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1章
1話 追放された男と、ハズレスキル《カオスリンク》
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――幼なじみパーティ、裏切りの決断
朝の森は、焚き火の名残と露に濡れた草の香りが混ざっていた。
鳥のさえずりが空を走り、葉擦れの音が耳に心地よい。けれど、それは――あくまで、何も起きなければの話だ。
「……カイル。悪いけど、今日でパーティを抜けてくれ」
不意に告げられたその一言に、俺は手にしていた水筒を落としそうになった。
焚き火の向こう側。背筋を伸ばして立つのは、パーティのリーダー、聖騎士レオン。
銀の鎧は朝陽を反射し、まるで英雄譚の一幕のように輝いて見える。……いや、見えてしまっただけだ。
「……え、なに、冗談?」
思わず口から出た俺の声に、隣のリシェル――かつて幼なじみとして、子どもの頃に将来を誓い合った少女――が、少しだけ視線を逸らしてから口を開いた。
「……冗談じゃないの。私たち、ギルドから正式にⅣランクに認定されたでしょ? 本格的に、高位任務が回ってくるの」
リシェルの薬指には、見覚えのない銀の指輪が光っていた。俺の視線に気づいたのか、彼女はほんの少しだけ肩をすくめた。
「言ってなかったけど……私、レオンと付き合ってるの。これ以上、隠しててもあなたが辛くなるだけだし」
ああ、そうか。
薄々、勘づいてはいた。リシェルが夜中、レオンのテントに向かう姿も見たことがある。
けれど、信じたかった。……信じていたかった。
「で、その“高位任務”に俺はいらないと?」
俺の言葉に、今度は斥候のナナが口を挟んできた。
栗色の短髪を揺らしながら、肩をすくめる。
「正直、カイルのスキルって何してるのか分かんないし。前衛も後衛も中途半端。っていうか、因果律? なにそれ、占い?」
「成功率が高いって話はあったけど、それって私たちの実力じゃないの?」
クールな声で言ったのは、魔術師エイミ。彼女はレオンの隣で腕を組み、まるで裁判官のような目で俺を見ていた。
レオンが一歩前に出る。声は落ち着いていて、理路整然とした響きを持っていた。
「僕たちは今、次の段階に進もうとしている。有望な冒険者が加入したいと名乗り出てくれてる。火力も、補助も、十分にこなせる彼女がね」
……なるほど。俺を追い出して、可愛い子を入れるってわけか。
リシェルの顔に、かすかな罪悪感が浮かんだ。けれど、すぐに消えた。
代わりに、「あなたも、自分の道を探して」と、どこかで聞いたようなセリフを投げてくる。
俺は少しだけ笑って――
「分かった。そっちがそう言うなら、俺も遠慮はしない」
荷物を背負い、焚き火に背を向けた。
「……あ、これ」
レオンが差し出したのは、俺のステータスカード。
その表には、「ランクⅤ スキル《因果律干渉》」という文字が淡く浮かんでいた。
「君の未来に幸あれ、カイル。きっと、どこかでまた会える」
笑顔。美辞麗句。そして裏切り。
……そうか。これが現実か。
「じゃあな、レオン。みんなも。……せいぜい、後悔しないようにな」
俺は踵を返し、草を踏んで森の奥へと歩き出す。
誰も、その背中を呼び止めなかった。
森の小道は、落ち葉に覆われていた。
朝露がきらめき、木漏れ日がまだらに差し込む。鳥の声と、時折風が葉を揺らす音だけが耳に残る。
「ふぅ……追放、ねぇ」
俺は草をかき分けながら歩き、誰もいない道にぽつりとつぶやいた。
レオンの笑顔と、リシェルの“それっぽい正論”が、まだ頭の中にぐるぐるしてる。
「《因果律干渉(カオスリンク)》……だっけか」
俺は自分のステータスカードを取り出し、改めてスキルの欄を見つめた。
⸻
【スキル:因果律干渉(カオスリンク)】
発動条件:任意/常時補助
効果:対象または自分に対し、因果の連鎖に微細な“揺らぎ”を与える
備考:制御困難/意図しない結果を招く可能性あり
⸻
「……なにこれ、説明がざっくりすぎるだろ」
補助? 常時? “揺らぎ”って何だ、台風でも起こす気か?
カードをしまいかけた瞬間、俺の足が何かに引っかかり――
「わあっ!? うわ、ちょ、まっ、ぐええええ!!」
見事に転んだ。葉っぱまみれで、顔に枝の洗礼。
ふらふら立ち上がって、手をついた先に、ふと違和感を覚えた。
「……ん?」
そこにあったのは、赤く熟した果実。
木の上にしか実らないはずの、“高い位置”にあるやつだ。
「……さっき、枝に届かなかったよな。なんでこれ、地面に?」
しかも、潰れてない。落ちたにしては綺麗すぎる。
俺は拾い上げ、まじまじと見た。
「……偶然、か? たまたま落ちた……いやでも、俺、今、手伸ばしたよな……」
少し背筋が寒くなる。
気のせいだ。きっと。
俺はごまかすように背負い袋を背負い直して――
「……軽っ!? え、ちょ、なんで!? 中身、減った!?」
慌てて開けてみるが、中の荷物は全部ある。保存食、寝袋、鍋、まくら。
持ち物チェックも完璧。だけど、体感重量が明らかに違う。
「……は?」
何が起きてる?
これは、何かが“おかしい”ってレベルじゃない。
まさかと思い、荷物をもう一度背負ってみる。やっぱり軽い。
(でも……詰め方が、ちょっと違う?)
寝袋がぎゅっとコンパクトにまとまり、鍋の中に小物が綺麗に収まっている。
まるで、何度も旅を重ねたプロの荷造りのように、無駄なく、重心が均等になっていた。
「……いやいや、俺、こんなパズルみたいな詰め方してたっけ?」
たしかに今朝、寝ぼけながら荷造りした記憶がある。
だがこれは“偶然うまく詰めた”というより――
「……俺が転んだ拍子に、何かが……変わった?」
ぽつりと、空に向かって呟いた。
風が枝を揺らし、また一つ、どこかで果実がぽとりと落ちた音がした。
(……俺のスキル、《因果律干渉》)
(もしも“無意識に望んだ結果”へ、少しだけ流れをずらす力だとしたら……)
この軽さも、もしかして――「重く感じたくない」という小さな願いが、
“最適な詰め方をした”という“偶然”を引き寄せた結果、なのかもしれない。
この時点では、俺はまだ、自分が“世界を少しずつ歪ませている”ことに、気づいていなかった。
*
森を抜けると、朝の光が一面に広がる開けた道に出た。
小さな木陰――その中に、ぽつんと座る少女の姿があった。
金色の髪は柔らかいウェーブがかかり、陽に透けてきらめいている。
白と青の刺繍が入ったドレス、繊細なレースの飾り。明らかに普通じゃない、どこか上等な身なりだった。
そして、彼女は小さくしゃくり上げながら、泣いていた。
(……え? なんか、すごく場違いな子がいるぞ)
俺は一瞬ためらったが、見過ごせずに近づく。
しゃがんで声をかけようとして、ふと足元に目がいった。
「……あの、おまえ……靴、逆じゃないか?」
つま先が妙な向きになっている。左右、見事に履き間違っていた。
その一言に、少女がびくりと顔を上げた。
目が合う。――赤い瞳だった。
吸い込まれるような、でもどこか寂しげな色。
そして、泣きはらした目のまま、小さく口元をほころばせる。
「……ありがとう」
その声は透き通っていて、少し震えていて、
でも不思議と、胸にすっと入ってくる優しさがあった。
俺は、思わずぽりぽりと頬をかいた。
(……なんだろうこの子。高貴な感じなのに、ちょっと抜けてる。なんか……嫌いになれない)
……その直後だった。
「そこの男、動くなッ!!」
地響きのような怒声とともに、森の茂みがざわめいた。
次の瞬間、鎧のきらめきとともに、十数人の騎士たちが道を囲んでいた。
全員が俺に武器を向けている。
「王女殿下に、何をした!」
「え? ……は?」
状況がつかめず、ただ首をひねる。
「靴、逆ですよって言っただけなんだけど!?」
俺の声など聞く耳を持たず、騎士たちは一斉に剣を抜いた。
銀色の刃が、朝日に冷たく光る。
マジで、どうしてこうなった。
(待て、待て、誰か説明してくれ)
刃が今にも迫ろうとしたその時――
「待って!」
少女が立ち上がった。
騎士たちの前にすっと出て、俺の前に立つ。
「この人は……悪くありません。靴を……教えてくれただけ」
「……は?」
俺、まさかの“王女”に助けられるターン?
騎士たちがざわめき始める中、彼女が名乗る。
「わたくしは、リュミエール・エルセリス・アルトネア。王国第二王女です」
(やっぱり本物だった――!!)
「それに……あなた、変わった匂いがするわ」
少女――いや、王女が、俺を見上げて言った。
「夜風と、蜜柑の香り……」
「え、いや、それって……俺、そんなフレグランス使ってないぞ!?」
「ふふ……でも、私、好きよ」
笑った。その赤い瞳が、まっすぐに俺を射抜いて。
……うそだろ。
俺、靴の話しかしてないのに――なんか今、人生最大のフラグが立った気がする。
沈黙――いや、微妙なざわめきが道端に広がった。
王女の言葉に、騎士たちは明らかに動揺している。
「し、しかし殿下、そいつは身元不明の男で……」
「靴を教えてくれただけよ?」
リュミエール王女が、すっと背筋を伸ばして答える。
さっきまで泣いていた子とは思えない堂々たる口調に、騎士たちは一瞬たじろいだ。
「でも、身柄だけは、念のためお預かりを」
「仕方ないわね……。じゃあ、王都に連れていくわ」
「えっ」
思わず声が出たのは俺だ。
(いやいやいや。なんで靴教えただけで王都送りに!?)
「えっと、待って待って。俺、ほんとにただの一般人で、いま追放されたばっかで、荷物もろくに持ってなくて――」
「うん。そういうの、あとで話して?」
ぴたり、と言葉を封じる王女の笑顔。
(こわい。なんか王族特有の“圧”がある……!)
「リュミエール殿下、馬車をお呼びします」
「うん、お願い。あと、彼の荷物もちゃんと扱ってね」
「あ、いや、それは……」
有無を言わさぬ空気に、俺は完全に流される形で、騎士団の護衛付き王女一行の“随行者”になっていた。
(……なにこの展開。靴の話から、どうしてこうなる!?)
そんな思考をぐるぐるさせながら、俺は連れて行かれる馬車の前で、そっとつぶやいた。
「……俺、なんかとんでもないフラグ立てた気がする」
その予感は、数日後、王都を揺るがす大事件となって見事的中することになるのだが――
このときの俺は、まだ何も知らなかった。
……とりあえず、靴はちゃんと履こうぜ、王女様。
朝の森は、焚き火の名残と露に濡れた草の香りが混ざっていた。
鳥のさえずりが空を走り、葉擦れの音が耳に心地よい。けれど、それは――あくまで、何も起きなければの話だ。
「……カイル。悪いけど、今日でパーティを抜けてくれ」
不意に告げられたその一言に、俺は手にしていた水筒を落としそうになった。
焚き火の向こう側。背筋を伸ばして立つのは、パーティのリーダー、聖騎士レオン。
銀の鎧は朝陽を反射し、まるで英雄譚の一幕のように輝いて見える。……いや、見えてしまっただけだ。
「……え、なに、冗談?」
思わず口から出た俺の声に、隣のリシェル――かつて幼なじみとして、子どもの頃に将来を誓い合った少女――が、少しだけ視線を逸らしてから口を開いた。
「……冗談じゃないの。私たち、ギルドから正式にⅣランクに認定されたでしょ? 本格的に、高位任務が回ってくるの」
リシェルの薬指には、見覚えのない銀の指輪が光っていた。俺の視線に気づいたのか、彼女はほんの少しだけ肩をすくめた。
「言ってなかったけど……私、レオンと付き合ってるの。これ以上、隠しててもあなたが辛くなるだけだし」
ああ、そうか。
薄々、勘づいてはいた。リシェルが夜中、レオンのテントに向かう姿も見たことがある。
けれど、信じたかった。……信じていたかった。
「で、その“高位任務”に俺はいらないと?」
俺の言葉に、今度は斥候のナナが口を挟んできた。
栗色の短髪を揺らしながら、肩をすくめる。
「正直、カイルのスキルって何してるのか分かんないし。前衛も後衛も中途半端。っていうか、因果律? なにそれ、占い?」
「成功率が高いって話はあったけど、それって私たちの実力じゃないの?」
クールな声で言ったのは、魔術師エイミ。彼女はレオンの隣で腕を組み、まるで裁判官のような目で俺を見ていた。
レオンが一歩前に出る。声は落ち着いていて、理路整然とした響きを持っていた。
「僕たちは今、次の段階に進もうとしている。有望な冒険者が加入したいと名乗り出てくれてる。火力も、補助も、十分にこなせる彼女がね」
……なるほど。俺を追い出して、可愛い子を入れるってわけか。
リシェルの顔に、かすかな罪悪感が浮かんだ。けれど、すぐに消えた。
代わりに、「あなたも、自分の道を探して」と、どこかで聞いたようなセリフを投げてくる。
俺は少しだけ笑って――
「分かった。そっちがそう言うなら、俺も遠慮はしない」
荷物を背負い、焚き火に背を向けた。
「……あ、これ」
レオンが差し出したのは、俺のステータスカード。
その表には、「ランクⅤ スキル《因果律干渉》」という文字が淡く浮かんでいた。
「君の未来に幸あれ、カイル。きっと、どこかでまた会える」
笑顔。美辞麗句。そして裏切り。
……そうか。これが現実か。
「じゃあな、レオン。みんなも。……せいぜい、後悔しないようにな」
俺は踵を返し、草を踏んで森の奥へと歩き出す。
誰も、その背中を呼び止めなかった。
森の小道は、落ち葉に覆われていた。
朝露がきらめき、木漏れ日がまだらに差し込む。鳥の声と、時折風が葉を揺らす音だけが耳に残る。
「ふぅ……追放、ねぇ」
俺は草をかき分けながら歩き、誰もいない道にぽつりとつぶやいた。
レオンの笑顔と、リシェルの“それっぽい正論”が、まだ頭の中にぐるぐるしてる。
「《因果律干渉(カオスリンク)》……だっけか」
俺は自分のステータスカードを取り出し、改めてスキルの欄を見つめた。
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【スキル:因果律干渉(カオスリンク)】
発動条件:任意/常時補助
効果:対象または自分に対し、因果の連鎖に微細な“揺らぎ”を与える
備考:制御困難/意図しない結果を招く可能性あり
⸻
「……なにこれ、説明がざっくりすぎるだろ」
補助? 常時? “揺らぎ”って何だ、台風でも起こす気か?
カードをしまいかけた瞬間、俺の足が何かに引っかかり――
「わあっ!? うわ、ちょ、まっ、ぐええええ!!」
見事に転んだ。葉っぱまみれで、顔に枝の洗礼。
ふらふら立ち上がって、手をついた先に、ふと違和感を覚えた。
「……ん?」
そこにあったのは、赤く熟した果実。
木の上にしか実らないはずの、“高い位置”にあるやつだ。
「……さっき、枝に届かなかったよな。なんでこれ、地面に?」
しかも、潰れてない。落ちたにしては綺麗すぎる。
俺は拾い上げ、まじまじと見た。
「……偶然、か? たまたま落ちた……いやでも、俺、今、手伸ばしたよな……」
少し背筋が寒くなる。
気のせいだ。きっと。
俺はごまかすように背負い袋を背負い直して――
「……軽っ!? え、ちょ、なんで!? 中身、減った!?」
慌てて開けてみるが、中の荷物は全部ある。保存食、寝袋、鍋、まくら。
持ち物チェックも完璧。だけど、体感重量が明らかに違う。
「……は?」
何が起きてる?
これは、何かが“おかしい”ってレベルじゃない。
まさかと思い、荷物をもう一度背負ってみる。やっぱり軽い。
(でも……詰め方が、ちょっと違う?)
寝袋がぎゅっとコンパクトにまとまり、鍋の中に小物が綺麗に収まっている。
まるで、何度も旅を重ねたプロの荷造りのように、無駄なく、重心が均等になっていた。
「……いやいや、俺、こんなパズルみたいな詰め方してたっけ?」
たしかに今朝、寝ぼけながら荷造りした記憶がある。
だがこれは“偶然うまく詰めた”というより――
「……俺が転んだ拍子に、何かが……変わった?」
ぽつりと、空に向かって呟いた。
風が枝を揺らし、また一つ、どこかで果実がぽとりと落ちた音がした。
(……俺のスキル、《因果律干渉》)
(もしも“無意識に望んだ結果”へ、少しだけ流れをずらす力だとしたら……)
この軽さも、もしかして――「重く感じたくない」という小さな願いが、
“最適な詰め方をした”という“偶然”を引き寄せた結果、なのかもしれない。
この時点では、俺はまだ、自分が“世界を少しずつ歪ませている”ことに、気づいていなかった。
*
森を抜けると、朝の光が一面に広がる開けた道に出た。
小さな木陰――その中に、ぽつんと座る少女の姿があった。
金色の髪は柔らかいウェーブがかかり、陽に透けてきらめいている。
白と青の刺繍が入ったドレス、繊細なレースの飾り。明らかに普通じゃない、どこか上等な身なりだった。
そして、彼女は小さくしゃくり上げながら、泣いていた。
(……え? なんか、すごく場違いな子がいるぞ)
俺は一瞬ためらったが、見過ごせずに近づく。
しゃがんで声をかけようとして、ふと足元に目がいった。
「……あの、おまえ……靴、逆じゃないか?」
つま先が妙な向きになっている。左右、見事に履き間違っていた。
その一言に、少女がびくりと顔を上げた。
目が合う。――赤い瞳だった。
吸い込まれるような、でもどこか寂しげな色。
そして、泣きはらした目のまま、小さく口元をほころばせる。
「……ありがとう」
その声は透き通っていて、少し震えていて、
でも不思議と、胸にすっと入ってくる優しさがあった。
俺は、思わずぽりぽりと頬をかいた。
(……なんだろうこの子。高貴な感じなのに、ちょっと抜けてる。なんか……嫌いになれない)
……その直後だった。
「そこの男、動くなッ!!」
地響きのような怒声とともに、森の茂みがざわめいた。
次の瞬間、鎧のきらめきとともに、十数人の騎士たちが道を囲んでいた。
全員が俺に武器を向けている。
「王女殿下に、何をした!」
「え? ……は?」
状況がつかめず、ただ首をひねる。
「靴、逆ですよって言っただけなんだけど!?」
俺の声など聞く耳を持たず、騎士たちは一斉に剣を抜いた。
銀色の刃が、朝日に冷たく光る。
マジで、どうしてこうなった。
(待て、待て、誰か説明してくれ)
刃が今にも迫ろうとしたその時――
「待って!」
少女が立ち上がった。
騎士たちの前にすっと出て、俺の前に立つ。
「この人は……悪くありません。靴を……教えてくれただけ」
「……は?」
俺、まさかの“王女”に助けられるターン?
騎士たちがざわめき始める中、彼女が名乗る。
「わたくしは、リュミエール・エルセリス・アルトネア。王国第二王女です」
(やっぱり本物だった――!!)
「それに……あなた、変わった匂いがするわ」
少女――いや、王女が、俺を見上げて言った。
「夜風と、蜜柑の香り……」
「え、いや、それって……俺、そんなフレグランス使ってないぞ!?」
「ふふ……でも、私、好きよ」
笑った。その赤い瞳が、まっすぐに俺を射抜いて。
……うそだろ。
俺、靴の話しかしてないのに――なんか今、人生最大のフラグが立った気がする。
沈黙――いや、微妙なざわめきが道端に広がった。
王女の言葉に、騎士たちは明らかに動揺している。
「し、しかし殿下、そいつは身元不明の男で……」
「靴を教えてくれただけよ?」
リュミエール王女が、すっと背筋を伸ばして答える。
さっきまで泣いていた子とは思えない堂々たる口調に、騎士たちは一瞬たじろいだ。
「でも、身柄だけは、念のためお預かりを」
「仕方ないわね……。じゃあ、王都に連れていくわ」
「えっ」
思わず声が出たのは俺だ。
(いやいやいや。なんで靴教えただけで王都送りに!?)
「えっと、待って待って。俺、ほんとにただの一般人で、いま追放されたばっかで、荷物もろくに持ってなくて――」
「うん。そういうの、あとで話して?」
ぴたり、と言葉を封じる王女の笑顔。
(こわい。なんか王族特有の“圧”がある……!)
「リュミエール殿下、馬車をお呼びします」
「うん、お願い。あと、彼の荷物もちゃんと扱ってね」
「あ、いや、それは……」
有無を言わさぬ空気に、俺は完全に流される形で、騎士団の護衛付き王女一行の“随行者”になっていた。
(……なにこの展開。靴の話から、どうしてこうなる!?)
そんな思考をぐるぐるさせながら、俺は連れて行かれる馬車の前で、そっとつぶやいた。
「……俺、なんかとんでもないフラグ立てた気がする」
その予感は、数日後、王都を揺るがす大事件となって見事的中することになるのだが――
このときの俺は、まだ何も知らなかった。
……とりあえず、靴はちゃんと履こうぜ、王女様。
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