雪山の寒気が吹き込む換気口ですか、面白いかもしれませんね」
 セイさんも乗り気だ。
 なんだかこの家、どんどん魔改造されてしまう感じだなぁ。
「えーと、では取りあえず、街への入り直しをして、それから買い物という事でいいですか?」
「ああ! そうだね、夢中になって忘れていたよ。 じゃ、一旦出ようか」
 そうして家から出ると、フレッドとセイさんに、魔法バッグから出てもらう。
 セイさんに運んでもらって、一度、街の入り口の関所を出てから、わたしと犬達もバッグから出て、改めてロレンツォの街へ到着だ。

 入り口の関所を無事に通ると、フレッドが小さな男の子に、小銭をあげながら何か言い付けていた。
「どうしたんですか?」
と、聞くと、にっこり笑顔で、
「あぁ、マナが見つかって、こうして合流できたからね、ギルドや街中の宿に、見つかりましたって言いに行ってもらったんだ」
「あー、なるほど」
「本当、僕達の金の髪の乙女は、手こずらせてくれたから」
 そう言って、わたしの右手を、ひょいっとすくい上げるように持って、口元に近付ける、
「それは……、すみませんでした」
「でも、こうして無事に会えて、仲間になってくれたんだから、苦労の甲斐があったというものだよ。 改めてよろしくね、マナ」
と、チュッと音を立てて、指先に軽く口づけた。
「よろしくお願いします、マナさん」
 セイさんもこちらに向き直って、フレッドの手から、わたしの指先を開放しながら、言ってくれる。
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
 指先のキスに戸惑いながらも、そう答える。
 こうしてわたしは、異世界で、冒険の旅に出る事になったのだった。
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