異世界わんこ

洋里

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第二章

錬金術のお手伝い

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 馬小屋を見たあと、少し散策がてら、犬達とぐるりと散歩をして帰ると、ヒルダが作業をしている奥の部屋から、ちょいちょい、と手招きをしている。
 何だろう?
 行ってみると、作業部屋の中では炉が燃えたぎり、星座盤のような丸い盤の上には、青やピンクやオレンジの不思議な光を放つ鉱物が浮かびながら、ゆっくり回転している。
 あんなに激しく炉の中は燃えているのに、なぜか、部屋の中は暑くはなかった。
「マナ、お主は魔力が膨大なようじゃから、ちょっと手伝え」
 唐突に言われるが、錬金術のお手伝いって素人にもできるのかしら。
「はぁ、お手伝いは構いませんが、何をすればいいんでしょう?」
と、聞くと、ヒルダは指差しながら説明をしてくれる、
「あの燃えている炉の中には、アダマント鉱石が入っておる。 そこに、このサファイヤの魔宝石を混ぜ合わせたものを突っ込んで、仕上げの魔力注入をするのじゃ」
「はぁ」
「我が、魔宝石を炉に入れたら、中からになる部分が出てくる。 それに触れながら、マナの魔力を目一杯込めるのじゃ」
 なるほど、魔力注入要員なのね。
「わかりました、やってみます」
 返事をすると、
「よし、ではいくぞ」
 そう言って、ヒルダは星座盤を持ち上げ、浮いている魔宝石ごと炉の中にそうっと入れる。
 途端に、

 ゴウッ

と、ひときわ激しく炎が燃え上がり、中から棒状のものがスウっと出てくる。
「マナそれに触って、魔力注入じゃ」
「はい」
 言われたとおりに柄の部分に触れてみる。
 熱くはないので、きゅっと握り、そのまま目を閉じて、魔力を込めていく。

 ………………。
「まだまだ。 もっと魔力を込めるのじゃ」

 …………………………。
「うむ、あともうひと息じゃ」

 ……………………………………。
「ふむ、まぁよかろう。 そのまま、引っ張りだしてみよ」

 言われて目を開け、ぐぐっ、と柄を引っ張ってみる。
 少し引き込むような抵抗感はあったものの、スッと出てきたそれは、まだ熱で赤々としているが、空気に触れ段々と冷めていくうちに、本来の色合いがよみがえってくる。
 不思議さにまじまじと見つめていると、柄の部分の形状も少しずつ変化しているようで、幾本もの植物の茎が絡み合ったような形になっていく。
 先端は丸く膨らみを帯び、下方の透明感のあるブルーからグラデーションのかかった白へと変わり、上にいくにしたがって、ピンクがかった透明感のあるオレンジ色へと鮮やかに色づく。
 オレンジ色の突端はぎざぎざと尖がっているが、この形は、花の蕾?
 丸い部分の下の青色は、花のガクの形になっていく。
「ふむ、なかなかじゃの。 これがお主の武器、ロータスの戦槌せんついじゃ」
「ロータスの戦槌」
「ブルーサファイヤの【攻撃力UP】と、パパラチア・サファイヤの【気絶特大効果】がついておる」
 ヒルダが得意そうに説明をしているが、わたしは、その武器のあまりの美しさに見惚みとれてしまっていた。
「すごく、綺麗です」
 ほうっ、と息を吐きながらつぶやくと、
「うむ、よかったの。 我も会心のできじゃ」
と、ヒルダも嬉しそうだ。
「このままいただいても?」
「ああ、持っていってくれ。 もう一個の武器は、また明日じゃ。 続けて作るのは、魔力消費が激し過ぎるからの。 明日も、また手伝え」
 自分の武器だし、こうして神秘的な錬金術の工程を間近に見ながらのお手伝いは、なかなかに興味深い。
 喜んで、明日もお手伝いさせていただこう。
 わたしは、あまりに綺麗で神秘的なロータスの戦槌せんついから、目を離せないまま、
「はい、わかりました」
と、ヒルダにうなずいた。

 翌日も、お昼頃からヒルダに、作業部屋へ呼ばれる。
 昨日と同じように、炉にはゴウゴウと火が焚かれ、やはり星座盤の上に不思議な光の鉱物が浮かんで、今度は、結構速い速度で回転している。
 こちらは、青と黄色に光っているようだ。
「マナ、手順は昨日と同じ。 これを中に入れたら、でてきた柄に触れて魔力注入じゃ」
「はい」
 ヒルダが星座盤を持って、そのまま炉に入れる。
 そこから出てきた柄の部分を持って、魔力を込める。
 すると、そこにどこから入ってきたのか、ミルクが、

ピョーン

と、ひと跳びして、わたしの頭の上に乗る。
 (え、そんな高いジャンプ、今までした事ないよね)
 びっくりしていると、横からヒルダのげきがとぶ。
「マナ、ぼーっとしとらんと魔力を込めい!」
「あ、は、はい」
 ミルクを頭に乗せたままだが、目を閉じて集中する。

 …………。

 ………………。

 …………………………。

 あれ? なんだか目が回るような?
「よし! そろそろいいじゃろう。 マナ引き抜いてみよ」
 言われて、引き込まれるような抵抗感を感じながらも、ぐぐっ、と引っ張って取りだす。

 きら きら きら きら
 (すごくまぶしい)

と、思って見ていると、ぐるぐると目が回って、そのまま床に倒れ込んでしまった。
「マナ! マナ! おい、フレッド、セイ、こっちに来てくれ!」
 ヒルダの呼び声がしているが、そのまま気が遠くなっていく……。

 おでこが、冷たい。
 そう感じて目が覚めた。
 頭の上の方で、声がする。
「あれだけ膨大なマナの魔力を、魔力切れ起こすまで使わせるなんて、どういう事?」
 フレッドのいつもと違う、少し厳しい声がする。
「すまぬ。 我も、そこまで無茶をさせるつもりではなかったんじゃが。 できあがった武器が武器じゃしのう」
 ヒルダの声も、いつもの尊大さは息をひそめたかのように、おとなしいものになっている。
「あの、すみません。 いつの間にか、寝てしまっていたようで」
 おでこの上の濡れタオルを外して起き上がるが、まだちょっと、頭がくらくらしている気がする。
 ここ、ヒルダのベッドなのかな。
「ああ、マナ。 無理して起きなくていいから」
 フレッドが、すぐにそばに来て肩を支えてくれる。
「魔力切れを起こして、気絶したんだよ。 眩暈めまいがしたら、魔法は使わない事って前に言ったよね」
「はい。 あの、魔法は特に使ってはいなかったんですが」
「そうだね。 でも、とんでもない錬金術に力を貸してたでしょ?」
「はぁ、とんでもない、ですか?」
 そこで、ヒルダもこちらに来て、わたしの手を握りながら、
「マナ、悪かったのう。 こんなに、魔力を使わせるつもりではなかったんじゃが、どうにも、武器作成の錬金術がうまくいき過ぎたようでの」
「うまくいきすぎ、ですか?」
「うむ。 なぜか、もの凄い武器ができてしもうたのじゃ」
 セイが、その武器を持ってきて見せてくれる。
 それは、持ち手の部分に美しい螺旋らせん状の彫刻の施された、長い、こん棒?
「これって?」
両手りょうてこんじゃ。 神級武器、ケラウノス」
「しんきゅう…」
「うーむ。 我も、ジュピターに縁があるとはいえ、まさか、ここまでのシロモノができるとは思いもしなかったのじゃ」
 手渡されると、その先端は金属が三つ又に別れ、中心部分の青と黄色に光り輝く鉱物を取り囲んで支えている。
「打撃用の武器ですよね?」
「うむ。 そうじゃが、ケラウノスなので、先端部分を敵に向かって振り下ろすと、いかずちが出るのじゃ」
「いかずち」
「うむ、激しい雷じゃな」
「それは、凄いですね」
「じゃろう? それがあれば、雷魔法の適性がなくても、雷がだせるのじゃ」
 ヒルダは、やっとホッとしたように笑顔になる。
「とにかく、今日マナは、ゆっくり休む事。 もう無茶な手伝いは禁止ね」
と、不機嫌そうなフレッドに、
「はぁ、でもこんな凄い武器ができたんですから、結果オーライでは?」
 そう聞くと、ちょっと怒ったように、
「凄い武器ができても、使う人が倒れちゃったら本末転倒。 マナは大事な人なんだから、もう少し自覚して」
と、腕を組んで言われてしまう。
「すみません……」
 確かにそうかもだけど、そんなに怒らなくてもいいのに。
「マナさん、ヒルダ殿の台所を借りて、今夜は俺が夕飯を作りますから。 休んでいてください」
と、横からセイも声をかけてくれる。
「セイが、お料理を?」
「はい、男の手料理なので、たいした物はできませんが、ご馳走しますので」
と、穏やかに微笑んでくれる。
「それは、すごく楽しみです」
 ご飯を男の人に作ってもらうなんて、初めてだ。
 さっきまで、怒られて〔しゅん〕としていた気持ちが、あっという間に晴れてしまった。
 それどころか、たまには倒れてみるものだなぁ、なんてのん気な事を思ってしまう。
 夕飯、本当に楽しみだなぁ。


 結局夕方まで、そのままベッドを借りて横になっていたが、セイが食事に呼びにきてくれたので起き上がる。
 うん、もうふらつく感じはないみたい。
「今夜のメニューは、パスタにしました。 マナさんのバッグには入れないので、ヒルダ殿の食糧庫から材料をもらって作ったんですが、なかなか充実したラインナップで、何を作るか悩みましたよ」
 あ、そうか、わたしが入れてあげないと魔法バッグには入れないもんね、悪い事しちゃったな。
 ヒルダの小屋のリビングで、テーブルには、パスタとサラダのお皿が並んでいる。
 グラスの中で、泡がパシパシと弾けている飲み物までついている。
「グリーンサラダとボロネーゼ。 飲み物はシードルです。 さあ、どうぞ」
 席に着いて、さっそくいただく。
「わぁ、おいしそう。 いただきます」
 まずは、サラダに手をつけると、ドレッシングには、シードルをお酢代わりに使っているようで、すごく香りがいい。
 ボロネーゼは、ソースに使われている挽肉の粒が大きくて、食べ応えがある。
 パスタの茹で加減も、ちゃんとアルデンテで、歯応えがプリプリとして凄く美味しい。
 チーズは、自分ですりおろしてかけるように別皿に置いてあったが、セイが、
「マナさん、チーズかけますか?」
と、すりおろしながらパスタにかけてくれた。
 これでまた、一段と味に変化がついて食欲をそそる。
 パクパクとパスタを頬張ってから、シードルを流し込むと、そのさっぱりとした酸味でお口の脂肪分が流されていく。
 あぁ、作ってもらったお料理って、なんて美味しいの。
 ふと視線を感じて、横を見るとセイがこちらを見ていた。
「おいしいですか?」
「はい、とっても」
 満面の笑顔で答えると、セイも嬉しそうに微笑む。
 作った料理を、褒められるのは嬉しいよね。
 にこ にこ にこ にこ。
「セーイ、お替わり」
 そこに、少し不機嫌そうにフレッドが割り込む。
「あ、ソースはたっぷりありますが、パスタは新しく茹でないといけないんです」
と、セイが言って台所に立とうとすると、
「ああ、いい いい。 パスタ茹でるくらいなら僕だってできるから」
 そう言って、フレッドが自分で台所に向かう。
「そうですか?」
と、いぶかなセイだったが、その5分後、台所からフレッドの大声が聞こえてくる、
「セイー、お湯がどんどんこぼれちゃうんだけどー」
「あぁ、はいはい。 やっぱり無理だった」
 そう言いながら、台所のフレッドの元へ駆け付けていく。
 素知らぬ顔で、パスタもサラダも完食したヒルダは、
「あやつ、自分で湯も沸かした事がないくせに、なにを、対抗心を燃やしておるのか?」
と、不思議そうにしていた。
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