異世界わんこ

洋里

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第二章

地下牢

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 下に落ちていく途中で、壁面のでっぱりのようなものに引っかかり、少しだけ斜めに投げ出されてしまう。
 まぁ、そのおかげでまっすぐ床に直撃はせずに済んだみたい。
 落ちた場所のすぐ隣には、槍状の尖がった棒がいっぱい地面から突き立っていたので、魔法防壁を鉄壁にしていても、そのままの勢いで落ちていたら多少のダメージはあったのかもしれない。
 ちょっと冷や汗をかきながら、
(ミルクが頭に乗っていたからこその、ラッキーなのかな)
と考える。
 暗くてほとんど見えないが、目が慣れてくるにつれて、ここが小さな部屋になっているのが見てとれる。
 粗末な石造りの部屋、すぐ先には扉があるのが見える。
 そちらに移動して扉を押すと、
 ギギギィィィー
 押さえるように、そうっと開けているのに音がしてしまい焦るが、様子を伺うと特に人の気配はないようだ。
 どうやら、この部屋は突き当りになっているらしく、廊下は前方にしか伸びていない。
 そのまま前へと進んで、右へ行くか、左へ行くか。
(マナ、右はイヤなかんじがする)
 悩んでいるとココが教えてくれる。
(ありがとう、じゃあ左に行くね)
 そうして左へと歩を進め、しばらく行くと鉄格子が並ぶ牢が見え始める。
 どうやら、ここからが地下牢なのかな。
 そのまま歩いて行くと、左右に沢山の牢屋がならぶ。
 しかし、どれも空っぽで誰も入っていない。
 順番に見ていくと、一番奥の右と左の牢に人の気配があった。
 左は知らない男の人だが、右の牢の奥、壁に両腕を繋がれてぐったりしているのは、乱れた長い黒髪の男…。
 セイだった。
(セイ!)
 心の中で叫ぶ。
 ああ、やっと見つけた。
 セイは、気を失っているようだった。
 鍵を開錠しようと補助魔法を使う、が、開かない?
 どうして?どうしよう。
(気配のたんちもできなかったから、魔法がきかないのかも)
とココ。
 すると、黙って頭に乗っていたミルクが、
 とんっ
と床に降りると、セイの向かい側の牢に入っている男の人の方へと近づく。
「あれ、こんな所になんで犬が……」
 気付かれてしまった。
「わーパピヨンだなぁ、かーわいい。 どうした? 迷ってきたのか?」
と話しかけている。
 ん?
 パピヨンって、犬種を知っている?
(マナ、この人、敵じゃないと思う)
と言うココ。
 そうなの?
 おそるおそる、話しかけてみる。
「あのー」
 すると当然の事ながら、相手はびっくりして、キョロキョロとあたりを見まわす、
「え、え? 今のって犬がしゃべった?」
 まぁ、それでもいいや。
「すいません、ここの牢屋は補助魔法では開かないの?」
と聞いてみる。
「うん。 魔法は妨害されてるから、鍵がないと開かないね」
 やっぱりそうなんだ。
 あ、じゃあ、さっき落ちてきた時、ずれてなければ本気でやばかったのかも。
「鍵は、どこにあるのか知ってますか?」
 続けて聞いてみる。
「兵士の詰め所にあるよ。 あとは、もうすぐ食事を運んでくれる人がくるから、その人も持ってるね」
 そうなんだ。
(じゃあ、その食事を運んでくる人を気絶させて、鍵をもらっちゃえばいいね)
と考えていると、
「でも、食事を持ってきてくれる人は襲わないでね」
と、くぎを刺される。
「どうして?」
と聞くと、
「俺の恋人だから」
と、照れたように頭をきながら答える。
 この人、セイと違って壁などに繋がれていないし、囚われているにしては元気だ。
 よく見ると、短髪の黒髪で、わりと筋骨隆々としている。
 ん?なんとなく日本人っぽいお顔付きなんだけど。
「あなた、もしかして日本人ですか?」
 そう聞くと、パァッと花の咲いたような笑顔になる。
「そうそう、日本人。 よく知ってるね」
と、ニコニコしてミルクを見つめる。
「あの、お名前をお聞きしても?」
と、たずねると、
「俺は、小峰祐也と言います。 君は?」
 !!!!!
 コミネユウヤさん!
 この人が!
 思わず、透明マントをはずしながら答える。
「わたし、小日向真奈と言います。 日本人です」
 突如とつじょ、現れたわたしを見て、目を白黒させている小峰さん。
 そうだよね、そりゃあ驚くよね。
「ごめんなさい、突然で。 あの、わたしお向かいに入っている人を助けたくてきたんです」
 そう小さな声で説明すると、まだびっくりの表情のままだが、うんうん、とうなずいてくれる。
「わかった。 まずその消えるやつ、もう1度着た方がいいよ」
と言われて、透明マントをまた羽織り直す。
「お向かいさんね。 結構、消耗してると思うから、回復してあげないと動けないと思うけど」
と言われて、
「大丈夫です。 わたし、運べますから」
と答えると、
「そう? じゃあ、俺もそろそろ逃げ時かな~」
と伸びをしながら、小峰さんが言う。
「恋人の方が鍵を持っているのに、どうして今まで逃げなかったんですか?」
と聞くと、
「ちょっとヒドい怪我をしててね、ほら」
と、右足のズボンの裾をまくって見せてくれる。
 傷跡が盛り上がっているが、いちおう治っているみたい。
「骨が折れて穴が開いてたの。 なかなか治らなくってさ~」
と、何だか、ずいぶん暢気のんきな感じの人だなぁ。
「小峰さんって、救急救命士だったんですよね?」
「え、そんな事まで知ってるの? そうそう、日本ではそうだったんだけど、こっちにきたら俺、回復魔法の才能が全然なくってさ~」
「そうなんですか?」
「うん。 怪我してここに閉じ込められて、けっこう詰んだな~、と思ってたら、俺の彼女になってくれた子が薬を持ってきてくれてね。 やっとでここまで治ってきたトコ」
「では、一緒に逃げますか?」
「そうだね。 とりあえず、このお城を出るところまでは一緒に行こうか?」
「え、そのあとは?」
「うーん、彼女の実家がセフィーロって国にあるそうだから、そこまで行こうかと思ってね」
「そうなんですか。 あの、小峰さんは、日本に帰るとかは考えなかったんですか?」
 そう聞くと、彼はちょっとだけ切なそうな、複雑な表情になった。
「きたばかりの頃はね、なにか方法がないかと思って色々調べたりはしたんだけど、彼女ができちゃったからね。 俺は、彼女とここで骨を埋めることになると思うよ」
 日本に帰る手がかりとして、会ってみたかったコミネユウヤさん。
 そっか、帰るのはあきらめて、彼女との幸せをこの地で築いていくんだ。
「えーっと、それでは、とりあえずご相談なんですが、彼女さんがいらしたら鍵を使って牢を開けてもらって、それから、そこの彼と小峰さんには、わたしの魔法バッグに入っていただきたいんですが、いいですか?」
「え、魔法バッグに入るって……」
「あの、わたし魔力がすごく多いみたいで、入っていただけちゃうんです。 それで、彼女さんには外まで案内してほしいんですが」
「あぁ、うん、頼んでみるけど」
「魔法が妨害されているところから、離れられればいいので、ある程度で大丈夫だと思います」
 そこから、帰還石で帰れるはず。
 そんな風に打ち合わせをしていると、向こうの方から、こちらに近付いてくる人がいる。
 それ以上声を出さずに見守っていると、凄く可愛らしい女性が、食事のトレイを運んできた。
 あれが、小峰さんの彼女さんなのね。
 小柄で背が150cmあるかどうかくらい?
 髪色は綺麗なライトブラウン、肩にかかるセミロングで、大きな目がパッチリと可愛らしい、そして、すごく胸の大きさが目立つ。
 小峰さんは190cmくらいありそうな大柄な方だから、体格差が凄いなぁ。
 などと思って見ていると、小峰さんが、
「みーちゃん、みーちゃん」
と声をかける。
「どうしたんですか? ゆーちゃん」
と、すぐに彼女さんが駆け寄ってくる。
 っていうか、みーちゃんとゆーちゃん、って呼び合ってるんですね。
 聞いている方が気恥ずかしくて、何だかいたたまれない。
 小峰さんが説明をしている間、セイの様子を伺うが、全く動く様子も気がつく気配もない。
 大丈夫なのかな。
「マナさん?」
 説明を聞き終えた彼女さんが、声をかけてくださる。
「はい」
 そう言ってチラリと透明マントのフードをめくり、少しだけ顔を見せる。
「コヒナタ マナといいます。 今回は突然ですみませんが、ご協力をお願いします」
と頭を下げる。
「ミランダ・ハーウェイです。 彼も一緒に逃がしてくれるなら、仲間です。 これが鍵なので、すぐ牢を開けますね」
 そう言って、両方の牢を開けてくれる。
 すぐに、セイの元へと駆け寄る。
 大丈夫、息をしてる。
 両腕に鎖の繋がった鉄輪をめられているが、そのまま鎖を引きちぎる。
 気を失ったままのセイを魔法バッグに入れると、振り返って小峰さんに頼む。
「この中にある家の、2階の部屋に入れましたので、様子を看ていていただけますか?」
「わかったよ。 俺は日本ではプロだから、任せておいて」
 すごく頼もしい。
 小峰さんとミルクを魔法バッグに入れると、ミランダさんに先導してもらって、牢から出るために歩きだす。
 さっき、ココが 『右側は嫌な感じ』 と言っていたほうへと近づく。
 そこは詰め所になっているようで、見張りの兵士がふたり、カードで遊んでいるようだ。
 そこにミランダさんが、
「鍵を返してきます」
と、小さく言って近づく。
「よう、ミランダ、お疲れさん」
 気安く声をかける兵士に構わず、鍵を詰所の壁にかけるミランダさん。
「何だよ、少しくらい話していこうぜ」
と、なおもちょっかいをかけてくる兵士に、
「悪いけど、忙しいの」
と冷たくあしらっている。
 が、その態度がしゃくさわったのだろうか、さらにしつこく食い下がってくる
「ミランダー、そんな冷たくする事ないじゃないか。 ほら、こっちで少し話そうぜ」
 強引に手を引き寄せ、どさくさに紛れて彼女の胸を触ってる!
 カーっと頭に血が上って、魔法バッグから【ロータスの戦槌せんつい】をとり出し、兵士達の頭に順番に軽くコツン、コツンと当てると、あっというまに気絶してしまった。
 魔法は妨害されていても、武器の付与効果は有効なのね。
「ありがとう」
と、少し戸惑ったようなミランダさんに、
「セクハラ、許すまじ! だよね」
と力を込めて言うが、彼女にはよくわからなかったみたい。
 ここで、試しにふたりで帰還石に手を触れてみたが、こちらは魔法の範疇はんちゅうらしく発動してくれなかった。
 やっぱり、もう少し遠くまで移動するしかないのか。
「地上に出るのはこっちです」
と、ミランダさんに再度案内してもらって、詰所の横の階段を上る。
 上りきった先は小さな部屋になっていて、ドアの向こうは、居館と宮廷を繋ぐ広い渡り廊下だった。

 だが残念なことに、その渡り廊下には、軍と親衛隊を引き連れたアーティボルト王子、その人が待ち構えていたのだった。
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