妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

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混乱の東京

324 オールクリエイト ~交差する思惑~

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「警察側に動きが有るみたいだけど、どうする?」
「構う事は無い。どうせ何も出来やしない」
「それでも、警戒しておいた方が良いだろ?」
「いまさら警察に何が出来る! 公安もだ! その為に貴重なオールクリエイトを、チンピラ風情に渡してやったんだ」
「それだけなら問題ないんだが、特霊局の動きが妙なんだ」
「特霊局は、遠隔の奴に見張らせているんだろうな!」
「勿論だ!」
「特霊局の情報は、ぜんぶ報告しろ! ぜったいに東郷と三島を甘く見るなよ! 特に東郷が、最大の障害なんだからな」
「言い換えれば、東郷と三島を潰せば、簡単に終わる組織って事か? インビジブルサイトの能力を使えば、消せそうだけどな」
「甘く見るなと言ったぞ。東郷はあの事故でも、かすり傷一つ負ってない化け物なんだ。それより今は、必要な能力を奪う事に専念しろ。特にオートキャンセルは厄介だ。早めに消した方が良い」
「ただあのガキ共には、妙な連中がくっついてる。この間の声も有るし」
「まさか、神だか何だかってのを、信じてるんじゃないだろな? 神なんて存在しないんだ! 下らない妄想をしている暇があれば、その妙な連中ごと末端に始末させろ! 貴重な能力者をくれてやったんだから、ちゃんと働かせろ!」
「わかった。それより、地場固めの方はあんたに任せっきりだけど、大丈夫なのか?」
「あぁ。政財界の大物は、順調に取り込めている。次は、政治家連中だ!」

 ☆ ☆ ☆

 とあるビルの一室に、複数の男達が居た。男達は革張りの長椅子に背を預け、無造作に足を組み顔を突き合わせる。スーツを身に纏っていても、男達が醸し出す雰囲気はとても厳つく、とても一般人とは思えない。室内は普通は目にしない様な肉食獣のはく製等が置かれ、更に別の一室には、眼つきの鋭い男達がたむろしている。ビル自体が一組織の所有物であろうか、どの階にも似たようなガラの悪い男達が、出入りをしている。そこは明らかに、普通の企業とは異なる様相であった。
 
 その一室で上座に座る男が、話を切り出す。低く静に響く声色の中には、老獪な気配が宿っていた。
 
「マトリに動きは掴まれてねぇだろうな」
「ええ、一日単位で拠点を移してますから、早々ばれる事は無いと思います」
「これだけ大っぴらに動いてんだ。いざって時を考えておけよ」
「作らせてるのは、末端の組織。販売は海外の連中にさせてます。いざとなれば、奴らを切り捨てれば良い。抜かりは有りませんよ」

 上座に座る男は、ただ頷いて周囲を見渡す。すると、他の男達から口々に言葉が発せられる。
 
「にしても、能力者なんて使い方次第ですね。とんでもねぇ金の卵じゃねぇか」
「その通りだぜ。あんな若造共に使わせておくには勿体ねぇ」
「この際だ。他の能力者もこっちで押さえれば、敵なしですよ親父」
 
 一人の男が発した言葉に、親父と呼ばれた上座に座る男は、首を横に振った。

「今は、その時期じゃねぇ」
「だったら、いつなら良いんだよ親父。あの若造共は、俺らを良いように使おうとしてるだけだぜ」
「お前もわかってるだろ。今は昔よりサツの目が厳しくなってるんだ」
「だがよ、我慢ならねぇ。俺達は舐められてるんだぜ」
「まぁ待て。いずれ奴らには落とし前をつけさせる。今は奴らに従ってるふりだけしてりゃあいい」
「親父、どういう事だ?」
「やつらは、勢力を拡大させようとしてる。ヤクの流通は、その為の目くらましだ。いずれ奴らの所に能力者が集まった時に、ごっそりと奪えば良い。俺達が今しなくちゃならねぇのは、兵隊集めだ」

 集まった男達は、その言葉に深く頷く。そして上座に座る男は、声色を強めて言い放った。

「いいか、祭りはこれからが本番だ! 気を抜くんじゃねぇぞ!」

 ☆ ☆ ☆

 東京結界の強化をした翌日、東郷邸には数日前に打ち合わせをした面々が集まっていた。一同がリビングに顔を並べた早々に、ペスカが会議の口火を切った。

「取り合えず、空ちゃんの出番は一先ず終わりね」
「そうなの? 黒幕とかっていうのは、どうするの?」
「それは翔一君の役目だよ。翔一君は、仕掛けた罠に注視する事。罠が発動したら、私に伝える事。いいね」
「わかったよペスカちゃん」
「二人共、わかっていると思うけど、無暗に外出しないでね。どうしても外出する時は、パパリンを護衛に着ける事!」
「ペスカちゃん。そうすると、東郷さんの護衛はどうするんだい? 事故に見せかけて命を狙われたばかりだろ?」
「翔一君、馬鹿なの? パパリンがやられるわけないじゃん! 人の事を心配してる場合じゃないよ!」
「そうだぜ翔一、俺の事は心配いらねぇよ。お前は、黒幕連中の尻尾を掴む事に専念しろや」
「わかりました、東郷さん」
「あと家の対策は、クラウスに任せるからね」
「畏まりましたペスカ様。ペスカ様の名を汚す事の無い様、懸命に自陣を守護致します」

 護符による罠を仕掛けた事で、空に役目が終わった事を告げられる。ただ罠を監視し、黒幕の尻尾を掴むのはこれからである。しかしペスカ自身は、然程この策を重要視していなかった。
 言わば、引っ掛かれば儲けもの程度である。何故なら、黒幕連中の慎重さから、馬鹿正直に罠に掛かると考え辛い。また、現状において重要視されるのは、他にあるからである。
 
「佐藤さん。麻薬関連の組織はリストアップしてくれた?」

 次にペスカは、佐藤へ視線を向け問いかける。その問いに対して、佐藤は書類の束を渡した。ペスカは書類の束をしげしげと見つめると、やや口角を吊り上げた。

「佐藤さんって、中々やるね。期待以上だよ」
「一応、怪しそうな所は全てピックアップしたよ。君の目論見通りで良かった」

 佐藤は、よくニュースで取り上げられる様な知名度の高い組織以外にも、傘下の組織、海外マフィア関連、その他の末端等、多くの組織をリスト化した。それは、先の会議におけるペスカの言葉を、佐藤が汲み取った結果であった。
 限られた人員の中で、平和を守らなければならないなら、敵は少ないに越したことはない。潜在化する敵対者も含めて今の内に無力化する。ペスカの策に佐藤は賭けていた。

 ペスカは書類を一通り眺めると、書類の束を二つに分ける。それを冬也とアルキエルに渡した。
 リスト化された組織の数はいざ知らず、冬也の目に留まったのは、一見すると暴対法には関わり合いの無さそうな組織名であった。
 個人よりも、組織立った暴力が怖いのは言うまでもあるまい。冬也もそれは理解をしている。ただ冬也は、何を根拠に判別し攻撃対象としたのかを、理解していなかった。

「ちょっとまてペスカ。これ、会社っぽい名前もあるぞ」
「ああいう組織にも、色々有るんだよお兄ちゃん」
「何とか教ってのもか?」
「それは新興宗教を語る闇組織って奴だよ。裏では何やってるのやら」
「わかったけど、区別がつかねぇな」
「いいたい事はわかるけど渡したリストに載ってる組織は、片っ端から潰してね。白黒関係なく全部だよ」
「あぁ。任せとけ」

 反社会組織が善か悪か。それを問うのは意味が無い事だと、冬也は認識している。何故なら、彼らもまた人であり、社会を担う一員であるから。
 例え一部の工作員が他国の経済を破壊しようと潜伏しても、一定の地域に住む限り経済活動の一端を担うのは当然の事だろう。食事はするだろうし住処も必要だ、ならば対価を払わなければならない。

 社会とは個の集合体である。故に清濁併せ吞む。

 ならば何を持って敵と成すのか。一般的には、個または集団の利害に反した時に、敵となるのであろう。だがそれも、正解とは言い切れない。

 裏切り者とわかっていて、最後の晩餐にユダを同席させたキリストの思惑は?
 獅子身中の虫であった提婆達多を、釈迦が処分しなかった理由とは?

 優れた人間こそ、敵から学ぶものである。日本という国とて、かつての敵から多くのもの得たのだから。ならば真なる敵は、存在し得るのだろうか。敵と認識する、又は認識される事自体が、狭量が狭いと言えないだろうか。

 今回の作戦でペスカが意図したのは、何も能力者の確保だけではない。麻薬取引に関わる多くの人間は、放置すれば間違いなく黒幕連中の先兵と成り果てるだろう。今の時点で叩いておく事で、余計な加害者と被害者を減らす事が、最大の目的なのである。
 
 大局的、多角的、俯瞰視。それぞれは別の言葉であるが、物事を捉える際に重要な視点を意味している。すなわち視野を広く持ち、様々な角度から見定める事が重要なのである。
 そして、現在の局面で大局を見ていたのは、ペスカと冬也だけではない。特に戦いの神アルキエルからすれば、善悪などは立場によって変化する些末な事としてしか捉えてない。

「ペスカぁ。てめぇのちまちました作戦は、相変わらず気に入らねぇ。だがよぉ、今回は乗ってやるぜ。人間に救いを与えてやるぜ、神らしくな!」
「アルキエル、程々にね。殺しちゃ駄目だからね」
「この俺が手を下すのは、修羅として生きる気概の有る奴だけだ。下らねぇ連中には、殺してやる程の興味がねぇよ」
「そんなこと言っても、随分と楽しそうだね」
「ったりめぇだろ。これから、楽しい楽しい暴力の時間だ! 行くぞ冬也!」
「おう!」

 ペスカの溜息を尻目に、冬也とアルキエルは、地図と書類を片手に東郷邸を出る。冬也達の後を追う様に、佐藤も東郷邸を後にした。
 近日中に、世間を騒がす一大事が起きる。どれだけ理不尽な事をしても、どれだけ争っても、それは人間のする事。神々の前には、ただ跪く事しか出来ないのだから。
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