電車

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「忘れ物はないかい?こっちに忘れ物をしちゃったら取りに来れないからねぇ、ちゃんと確認しなきゃダメよ」

母さんの優しい声が耳を撫でる

「全く、母さんに言われたくないよ。酷いくらいに忘れていっちゃうんだから」 

そう返すと母さんは優しい笑みを浮かべて僕の荷物を運ぶのを手伝ってくれた。 

「間もなく電車が発車致します。ご注意ください」

ホームにアナウンスが響く。母さんともお別れだ。

「それじゃあね母さん。行ってらっしゃい」

涙が出そうになるのを堪えるように色の無い空を見上げてそう言った。

「頑張ってね。あなたも行ってらっしゃい」

母さんは涙を浮かべて返事をした。ドアが閉まり電車が走り出す。母さんは駅のホームに立ちこちらに向けて手を小さく振っている。涙を浮かべて笑っている母さんがだんだん小さくなっていく。僕も涙が出てきた。弱々しいところを見せる訳にはいかない。僕は電車の進行方向に向き直り席に座った。
母さんとの思い出が沢山浮かんでくる。一緒に沢山笑った思い出、泣いた思い出、怒られた思い出、母さんはいつでも僕を包んでくれていた。そんなのことを考えているとどうにかなってしまうような気がして、僕は眠りについた。




目が覚めると僕の目に色が飛び込んできた。夕日に照らされ赤く染った部屋の天井。僕は病院のベッドで目が覚めた。傍らにいた父と妹が目覚めた僕をみて泣いていた。そして、父から母さんが亡くなった事を聞いた。僕と母さんは電車の脱線事故に巻き込まれたらしい。母さんは僕を庇うような形で亡くなっていたそうだ。
何故だか涙は出なかった。僕は虚空を見上げて

「母さんはすぐに忘れていっちゃうんだから」

とだけ呟いた
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