異世界わんこ

洋里

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第二章

大錬金術師

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 翌日、煮込んでから、アクをしっかり取りのぞいたコラーゲンスープを完成させて、ヒルダのリビングに行くと、身長が50cmくらいの小さなおじいちゃんが、テーブルの上にのっていた。
 わたしが、鍋を持ったままびっくりしていると、作業部屋からヒルダが出てくる。
「師匠―、作業やり直しの指示を出してきました。 あ、マナ、おはようなのじゃ」
 そうして、
「師匠、こちらが、我の親友のマナです。 マナ、こちらが我の師匠、大錬金術師オズワルド先生じゃ」
と、紹介される。
 いつの間にか、友人から親友に格上げされているのが気になったが、まぁいいや。
「はじめまして、コヒナタ マナと申します」
 大錬金術師オズワルドさんは、テーブルの上でこちらに向き直り、うやうやしく丁寧な礼をしてくださる。
 魔法使いのような灰色の長いローブを着て、真っ白い長いヒゲ、小さな眼鏡をちょこんと鉤鼻かぎばなにのせて、頭には丸いニットのような帽子を被っている。
「はじめまして。 異世界からようこそ、金の髪の乙女たるマナ殿」
 異世界から、と言われて驚いていると、今朝、馬達の運動のために森を早駆けしてくると言っていた、フレッド達が帰ってくる。
「これはオズワルド先生、お目覚めであられましたか」
と、フレッド。
「これは、お久しぶりでございます。 フレデリック殿下」
と、オズワルドさん。
「ところで、マナ。 そんな大きな鍋を持ったまま突っ立って、どうしたの?」
「あ、あの。 これは、関節痛にはコラーゲンがいいかと思いまして、コラーゲンスープを作ったので、お師匠様に飲んでいただこうかと」
 そう言うと。
「ほう、わしの為に作って下さったと。 ありがたくいただきましょう。 これヒルダ、食器と匙を持ってきてくれんか?」
 どうやら、すぐに飲んでみるおつもりのようだ。
「あ、わたしが台所に行きます」
と、鍋を台所に運んで、ヒルダが出してくれた、オズワルドさん用の小さなスープカップと匙を受けとる。
 カップいっぱいに、コラーゲンスープを入れて持っていくと、
「どれ、いただきますかな」
と、受け取ってすぐに口をつける。
「ふむ。 これは、あなたの魔力も込められていますな、実に美味。 ありがとう」
「いえ、お口に合ったようでよかったです」
 そして、フレッドがまた、
「先生、膝を痛めていらっしゃるとか? お加減はいかがですか?」
と、気遣う言葉をかける。
「ふむ、ヒルダが余計な事を言ったようじゃ。 まぁまぁといった所ですな、殿下も薬の材料を調達するのに手を貸して下さったとか、感謝いたします」
「いえ、それは構わないのですが、痛みで長く寝込まれているとか」
「うーむ。 まぁ、年が年ですからな。 よわい300も越えますと、ガタがくるのが当然でございましょう。 痛みのある時は寝て過ごし、薬で治まるうちは起きて弟子を育てる。 ヒルダは、わしの最後の弟子と思っておりますのでな、できる限り長生きして、わしの知識も技術も余すところなく伝えてやりたいと、老いぼれの足掻あがきとでもいいましょうか。 まぁ、今はおかげさまで薬も効き、滋養強壮の栄養剤も飲んだ、さらには異世界の金の乙女手づからの、黄金のスープまで頂きましたからの、しばらくは、起きていられそうじゃと思っております」
「そうですか、まずは無理のなきよう。 私共も、ヒルダへの依頼品ができあがるまでは、こちらに滞在させていただきますが」
「ふむ。 では、その依頼品も多少見させていただきましょう」
「ありがとうございます。 よろしくお願いします」
 フレッドは、頭を下げると、
「では、マナ、一度失礼しようか」
と促す。
 とりあえず、フレッドとセイをバッグに入れて、私も一礼してからバッグに戻った。

 家に入ると、リビングで、フレッドがソファに腰かけながら、
「ひゃあー、驚いた。 なんで先生がいきなりいるんだよ」
と、騒いでいる。
「可愛らしいけれど、すごく威厳のあるおじいちゃまですね」
と、わたしが言うと、
「プーッ!」
と、吹き出されてしまった。
「マナ、あの方は、見た目はお小さいけれど、中身を知ったら、決して可愛らしいなんて思えなくなるよ」
「そうなんですか?」
「そりゃあもう。 僕とヒルダが同級生だったっていうのは、以前話したと思うけど、オズワルド先生は、その時の錬金術担当講師だったんだ。 厳しくって有名な先生でさ、当時は、かなりこってり絞られたものだよ」
「まあ、では、おふたりの恩師なんですね」
「そうだね。 その頃に、ヒルダはすっかり先生に心酔してしまって、無理矢理、押しかけ弟子入りしたんだよね」
「情熱的ですね」
「んー、でも先生は、それが原因で講師をお辞めになったしなぁ」
「そうなんですか?」
「うん、ヒルダは貴族の姫だから、一介の錬金術師になんて、実家はする気はなかったろうしね。 学校にかなりの抗議がいって、結局、先生は講師の職よりも弟子をとった、という訳だね」
「じゃあ、ヒルダさんの思いが通じたんですね」
「どうだろう? まあ、本人は満足して修行に励んでいるみたいだし、結果的には良かったのかもしれないけど。 ヒルダの実家の家族には気の毒な事だよ」
「それでも、ヒルダさんの人生は、家族のものではなく彼女のものですから。 やっぱり、思いが叶ってよかったのだと思いますけど」
「うーん、本来貴族には、通じない道理なんだけどね」
 ちょっぴり、困った顔になるフレッド。
 貴族であれば、自分の人生が、思いのままにならないのが普通なのだろうか?
 だとしたら、気の毒なのは家族よりも、人生を自分で選べない貴族のお姫様の方だと思うのだけど。
「そういえば、フレッドとヒルダは同級生で、セイは一緒ではないんですか?」
 すると、黙って聞いていたセイが、
「ああ、俺はフレッドの従者という立場ですから。 王族や貴族とは、違うクラスだったんです」
と答える。
「身分階級で、クラスが違っていたと?」
端的たんてきにいえばそうなります。 寮の部屋は、フレッドの傍付そばづきという事で、隣の部屋を与えられていましたけれど」
「そうなんですね。 何だか、シビアな世界のように感じます」
 やっぱり別世界なんだなぁ。
「そうは言っても、そうして、階級でわける事によって安全性を保ったり、先々の、貴族間の付き合いのコネを作ったり、大事な制度ではあるんだよ」
 わたしも、決して恵まれた学生時代を過ごしてきたわけじゃないからなぁ。
 それが良いか悪いかの判断も、身分階級に縁のなかったわたしには、わかりようがないよね。

 その後わたしは、犬達に、久しぶりに自分で櫛をかけてすごした。
 ハクはダブルコートなので、特に今の時期は抜け毛がすごく多い。
 熱心に取り組むと、平気で1時間くらいあっという間に経ってしまう。
 その分、我慢するハクには気の毒ではあるんだけれど、やればやるほど涼しくなるんだから、頑張ってほしい。

 その日の夕飯は、こちらで作ったものを、ヒルダのリビングへと運んで皆でいただく事になったのだが、その食卓で、オズワルド先生がある提案をしてきた。
「お預かりしている魔宝石なのですが、あのグリーンサファイヤの毒の血清が、どうも、上手くいっておらぬようですな」
「そうですか。 では、使うのはやめておいた方がいいでしょうか?」
「いや、逆に作用する解毒の石を使えば、事は簡単なのですよ。 よければ、わしのお使いを兼ねて、取りに行ってみては如何いかがでしょう?」
「解毒の石ですか。 うーん、それですと、エメラルドの王家の谷ですか?」
「流石は殿下ですな、その通り。 王家の谷のネクロバレー・ダンジョンであれば、質の高いエメラルドが出るでしょうな」
「それで、先生のお使いというのは?」
「最下層に行けたら、エメラルド・タブレットを取ってきていただきたい」
「エメラルド・タブレット……。 果たして実在するのでしょうか?」
「それなのだが、実は、すでにいくつか保持しておりましてな。 残り数個のタブレットを集めてしまいたいのですよ。 幸いなことに、あなた方のパーティには幸運をつかさどる者がいるようですからな。 確率は高いと踏んでのお願いなのです」
「あー、確かにラッキーな事が続いてはいますが。 先生には、誰がそうなのかおわかりですか?」
「むろん、むろん。 何せ、金の髪の乙女が異世界から連れてこられた犬達は、みな神話級、伝説級に進化しておりますからな」
「え、そうなんですか?」
「そこな耳の垂れた犬は、ファリニシュですな。 そして、その母たる犬はサラマーとなっております。 そして、一番小さな犬は、妖精クー・シーですな。 幸運は、妖精クー・シーのもたらしているものでしょう」
 食卓の横で、わんこ用のご飯を食べている犬達を見ながら、サラサラと答えるオズワルド先生。
 すごい、見ただけでそこまで分かるのも凄いし、ウチのコ達が、そんな進化を遂げているとは、驚きすぎて食事の手が止まってしまう。
「ただ、あそこは、バジリスクやコカトリスがおりますゆえ。 一筋縄では、攻略はできますまい。 そこでヒルダ、お前もご一緒して皆さんをお助けしなさい」
「えー! 我も行くのですか? でも師匠! 師匠がせっかく目覚められたというのに、教えをいただくチャンスを逃してまで行きたくはないです」
「ヒルダ、幸い今回は薬を100個、水姪すいてつの栄養剤もあと1個あるであろう。 100日間は起きていられるのだから、それまでに戻ればよい話じゃ。 それに、わしに教わるよりも更に勉強になる事は間違いない。 そして、マナ殿とは親友なのであろう? 友を助けるのも大事な事じゃ。 内にもって研究に励むのも大切であるが、外で見聞を広めるのもまた大切なものじゃよ」
「う、確かにそうですね」
「それに、わしからの宿題もそこそこに、冷却撹拌機かくはんきだのバニラの香油だのと、勝手に研究をしておったではないか。 暇なのだろうから行ってきなさい」
「う」
 ヒルダ、それはもしかして、わたしが言ったバニラアイスのためかしら?
「では、もう異論はないな? ダンジョンでは、お前の知識と技術がきっと役に立つであろう。 頑張っておいで」
「わかりました。 フレッド、セイ、マナ、よろしく頼む」
 そうして、解毒効果のあるエメラルドの魔宝石と、オズワルド先生のお使いであるエメラルド・タブレットを取るために、わたし達は、王家の谷へと出かける事が決まったのだった。

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