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第二章
鉱山ダンジョン
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ロック山脈の鉱山ダンジョンは、トータル7階層からなるダンジョンだ。
通常は、上の階層から下に降りていくダンジョンがほとんどなのだが、ここは下層から上に登るかたちの、少し珍しいタイプのダンジョンである。
3階層まではロックゴーレムが出現し、ドロップアイテムは鉱石類で、4階層と5階層はジャイアントロックゴーレムという、普通のロックゴーレムが160cm程度なのに対し、250cm前後の巨大なゴーレムに変わる。
その上の6階層、7階層はギガントロックゴーレムと言う、ジャイアントロックゴーレムが更に硬さを増したやっかいな敵になる。
その代りドロップアイテムも、より希少な鉱石や魔宝石が出るようになる。
ここでの目当てはレベリングもだが、その希少な鉱石である、アダマント鉱石と、更に希少なサファイヤの特殊な魔宝石だ。
「グリーンでもブルーでも、ピンクでもいいな。 付与効果で、麻痺か気絶が付いていればいいんだけどね」
そう言って、ロレンツォの街から丸一日の移動のあと、魔法バッグの家で昼まで仮眠をとってから、ここへ潜ったのだが、ここへきて、パーティの雰囲気はあまりよろしくない。
「もう、フレッドもセイさんも、どうしてこんな所で、そんな話になっちゃうんですか」
せめて、ダンジョンを踏破してからにして欲しい。
「そんな事言ったって、マナがセイに過去の話をさせるからさ。 どうしたって、セイはマナに会う為に今まで頑張ってきた、って話になるに決まってるし、そしたらマナは、セイだけを意識しちゃうじゃないか。 そんなの不公平だ」
フレッドは、口を尖らせる。
もう、王子様の威厳も何も見当たらない、我儘な駄々っ子のようだ。
セイさんはというと、こちらは無視を決め込んで、フレッドと目を合わせようともしない。
こちらはこちらで、頑固な感じで困るなぁ。
若さゆえ、なのかしら?
「失礼ですが、お二人は、おいくつですか?」
「僕は21だけど」
「俺は22です」
あー、若い、若いわぁ。
仕方ないので、お姉さんとして、ここはビシッとしておくべきだろう。
「えー、おふたりのご好意は、大変にありがたいのではありますが、今はまだ目標である魔物討伐に向けて、始動したばかりです。 序盤からこんな状態では、とても事を成し得るとは思えません」
2人は、ハっとしたようにこちらを見詰める。
「つきましては、魔物の討伐が成し遂げられるまで、わたしは恋愛は一切いたしません。 おふたりからの、そういった事も全て拒否させていただきます」
途端、あからさまに、がっくりとうなだれる2人。
「ですので、目標達成するまで、良い仲間として仲良くしていただきたいです」
と言い切ると、
「では、目標達成した暁には、俺達の事を考えて下さいますか?」
セイさんが、じっと、わたしの目を真っ直ぐに見詰めてくる。
途端、顔に熱が上がってくる。
だーかーらー、免疫がないんだから見つめるのはやめて!
「その時の状況にもよるとは思いますが……」
目を、気持ち逸らしながら答える。
わたし、今絶対赤面してる、くっ、大人の対応のはずが……。
「分かりました。 確かに、当初の目的を達成しない限り、俺達の未来はありません。 マナさんの言う通り、一時休戦しようフレッド」
「分かったよ。 僕も、今のままじゃ命を狙われ続ける、不安定な状態だからね。 後顧の憂いをなくして、すっきりさせてから改めてプロポーズするよ」
「ぷ、プロポーズ……?」
何を言い出すんですか、王子様。
「その時には覚悟しておいてね、マナ」
パチンッ
と、音のしそうなウィンクを投げてくるフレッドに
「お前、それが抜け駆けだっていうんだ、ちゃんとフェアにしろよ!」
と諫めるセイさん。
あぁ、まだまだ前途多難な気がしてきた。
気を取り直して、改めて、
『そういうのはなしですよ。 言う事を聞かないなら一緒に戦うのも、旅をするのもやめちゃいますよ』
と脅しをかけて、やっとでフレッドの首を縦に振らせると、ようやく次の階層攻略に取りかかる。
今度は、巨大なジャイアントロックゴーレムの出てくる階層なので、わたしの背丈では、打撃を与えるべき頭部に届かない。
なので、ハクに騎乗したまま戦う、というのを実地訓練するのだ。
ココの魔法防壁をブーストして鉄壁にしてから、4階層へと踏み出す。
「まず、大切なのはバランス。 膝をしっかり閉じて、下半身を安定させる事。 それから、左手はハクちゃんの首のリボンを持とうか、そのまま右手だけでハンマー扱える?」
フレッドの言う通りに一連の動作をして、右手で軽々とハンマーを回転させて見せる。
「OK! 問題ないみたいだね。 ハクちゃんは、今まで通りゴーレムの攻撃をかわしながら、なるべく敵の頭に近づいてあげてね。 よし、じゃあ行こうか」
もう目の前に、2体のジャイアントロックゴーレムが迫りつつある中で、そんな暢気な指導を受けている訳だが、ハクは張り切って前に駆け出す。
これまでの、ロックゴーレムを相手してきて思ったのだが、ゴーレム達は、攻撃の手順が割とパターン化している。
なので、腕の攻撃をかわして、かわして、下から顎を突き上げて、のけぞった所をサイドに回り込んでから後頭部を思いっ切り叩く。
一体目、撃沈。
次の奴は、もう腕のモーションは終わっているので、今度は足の蹴りをジャンプで避けて、振り向き様を横殴りにしてから、トドメに脳天を叩く。
これで、二体目も撃沈だ。
結構、簡単。
「よーし、いいよ! その調子で、2フロア、サクッと回っちゃおうか」
鬼コーチからの檄が飛ぶ。
「はーい。 ハク、次行こうか?」
「わぉん!」
ハクも楽しそうである。
難なく4階層、5階層と進んできて、ようやく、ドロップ品に今回の主目的の一つである、アダマント鉱石が1つだけ出てきた。
「武器を作るのに、この鉱石は、どのくらい必要なんですか?」
と聞くと、
「最低でも、5個は欲しいですね。 まぁ、心配しなくても6階層、7階層はギガントロックゴーレムが出現しますから、きっと集まりますよ」
と、セイさんが答えてくれる。
「足りなくても、温泉施設に泊まりながら、7階層だけ何度も潜ってもいいしね」
フレッドが続ける。
んー、でもゴーレムにも飽きてきたから、できれば、今回だけで終わりにしたいな。
そんな風に思いながら、安全地帯で宝箱の開錠をすると、変わった素材の布が入っていた。
拡げてみると、マントのようだ。
念の為に呪いとか掛かっていないかチェックする、と。
何だか見え方がおかしい?
くつろいで、犬達に堅焼きクッキーのおやつを上げていたフレッドが、びっくりしたように
「マナ? それどうしたの?」
と聞いてくる。
「え、宝箱に入ってたんですが」
「いや、君の姿、所々消えてるけど」
「へ?」
「ちょっとそれ、貸してみてください」
今度はセイさんが、わたしの手からマントを受け取ると、拡げて見た後に、おもむろに羽織る、と、セイさんが消えた。
「うわっ、透明マントか! すっごいのが出たな」
「かなりのレアですね」
と、交互に話す二人。
これはあれかな、メタマテリアル素材の光学迷彩的なやつかな?
「マナさん、これは、いざという時に役に立ちます、大切にしましょう」
セイさんに、そう言って手渡される。
「マナ、あんまり驚かないね」
意外そうに、フレッドに言われる。
「ええと、驚いてはいますが、現代日本でも研究が進んでるって、ニュースとかで見た事があるものですから」
すると、セイさんが驚いて、
「そうなんですか? 日本でも魔法が使えるようになったんですか?」
などと言い出した。
「いえ、魔法ではなくてですね、どちらかと言うと、化学の粋を極めた技術だと思います」
「化学技術……。 凄いですね」
ああ、なんだかちょっとセイさんは、浦島太郎気分なのかもしれないな。
剣と魔法が常識の世界で、これまで過ごしてきたのだ、本当は、もっとゆっくりと色んな事を話してあげた方がいいんだろうな。
「今度、もっとゆっくり日本の事をお話ししましょうね」
セイさんは、ハッとしたようにこちらを見ると、ちょっと照れたように嬉しそうに微笑んだ。
「はい、ぜひお願いします」
すかさず、
「ハイハイ、そこ! いい雰囲気になるの禁止―」
と、フレッドが茶々を入れる。
うーん、そうじゃないんだけどな。
でも、いちいち否定するのも、ムキになっているみたいで変な気もするし、ここは放っておこう。
「マナー、無視しないでよー」
もう。
本当に、最初の印象はどこにいったのかしら?
完全に、我儘王子様だわ。
「無視なんてしてませんけど、あまりつまらない事ばかり、おっしゃられるようでしたら、しばらく、会話を控えてもいいかもしれませんね」
にっこり笑ってそう言うと、
「う」
と、言ったまま黙ってしまった。
この方は、少し大人しくして下さるくらいが、丁度いいのかもしれない。
次の6階層、7階層はギガントロックゴーレムの領域に入る。
更に敵の装甲が硬くなる、というので、全員に回復ブーストをかけておく。
そろそろ、お腹も空いてきたのだが、食事はダンジョンを抜けてから、温泉施設でゆっくり食べる事になっているので、もうしばらく我慢だ。
さすがに次の階層では、わたしとハクだけでなく、フレッドとセイさんも参戦してくれる。
セイさんの武器は、刀で前衛。
フレッドは、本来は何でも出来るそうだが、今回の組み合わせでは後衛がいないので、アーチェリーを使用するそうだ。
弓の両端に滑車が付いている、コンパウンドボウ、という弓だそう。
ミルクは、やっとセイさんの肩から降りたが、ココの隣にくっついている。
さあ、このパーティでの初めての戦いだ。
6階層に足を踏み入れて、すぐ最初のギガントロックゴーレムが現れたが、攻撃をかわすまでもなく、フレッドの弓によってその体に腕が縫い付けられる。
わたしが下顎を突き上げて、のけぞった所をセイさんが袈裟懸けに切りつける。
それで終了だった。
すごく、ラク。
さっきまでより敵は硬いはずなのに、サックサクである。
そんな感じで7階層まで進み、全部、倒し終わって安全地帯につくと、ココが話しかけてきた。
(マナ、まだいるよ)
「へ?そうなの? でも、フロア中見て回ったはずなんだけど、どの辺りにいるのか分かる?」
(多分、この壁の向こう)
ココが示したのは、安全地帯の、三方を壁に囲まれた中の奥側の壁だった。
「セイさん、フレッド。 ココがこの壁の向こうに、まだ敵がいるって言ってるんですが」
「えー、壁の向こう? ここは、もうこれで終わりのはずなんだけどな。 隠し部屋の仕掛けでもあるのかな?」
そう言って、フレッドが壁を探り出す。
するとミルクが、
「キュンキュン」
と、鳴き出した。
「ミルク、どうしたの?」
と抱き上げると、壁の上の方を見上げて、更に鳴き声を上げる。
「ちょっと貸してみて下さい」
と、セイさんが、ミルクを背中側から抱いて持ち上げると、ミルクが、壁の小さな隙間に前足の爪をスッと通したように見えた。
その瞬間に、目の前の壁が、
シュンッ
と消え去る。
そこには、真っ黒いギガントロックゴーレムが鎮座していた。
これまで相手をしてきたゴーレムは一様に灰色だったので、その異質さも去ることながら、大きさも1.5倍くらいはありそうだ。
「隠し部屋に、隠しのボスかよ」
フレッドが呟きながら、後ろに飛び退りつつ即座に矢を放つ、が手元を縫い付けるはずのその矢は、2本とも、黒いギガントロックゴーレムの両手に握られてしまった。
わたしも慌ててハクに騎乗するが、その矢を持ったままで右手、左手、と攻撃を繰り出され、リーチが長くて避け切れない。
ダメージを覚悟したが、一瞬先に、セイさんの刀の切っ先がその攻撃を受け流す。
そのまま後ろに回り込もうとすると、再度フレッドが矢を連続して放ち、ギガントロックゴーレムの膝の関節部分が砕け散る。
ゴガァンッ!
と、膝から地面に崩れ落ち、ゴーレムの身長が数十cm低くなる。
そのまま、後頭部に打撃を与えようとハンマーを叩き込む、が、頭がぐるんっと回転して口が大きく開き、アイアンハンマーに噛みつかれてしまう。
とっさにハンマーから手を離すと、そのまま、
ブンッ
と、安全地帯の向こうに飛ばされる。
まずい、丸腰になってしまった。
取りに戻ろうとしたが、ギガントロックゴーレムが、今度はめちゃくちゃに腕を振り回し始め、前方に抜ける隙間がない。
ハクは、わたしを乗せたまま、
「ウゥーッ」
と唸り声を上げながら、後ろに下がっていく。
膝を付いたままゴーレムは、わたし目がけて、いざりながらも進んでくる。
そのまま、じり、じり、と壁際に追い詰められる。
ヤバイ ヤバイ ヤバイ
ぎゅっと目を閉じかけたその時に、ギガントロックゴーレムの振り回していたはずの右腕が、
ブンッ
と、横に吹き飛んだ。
一瞬置いて、今度は左腕も飛んで行く。
セイさんが、青いオーラをゆらゆらと纏いながら、更に剣技を発動させる。
「碧巌斬!!!」
衝撃波が、こちらにまで押しよせる。
と、黒いギガントロックゴーレムの首が、目の前にごろりと落ちて転がった。
その首を見詰めたまま、ぼうっと放心していると、セイさんが駆け寄ってきてくれる。
「大丈夫ですか、マナさん」
「お、お蔭様で、わたしちっとも役にたてなくて……」
「何を言ってるんですか、お怪我がなくて良かった」
「ありがとう、ございます」
セイさんに手を貸してもらって、ハクから降りると、黒いギガントロックゴーレムが、キラキラとエフェクトを残しながら消えていく。
そこに残ったのは、今までの物よりも、装飾の美しく施された宝箱だった。
「ドロップ品が宝箱? どれだけレアなんだよ」
近付いてきたフレッドが、飛ばされたアイアンハンマーを持ってきて渡してくれる。
「マナ、大丈夫?」
「はい、何とか大丈夫みたいです」
ハンマーを受け取って、改めて残された宝箱を確認すると、ご丁寧に罠までついている。
これは知らずに開けると、今まで倒したゴーレムが、再度湧き出す仕様のようだ。
えげつない。
罠を慎重に解除して、鍵を開錠して蓋を開ける。
「うわぁ、綺麗」
中に入っていたのは1粒の美しい、ピンクがかったオレンジの魔宝石だった。
「これは……、パパラチアだ」
フレッドが、感心したようにつぶやく。
聞いた事がある、現世でもすごく希少なパパラチア・サファイヤ。
「鑑定で付与効果が良ければ、これで完璧ですね」
セイさんも嬉しそうだ。
その後のドロップ品の引き寄せで、アダマント鉱石も更に13個、魔宝石は5つも出てくれた。
これで、やっとこのダンジョンから出られるわ。
通常は、上の階層から下に降りていくダンジョンがほとんどなのだが、ここは下層から上に登るかたちの、少し珍しいタイプのダンジョンである。
3階層まではロックゴーレムが出現し、ドロップアイテムは鉱石類で、4階層と5階層はジャイアントロックゴーレムという、普通のロックゴーレムが160cm程度なのに対し、250cm前後の巨大なゴーレムに変わる。
その上の6階層、7階層はギガントロックゴーレムと言う、ジャイアントロックゴーレムが更に硬さを増したやっかいな敵になる。
その代りドロップアイテムも、より希少な鉱石や魔宝石が出るようになる。
ここでの目当てはレベリングもだが、その希少な鉱石である、アダマント鉱石と、更に希少なサファイヤの特殊な魔宝石だ。
「グリーンでもブルーでも、ピンクでもいいな。 付与効果で、麻痺か気絶が付いていればいいんだけどね」
そう言って、ロレンツォの街から丸一日の移動のあと、魔法バッグの家で昼まで仮眠をとってから、ここへ潜ったのだが、ここへきて、パーティの雰囲気はあまりよろしくない。
「もう、フレッドもセイさんも、どうしてこんな所で、そんな話になっちゃうんですか」
せめて、ダンジョンを踏破してからにして欲しい。
「そんな事言ったって、マナがセイに過去の話をさせるからさ。 どうしたって、セイはマナに会う為に今まで頑張ってきた、って話になるに決まってるし、そしたらマナは、セイだけを意識しちゃうじゃないか。 そんなの不公平だ」
フレッドは、口を尖らせる。
もう、王子様の威厳も何も見当たらない、我儘な駄々っ子のようだ。
セイさんはというと、こちらは無視を決め込んで、フレッドと目を合わせようともしない。
こちらはこちらで、頑固な感じで困るなぁ。
若さゆえ、なのかしら?
「失礼ですが、お二人は、おいくつですか?」
「僕は21だけど」
「俺は22です」
あー、若い、若いわぁ。
仕方ないので、お姉さんとして、ここはビシッとしておくべきだろう。
「えー、おふたりのご好意は、大変にありがたいのではありますが、今はまだ目標である魔物討伐に向けて、始動したばかりです。 序盤からこんな状態では、とても事を成し得るとは思えません」
2人は、ハっとしたようにこちらを見詰める。
「つきましては、魔物の討伐が成し遂げられるまで、わたしは恋愛は一切いたしません。 おふたりからの、そういった事も全て拒否させていただきます」
途端、あからさまに、がっくりとうなだれる2人。
「ですので、目標達成するまで、良い仲間として仲良くしていただきたいです」
と言い切ると、
「では、目標達成した暁には、俺達の事を考えて下さいますか?」
セイさんが、じっと、わたしの目を真っ直ぐに見詰めてくる。
途端、顔に熱が上がってくる。
だーかーらー、免疫がないんだから見つめるのはやめて!
「その時の状況にもよるとは思いますが……」
目を、気持ち逸らしながら答える。
わたし、今絶対赤面してる、くっ、大人の対応のはずが……。
「分かりました。 確かに、当初の目的を達成しない限り、俺達の未来はありません。 マナさんの言う通り、一時休戦しようフレッド」
「分かったよ。 僕も、今のままじゃ命を狙われ続ける、不安定な状態だからね。 後顧の憂いをなくして、すっきりさせてから改めてプロポーズするよ」
「ぷ、プロポーズ……?」
何を言い出すんですか、王子様。
「その時には覚悟しておいてね、マナ」
パチンッ
と、音のしそうなウィンクを投げてくるフレッドに
「お前、それが抜け駆けだっていうんだ、ちゃんとフェアにしろよ!」
と諫めるセイさん。
あぁ、まだまだ前途多難な気がしてきた。
気を取り直して、改めて、
『そういうのはなしですよ。 言う事を聞かないなら一緒に戦うのも、旅をするのもやめちゃいますよ』
と脅しをかけて、やっとでフレッドの首を縦に振らせると、ようやく次の階層攻略に取りかかる。
今度は、巨大なジャイアントロックゴーレムの出てくる階層なので、わたしの背丈では、打撃を与えるべき頭部に届かない。
なので、ハクに騎乗したまま戦う、というのを実地訓練するのだ。
ココの魔法防壁をブーストして鉄壁にしてから、4階層へと踏み出す。
「まず、大切なのはバランス。 膝をしっかり閉じて、下半身を安定させる事。 それから、左手はハクちゃんの首のリボンを持とうか、そのまま右手だけでハンマー扱える?」
フレッドの言う通りに一連の動作をして、右手で軽々とハンマーを回転させて見せる。
「OK! 問題ないみたいだね。 ハクちゃんは、今まで通りゴーレムの攻撃をかわしながら、なるべく敵の頭に近づいてあげてね。 よし、じゃあ行こうか」
もう目の前に、2体のジャイアントロックゴーレムが迫りつつある中で、そんな暢気な指導を受けている訳だが、ハクは張り切って前に駆け出す。
これまでの、ロックゴーレムを相手してきて思ったのだが、ゴーレム達は、攻撃の手順が割とパターン化している。
なので、腕の攻撃をかわして、かわして、下から顎を突き上げて、のけぞった所をサイドに回り込んでから後頭部を思いっ切り叩く。
一体目、撃沈。
次の奴は、もう腕のモーションは終わっているので、今度は足の蹴りをジャンプで避けて、振り向き様を横殴りにしてから、トドメに脳天を叩く。
これで、二体目も撃沈だ。
結構、簡単。
「よーし、いいよ! その調子で、2フロア、サクッと回っちゃおうか」
鬼コーチからの檄が飛ぶ。
「はーい。 ハク、次行こうか?」
「わぉん!」
ハクも楽しそうである。
難なく4階層、5階層と進んできて、ようやく、ドロップ品に今回の主目的の一つである、アダマント鉱石が1つだけ出てきた。
「武器を作るのに、この鉱石は、どのくらい必要なんですか?」
と聞くと、
「最低でも、5個は欲しいですね。 まぁ、心配しなくても6階層、7階層はギガントロックゴーレムが出現しますから、きっと集まりますよ」
と、セイさんが答えてくれる。
「足りなくても、温泉施設に泊まりながら、7階層だけ何度も潜ってもいいしね」
フレッドが続ける。
んー、でもゴーレムにも飽きてきたから、できれば、今回だけで終わりにしたいな。
そんな風に思いながら、安全地帯で宝箱の開錠をすると、変わった素材の布が入っていた。
拡げてみると、マントのようだ。
念の為に呪いとか掛かっていないかチェックする、と。
何だか見え方がおかしい?
くつろいで、犬達に堅焼きクッキーのおやつを上げていたフレッドが、びっくりしたように
「マナ? それどうしたの?」
と聞いてくる。
「え、宝箱に入ってたんですが」
「いや、君の姿、所々消えてるけど」
「へ?」
「ちょっとそれ、貸してみてください」
今度はセイさんが、わたしの手からマントを受け取ると、拡げて見た後に、おもむろに羽織る、と、セイさんが消えた。
「うわっ、透明マントか! すっごいのが出たな」
「かなりのレアですね」
と、交互に話す二人。
これはあれかな、メタマテリアル素材の光学迷彩的なやつかな?
「マナさん、これは、いざという時に役に立ちます、大切にしましょう」
セイさんに、そう言って手渡される。
「マナ、あんまり驚かないね」
意外そうに、フレッドに言われる。
「ええと、驚いてはいますが、現代日本でも研究が進んでるって、ニュースとかで見た事があるものですから」
すると、セイさんが驚いて、
「そうなんですか? 日本でも魔法が使えるようになったんですか?」
などと言い出した。
「いえ、魔法ではなくてですね、どちらかと言うと、化学の粋を極めた技術だと思います」
「化学技術……。 凄いですね」
ああ、なんだかちょっとセイさんは、浦島太郎気分なのかもしれないな。
剣と魔法が常識の世界で、これまで過ごしてきたのだ、本当は、もっとゆっくりと色んな事を話してあげた方がいいんだろうな。
「今度、もっとゆっくり日本の事をお話ししましょうね」
セイさんは、ハッとしたようにこちらを見ると、ちょっと照れたように嬉しそうに微笑んだ。
「はい、ぜひお願いします」
すかさず、
「ハイハイ、そこ! いい雰囲気になるの禁止―」
と、フレッドが茶々を入れる。
うーん、そうじゃないんだけどな。
でも、いちいち否定するのも、ムキになっているみたいで変な気もするし、ここは放っておこう。
「マナー、無視しないでよー」
もう。
本当に、最初の印象はどこにいったのかしら?
完全に、我儘王子様だわ。
「無視なんてしてませんけど、あまりつまらない事ばかり、おっしゃられるようでしたら、しばらく、会話を控えてもいいかもしれませんね」
にっこり笑ってそう言うと、
「う」
と、言ったまま黙ってしまった。
この方は、少し大人しくして下さるくらいが、丁度いいのかもしれない。
次の6階層、7階層はギガントロックゴーレムの領域に入る。
更に敵の装甲が硬くなる、というので、全員に回復ブーストをかけておく。
そろそろ、お腹も空いてきたのだが、食事はダンジョンを抜けてから、温泉施設でゆっくり食べる事になっているので、もうしばらく我慢だ。
さすがに次の階層では、わたしとハクだけでなく、フレッドとセイさんも参戦してくれる。
セイさんの武器は、刀で前衛。
フレッドは、本来は何でも出来るそうだが、今回の組み合わせでは後衛がいないので、アーチェリーを使用するそうだ。
弓の両端に滑車が付いている、コンパウンドボウ、という弓だそう。
ミルクは、やっとセイさんの肩から降りたが、ココの隣にくっついている。
さあ、このパーティでの初めての戦いだ。
6階層に足を踏み入れて、すぐ最初のギガントロックゴーレムが現れたが、攻撃をかわすまでもなく、フレッドの弓によってその体に腕が縫い付けられる。
わたしが下顎を突き上げて、のけぞった所をセイさんが袈裟懸けに切りつける。
それで終了だった。
すごく、ラク。
さっきまでより敵は硬いはずなのに、サックサクである。
そんな感じで7階層まで進み、全部、倒し終わって安全地帯につくと、ココが話しかけてきた。
(マナ、まだいるよ)
「へ?そうなの? でも、フロア中見て回ったはずなんだけど、どの辺りにいるのか分かる?」
(多分、この壁の向こう)
ココが示したのは、安全地帯の、三方を壁に囲まれた中の奥側の壁だった。
「セイさん、フレッド。 ココがこの壁の向こうに、まだ敵がいるって言ってるんですが」
「えー、壁の向こう? ここは、もうこれで終わりのはずなんだけどな。 隠し部屋の仕掛けでもあるのかな?」
そう言って、フレッドが壁を探り出す。
するとミルクが、
「キュンキュン」
と、鳴き出した。
「ミルク、どうしたの?」
と抱き上げると、壁の上の方を見上げて、更に鳴き声を上げる。
「ちょっと貸してみて下さい」
と、セイさんが、ミルクを背中側から抱いて持ち上げると、ミルクが、壁の小さな隙間に前足の爪をスッと通したように見えた。
その瞬間に、目の前の壁が、
シュンッ
と消え去る。
そこには、真っ黒いギガントロックゴーレムが鎮座していた。
これまで相手をしてきたゴーレムは一様に灰色だったので、その異質さも去ることながら、大きさも1.5倍くらいはありそうだ。
「隠し部屋に、隠しのボスかよ」
フレッドが呟きながら、後ろに飛び退りつつ即座に矢を放つ、が手元を縫い付けるはずのその矢は、2本とも、黒いギガントロックゴーレムの両手に握られてしまった。
わたしも慌ててハクに騎乗するが、その矢を持ったままで右手、左手、と攻撃を繰り出され、リーチが長くて避け切れない。
ダメージを覚悟したが、一瞬先に、セイさんの刀の切っ先がその攻撃を受け流す。
そのまま後ろに回り込もうとすると、再度フレッドが矢を連続して放ち、ギガントロックゴーレムの膝の関節部分が砕け散る。
ゴガァンッ!
と、膝から地面に崩れ落ち、ゴーレムの身長が数十cm低くなる。
そのまま、後頭部に打撃を与えようとハンマーを叩き込む、が、頭がぐるんっと回転して口が大きく開き、アイアンハンマーに噛みつかれてしまう。
とっさにハンマーから手を離すと、そのまま、
ブンッ
と、安全地帯の向こうに飛ばされる。
まずい、丸腰になってしまった。
取りに戻ろうとしたが、ギガントロックゴーレムが、今度はめちゃくちゃに腕を振り回し始め、前方に抜ける隙間がない。
ハクは、わたしを乗せたまま、
「ウゥーッ」
と唸り声を上げながら、後ろに下がっていく。
膝を付いたままゴーレムは、わたし目がけて、いざりながらも進んでくる。
そのまま、じり、じり、と壁際に追い詰められる。
ヤバイ ヤバイ ヤバイ
ぎゅっと目を閉じかけたその時に、ギガントロックゴーレムの振り回していたはずの右腕が、
ブンッ
と、横に吹き飛んだ。
一瞬置いて、今度は左腕も飛んで行く。
セイさんが、青いオーラをゆらゆらと纏いながら、更に剣技を発動させる。
「碧巌斬!!!」
衝撃波が、こちらにまで押しよせる。
と、黒いギガントロックゴーレムの首が、目の前にごろりと落ちて転がった。
その首を見詰めたまま、ぼうっと放心していると、セイさんが駆け寄ってきてくれる。
「大丈夫ですか、マナさん」
「お、お蔭様で、わたしちっとも役にたてなくて……」
「何を言ってるんですか、お怪我がなくて良かった」
「ありがとう、ございます」
セイさんに手を貸してもらって、ハクから降りると、黒いギガントロックゴーレムが、キラキラとエフェクトを残しながら消えていく。
そこに残ったのは、今までの物よりも、装飾の美しく施された宝箱だった。
「ドロップ品が宝箱? どれだけレアなんだよ」
近付いてきたフレッドが、飛ばされたアイアンハンマーを持ってきて渡してくれる。
「マナ、大丈夫?」
「はい、何とか大丈夫みたいです」
ハンマーを受け取って、改めて残された宝箱を確認すると、ご丁寧に罠までついている。
これは知らずに開けると、今まで倒したゴーレムが、再度湧き出す仕様のようだ。
えげつない。
罠を慎重に解除して、鍵を開錠して蓋を開ける。
「うわぁ、綺麗」
中に入っていたのは1粒の美しい、ピンクがかったオレンジの魔宝石だった。
「これは……、パパラチアだ」
フレッドが、感心したようにつぶやく。
聞いた事がある、現世でもすごく希少なパパラチア・サファイヤ。
「鑑定で付与効果が良ければ、これで完璧ですね」
セイさんも嬉しそうだ。
その後のドロップ品の引き寄せで、アダマント鉱石も更に13個、魔宝石は5つも出てくれた。
これで、やっとこのダンジョンから出られるわ。
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