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第二章
出立の準備
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オズワルドさんによって、出立の日が決まってしまったわたし達だったが、基本、わたしの魔法バッグに、必要な物は全部そろっている状態なので、あとはヒルダの持ち物を2階のパステルグリーンの家具の部屋に入れるだけ、なのだが。
「帰還石は、全部持って行っていいのですか?」
とか、
「貴重なこれも、いいのですか師匠!」
とか、
なんだか、荷物が2階の部屋だけに納まりそうもない。
仕方ないので、地下の水のタンクを入れていた倉庫部屋を、ヒルダのために開放する。
すると、大きな棚ごと全部を移動させるはめになってしまった。
ほぼ引っ越し状態で、大騒ぎしている。
そういえば、昨日、王家の谷で活躍してくれたイタチ達の石化を解いてあげる事ができた。
一昨日の晩が満月だったので、ネクロバレー・ダンジョンで手に入れた石化無効のレッドベリルを使い、
「イタチの石化解除をする材料を作るぞ」
と、ヒルダが言うので、見学させてもらったのだ。
温室の中に、ちょうど満月の光が差し込む一角があり、そこの場所に台を置いて、水を蒸留して作った限りなく純水に近い蒸留水を、ガラスの器にたっぷりと入れる。
そこに、石化無効効果のレッドベリルを漬け込んで、月の光を吸収させるのだそう。
そうして、できた石化無効の美しい赤色の月光水に、やはり石化無効のエメラルドを粉末にして混ぜ込む。
すると、赤色の月光水が緑の煌めきを漂わせる。
ヒルダによると、こうすると、さらに効果が高まるのだという。
そうしてできた月光水を、石化したイタチ達を外に出して、くるくると撹拌しながら振りかけていく。
次々と、まるで石の部分が溶けていくように、生身の体が取り戻されて、元に戻ったイタチは我先にと森の中へ駆け込んで行く。
「森にお帰り、ご苦労じゃったな」
そう言って、満足そうにイタチ達を見送るヒルダ。
しばらくの間は、イタチの捕獲ポイントにお礼の肉や果物を置いておくよう、デク人形に言いつけておくそうだ。
元気で充実しているヒルダとは対照的に、フレッドはちょっと元気がないと言うか、落ち込んでいるようで、自分の部屋から出てこない。
仲が悪いとはいえ、お兄さんに命を狙われているというのは、やっぱりキツいものがあるよね。
ヒルダに頼まれた、力仕事を手伝っているセイに聞いてみる、
「フレッドは、まだ落ち込んでいるんでしょうか?」
すると、額の汗を手の甲で拭いながら、
「どうでしょう。 落ち込んでいるというよりは、今後の心配をしているようですが」
と、答えてくれる。
「セフィーロ王国に無事に行けるかとか、そういう事ですかね」
ふたりが、ロランにわたしを迎えに来るために国境を渡った時は、馬で1番警備が薄かった南側を渡ったそうだけれど、今はもう通れる保証はない。
第1王子側が、たぶん全ての国境は封鎖しているだろうと踏んでいる。
であれば、どうやって超えるつもりなんだろう。
オズワルドさんの帰還石で行けないのか聞いたのだが、ヒルダ曰く、
「基本的に、師匠は国外へはお出になられた事がないのじゃ。 帰還石は、行った土地の土が原料に必要じゃから、行った事のない土地のものは作れぬ」
という事だった。
研究熱心であちこち行かれている印象があったから、外国に行かれた事がないなんて意外だったけど、なにか事情があるのかな。
そんな事を考えていると、
「マナさん、心配なのでしたら、フレッドと直接話してみてはいかがですか?」
と、セイに促されたので、
(確かにそうだな)
と、フレッドのところに行ってみる。
ノックをして声をかける、
「フレッド、ちょっとお話ししませんか?」
「マナ?」
そう声がすると、すぐにドアを開けてくれる。
中に入ると、フレッドの目は、まるでさっきまで泣いていたかのように、ちょっと赤く充血しているようだ。
「大丈夫ですか?」
そう聞くと、
ちょっと照れたように頷きながら、
「ごめんね、みっともないところを見せちゃって」
と謝ってくる。
「そんな事ないですよ。 お兄様に命を狙われるなんて、やっぱり辛いですよね」
と、言うと、
「あー、いや。 そっちはもう諦めてるっていうか、いいんだ」
そう言いながら、ベッド脇の椅子を勧めてくれる、
「 ? そうなんですか。」
椅子に腰かけながら、だったら何を泣くほど思い悩んでいるんだろう、と考えてしまう。
「マナはさ、まだ僕の事、好きになってくれてないよね」
フレッドはベッドに座ると、涙目で頬を染めながら、上目遣いでそんな事を聞いてくる。
うーん、そんな顔をされると、プラチナブロンドの髪がさらにキラキラと煌めいて見えてしまう。
格好いいのに可愛いなんて、何だか卑怯だわ。
「え、えーと。 まだそこまで、お互い知り合っていないというか」
ちょっと目が泳いでしまう、そういう方向の悩みなの?
「だよね。 まだ早いんだよ」
そう言って、ベッドにうつ伏せてしまう。
「もしかして、フレッドは、わたしの事で泣いているんですか?」
思い切って聞いてみると、
「そうだよ……」
枕に顔を埋めながら、ふてくされたように呟く。
そして、今度は、顔だけこちらに向けながら、
「マナが、僕をきちんと好きになってくれるまでは、セフィーロには、行きたくなかったんだ」
と、まるで駄々っ子のような口調だ。
「んー、でも前にも言いましたけど、魔物討伐が達成できるまで、わたしは恋愛はしませんよ?」
と言うと、また起き上がって、こちらに真っ直ぐに向き直る。
「それでも。 そう決めていたとしても、恋してしまったら、その気持ちは止めようがないじゃないか。 そういう、恋をした状態になってもらいたかったんだよ。 ねぇ、どうしたら僕を好きになってくれる?」
わたしを見つめたまま、すごく真摯に言ってくれている、とは思うんだけど。
うーん困ったな。
でも、これは、きちんと自分の気持ちもお話しするべきだよね。
「ごめんなさい。 わたし、そういう恋をした状態というのには、なった事がないんです」
「そうなの?」
意外、という感じで目を丸くするフレッド。
「はい。 小さい頃から、男の子は恐怖の対象でしかありませんでしたから」
「えぇ、どうしてそんな」
「ずっとからかわれて、いじめられていたので」
過去を思い出すと、胸が苦しくなる。
当時の辛かった思いが、まざまざと蘇ってくるから。
「小さい頃の男の子からのいじめ、ってそれはマナの事をそのコは好きだったんじゃ」
フレッドが言ってくれるが、そういうフォローは、何度も色んな人に言われてきた。
「どうでしょう? でも、もしそうだったとしても、いじめてきた相手を好きになんてなれませんし、傷付いたことに変わりはありませんから」
淡々と答える。
「まぁ、そうだね」
フレッドも、うつむいてしまう。
「大人になってからも、既婚者や恋人のいる方に、なぜかいい寄られることが多かったので、そういう男性に対して嫌悪感しか持ったことがなかったんです。 きちんとしたお相手がいるのに、わたしにそういったちょっかいを掛けてくるというのは、何と言うか……。 わたしの存在を軽んじられている、という気がして」
そう言うと、うつむいたままのフレッドは、少しだけハッとした表情になるが、そのまま黙り込む。
「ですから、セイとフレッドは、そういう嫌な思いをさせずに付き合ってくれている、というだけで、とてもありがたいと思っています」
わたしがそこまで言うと、しばらくフレッドは何やら考え込んでいるようだった、でも意を決したかのように、
「…………そっか」
と小さく呟くと、今度は、
「分かったよ、マナ。 僕は君のよき友人として、責任を持とう。 セフィーロに行って、まずは保護してもらう事を1番に優先しよう」
と、晴れやかに宣言する。
フレッドが何をどう思ったのかは分からないけど、正直、これだけ見目麗しい男の人に好かれる、という事に実感が湧かないのも本当のところではあるのよね。
でも、とりあえずは元気を取り戻せたようで良かった、のかな。
それから3日後。
オズワルドさんの小屋を旅立つにあたって、ヒルダが盛大に師匠への別れを惜しんでいた。
「師匠―――、必ずやすぐに戻って参りますので、どうぞお元気で───!」
涙ながらに訴えかけているが、オズワルドさんがお小さい方でなければ、きっと抱きついていただろう。
「では、先生、お世話になりました」
そう言って、フレッドとセイはわたしのバッグに入る。
結局、おふたりは目立つし何より今回の標的なので、隠すのがよかろう、という事で、魔法バッグに入っての移動になる。
しかし、わたしだけが出歩くのは、この世界にまだ不慣れなので無理があるため、ヒルダとふたり旅を装うのだ。
セフィーロ王国に行くには定期便の魔動船があるので、その魔動船の船着き場に1番近い町まで帰還石で移動する。
そこから移動馬車で船着き場に行って、船に乗る。
一般人に紛れた方が目立たなくていいだろう、というのと、一般人を大規模に巻き込む事はしないだろう、さらに、もし見つかってもヒルダが前面に立てば、貴族社会のこの国では、そうそう滅多な事はできないから、とのオズワルドさんの判断だった。
「ヒルダは、そんな重要人物なの?」
と聞くと、
「我は、こう見えても侯爵家の娘じゃからの。 親や親族も先祖代々、国の要職に就いておるし、まぁ無碍にはできんじゃろ」
との事だった。
あとは変装として、わたしの髪色を、特殊なパウダーを振りかけて黒く染めてもらった。
と言うか、黒い髪色になると、まるっきり元のわたしだった。
黒髪のわたしを、セイもフレッドもじっと見ていたけど、気恥ずかしいので気にしないようにする。
あとは念のために、作ってもらったヘマタイトのビーズを繋げた【身代わり石のネックレス】にわたしはブラッドストーンの “守護石” のペンダントヘッド、ヒルダはファイブロライト・キャッツアイの “警告石” のペンダントヘッドを身に着ける。
身代わり石は、命に関わるような怪我などから身を守ってくれる代わりに、1粒ずつ砕け散るのだそう。
これが発動するような事態に、ならなければいいのだけれど。
とりあえず、帰還石にヒルダと一緒に手を触れる。
景色が、ザザッと流れたように見えたあと、着いた先は、マリファという町の一歩手前の場所だった。
町まで歩いて、関所を通り、馬車の乗り合い所まで移動する。
目的の魔動船の船着き場のあるポタラの港町まで、3台の馬車で、わたし達も含めて計17名の客が一緒に行くことになった。
1時間もしない内に、ポタラへ出発するというので、馬車に乗り込む。
移動し始めると、すぐに向かいの席に座った、おばあちゃんくらいのご婦人に
「これどうぞ」
と、みかんに似た柑橘系の果物を渡される。
昔の汽車の旅みたい、と思いながら、お礼を言ってさっそく食べてみると、思いのほか酸味が強い。
ポタラまでは、5~6時間はかかるらしいので、少し寝ておこうかな、とウトウトしていると、なんだか目の端がチカチカしている?
ハっとして目を凝らすと、ヒルダの胸元のファイブロライト・キャッツアイが点滅するように光っている。
……警告?
「ヒルダ!」
そう声をあげた時には、馬車が、
ガタンッ!
と大きな音と共に停車していた。
「帰還石は、全部持って行っていいのですか?」
とか、
「貴重なこれも、いいのですか師匠!」
とか、
なんだか、荷物が2階の部屋だけに納まりそうもない。
仕方ないので、地下の水のタンクを入れていた倉庫部屋を、ヒルダのために開放する。
すると、大きな棚ごと全部を移動させるはめになってしまった。
ほぼ引っ越し状態で、大騒ぎしている。
そういえば、昨日、王家の谷で活躍してくれたイタチ達の石化を解いてあげる事ができた。
一昨日の晩が満月だったので、ネクロバレー・ダンジョンで手に入れた石化無効のレッドベリルを使い、
「イタチの石化解除をする材料を作るぞ」
と、ヒルダが言うので、見学させてもらったのだ。
温室の中に、ちょうど満月の光が差し込む一角があり、そこの場所に台を置いて、水を蒸留して作った限りなく純水に近い蒸留水を、ガラスの器にたっぷりと入れる。
そこに、石化無効効果のレッドベリルを漬け込んで、月の光を吸収させるのだそう。
そうして、できた石化無効の美しい赤色の月光水に、やはり石化無効のエメラルドを粉末にして混ぜ込む。
すると、赤色の月光水が緑の煌めきを漂わせる。
ヒルダによると、こうすると、さらに効果が高まるのだという。
そうしてできた月光水を、石化したイタチ達を外に出して、くるくると撹拌しながら振りかけていく。
次々と、まるで石の部分が溶けていくように、生身の体が取り戻されて、元に戻ったイタチは我先にと森の中へ駆け込んで行く。
「森にお帰り、ご苦労じゃったな」
そう言って、満足そうにイタチ達を見送るヒルダ。
しばらくの間は、イタチの捕獲ポイントにお礼の肉や果物を置いておくよう、デク人形に言いつけておくそうだ。
元気で充実しているヒルダとは対照的に、フレッドはちょっと元気がないと言うか、落ち込んでいるようで、自分の部屋から出てこない。
仲が悪いとはいえ、お兄さんに命を狙われているというのは、やっぱりキツいものがあるよね。
ヒルダに頼まれた、力仕事を手伝っているセイに聞いてみる、
「フレッドは、まだ落ち込んでいるんでしょうか?」
すると、額の汗を手の甲で拭いながら、
「どうでしょう。 落ち込んでいるというよりは、今後の心配をしているようですが」
と、答えてくれる。
「セフィーロ王国に無事に行けるかとか、そういう事ですかね」
ふたりが、ロランにわたしを迎えに来るために国境を渡った時は、馬で1番警備が薄かった南側を渡ったそうだけれど、今はもう通れる保証はない。
第1王子側が、たぶん全ての国境は封鎖しているだろうと踏んでいる。
であれば、どうやって超えるつもりなんだろう。
オズワルドさんの帰還石で行けないのか聞いたのだが、ヒルダ曰く、
「基本的に、師匠は国外へはお出になられた事がないのじゃ。 帰還石は、行った土地の土が原料に必要じゃから、行った事のない土地のものは作れぬ」
という事だった。
研究熱心であちこち行かれている印象があったから、外国に行かれた事がないなんて意外だったけど、なにか事情があるのかな。
そんな事を考えていると、
「マナさん、心配なのでしたら、フレッドと直接話してみてはいかがですか?」
と、セイに促されたので、
(確かにそうだな)
と、フレッドのところに行ってみる。
ノックをして声をかける、
「フレッド、ちょっとお話ししませんか?」
「マナ?」
そう声がすると、すぐにドアを開けてくれる。
中に入ると、フレッドの目は、まるでさっきまで泣いていたかのように、ちょっと赤く充血しているようだ。
「大丈夫ですか?」
そう聞くと、
ちょっと照れたように頷きながら、
「ごめんね、みっともないところを見せちゃって」
と謝ってくる。
「そんな事ないですよ。 お兄様に命を狙われるなんて、やっぱり辛いですよね」
と、言うと、
「あー、いや。 そっちはもう諦めてるっていうか、いいんだ」
そう言いながら、ベッド脇の椅子を勧めてくれる、
「 ? そうなんですか。」
椅子に腰かけながら、だったら何を泣くほど思い悩んでいるんだろう、と考えてしまう。
「マナはさ、まだ僕の事、好きになってくれてないよね」
フレッドはベッドに座ると、涙目で頬を染めながら、上目遣いでそんな事を聞いてくる。
うーん、そんな顔をされると、プラチナブロンドの髪がさらにキラキラと煌めいて見えてしまう。
格好いいのに可愛いなんて、何だか卑怯だわ。
「え、えーと。 まだそこまで、お互い知り合っていないというか」
ちょっと目が泳いでしまう、そういう方向の悩みなの?
「だよね。 まだ早いんだよ」
そう言って、ベッドにうつ伏せてしまう。
「もしかして、フレッドは、わたしの事で泣いているんですか?」
思い切って聞いてみると、
「そうだよ……」
枕に顔を埋めながら、ふてくされたように呟く。
そして、今度は、顔だけこちらに向けながら、
「マナが、僕をきちんと好きになってくれるまでは、セフィーロには、行きたくなかったんだ」
と、まるで駄々っ子のような口調だ。
「んー、でも前にも言いましたけど、魔物討伐が達成できるまで、わたしは恋愛はしませんよ?」
と言うと、また起き上がって、こちらに真っ直ぐに向き直る。
「それでも。 そう決めていたとしても、恋してしまったら、その気持ちは止めようがないじゃないか。 そういう、恋をした状態になってもらいたかったんだよ。 ねぇ、どうしたら僕を好きになってくれる?」
わたしを見つめたまま、すごく真摯に言ってくれている、とは思うんだけど。
うーん困ったな。
でも、これは、きちんと自分の気持ちもお話しするべきだよね。
「ごめんなさい。 わたし、そういう恋をした状態というのには、なった事がないんです」
「そうなの?」
意外、という感じで目を丸くするフレッド。
「はい。 小さい頃から、男の子は恐怖の対象でしかありませんでしたから」
「えぇ、どうしてそんな」
「ずっとからかわれて、いじめられていたので」
過去を思い出すと、胸が苦しくなる。
当時の辛かった思いが、まざまざと蘇ってくるから。
「小さい頃の男の子からのいじめ、ってそれはマナの事をそのコは好きだったんじゃ」
フレッドが言ってくれるが、そういうフォローは、何度も色んな人に言われてきた。
「どうでしょう? でも、もしそうだったとしても、いじめてきた相手を好きになんてなれませんし、傷付いたことに変わりはありませんから」
淡々と答える。
「まぁ、そうだね」
フレッドも、うつむいてしまう。
「大人になってからも、既婚者や恋人のいる方に、なぜかいい寄られることが多かったので、そういう男性に対して嫌悪感しか持ったことがなかったんです。 きちんとしたお相手がいるのに、わたしにそういったちょっかいを掛けてくるというのは、何と言うか……。 わたしの存在を軽んじられている、という気がして」
そう言うと、うつむいたままのフレッドは、少しだけハッとした表情になるが、そのまま黙り込む。
「ですから、セイとフレッドは、そういう嫌な思いをさせずに付き合ってくれている、というだけで、とてもありがたいと思っています」
わたしがそこまで言うと、しばらくフレッドは何やら考え込んでいるようだった、でも意を決したかのように、
「…………そっか」
と小さく呟くと、今度は、
「分かったよ、マナ。 僕は君のよき友人として、責任を持とう。 セフィーロに行って、まずは保護してもらう事を1番に優先しよう」
と、晴れやかに宣言する。
フレッドが何をどう思ったのかは分からないけど、正直、これだけ見目麗しい男の人に好かれる、という事に実感が湧かないのも本当のところではあるのよね。
でも、とりあえずは元気を取り戻せたようで良かった、のかな。
それから3日後。
オズワルドさんの小屋を旅立つにあたって、ヒルダが盛大に師匠への別れを惜しんでいた。
「師匠―――、必ずやすぐに戻って参りますので、どうぞお元気で───!」
涙ながらに訴えかけているが、オズワルドさんがお小さい方でなければ、きっと抱きついていただろう。
「では、先生、お世話になりました」
そう言って、フレッドとセイはわたしのバッグに入る。
結局、おふたりは目立つし何より今回の標的なので、隠すのがよかろう、という事で、魔法バッグに入っての移動になる。
しかし、わたしだけが出歩くのは、この世界にまだ不慣れなので無理があるため、ヒルダとふたり旅を装うのだ。
セフィーロ王国に行くには定期便の魔動船があるので、その魔動船の船着き場に1番近い町まで帰還石で移動する。
そこから移動馬車で船着き場に行って、船に乗る。
一般人に紛れた方が目立たなくていいだろう、というのと、一般人を大規模に巻き込む事はしないだろう、さらに、もし見つかってもヒルダが前面に立てば、貴族社会のこの国では、そうそう滅多な事はできないから、とのオズワルドさんの判断だった。
「ヒルダは、そんな重要人物なの?」
と聞くと、
「我は、こう見えても侯爵家の娘じゃからの。 親や親族も先祖代々、国の要職に就いておるし、まぁ無碍にはできんじゃろ」
との事だった。
あとは変装として、わたしの髪色を、特殊なパウダーを振りかけて黒く染めてもらった。
と言うか、黒い髪色になると、まるっきり元のわたしだった。
黒髪のわたしを、セイもフレッドもじっと見ていたけど、気恥ずかしいので気にしないようにする。
あとは念のために、作ってもらったヘマタイトのビーズを繋げた【身代わり石のネックレス】にわたしはブラッドストーンの “守護石” のペンダントヘッド、ヒルダはファイブロライト・キャッツアイの “警告石” のペンダントヘッドを身に着ける。
身代わり石は、命に関わるような怪我などから身を守ってくれる代わりに、1粒ずつ砕け散るのだそう。
これが発動するような事態に、ならなければいいのだけれど。
とりあえず、帰還石にヒルダと一緒に手を触れる。
景色が、ザザッと流れたように見えたあと、着いた先は、マリファという町の一歩手前の場所だった。
町まで歩いて、関所を通り、馬車の乗り合い所まで移動する。
目的の魔動船の船着き場のあるポタラの港町まで、3台の馬車で、わたし達も含めて計17名の客が一緒に行くことになった。
1時間もしない内に、ポタラへ出発するというので、馬車に乗り込む。
移動し始めると、すぐに向かいの席に座った、おばあちゃんくらいのご婦人に
「これどうぞ」
と、みかんに似た柑橘系の果物を渡される。
昔の汽車の旅みたい、と思いながら、お礼を言ってさっそく食べてみると、思いのほか酸味が強い。
ポタラまでは、5~6時間はかかるらしいので、少し寝ておこうかな、とウトウトしていると、なんだか目の端がチカチカしている?
ハっとして目を凝らすと、ヒルダの胸元のファイブロライト・キャッツアイが点滅するように光っている。
……警告?
「ヒルダ!」
そう声をあげた時には、馬車が、
ガタンッ!
と大きな音と共に停車していた。
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