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第二章
病み
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ベネディクト・ハーキュリー・ロラン
彼は幸福な男であった。
彼は王族であるにも関わらず、珍しく政略結婚ではない、心から望んだ相手との婚姻を手に入れた。
もちろん、周囲の反対は激しいものであったが、彼はなにものにも代えがたい、真実の愛を信じて疑わなかったので、そんな障害などいとも容易く乗り越えられると思っていたし、現に今乗り越えて、昔から恋焦がれていた幼馴染の女性と、結婚する事ができた。
さらには、彼女のお腹には自分の子供が宿っているという。
これ以上の幸せなどないであろうと、幸福の絶頂を味わっていた。
第2・第3夫人、まして妾など必要ない。
彼女のみを生涯愛し続けていこう、と彼は決意していた。
だがその幸せは、長く続くものではなかったのだ。
彼女のお産の際、数日に渡るほどの陣痛が続き、このままでは命に関わると、医師達は急遽帝王切開に踏みきった。
腹からとりだした子供は、逆子で首にへその緒が巻き付いている状態であった。
どちらの命も危ぶまれたが、結局、彼女はそのまま亡くなり赤子は生きのびた。
赤子は男の子であり、第1王子であった。
最愛の妻を亡くした王は意気消沈し、生まれた王子を顧みることはなかった。
王子は誰からの愛情も注がれる事なく、乳母に育てられる。
その王子が3才になる頃、王に後添えを、という事で、今度こそ政略結婚が周囲によって進められた。
最愛の人を亡くして無気力になっていた王は、それに抗うこともなく、言われるままに隣国の姫と結婚する。
王子は新しいお母様がくるのだ、と胸をときめかせていた。
しかし、その期待は裏切られることとなる。
隣国から嫁いで来た姫は、たいそう気位の高い方であった。
せっかく嫁いできたのに碌に会話もない、ましてや愛情など示してくれない王に、早々に嫌気が差していた。
だが、自分の役割はきちんとわきまえていたので、プライドを捨て男児を授かるための努力はした。
そうして無事に懐妊し王子を生むことができると、お役御免とばかりに、王には必要以上に接しなくなる。
ただ、自分の生んだ王子だけにひたすらに愛情を注ぎ、継子である第1王子を顧みることは皆無であった。
ある日、第1王子が庭の美しく咲いた水仙を王妃へと届けにくる。
だが、王妃がその花を受け取ることはなかった。
しょんぼりとしながら帰っていく彼の背中を見ながら、ちくりと胸は痛んだが、それでもあの子の母親のせいで、わたくしが王に顧みられる事はないんですもの、これはお互い様というものではなくて?
王はひたすらに、最初の妻を悼み、再婚した新しい妃は王の心の癒しとはならず。
それでも、それぞれの心の拠りどころがあるだけ、まだマシであったといえよう。
幼い第1王子は顧みられないながらに、なんとか自分を見ていただきたい、可愛がってもらいたい、その一心で勉学にも剣技にも打ち込んだ。
王にも王妃にも、いつかは自分を見てもらえる、とひたむきに努力をし続けていた。
だが、弟である第2王子が生まれると、周りの家臣たちですら継承権は第2王子のものであろうと噂し合い、ますます孤立を深める事になっていった。
なぜなら第1王子の母は、子爵家の娘であったからだ。
王の貫いた真実の愛によって、本来ならば第1夫人になどなれるはずもなかった結婚である。
後ろ盾としても、貴族ではあっても子爵家では、第2王子の母の出身である、隣国の王族に敵うはずもなかった。
長男である第1王子なのに継承権を受け継ぐことができず、新しい母からの愛も受けられず。
いつからか、彼の夢の中で大きな黒い獣が囁きかけるようになる。
「がんばっても、だれもミてくれないねぇ」
……五月蠅い。
「どりょくしても、ぜーんぶ、ムダだったねぇ」
……止めろ。
「どうして、だーれもアイしてくれないんだろうねぇ」
……黙れ。
「おまえが、ここにいるイミなんてないねぇ」
そんなこと、わかってるんだよ!!!
うなされて汗びっしょりで目覚めると、頬には涙の跡が残っている。
わかっている、わかっているんだ。
その囁きが、いつからか少し違った内容を帯びだしたのは、第2王子の産みの母である王妃が突然の病で亡くなった頃だった。
実の母を亡くした時には、何もわからず実感することはなかったのに、1度も愛情を示してくれた事などない継母を、失ったあまりに大きな悲しみ。
母性を、求めて求めて得られなかった、そしてもう2度と得る事の叶わない。
その絶望感。
深い喪失感と共に眠りについたその日の夢でも、黒い大きな獣は、こちらを凝視したまま囁きかける、
「あいつ、ジャマだねぇ」
……邪魔?
「あいつさえいなきゃ、ジユウになるのにねぇ」
……ああ、そうだな。
黒い大きな獣は、大きくて、真っ赤な口の口角をニタリと持ち上げる。
「あいつ、シんじゃえばいいのにねぇ」
…………そうだ。
フレデリックさえいなければ、俺は母に愛されていたかもしれないのに、あいつさえいなければ、この国の王になるのは俺だったハズなのに、あいつさえいなければ、みんなもっと俺を見てくれたハズなのに!!!
そうか、あいつが邪魔だったんだ。
ようやく解った。
やっと理解できた。
俺が、幸せになるためには、あいつは邪魔なんだ。
そうして、もう二度と得られない母からの愛に飢え、継承権を受け継ぐことだけが、残された父からの愛の証であると、その飢餓感ゆえに彼は暴走する。
「フレデリックを殺さなければ、俺は幸せにはなれない」
夢の中の黒い獣は目を爛々と光らせ、ニタリと大きな口を真っ赤に開いて嗤う。
男は、通い慣れた娼館で、馴染みの女へと己の猛りを打ち付けていた。
「声は出すなよ」
そう吐息で囁きながら、決して若くも美しくもないその娼婦の、目から零れる愉悦の涙を舌ですくう。
それは古代中国でいう所の房中術とでもいうのだろうか。
繰り返し女の精をとりこみ、自らの体内で循環させる。
漏らす声も、堪えることで自然と零れる涙すらも、逃すまいと男は貪る。
そうして何度も何度も気をやって、くたくたのデク人形のようになった女の中に、最後の残りカスのような残骸を吐きだす。
ぼうぜんと放心し続ける女を横目に、
(この女も、そろそろ潮時か)
と男は考える。
見た目が愚鈍でパっとしない女だが、年は30だったはずだ。
豊満な胸とたっぷりした尻が柔らかく、抱き心地はよかった。
しかし何度も通って精を吸い尽くすうち、どう見ても40手前にまで老け込んでしまった。
肌の張りもとうに失われ、たるんでシワが寄っている部分もある。
美しくないぶん他の客が付かず、それだけ男の言う事は何でも受け入れる女だったが、次は河岸を変えるか。
身支度をして部屋を出る間際、いつもよりもかなり多い金額を、軽く鼾をかきながら寝てしまった女の寝床に置くと、男は娼館を後にする。
それにしても…。
せっかく第2王子を捕らえるチャンスを与えてやったのに、みすみす取り逃すとは、あの第1王子もとんだ見込み違いだったのかもしれん。
タロットでの占いと称して、ダエーワの託宣を与えてやったというのに。
あれで気の消耗が進んだせいで、こうして、女から取り込まなければ追い付かないほどになってしまった。
ふ、と街中のガラス窓に映った自分の姿を見ると、行きには深くシワの刻まれていた顔から、疲労の色もシワも消え失せ、精悍でツヤのある肌が取り戻されている。
男は自分の頬を満足気に撫でると、また歩き出す。
さて、あの爺さん、背後に俺がいると気付いたのか、どれだけ探っても居場所が浮かばない。
おおかた、気配消滅の術でも使っているのだろう。
となると、爺さんの庇護から外れたタイミングが、狙い時ということだ。
次のダエーワの託宣を受ける前に、新しく娼館を探しておくか。
「マナ、バニラの香油を木材の成分を発酵させて作り出してみたのじゃが、どうじゃろう?」
ヒルダが、こっそりとなにか持ってきたな、とは思っていたが、バニラの香りって人工で作れるものなの?
そう疑問に思いながらも、差し出された紙片におそるおそる鼻を近付ける、と、これは!
まごう事なきバニラの香り!
「すごい、ヒルダ。 バニラだよ!」
思わず興奮してしまう。
「そうか、ではこれで【ばにらあいす】に1歩近づいたな」
満面の笑顔で、ヒルダもとても嬉しそうだ。
「あとは、冷却しながらの撹拌装置じゃ」
と鼻息を荒くしている。
「んー、だったらね。 容器を2重にしてその間に氷を入れて、内側の器の中に材料を入れて、それをくるくる回せるようにしてもらえれば」
現世でのアイスクリームメーカーって、そんな感じだった気がするんだけど。
「おぉなるほど、それなら確かに冷やしながら撹拌できるな」
二人で盛り上がっていると、
「うぉっほん!」
後ろから、大きな咳払いが聞こえる。
「し、師匠」
そう言って、慌ててヒルダは、わたしの背中に身をひそめる。
「全く、隠れてこそこそ何をやっているのかと思えば。 殿下の依頼の品は全部そろったのか?」
「はい、できております」
「では、セフィーロ王国へ出立できるのではないのか?」
「師匠! あともう少し、もう少しで、我の今の研究が完成するのです。 どうか、あと3日ほど待ってはもらえませんでしょうか?」
「全く、此度の件は遊びではないというのに。 まぁ殿下方も、まだお疲れであろうから仕方がないか。 では3日やろう」
「ありがとうございます!」
「そのかわり3日後には出立するのだ。 うかうかして此処が突き止められでもしたら、皆の安全は保障できん。 セフィーロ王国に入りさえすれば、政治的に守ってもらえるのだからな」
「はい、わかりました」
しゅんとするヒルダ。
「ここが突き止められたら、どうなるのでしょう?」
わたしが聞くと、
「血が流れる事になるでしょうな。 無益な血は、流さぬに限る」
オズワルドさんは、静かにそう言うと作業部屋へと戻っていった。
彼は幸福な男であった。
彼は王族であるにも関わらず、珍しく政略結婚ではない、心から望んだ相手との婚姻を手に入れた。
もちろん、周囲の反対は激しいものであったが、彼はなにものにも代えがたい、真実の愛を信じて疑わなかったので、そんな障害などいとも容易く乗り越えられると思っていたし、現に今乗り越えて、昔から恋焦がれていた幼馴染の女性と、結婚する事ができた。
さらには、彼女のお腹には自分の子供が宿っているという。
これ以上の幸せなどないであろうと、幸福の絶頂を味わっていた。
第2・第3夫人、まして妾など必要ない。
彼女のみを生涯愛し続けていこう、と彼は決意していた。
だがその幸せは、長く続くものではなかったのだ。
彼女のお産の際、数日に渡るほどの陣痛が続き、このままでは命に関わると、医師達は急遽帝王切開に踏みきった。
腹からとりだした子供は、逆子で首にへその緒が巻き付いている状態であった。
どちらの命も危ぶまれたが、結局、彼女はそのまま亡くなり赤子は生きのびた。
赤子は男の子であり、第1王子であった。
最愛の妻を亡くした王は意気消沈し、生まれた王子を顧みることはなかった。
王子は誰からの愛情も注がれる事なく、乳母に育てられる。
その王子が3才になる頃、王に後添えを、という事で、今度こそ政略結婚が周囲によって進められた。
最愛の人を亡くして無気力になっていた王は、それに抗うこともなく、言われるままに隣国の姫と結婚する。
王子は新しいお母様がくるのだ、と胸をときめかせていた。
しかし、その期待は裏切られることとなる。
隣国から嫁いで来た姫は、たいそう気位の高い方であった。
せっかく嫁いできたのに碌に会話もない、ましてや愛情など示してくれない王に、早々に嫌気が差していた。
だが、自分の役割はきちんとわきまえていたので、プライドを捨て男児を授かるための努力はした。
そうして無事に懐妊し王子を生むことができると、お役御免とばかりに、王には必要以上に接しなくなる。
ただ、自分の生んだ王子だけにひたすらに愛情を注ぎ、継子である第1王子を顧みることは皆無であった。
ある日、第1王子が庭の美しく咲いた水仙を王妃へと届けにくる。
だが、王妃がその花を受け取ることはなかった。
しょんぼりとしながら帰っていく彼の背中を見ながら、ちくりと胸は痛んだが、それでもあの子の母親のせいで、わたくしが王に顧みられる事はないんですもの、これはお互い様というものではなくて?
王はひたすらに、最初の妻を悼み、再婚した新しい妃は王の心の癒しとはならず。
それでも、それぞれの心の拠りどころがあるだけ、まだマシであったといえよう。
幼い第1王子は顧みられないながらに、なんとか自分を見ていただきたい、可愛がってもらいたい、その一心で勉学にも剣技にも打ち込んだ。
王にも王妃にも、いつかは自分を見てもらえる、とひたむきに努力をし続けていた。
だが、弟である第2王子が生まれると、周りの家臣たちですら継承権は第2王子のものであろうと噂し合い、ますます孤立を深める事になっていった。
なぜなら第1王子の母は、子爵家の娘であったからだ。
王の貫いた真実の愛によって、本来ならば第1夫人になどなれるはずもなかった結婚である。
後ろ盾としても、貴族ではあっても子爵家では、第2王子の母の出身である、隣国の王族に敵うはずもなかった。
長男である第1王子なのに継承権を受け継ぐことができず、新しい母からの愛も受けられず。
いつからか、彼の夢の中で大きな黒い獣が囁きかけるようになる。
「がんばっても、だれもミてくれないねぇ」
……五月蠅い。
「どりょくしても、ぜーんぶ、ムダだったねぇ」
……止めろ。
「どうして、だーれもアイしてくれないんだろうねぇ」
……黙れ。
「おまえが、ここにいるイミなんてないねぇ」
そんなこと、わかってるんだよ!!!
うなされて汗びっしょりで目覚めると、頬には涙の跡が残っている。
わかっている、わかっているんだ。
その囁きが、いつからか少し違った内容を帯びだしたのは、第2王子の産みの母である王妃が突然の病で亡くなった頃だった。
実の母を亡くした時には、何もわからず実感することはなかったのに、1度も愛情を示してくれた事などない継母を、失ったあまりに大きな悲しみ。
母性を、求めて求めて得られなかった、そしてもう2度と得る事の叶わない。
その絶望感。
深い喪失感と共に眠りについたその日の夢でも、黒い大きな獣は、こちらを凝視したまま囁きかける、
「あいつ、ジャマだねぇ」
……邪魔?
「あいつさえいなきゃ、ジユウになるのにねぇ」
……ああ、そうだな。
黒い大きな獣は、大きくて、真っ赤な口の口角をニタリと持ち上げる。
「あいつ、シんじゃえばいいのにねぇ」
…………そうだ。
フレデリックさえいなければ、俺は母に愛されていたかもしれないのに、あいつさえいなければ、この国の王になるのは俺だったハズなのに、あいつさえいなければ、みんなもっと俺を見てくれたハズなのに!!!
そうか、あいつが邪魔だったんだ。
ようやく解った。
やっと理解できた。
俺が、幸せになるためには、あいつは邪魔なんだ。
そうして、もう二度と得られない母からの愛に飢え、継承権を受け継ぐことだけが、残された父からの愛の証であると、その飢餓感ゆえに彼は暴走する。
「フレデリックを殺さなければ、俺は幸せにはなれない」
夢の中の黒い獣は目を爛々と光らせ、ニタリと大きな口を真っ赤に開いて嗤う。
男は、通い慣れた娼館で、馴染みの女へと己の猛りを打ち付けていた。
「声は出すなよ」
そう吐息で囁きながら、決して若くも美しくもないその娼婦の、目から零れる愉悦の涙を舌ですくう。
それは古代中国でいう所の房中術とでもいうのだろうか。
繰り返し女の精をとりこみ、自らの体内で循環させる。
漏らす声も、堪えることで自然と零れる涙すらも、逃すまいと男は貪る。
そうして何度も何度も気をやって、くたくたのデク人形のようになった女の中に、最後の残りカスのような残骸を吐きだす。
ぼうぜんと放心し続ける女を横目に、
(この女も、そろそろ潮時か)
と男は考える。
見た目が愚鈍でパっとしない女だが、年は30だったはずだ。
豊満な胸とたっぷりした尻が柔らかく、抱き心地はよかった。
しかし何度も通って精を吸い尽くすうち、どう見ても40手前にまで老け込んでしまった。
肌の張りもとうに失われ、たるんでシワが寄っている部分もある。
美しくないぶん他の客が付かず、それだけ男の言う事は何でも受け入れる女だったが、次は河岸を変えるか。
身支度をして部屋を出る間際、いつもよりもかなり多い金額を、軽く鼾をかきながら寝てしまった女の寝床に置くと、男は娼館を後にする。
それにしても…。
せっかく第2王子を捕らえるチャンスを与えてやったのに、みすみす取り逃すとは、あの第1王子もとんだ見込み違いだったのかもしれん。
タロットでの占いと称して、ダエーワの託宣を与えてやったというのに。
あれで気の消耗が進んだせいで、こうして、女から取り込まなければ追い付かないほどになってしまった。
ふ、と街中のガラス窓に映った自分の姿を見ると、行きには深くシワの刻まれていた顔から、疲労の色もシワも消え失せ、精悍でツヤのある肌が取り戻されている。
男は自分の頬を満足気に撫でると、また歩き出す。
さて、あの爺さん、背後に俺がいると気付いたのか、どれだけ探っても居場所が浮かばない。
おおかた、気配消滅の術でも使っているのだろう。
となると、爺さんの庇護から外れたタイミングが、狙い時ということだ。
次のダエーワの託宣を受ける前に、新しく娼館を探しておくか。
「マナ、バニラの香油を木材の成分を発酵させて作り出してみたのじゃが、どうじゃろう?」
ヒルダが、こっそりとなにか持ってきたな、とは思っていたが、バニラの香りって人工で作れるものなの?
そう疑問に思いながらも、差し出された紙片におそるおそる鼻を近付ける、と、これは!
まごう事なきバニラの香り!
「すごい、ヒルダ。 バニラだよ!」
思わず興奮してしまう。
「そうか、ではこれで【ばにらあいす】に1歩近づいたな」
満面の笑顔で、ヒルダもとても嬉しそうだ。
「あとは、冷却しながらの撹拌装置じゃ」
と鼻息を荒くしている。
「んー、だったらね。 容器を2重にしてその間に氷を入れて、内側の器の中に材料を入れて、それをくるくる回せるようにしてもらえれば」
現世でのアイスクリームメーカーって、そんな感じだった気がするんだけど。
「おぉなるほど、それなら確かに冷やしながら撹拌できるな」
二人で盛り上がっていると、
「うぉっほん!」
後ろから、大きな咳払いが聞こえる。
「し、師匠」
そう言って、慌ててヒルダは、わたしの背中に身をひそめる。
「全く、隠れてこそこそ何をやっているのかと思えば。 殿下の依頼の品は全部そろったのか?」
「はい、できております」
「では、セフィーロ王国へ出立できるのではないのか?」
「師匠! あともう少し、もう少しで、我の今の研究が完成するのです。 どうか、あと3日ほど待ってはもらえませんでしょうか?」
「全く、此度の件は遊びではないというのに。 まぁ殿下方も、まだお疲れであろうから仕方がないか。 では3日やろう」
「ありがとうございます!」
「そのかわり3日後には出立するのだ。 うかうかして此処が突き止められでもしたら、皆の安全は保障できん。 セフィーロ王国に入りさえすれば、政治的に守ってもらえるのだからな」
「はい、わかりました」
しゅんとするヒルダ。
「ここが突き止められたら、どうなるのでしょう?」
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