異世界わんこ

洋里

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第二章

ラクレット

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 ダンジョンから地上に出て、歩く事10分足らず。
 ロック山脈の温泉施設である “サピロス・ラグーン” に到着する。
 厩舎に馬をあずける為に、魔法バッグからフレッドとセイさんの愛馬、セフィロスとタラントを出す。
 ダンジョンの中で馬が怪我などしないよう、保護してほしいと言われて、バッグの中に入れていたのだ。
 ちなみに、セフィロスがフレッドの愛馬で、黒毛のサラブレッド、タラントがセイさんの愛馬で、少しぶちのある白馬だ。
 中の空間が広すぎるので、好き勝手に走り回らないよう、家の玄関の柱に手綱をくくり付けておいたのだが、どうやら快適にすごしていたみたい。
 係りの人に2頭を託してから、宿の部屋をとる。
 ここは全ての部屋が、独立したロッジになっているらしい。
 フレッドが1部屋にしようとしたので、断然2部屋にしてもらう。
 同室に泊まるなんて、無理ですってば。
 チェックインだけして、まずは食事をしようと、施設内のレストランへと移動する。
「ここの名物は、ラクレット料理なんだ」
と、フレッドが教えてくれる。
 聞いた事はあるけど、食べた事がないかも。
 お腹も空いているし、すごく楽しみ。

 席に着いてすぐ、オーダーを取りにきてくれる。
「燻製鶏肉とフルーツのサラダに、ラクレットヒーター。 マナはパスタも食べる?」
「はい」
 お腹ペコペコなので、つい返事をしてしまう。
「じゃあ、ドライトマトとアンチョビのパスタ。 先に白ワインくれる?」
 サラサラと注文をしてくれる。
「あー、あと、わんちゃん用に、何か見繕って作ってもらえるかな?」
「かしこまりました」
 店員さんが礼をして引き下がる。
 こういうレストランでも、わんこ用に対応してくれるんだ、ありがたい。
 すぐに別の店員さんが、ワインのボトルを持ってくる。
「本日のお料理ですと、こちらでいかがでしょうか?」
 フレッドは、ちらりとラベルを見て、
「うん、いいよ」
と返事をする。
 更に別の店員が、アイスペールとグラスを運んでくる。
 ワインのコルク栓が抜かれ、テイスティングもフレッドがしてくれる。
 ほんの少しだけグラスに注がれたそれを、まず香りを確かめてから、くいっと口に含み、空気と混ぜるように味わうと、うなずいてみせる。
 それぞれのグラスに、美しい飴色がかった白ワインが注がれて、
「じゃあ、僕達の最初のダンジョン踏破とうはに乾杯」
 そう言って、軽くグラスを持ち上げる。
 飲んでみると、少し酸味の強い、フランスワインに似た感じの味わいだった。
 本当は、ドイツワインのような甘口の方が好みなんだけど、今日のお料理に合わせたものなら、きっと食べながらの味わいは、もっと美味しく感じるのだろう。
 頼んだ料理の前に、店員さんが何かお皿を運んでくる。
「サービスのアンティパスト、パプリカのマリネです。 よろしければ、どうぞお召し上がり下さい」
 小さなお皿だが、3人分並べてくれる。
 サービスだなんて嬉しい。
 さっそくつまんでみると、甘いパプリカにワインビネガーの酸味が爽やか。
 何か、香草が使われていると思うんだけど、何だろう?
 とても複雑な香りがする。
 これを食べてからワインを飲むと、やっぱり、さっきまでとは、全然味わいが違ったものになる。
 食事を楽しむ為のワインって感じ。
 ニコニコ幸せを感じていると、すぐに、サラダも運ばれてきた。
 ちぎったロメインレタスの上に燻製した鶏肉と、レタス、紫キャベツなどが盛り付けられ、皮も薄皮も取り除かれた、オレンジとグレープフルーツの果肉がいろどりを添える。
 ドレッシングはフレンチ風で、玉ねぎが効いているみたい。
 これはセイさんが、それぞれのお皿に取り分けてくれる。
 こういう席で、女子なのに何にもしなくていいのって、いいなぁ。
 幸せ感倍増しながらサラダを口にすると、燻製鶏肉はいぶされたいい香り、旨味もとてもしっかりしていて、柑橘フルーツの甘味や酸味を受け止めてくれる。
 レタスなどの葉物野菜で、更にさっぱりとおいしい。
 これもワインに合うね。
 楽しんでいると、わんこ達用のお皿が運ばれてきた。
「こちらは、わんちゃん用にご用意しました。 地鶏の炭火焼きと、かぼちゃとさつまいものスチームでございます。 食べやすいようカットしてごさいますので、このままどうぞ」
と、トレイごと犬達に出してくれる。
 待ってました、とばかりにハグハグと食べ出すわんこ達。
 おいしそうで良かった。
 次に、パスタが運ばれてくる。
 大きな一皿だが、これも、セイさんがとり分けてくれる。
「マナさんには、すこし少なめがいいですか?」
 うん、最後までたどり着けるか心配だから、少なめの方がいいかもしれない。
「はい、お願いします」
 このパスタも絶品だった。
 ドライトマトのほのかな酸味と、アンチョビの塩辛さに凝縮された濃厚な旨味、春キャベツの甘味とシャキシャキ感もたまらない。
 ワイン、おかわりが欲しいな、と思う間もなく、店員さんが、ささっと近付いて、アイスペールで冷やしてあるワインを注いで下さる。
 そうしているうちに、今度は大きな半円形のチーズがセットされた、サービングカートが運ばれてきた。
 チーズの上の部分が半円の切り口で、ヒーターで温められている。
 そして、それぞれのお野菜やソーセージなどが載せられた皿に、傾けられたチーズの断面から、とろりととろけたラクレットチーズがかけられる。
 見ているだけで、ゴクリ、と喉が鳴ってしまいそう。
 チーズをかけてもらったお野菜は、ジャガイモ、アスパラ、ブロッコリーにズッキーニ、プチトマト、これに、カットしてあるソーセージが入っている。
 とろとろ、アツアツの濃厚なチーズと絡めて口に入れると、どのお野菜も本当に美味しい。
 んー、さらにワインがすすんじゃうなぁ。
 ここにきて、酸味の強いワインで大正解だったと思い知る。
 ワインの酸味の爽やかさで、チーズの脂肪分が全然気にならないのだ。
 選んでくれた店員さん、流石さすがである。
「最初に会った日にも思ったけど、マナって食べさせがいがあるよね」
「はい?」
 どういう事かしら。
「何でもにこにこ、おいしそうに食べるな、ってさ。 女の子って、割と小食のコが多いじゃない? その点、マナはしっかり食べるし、見てて気持ちいいよね」
「う。 大食い、ですかね?」
「そうじゃなくって、褒めてるんだよ」
と、フレッドは困ったように苦笑する。
 んー、でも最初に会った日の夕飯は、おふたりと一緒には食べたけど、人見知りの緊張感で、何を食べたかすら覚えてないんだけどなぁ。
「マナ、リキュールは飲むかい? グラッパとか、リモンチェッロとか」
「いえ、ワインを結構いただきましたから、アルコールはもうやめておきます」
「そう」
 フレッドは、ちょっと残念そうかも。
「この後、ドルチェは食べますか?」
 セイさんが聞いてくれる。
 ドルチェ! とっても食べたいです。
「何があるんでしょう?」
と聞くと、フレッドが店員さんを呼んで聞いてくれる。
「本日は、ティラミスにパンナコッタ、季節のフルーツソルベがございます」
「わたし、ティラミスがいいです」
「じゃあ、それを3つに。 マナ、エスプレッソは飲める?」
「はい、大丈夫です」
「そう、じゃエスプレッソも3つで」
「かしこまりました」
 食事の皿が片付けられて、ティラミスとエスプレッソが運ばれてくると、
「さぁ、お腹も大分落ち着いた事だし、少し、これからの話しをしようか」
と、フレッドが口を開く。
 ティラミス、甘くとろけるマスカルポーネに、ほろ苦いココアパウダー、下に敷かれたスポンジも柔らかく、しっとりコーヒーを吸い込んでいて、そこに濃厚なエスプレッソを口に含むと……しあわせ。
「マナさん、おいしいですか?」
 セイさんが笑顔で聞いてくるので、こちらも笑顔で返す
「はい、とっても」
「だから、ふたりでいい雰囲気作るの禁止」
 フレッドが口を尖らす。
 別に、いい雰囲気なんてなってないもん、デザートを楽しんでいるだけですー。
 とは思うが、面倒なので放っておく。
「まぁ、いいや。 とりあえず、今回のダンジョンで取れた鉱石は、全部マナの魔法バッグに保管しておいてほしい」
「はい、いいですよ」
「それと、魔宝石はこれから鑑定に預けるから、明日には鑑定結果が貰えるはず」
「付与効果によっては、もう一度、潜る必要もありますね」
「うん。 うまく、いい効果付きのが入ってるといいんだけどね」
「あ、では、今のうちに魔宝石は渡しておきますね」
と、魔法バッグから、魔宝石をとりだしてフレッドに渡す。
 フレッドは店員を呼ぶと、
「この魔宝石を、鑑定に出しておいてもらえる?」
とお願いする。
 店員さんは、
「かしこまりました」
と、ナフキンにくるんで持って行ってくれた。
 ここでは、そういう事までうけたまわってくれちゃうのね、と感心する。
「わたしのハンマーに付ける効果、マヒとか気絶がいいんですよね? ちなみに、おふたりは武器にどんな効果を付けてるんですか?」
「僕の剣には、睡眠効果が付けてあるよ。 さっき使ってた、コンパウンドボウには命中率UPが付いてる」
「俺の刀には、攻撃力UPですね」
「セイは、剣技だけでも鬼強いのに、更に攻撃力UPなんだよ。 もっと戦いが楽になるような効果付ければいいのにさ」
「俺は、他には必要ないので」
「ね、面白くないでしょう?」
 んー、そういうのも好みの問題なんだろうな。

 ドルチェも食べ終わって、エスプレッソのおかわりを頼みながら、そういえば、と思い出す。
 フレッドが王子様なら、王都に行ったという、あの人の事を知っているかもしれない。
「あの、ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」
「ん、なに?」
「回復魔法の講義を受けた時に、シスターのおひとりに聞いたのですが、3年前に教会に現れた、日本人のコミネユウヤさん、という方をご存知ですか?」
「 ? いや、知らないな」
「1年前に、王都に呼び出されて、行かれたらしいんですけど」
「王都に…。 うーん。 マナ、残念だけど僕には分からないんだ。 僕もかなり長い間、王都には戻ってないからね」
「え、そうなんですか?」
「うん。 前に言ったろ、僕は暗殺される対象だから」
「えーと、では、王都から逃げていらっしゃる?」
「表立って逃亡してる訳じゃないけどね。 母方の叔父が、隣国であるセフィーロ王国を治めている関係で、そちらへ、留学という名目で避難してる状態」
「 ? 今は、ロランにいらっしゃいますよね」
「うん。 君を迎えにくるためにね」
「えーと、では、わたしの為に危険なロランに戻ってきて、今も滞在中である、と?」
「そういう事になるね」
「のんびりダンジョン攻略なんて、している場合ではないのでは?」
「いやいや、急がば回れっていうでしょ。 まずはマナの装備を充実させないと、何もできないから」
「う、すいません」
「謝らないで。 マナには、僕達のために頑張ってもらってるんだから、すごく感謝してるんだよ」
「そんな、感謝だなんて」
「ホント、ホント。 だからとりあえず、明日は鑑定の結果待ちという事で、温泉のプールで遊ぼうか?」
「ぷーる?」
「そうそう、ここの温泉はスパ施設がメインなんだけど、大きな温泉プールがあって、そこから、ラグーンって名前にもなってるんだよ。 流れるんだよ?」
「それは、遠慮しておきます」
「えー? なんで、楽しいよ? 水着もレンタルであるし、浮き輪で一緒に流れようよ」
「いえ、遠慮いたします」
 男性とプールなんて、そんなイベントした事ないので、気持ち的に無理です。
 それも水着でなんて、とんでもない。
 明日は、女性向けのところだけ回って、一人で楽しもう。
 心なしかセイさんも、残念そうなお顔に見えるような気もしないでもないけど、でも無理なので。

 大満足の食事も堪能した事だし、自分のロッジに行って、この施設で何ができるのか見てみなくちゃ。
 ロッジごとの内風呂も温泉だというし、今日は、そちらを使うでいいかな。
 わたしのロッジの前まで、おふたりに送ってもらって、そこでお別れする。
「おいしいお食事、ごちそうさまでした」
「どういたしまして。 今日はおつかれさま、マナ」
「マナさん、ゆっくり休んで下さいね」
 そう言って、ふたりも隣のロッジに入っていく。
 さぁ、わんこ達と、のんびりしよう。
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