異世界わんこ

洋里

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第二章

水姪と馬小屋

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 昨夜は、きちんと魔法バッグの家に戻って、自分の部屋でぐっすり眠り、翌日の朝、すっかり元気になったわたしは、朝食の支度をしている。
 今朝は、アウラの民宿でもらったトウキビパンに、コールスローサラダ、コールドチキンにコーンスープ。
 昨日の夕食のあとで、ヒルダに、小屋の地下にあるという食糧庫を見学させてもらったのだが、そこは、部屋一つ分を、魔法バッグと同じく、時間経過を止める細工がほどこしてあった。
 そこで、こちらの持っていない調味料など、色々と物々交換してもらえたので、多少メニューに幅が出ている。
 それに、ミキサー的な粉砕機も貸してもらえたので、大量にあったトウモロコシを、一気にペーストにできたのも嬉しい。
 まぁ、その作業は、
「マナは、まだ安静にしてなきゃダメ!」
という、フレッドのひと声で、フレッドとセイがやってくれたんだけど。
 皮やヒゲを取り除いて、茹でて実を取って、と結構大変だったと思う。
 でもこれでしばらく、いつでもコーンスープが飲めるのだからありがたい。
 ヒルダもバッグの中に呼んで、朝ご飯を一緒に食べてから、食後にお茶を出していると、
「ヒルダ、そろそろ、もう一個の水姪すいてつを何と交換するか決まったかい?」
と、フレッドが切り出した。
 ヒルダは、一瞬ビクっとするが、
「それなんじゃが、我の差し出せるものはあまりなくての。 最初にお主等にもらった、透明マントを返すくらいしか思い付かんのじゃ」
 ちょっと、うつむきながらもそう言うヒルダに、
「あ、透明マント返してくれるの? でも、あれがあれば、グルームダンジョンにひとりで潜るのに便利だって喜んでたのに、いいの?」
と、フレッド。
「うむ。 今までは1階層でしか素材集めができんかったから、あれがあれば、効率は断然よくなるじゃろうなぁ。 惜しいが仕方ない」
 ヒルダは、残念そうに溜息をつきながら答える、
「んー、じゃあさ。 他にヒルダの持ち物って何があるか、ちょっと言ってみてよ」
 フレッドが、テーブルに頬杖をつきつつ言うと、ヒルダは心持ち上方を見ながら、
「他に? 特にはないが、強いて言えば裏の温室、食糧庫の食料」
と、答えていく。
「うんうん、あとは?」
 うながされて、さらに考え込みながらも、
「むー、価値がありそうな物なんて他にはないが。 庭の花壇に、馬小屋か?」
 馬小屋、とヒルダが口にした瞬間に、キラリ、とフレッドの目が光ったように見えた。
「その中で、どうしても手放せないのは?」
と、さらにつき詰めていく。
「温室は、錬金術に必要な希少な植物を育てておるから、なくなるのは困る。 花壇もしかりじゃ。 そうなると、食料に馬小屋じゃが。 食料を全部やっては我が飢えるし、そこまでの価値はないからのう」
 そうヒルダが言うと、
「なら、残りの馬小屋を貰うしか、選択肢はないみたいだね」
 ふー、やれやれ、という感じに、ジェスチャーしながら結論付けるフレッドに、
「う、いやいいのか? あんな小さな馬小屋ひとつ、水姪すいてつの価値には到底及ばんぞ」
と、慌てるヒルダ。
「仕方ないよ。 僕とヒルダの仲だし、同級生のよしみで今回はサービスしておくよ」
 すごく柔らかな微笑みでフレッドが言うと、
「フレッド! お主、そんなにも親切な思いやりのある男じゃったんじゃなぁ」
と、ヒルダは感激しきりの様子だ。
「いやいや、その代り、今後も僕達の依頼があったら優先的に頼むよ」
と、爽やかな笑顔で畳みかけるフレッドに、
「うむ、分かった。 任せておけ!」
と、ヒルダが答え、満面の笑みでふたりは握手を交わす。
 そこまで交渉が進んだ所で、やっと口を挟めそうだったので、ちょっと聞いてみる、
「あの、ヒルダ? 馬小屋のデク人形は……」
 くるり、とこちらを振り向いて、機嫌のよさそうなヒルダが答える、
「ああ、あれもセットにするぞ。 でないと、本当に馬小屋だけでは無価値過ぎて申し訳ないからの」
「いいんですか? あんな可愛い人形」
 わたしが言うと、
「ん? クルルに会ったのか? 別に構わんぞ。 あのタイプのデク人形は、我の作った量産型じゃ。 なんなら他のも見てみるか?」
 そう言われて、ヒルダの小屋の地下室、食糧庫の隣の部屋に案内される。
 そこは、可愛い小人さん達の作業部屋となっていた。
「ここでお主等に依頼されている、ヘマタイトの石を砕いてビーズ加工し、ネックレスにする工程と、毒の指輪用のグリーンサファイヤの血清の量産。 あとは、我の方の、ヒルの唾液腺の処理加工をさせておる。 同じ工程を繰り返す、大量生産は面倒じゃからの」
 そこにいる人形達は、クルルと寸分たがわぬ姿。
 違う点は、それぞれが色の違うスモッグととんがり帽子を身に着けている事くらいだった。
 みんな可愛いが、同じ顔である。
 それが、
「こっちは、できましタ?」
「では、ここをもってテ?」
「むこうに、はこんでおきまス?」
 などと、声をかけあって作業をしている。
 可愛い、まるでおとぎの国みたい。
 すると、中の様子を見たフレッドが
「へぇ、こんなにいるなら、今回の作業が終わったらでいいから、ここのコも1体ちょうだい」
と、目を輝かせて言いだした。
 ヒルダは、少し躊躇ちゅうちょしていたが、
「む。 むー、まぁいいか。 あとで暇ができたらまた作ればいいしな。 よかろう、では、馬小屋のクルルとこの作業場の一体もやろう」
と、これものんでしまう。
「マナ、これで料理の下ごしらえは、人形にやってもらえばいいよ。 あ、ついでに昨日借りた粉砕機、あれもちょうだい」
 調子に乗って、なおも言い募るフレッドに
「むー。 ……よかろう。 だがそれで終わりじゃぞ、これ以上は何も出さんからな」
 次々と増える要求に、ヒルダも、そろそろヤバイと気付いたみたい。
「マナ、これで、ポタージュ用の野菜の粉砕も人形に頼めるね」
 フレッドは、昨夜のコーンの粉砕作業が、よほど堪えていたらしい。
 まぁ、王子様だし、単純労働、単純作業は向いていないんだろうな。
 わたしも、あのほぼミキサー的な粉砕機があれば、ポタージュはもちろん、野菜ジュースなども作り放題だから嬉しいけれど。
 ここで、ちょっと気になっていた事を聞いてみる、
「ところで、ヒルの唾液腺って、何にするんですか?」
「おお、薬じゃ」
 フレッドに対する、警戒感あらわだったヒルダの表情が和らぐ。
「何の薬? しかも100個も必要って、ヒルダ持病でもあったっけ?」
とフレッド。
 とたんに、ヒルダは顔を真っ赤にして、ちょっと焦ったように反論する、
「我ではないわ、そんな年寄りくさい。 師匠のじゃ」
「え? 先生、生きてるの?」
 ちょっとポカンとしながら、失礼な事を言うフレッドに、
「当り前じゃ。 だからこそ、こうしてせっせと薬を作っておるのじゃ」
と、ヒルダは、あまり気にしていない様子で答える。
 フレッドは、視線を横にやり、頬を人差し指でかりかりときながら、
「えー、ここに来てから全然姿を見せないから、てっきりもう……」
と、まいったなぁとでも言うようだ。
「いやいや、あのお方がそう簡単にくたばるか。 今は、持病の悪化で痛みがあるゆえ、ずっと寝ておられるだけじゃ」
「えーと、何の病気か聞いても?」
と、わたしが聞くと、
「膝の関節症じゃ」
と、ヒルダはことも無げに答える。
「え、膝関節?」
「うむ。 年と共に悪化しておるので、回復魔法では、もう追い付かんのじゃ。 ヒルの唾液腺からは、特効薬ができるから量産しておいて、師匠が起きた時に使うのじゃ。 薬が切れたら、また眠りに入る」
「それは大変だな」
と、腕を組んで考え込むフレッド。
「うむ。 しかし、これもまた修行なのじゃ。 師匠には、まだまだ教わりたい事が多いからの、元気でいてもらわねば」
 明るくそう話すヒルダ、健気な良い子だな。
 しかし、唾液腺が大量に必要なのは、お師匠様のご病気の為だったのね。
 だからこそ、グルームダンジョンに近い、この不幸の森に居を構えているのか。
 ここで、もう一つの疑問も、この際なので聞いてみる。
「ヒルダ、じゃあ水姪すいてつは何に使うの?」
 すると、パッとこちらを向いて
「おぉ、あれも師匠の為じゃ。 水姪は滋養強壮の薬になるのでな、温室の山人参やマンドラゴラと調合して、師匠に飲ませるのじゃ」
と、いい笑顔で答える。
 水姪、滋養強壮の薬の材料だったとは、あの苦労がユン●ルとかリポ●タン並か、と思ってしまうと、ちょっとがっくりくるかも。
 それにしても、膝の関節が痛むのなら、実はコラーゲンの摂取が有効なのではないかしら?
 以前、おばあちゃんもよく膝痛で困っていたから、何度か作ってあげた事があるコラーゲンスープ。
 材料はあるから、あとで皮つきの鶏肉で作ってあげよう。
 あ、あと、こんなに色々もらう事になったんだから、ヒルダにもおやつを作ろう。
「ねぇヒルダ、このお人形さん達は何か食べたりできるの?」
「いや、味見くらいならいいが、基本は人形じゃからの。 しっかりした食事は無理じゃな」
「味見はいいんだ。 ん、分かった」
「 ? 」
 ヒルダは不思議そうにしていたが、その後、わたしは自分の魔法バッグに戻ってから、台所にこもる。
 まずは、おやつ作りだ。
 白玉粉に、水を混ぜてこねて耳たぶくらいの柔らかさにしてから、お湯を沸かして、ひと口大の団子状に丸めた白玉を、ぽとぽと落として茹で上げる。
 浮かんできたら水にさらして、っと。
 餡子のパックをあけて、これも少し水でゆるめて。
 器に盛り付けたら【白玉ぜんざい】の出来上がり。
 お人形さん用には極小サイズの白玉にして、ほんのちょっぴり餡子を垂らす。
 あとは、皮つき鶏肉と生姜風ハーブ、ニンニク、ネギ、玉ねぎを大きめの鍋で沸騰させて、そこから弱火でトロトロ煮込む。
 これは、明日にでも塩胡椒で味を整えてから、ヒルダのお師匠様用としてあげよう。
 とりあえず、できた白玉ぜんざいと緑茶を用意して、トレイに乗せて作業場に持って行く、
「差し入れですよ、休憩しませんか?」
と、声をかけて配ると、
「マナ、これは?」
 いぶかなヒルダに、
「白玉ぜんざいです。 ジパングのお菓子ですね、甘くておいしいですよ」
と、説明する。
「ジパングのお菓子……」
 つぶやきながら、ひと口頬張ると、
「ん───! これはまた不思議なもちもち食感で、甘くてうまいのじゃ」
と、ヒルダは頬を赤くしている。
 お人形さん達も、ちょっぴりの味見なのだが、そうとう嬉しかったようで、
「これは、おいしいあジ?」
とか、
「あまくておいしイ?」
とか言いながら、お口をモグモグさせている。
「本当は、バニラアイスとか生クリームとかあれば、クリーム白玉にできたんですけど」
と、言うと、
「む? 生クリームは知っておるが、ばにらあいす?」
「はい、生クリームや砂糖やバニラっていう香辛料を使って、冷やし固めたお菓子ですね」
「それも、うまいのか?」
「はい、それはもう。 わたしも大好物ですから」
「では、次は、そのばにらあいすも食べてみたいのじゃ」
「あー、わたしも食べたいのは山々なんですが、凍らせるくらいに冷やしながら撹拌かくはんしないといけないので、ちょっと難しいと思います」
「……凍らせるくらいに、冷やしながら撹拌」
「そうですね。あと材料もないですし」
「ふむ」
「 ? 」
 ヒルダは何やら考え込んでしまい、そのまま白玉ぜんざいを平らげると、また作業に戻っていった。
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