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第二章
ゴーレムゴーレム
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拝啓
天国のおばあちゃんへ
わたしは今、雪山の中のダンジョンで、犬達と一緒に沢山のゴーレムを倒しています。
「マナ! 一歩遅い! ハクが、囮になってくれたんだから、そこでヘッド叩いて、昏倒させなきゃ」
「はい、そこで後頭部打撃! 一撃で沈まないなら、畳み込んでもう一撃!」
「かわして かわして、そこから下顎突き上げろ!」
あの、指先キスの挨拶のあと、必要な物資を色々と買い込んで、さっそくロック山脈へとやってきたのだが、山越えダンジョンを踏破しないと、温泉に辿り着けないなんて聞いてないよ?
しかも、
「今回は “ファリニシュ・ファミリア” のレベリングが第一目標だから、マナ、頑張ってね」
と、基本、フレッドもセイさんも手伝ってくれないのだ。
後方で、ココの魔法防壁内から、鬼コーチよろしくフレッドの指導が入るけど、ほぼ戦っているのは、わたしとハクだけ。
しかし、ロックゴーレムは岩で出来ているので、牙や爪が武器のハクはトドメが刺せない。
結果、左右に激しく動いて牽制しつつ囮になったり、のしかかって動きを封じたり、足元に体当たりして転ばせたりのサポートをしてくれるが、決定打はわたしの役目になっていた。
そしてミルクはというと、セイさんの肩の上から離れようとしない。
ここに来る行程で、馬に騎乗したセイさんの肩に乗ってから、ずっとそこが定位置のように居座ってしまっている。
ココ曰く
(肩が広くて、居心地がいいんだって)
との事。
ココは、後方と、わたしやハクの攻撃組に魔法防壁をかけてくれているが、やはり主に見ている状態。
まぁ、それはいいとして、男性陣、ココの魔法防壁内で、くつろいでお茶とか飲みながら観戦って、ちょっと酷くないかな?
もう3階層分、軽く40体はゴーレムばかり倒し続けているので、見ているだけでは飽きるのかもしれないけど。
「マナ、もうすぐ安全地帯だから、がんばっていこう」
ううっ、はい、わかりましたよ。
それから更に3体ほどのゴーレムを倒して、ようやく3階層の安全地帯へと入る。
やっと、わたしもお茶が飲めるよ、動きっぱなしで喉がからから。
「マナさん、どうぞ」
セイさんが、淹れたての熱い紅茶を差し出してくれる。
動いてはいるが、極寒の雪山ダンジョンなので、温かい飲み物の方がありがたい。
「ありがとうー」
ふうふう息を吹きかけて、冷ましながらお茶を飲んでいると、
「マナは、だんだんかたちになってきたね、元のセンスがいいのかな」
と、鬼コーチ、もといフレッドが褒めてくれる。
「そう、ですか?」
「うん。 ただ、まだハクとの連携が上手く活かせてないのが惜しいよね。 そこが、無理なく流れよく動けるようになれば、もう少し、効率的に倒せるようになるよ」
「そうですね、がんばります」
「うん、がんばって。 そのお茶飲んだら、ドロップ品の引き寄せの練習ね」
「う」
そうなのだ、補助魔法には、魔力のこもっている状態のドロップ品を引き寄せるというのがあって、一階層ごとにゴーレムを倒しまくっては、安全地帯に入って、ドロップ品を引き寄せるという流れできているのだ。
当然、フレッドもセイさんも手伝ってはくれず、目の前にドロップ品が落ちても、拾わずに次のゴーレム退治なのである。
ドロップ品は、ロックゴーレムというだけあって、ほぼ鉱石だった。
銅鉱石、鉄鉱石、銀鉱石、金鉱石、全てわたしの魔法バッグ行きになっている。
そして、ダンジョンなので、たまに宝箱が一緒に引き寄せられてくる事があるのだが、それの罠のあるなし、罠があったら解除、宝箱の鍵の開錠まで、全て私なのだ。
宝箱からは今のところ、カラーサファイヤの魔宝石が、3個出ていた。
ホワイト・ブルー・ピンクのサファイヤの原石だ。
戦っては引き寄せ、更に宝箱の処理、と、もう、なんとかブートキャンプ状態である。
もちろん、他の冒険者がいる場合は、そんな事はしていられないのだが、誰もいないのよね、ほぼ貸し切り状態。
これが冬の時期なら、ダンジョンに入らなくてもロープウェイが稼働していて、割と快適に、温泉まで行けるのだそうだけど、あいにく今は、夏に向けての温泉閑散期なので、ロープウェイはお休み中なのだそう。
逆に夏真っ盛りなら、避暑の為に、ダンジョンに潜る冒険者も多くなるそうだけど、正に今がぽっかりと空いてる、ダンジョンも閑散期らしい。
「そういう意味でも、レベリングには最適でしょ」
と、最後に音符マークでも付いていそうなお気楽さで、フレッドにニッコリされたが、本当、聞いてないよ。
ロレンツォの街では、まず武器屋に行って、わたし用のハンマーを見繕う事になった。
今回、相手にするのがロックゴーレムだという事で、取りあえず “アイアンハンマー” を選んでもらう。
これは、ほぼ家庭用のカナヅチの大きいバージョンで、違うのは持ち手まで鉄製な所。
ただ、持ちやすいように、持ち手部分にぐるりと革が巻いてある。
かなり重量があるので、本来なら、屈強な筋肉質の男性冒険者向きなのだろうが、棚からヒョイっと持っていったわたしに、武器屋の店員のおじさんは、かなりびっくりしていたようだ。
次に水道の施設に行って、魔道具として細工した貯水槽を、貯水湖に接続、それを魔法バッグにしまってから、家の水道に繋げてもらった。
シャワーは、温度調整ができるので、そのまま水道の方に繋ぐ。
お風呂の浴槽への蛇口だけ、温泉の貯水槽に繋ぐそう。
あとは、ロック山脈に来る道すがら、風がびゅうびゅう吹き荒れている山道の脇で、
「マナ、換気ここに繋ぐから、家、出して」
と言われ、家を丸ごと外に出して、換気扇を繋いでもらった。
「ここなら、年中風が吹き荒れてるから、換気で流したニオイなんて、あっという間に吹き飛ぶよ」
との事だったが、やっぱり、家をバッグから出したり入れたりは、かなりシュールな光景なので、なるべく控えたいものだ。
あとは、部屋ごとに取り付ける換気口は、魔道具として細工だけしてもらって、10個ほど購入してきた。
店の人に、どうするのか聞かれたので、雪山に接続して夏の暑い時期に使う、と説明すると、
「それは面白いな。 なぁ、これ1箱全部に細工するから、一緒にやってきてくれねぇか?」
と言われたのだが、あいにく、ロレンツォには、今度いつ来られるか分からないから、と断ってきた。
もしかしたら、このやり方が、ロレンツォでこれから流行るかもしれない。
人用と犬達用の防寒着なども購入して、その日の夜は宿に一泊、翌日は早朝から出発したのだが、本来なら3日ほどはかかる行程を、1日で来てしまった。
それは、フレッドの得意技 “回復ブースト” のお陰だった。
フレッドは、魔法能力がマルチにあるそうで、回復魔法と補助魔法のブーストを混ぜ込んで使うのだそう。
すると、普通のブーストだけをかけるよりも、体への負担なくソフトになるので、ブーストできる回数も増えるのだという。
ココに確認すると
(普通のだと5回くらいが限界だけど、そのやり方だと、15回はかけて平気)
だそうなので、3倍も多くできることになる。
わたし達を追ってきた時も、これのお陰で易々と追いつけたんだね。
と言う訳で、ちょうど回復魔法と補助魔法に適正のあるわたしも、このやり方を覚えさせられて、途中からは、全てわたしの担当になっていた。
ダンジョン内で、引き寄せた鉱石類を、魔法バッグにしまいつつ、宝箱を開錠していると、
「マナは魔力量が凄いから、色々やってもらえて助かるよ」
と、フレッドが笑顔で話しかけてくる。
いい加減くたびれてるし、なんだか納得いかない気がするわ。
不満そうな表情をしていたのに気付いたのか、フレッドは、こう続ける、
「いや、本当の話。 僕は、マルチに色んな魔法が使えるけど、魔力量としては人並みだからさ、大きい魔法を使うと、魔力切れになっちゃうんだよね。 セイは、生活魔法以外は使えないし」
「え、そうなんですか?」
「そうそう、こいつの場合は、魔力量が多いのに、全部、剣技にいっちゃってるからさ、他の魔法の才能は、全くないんだよ」
「そういう事もあるんですね」
「うん、だから僕の従者といいつつ、ほとんど面倒を見てるのは、僕の方なんだよね」
セイが、慌てて口を挟む、
「荷物は、俺の方が多く担当してるじゃないですか」
「うん、まあね。 僕が、剣の腕で守ってもらう事も多いし、結局は、バランス取れてるんだよね」
フォローして、ウィンクしてみせるフレッド、二人の仲の良さと、信頼感がうかがえるなぁ。
「お二人は、いつ頃からご一緒なんですか? って言うか、セイさんっていつ日本からこちらへ?」
「俺は、小学生の時にこちらに来ました。 友人と山に入って遊んでいる時に、急に霧が出て迷ってしまって。 気付いたら、ロランの城の中でした」
「そ、こいついきなり王城の、しかも謁見の間に現れてさ。 大騒ぎだったんだよ」
「しばらくは、軟禁というか幽閉というか、部屋に閉じ込められていたのですが、ある日突然、第二王子付きの従者になるように言われて、それからの付き合いです」
「年も近いし面白そうだったから、遊び相手にいいかと思って、セイを僕にくださいって、父上に頼んだんだよね。 付き合ってみたら、思ったより堅物であんまり面白くはなかったけどさ」
「王子付きになってからは、王子と一緒に剣技や勉強や、何でも一緒にやらせてもらえました」
「魔法以外は、ことごとく僕より良い成績でさ、優秀なんだよ」
こちらに来てからの、幼馴染っていう訳なのね。
ここで、ちょっと疑問に思ったので聞いてみる、
「セイさんは、特に誰かに召喚された訳ではないんですか?」
するとフレッドが、
「うーん、召喚はされていないとは思うけど、あの頃には、少しずつ父上も兄上も、オカシクなっていたような気はするから、もしかしたら、国が危機に傾き始めた時の、緊急アラート的な働きがあったんじゃないかと、僕は思ってる」
「魔物を制御する為の、ですか?」
「なんとなくそんな気がする、ってだけだけどね」
うーん、国の事情だったにしても、当時小学生だったなら、さぞ辛かっただろうな。
「セイさん、大変だったんですね」
「ええ、でも、俺には希望がありましたから」
「希望?」
「はい、それがあったので、何があっても心折れる事はありませんでした。」
「それって?」
「あー、マナちゃん。 実は、こいつに “創世の物語” を教えて、いつかお前の対となる乙女を召喚してやるって、言い続けてきたのは僕なんだけど」
え?
「対となる乙女ってわたし、ですよね?」
「うん。 確かにセイは、君に会う事を心の支えにしてきたんだろうね。 でもさ」
ここでフレッドは、クルリと姿勢をセイさんの方に向け、ひた、と視線を真っ直ぐにセイさんに合わせる、
「でも、僕もマナの事を好きになっちゃったから、このまま黙って、お前に譲ってはやれない」
「フレッド? なにを」
「ごめんな。 でも仕方ないじゃないか、好きになっちゃったんだから。 初めは創世の剣士と乙女に倣って、君達が結ばれるのが、自然な事だと思っていたけど、よく考えたら、創世の剣士と乙女の子孫である僕が、マナと結ばれるのだって不自然じゃないと思うんだよ」
「そんな身勝手な」
「悪い! 本当に悪いとは思っているんだ。 でも、こんな気持ちになるのは、初めてなんだ」
「俺だって、ずっと彼女に会う事だけを支えに、彼女にふさわしい男になろうと頑張ってきたんです。 いまさら引く事はできません」
バチバチ、と火花でも散りそうな勢いで、2人が見つめ合う。
「あのー、おふたりで白熱しているところ、申し訳ないのですが……」
ちょっと落ち着いて欲しい、ここ、まだダンジョンの中だし。
「ごめんね、マナ。 そういう事だから、セイか僕か、マナが選んで」
真剣な顔でフレッドに言われるが、急にそんな事言われたって、困るんだってば。
「あの、あの。 まだおふたりと知り合って、数日しか経っていませんし、いきなり選ぶとかは無理だと思うんです」
いくら素敵な男性だとはいえ、いきなり、こんな状況でどちらか選べとか無理ですから。
ましてや、それぞれの人となりとか、もっと知ってからでないと、答えなんて出る訳がない。
「うん、そうだね。 悪かった。 これからじっくりと、気持ちを決めてくれればいいから」
天国のおばあちゃん、雪山のダンジョンでゴーレム退治の最中なのに、出会って間もない男性ふたりに告白される事態になるなんて、わたし、一体どうしたらいいんでしょう?
天国のおばあちゃんへ
わたしは今、雪山の中のダンジョンで、犬達と一緒に沢山のゴーレムを倒しています。
「マナ! 一歩遅い! ハクが、囮になってくれたんだから、そこでヘッド叩いて、昏倒させなきゃ」
「はい、そこで後頭部打撃! 一撃で沈まないなら、畳み込んでもう一撃!」
「かわして かわして、そこから下顎突き上げろ!」
あの、指先キスの挨拶のあと、必要な物資を色々と買い込んで、さっそくロック山脈へとやってきたのだが、山越えダンジョンを踏破しないと、温泉に辿り着けないなんて聞いてないよ?
しかも、
「今回は “ファリニシュ・ファミリア” のレベリングが第一目標だから、マナ、頑張ってね」
と、基本、フレッドもセイさんも手伝ってくれないのだ。
後方で、ココの魔法防壁内から、鬼コーチよろしくフレッドの指導が入るけど、ほぼ戦っているのは、わたしとハクだけ。
しかし、ロックゴーレムは岩で出来ているので、牙や爪が武器のハクはトドメが刺せない。
結果、左右に激しく動いて牽制しつつ囮になったり、のしかかって動きを封じたり、足元に体当たりして転ばせたりのサポートをしてくれるが、決定打はわたしの役目になっていた。
そしてミルクはというと、セイさんの肩の上から離れようとしない。
ここに来る行程で、馬に騎乗したセイさんの肩に乗ってから、ずっとそこが定位置のように居座ってしまっている。
ココ曰く
(肩が広くて、居心地がいいんだって)
との事。
ココは、後方と、わたしやハクの攻撃組に魔法防壁をかけてくれているが、やはり主に見ている状態。
まぁ、それはいいとして、男性陣、ココの魔法防壁内で、くつろいでお茶とか飲みながら観戦って、ちょっと酷くないかな?
もう3階層分、軽く40体はゴーレムばかり倒し続けているので、見ているだけでは飽きるのかもしれないけど。
「マナ、もうすぐ安全地帯だから、がんばっていこう」
ううっ、はい、わかりましたよ。
それから更に3体ほどのゴーレムを倒して、ようやく3階層の安全地帯へと入る。
やっと、わたしもお茶が飲めるよ、動きっぱなしで喉がからから。
「マナさん、どうぞ」
セイさんが、淹れたての熱い紅茶を差し出してくれる。
動いてはいるが、極寒の雪山ダンジョンなので、温かい飲み物の方がありがたい。
「ありがとうー」
ふうふう息を吹きかけて、冷ましながらお茶を飲んでいると、
「マナは、だんだんかたちになってきたね、元のセンスがいいのかな」
と、鬼コーチ、もといフレッドが褒めてくれる。
「そう、ですか?」
「うん。 ただ、まだハクとの連携が上手く活かせてないのが惜しいよね。 そこが、無理なく流れよく動けるようになれば、もう少し、効率的に倒せるようになるよ」
「そうですね、がんばります」
「うん、がんばって。 そのお茶飲んだら、ドロップ品の引き寄せの練習ね」
「う」
そうなのだ、補助魔法には、魔力のこもっている状態のドロップ品を引き寄せるというのがあって、一階層ごとにゴーレムを倒しまくっては、安全地帯に入って、ドロップ品を引き寄せるという流れできているのだ。
当然、フレッドもセイさんも手伝ってはくれず、目の前にドロップ品が落ちても、拾わずに次のゴーレム退治なのである。
ドロップ品は、ロックゴーレムというだけあって、ほぼ鉱石だった。
銅鉱石、鉄鉱石、銀鉱石、金鉱石、全てわたしの魔法バッグ行きになっている。
そして、ダンジョンなので、たまに宝箱が一緒に引き寄せられてくる事があるのだが、それの罠のあるなし、罠があったら解除、宝箱の鍵の開錠まで、全て私なのだ。
宝箱からは今のところ、カラーサファイヤの魔宝石が、3個出ていた。
ホワイト・ブルー・ピンクのサファイヤの原石だ。
戦っては引き寄せ、更に宝箱の処理、と、もう、なんとかブートキャンプ状態である。
もちろん、他の冒険者がいる場合は、そんな事はしていられないのだが、誰もいないのよね、ほぼ貸し切り状態。
これが冬の時期なら、ダンジョンに入らなくてもロープウェイが稼働していて、割と快適に、温泉まで行けるのだそうだけど、あいにく今は、夏に向けての温泉閑散期なので、ロープウェイはお休み中なのだそう。
逆に夏真っ盛りなら、避暑の為に、ダンジョンに潜る冒険者も多くなるそうだけど、正に今がぽっかりと空いてる、ダンジョンも閑散期らしい。
「そういう意味でも、レベリングには最適でしょ」
と、最後に音符マークでも付いていそうなお気楽さで、フレッドにニッコリされたが、本当、聞いてないよ。
ロレンツォの街では、まず武器屋に行って、わたし用のハンマーを見繕う事になった。
今回、相手にするのがロックゴーレムだという事で、取りあえず “アイアンハンマー” を選んでもらう。
これは、ほぼ家庭用のカナヅチの大きいバージョンで、違うのは持ち手まで鉄製な所。
ただ、持ちやすいように、持ち手部分にぐるりと革が巻いてある。
かなり重量があるので、本来なら、屈強な筋肉質の男性冒険者向きなのだろうが、棚からヒョイっと持っていったわたしに、武器屋の店員のおじさんは、かなりびっくりしていたようだ。
次に水道の施設に行って、魔道具として細工した貯水槽を、貯水湖に接続、それを魔法バッグにしまってから、家の水道に繋げてもらった。
シャワーは、温度調整ができるので、そのまま水道の方に繋ぐ。
お風呂の浴槽への蛇口だけ、温泉の貯水槽に繋ぐそう。
あとは、ロック山脈に来る道すがら、風がびゅうびゅう吹き荒れている山道の脇で、
「マナ、換気ここに繋ぐから、家、出して」
と言われ、家を丸ごと外に出して、換気扇を繋いでもらった。
「ここなら、年中風が吹き荒れてるから、換気で流したニオイなんて、あっという間に吹き飛ぶよ」
との事だったが、やっぱり、家をバッグから出したり入れたりは、かなりシュールな光景なので、なるべく控えたいものだ。
あとは、部屋ごとに取り付ける換気口は、魔道具として細工だけしてもらって、10個ほど購入してきた。
店の人に、どうするのか聞かれたので、雪山に接続して夏の暑い時期に使う、と説明すると、
「それは面白いな。 なぁ、これ1箱全部に細工するから、一緒にやってきてくれねぇか?」
と言われたのだが、あいにく、ロレンツォには、今度いつ来られるか分からないから、と断ってきた。
もしかしたら、このやり方が、ロレンツォでこれから流行るかもしれない。
人用と犬達用の防寒着なども購入して、その日の夜は宿に一泊、翌日は早朝から出発したのだが、本来なら3日ほどはかかる行程を、1日で来てしまった。
それは、フレッドの得意技 “回復ブースト” のお陰だった。
フレッドは、魔法能力がマルチにあるそうで、回復魔法と補助魔法のブーストを混ぜ込んで使うのだそう。
すると、普通のブーストだけをかけるよりも、体への負担なくソフトになるので、ブーストできる回数も増えるのだという。
ココに確認すると
(普通のだと5回くらいが限界だけど、そのやり方だと、15回はかけて平気)
だそうなので、3倍も多くできることになる。
わたし達を追ってきた時も、これのお陰で易々と追いつけたんだね。
と言う訳で、ちょうど回復魔法と補助魔法に適正のあるわたしも、このやり方を覚えさせられて、途中からは、全てわたしの担当になっていた。
ダンジョン内で、引き寄せた鉱石類を、魔法バッグにしまいつつ、宝箱を開錠していると、
「マナは魔力量が凄いから、色々やってもらえて助かるよ」
と、フレッドが笑顔で話しかけてくる。
いい加減くたびれてるし、なんだか納得いかない気がするわ。
不満そうな表情をしていたのに気付いたのか、フレッドは、こう続ける、
「いや、本当の話。 僕は、マルチに色んな魔法が使えるけど、魔力量としては人並みだからさ、大きい魔法を使うと、魔力切れになっちゃうんだよね。 セイは、生活魔法以外は使えないし」
「え、そうなんですか?」
「そうそう、こいつの場合は、魔力量が多いのに、全部、剣技にいっちゃってるからさ、他の魔法の才能は、全くないんだよ」
「そういう事もあるんですね」
「うん、だから僕の従者といいつつ、ほとんど面倒を見てるのは、僕の方なんだよね」
セイが、慌てて口を挟む、
「荷物は、俺の方が多く担当してるじゃないですか」
「うん、まあね。 僕が、剣の腕で守ってもらう事も多いし、結局は、バランス取れてるんだよね」
フォローして、ウィンクしてみせるフレッド、二人の仲の良さと、信頼感がうかがえるなぁ。
「お二人は、いつ頃からご一緒なんですか? って言うか、セイさんっていつ日本からこちらへ?」
「俺は、小学生の時にこちらに来ました。 友人と山に入って遊んでいる時に、急に霧が出て迷ってしまって。 気付いたら、ロランの城の中でした」
「そ、こいついきなり王城の、しかも謁見の間に現れてさ。 大騒ぎだったんだよ」
「しばらくは、軟禁というか幽閉というか、部屋に閉じ込められていたのですが、ある日突然、第二王子付きの従者になるように言われて、それからの付き合いです」
「年も近いし面白そうだったから、遊び相手にいいかと思って、セイを僕にくださいって、父上に頼んだんだよね。 付き合ってみたら、思ったより堅物であんまり面白くはなかったけどさ」
「王子付きになってからは、王子と一緒に剣技や勉強や、何でも一緒にやらせてもらえました」
「魔法以外は、ことごとく僕より良い成績でさ、優秀なんだよ」
こちらに来てからの、幼馴染っていう訳なのね。
ここで、ちょっと疑問に思ったので聞いてみる、
「セイさんは、特に誰かに召喚された訳ではないんですか?」
するとフレッドが、
「うーん、召喚はされていないとは思うけど、あの頃には、少しずつ父上も兄上も、オカシクなっていたような気はするから、もしかしたら、国が危機に傾き始めた時の、緊急アラート的な働きがあったんじゃないかと、僕は思ってる」
「魔物を制御する為の、ですか?」
「なんとなくそんな気がする、ってだけだけどね」
うーん、国の事情だったにしても、当時小学生だったなら、さぞ辛かっただろうな。
「セイさん、大変だったんですね」
「ええ、でも、俺には希望がありましたから」
「希望?」
「はい、それがあったので、何があっても心折れる事はありませんでした。」
「それって?」
「あー、マナちゃん。 実は、こいつに “創世の物語” を教えて、いつかお前の対となる乙女を召喚してやるって、言い続けてきたのは僕なんだけど」
え?
「対となる乙女ってわたし、ですよね?」
「うん。 確かにセイは、君に会う事を心の支えにしてきたんだろうね。 でもさ」
ここでフレッドは、クルリと姿勢をセイさんの方に向け、ひた、と視線を真っ直ぐにセイさんに合わせる、
「でも、僕もマナの事を好きになっちゃったから、このまま黙って、お前に譲ってはやれない」
「フレッド? なにを」
「ごめんな。 でも仕方ないじゃないか、好きになっちゃったんだから。 初めは創世の剣士と乙女に倣って、君達が結ばれるのが、自然な事だと思っていたけど、よく考えたら、創世の剣士と乙女の子孫である僕が、マナと結ばれるのだって不自然じゃないと思うんだよ」
「そんな身勝手な」
「悪い! 本当に悪いとは思っているんだ。 でも、こんな気持ちになるのは、初めてなんだ」
「俺だって、ずっと彼女に会う事だけを支えに、彼女にふさわしい男になろうと頑張ってきたんです。 いまさら引く事はできません」
バチバチ、と火花でも散りそうな勢いで、2人が見つめ合う。
「あのー、おふたりで白熱しているところ、申し訳ないのですが……」
ちょっと落ち着いて欲しい、ここ、まだダンジョンの中だし。
「ごめんね、マナ。 そういう事だから、セイか僕か、マナが選んで」
真剣な顔でフレッドに言われるが、急にそんな事言われたって、困るんだってば。
「あの、あの。 まだおふたりと知り合って、数日しか経っていませんし、いきなり選ぶとかは無理だと思うんです」
いくら素敵な男性だとはいえ、いきなり、こんな状況でどちらか選べとか無理ですから。
ましてや、それぞれの人となりとか、もっと知ってからでないと、答えなんて出る訳がない。
「うん、そうだね。 悪かった。 これからじっくりと、気持ちを決めてくれればいいから」
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