一つ、お尋ねしてよろしいですか?

アキヨシ

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第一章 我が家のごたごた編

第16話 大人の恋愛は柵が多くて難しい + 腹黒王子

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 わたしが“神の恩寵”スキルを持つ事は、とりあえずここだけの話にするとおじいちゃんが言った。
 叔父ワンコもその方がいいと頷いてくれたし、ここで見聞きたことは他言しないと誓約しているから、そもそも他所で喋れない。

 てゆーか、叔父とは言え、昨日会ったばかりの人に、こんな秘密を打ち明けるなんて、わたしとしては不本意なんですけどー! と、それらしい事を匂わせておじいちゃんに訴えたら、

「エルガド伯爵家の新当主、ウィリアム卿とは今後親しく付き合いたいと思っているからな。エリザベス共々バルドとベティの事を良しなに頼むよ」

 だからこそ、秘密を共有したんだからな? て感じに、悪い顔でにやりとするおじいちゃん。
 叔父ワンコ、引きつった微笑を浮かべているわ。貫録負けね。

「それに異世界の政治的な物事は迂闊に出す訳にはいくまい。国の根幹に関わってくるだろう。それで過去の書物からは、その辺の事が省かれて編纂されていたんだろうしな」

 あー、やっぱりそうかぁ。

「後は地下活動をしているとか言う連中が実在するのか、少し調べて置く必要があるだろう」

 噂だけならまだしもねぇ。本当に革命を起こすべく活動している転生者がいたら、「歴史を思い出せ!」と言ってやりたい。
 いきなり民主主義を主張してもロクな事にはならないと思う。

 そしてここで時間切れ。
(セルバンさんじゃない)執事がやって来て、母とキリアン卿がこちらに顔を出したいと伺ってきた。
 ああ、二人とも、どんな雰囲気になってるかしらぁ。

 わくわく、どきどき。

 キリアン卿にエスコートされてやって来た母は……ああ、になってるわねぇ。
 頬をうっすらと染め、瞳は潤んでキラキラしているのよー!
 泣いていたのかもしれない。でも腫れぼったい瞼は回復魔法できれいにしたんでしょうけど、まぁ、うふふふふふ。

 キリアン卿もおすまししているけれど、母を見つめる目が熱っぽく優しいの!
 これは上手くまとまったわね! と内心快哉を上げる。

「二人とも、よく話し合えたか?」

 おじいちゃんに聞かれると、二人して視線を交わし合う。ふふふ。

 改めてメイドがティーセット一式用意してくれて、お茶請けのスィーツも各種置いてってくれたわ。
 ありがとう、丁度甘いものが欲しかったんだぁ。
 でもぉ、隣合って座っている甘い二人を眺めながら、甘いお菓子を食べたら胸焼けするかしらぁ。

「機会を下さり、誠にありがとうございます」

 キリアン卿が答え、母と二人で頭を下げた。

「これまでの蟠りが少し解れたようです」

 ほう、いい感じですか?

「ですが、今すぐ何かしらの約束を交わす事は出来ません」

「え!?」

 思わず声が出ちゃって、皆からの痛い視線が刺さったよ。ごめんて。
 ぺこりと頭を下げたら、キリアン卿から優しく微笑まれたわ。

「僭越ながら、かつては将来を共にしようと思いを交わし合った仲でしたが、それから既に十五年。お互いの身にそれだけの長い間、様々な出来事がありました」

 うーん、十五年はさすがに長いブランクよねぇ。

「エリザベス様には二人のお子様がいらっしゃる。私の方は、情けない事に恋人も婚約者もおりませんが。
 それでも部隊では責任ある立場に立ち、この度は領主という地位も得てしまいました。
 今はそれに対処する事がまず第一となります。申し訳ございません」

「それは何に対する謝罪だね」

 眉を顰めたおじいちゃんが問いかけると、キリアン卿はなんでかわたしをちらりと見た。

「あの……私達が復縁されるのを望まれていたようでしたので、その希望に沿えない事への謝罪です」

「ええ!?」

「ベティ」

 咎めるようにおじいちゃんに呼ばれたけど、がっかりし過ぎて俯いちゃったよ。
 なんで!? すっごくいい雰囲気醸し出してたじゃないのよぉ!!

「あのね、ベティ。確かに昔、結婚のお約束をしていた間柄ではあったけれど、もう十五年も経ってしまったの。それだけの長い時間があれば、人の思いも考えも変わってしまうものなの。それは分かるかしら」

 優しい母の声は、頑是ない子供を宥めるみたい。

「……はい」

 そりゃあね、時間が経つと色々変わってくるのは仕方がないわよ。
 若い時は気づかなかった事も、年と共に理解出来たり、付き合ってる時は許せることでも、結婚した後の本性を見て、「なんでこんなヤツの事が好きだったんだろう?」って後悔したり、ねぇ。

「その十五年間をお互い知らないまま、先へ進むのは無理だと思うの。
 だからまずは、今のお互いの事を知って行こうという話になったのよ」

 ん?

「手紙を取り交わし、お互いの事を理解出来るよう努めて、その上で共にありたいと思えたら、改めて約束を交わそうと、そういうお話になったの」

 え、つまり? その年になって、まずは文通から始めたいと、そういう事ですかぁ!?

「恥ずかしながら、そういう事だな」

「あら? 口に出ていましたかしら」

 キリアン卿から返事があって、慌てて口を押えたけど後の祭り。皆に苦笑いされちゃったわ。

「コホンっ。それでも良かったですわ。お母様が一人の女性らしく、幸せそうに微笑んでいらしたもの」

「まぁ! ベティったら」

 母が恥ずかしそうに両手で両頬を隠したわ。かぁわいいー。

 もう、この母の色気なら、押し倒したらイチコロだったんじゃないのぉ!? 淑女にそれをやれとは言えないけれどぉ。
 ふっと甘く見つめて微笑むキリアン卿ってばぁ。もう、さっさとくっ付けばいいのに!!

 そう思っているのはわたしだけじゃないと思うよ?
 じれじれ、もだもだ、見せられてる方がツライ。



 ――それから一年後の未来。

 十六年越しに、家に引き裂かれた恋人たちが復縁したと、新聞の社交欄に取り上げられた。

 妙齢の美しい花嫁と、王国第二騎士団副団長の正装姿の凛々しい花婿が並ぶ写真。
 それにまつわる結婚までのエピソードが、大変美化されて掲載されたのだ。

 この記事に、熟女界隈がざわついた。
 二人のエピソードを元ネタに小説が出版され、瞬く間にベストセラー入り。
 更には舞台化もされ大ヒット。
 もちろん観客は熟女たちが中心であった。



 ――とまぁ、未来の話はともかく、現在のわたしの話に戻りましょうか。



 ***



<第一王子視点>

「シオン、ヴァルモア侯爵家の当主が交代したわ」

 何故か嬉しそうに母上から報告された。
 そういえば先代の侯爵が父上に謁見を申し出ていたと聞いていたが、昨日の今日で速やかに対処してくるあたり、やはり先代は優秀なのだと思った。
 父上の剣の師匠でもあったオズワルド卿が引退した時、とても残念がっていたと聞いている。

「交代と言っても、誰が新たな当主となったんです?」

 無能のレイモンド卿には兄弟はいなかったはず。分家から引き抜いたのだろうか。

「あら、察しが悪いわね? もちろんオズワルド卿が復帰したのよ!」

 何気に母上に貶されたが、まあいい。

「それは父上が喜ばれた事でしょう」

「私も嬉しいわ。あの失礼なレイモンドと今後顔を会わせる必要がなくなったもの。
 あの男は侯爵家から除籍されて平民になったの。内縁の妻共々田舎に追放ですって。
 どうも精神が病んでしまっていたそうよ。それならあのバカげた要求も頷けるわ」

 現実と夢の区別がつかない者が時々いるが、彼もその類だったのだろう。

「これでベアトリスには何の問題もなくなるわね」

「――は?」

 母上の言わんとする所は分かるが、何故嬉しそうなのかが分からない。
 わたしが怪訝にするものだから、母上はつまらなそうに口を尖らせた。
 一国の王妃がする顔ではないが、完全プライベートな時は表情が豊かな人だ。

「妄想癖のある無能な父親がいなくなって、陛下の信頼の厚いオズワルド卿が後見に就いたのよ?
 あの子は候補の中で一番高い能力を持っているんですもの、補欠などではなく、正式な有力候補に躍り出たの。何しろ陛下が改めて指名したのだから」

 父上が指名した!?
 それでは王命という事ではないか。
 あの子供が第一候補などと……ああ、何だか面倒くさくなってきた。

 先日は選ぶ事はないだろうと『鑑定』はしなかったが、次に会った時は……そうだな、候補者が全員が揃う顔見せのお茶会の時になるか。その場で『鑑定』をしてみよう。

 わたしの固有魔法は『鑑定』だ。
 表面をなぞる程度のものなら負担もないが、詳しく見ようとすると少し魔力も使うし、相手の能力が高い場合はバレる危険性もある。
 侍従で試してみたら、何とも言えない不快感があると言っていた。

 ああ、そうだ。今度候補者全員に威圧を掛けてみるのも一興かな。
 そして無防備になったところで鑑定するのが良いだろう。
 ベアトリスはどれくらい耐えられるかな。

 震えながらも懸命に立っていた姿を思い出して、少し楽しみになった。




<第一章終わり>




++------------------------------------------------------------++

<補足>
エルガド伯爵家は光属性を継承する家です。
なので母のエリザベス、兄のバルディオス、叔父のウィリアムも光属性を持ってます。
ベアトリスは母親から回復魔法などの手ほどきを受けていました。
もちろん主人公は、イメージ先行で色々試しています。

***

お読み頂きどうもありがとうございました。
これにて第一章終了です。
次回から第二章ですが、明日の更新に間に合うかどうかは微妙な所です。すみません。
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