妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

文字の大きさ
380 / 415
混乱の東京

377 第三次世界大戦 ~八王子事変 その1~

しおりを挟む
 ブルに守備を任せたとは言え、手ぶらでは皆が不安になるだろう。ペスカは美咲に依頼し、新宿で使用した沈静効果の有る銃を、人数分用意してもらった。
 更に美咲は自らの意志で、ブルに食料の問題を伝える。ブルは美咲の言葉に頷き、慣れ親しんだ果物が生る木を、急速に成長させた。

 美咲は、ブルが育てた果実を収穫し、いつでも食べられる様に処理をする。包丁やタッパ等の日用品を、自在に作り出せる美咲ならではの行動であろう。
 それに加え、陰陽士達から社殿の説明を受け、作り出した筆記用具で、図面を仕上げていく。準備段階で、美咲は八面六臂の活躍を見せていた。

 冬也とブルが力を合わせて、大地に神気を注いだ事で、一帯は一時的にマナが活性化し始めた。それが何を意味をするか。防御と治療に関しては、エキスパートととも言える、空が全力を出せるのだ。
 
 空は日本に帰還して以来、医療を学んできた。ロイスマリアで人々を治療した時よりも、医療に関する知識が深まっている。
 これまで、治療の魔法はペスカに頼るしかなかった。結界は、ペスカとクラウスに頼るしかなかった。それが、空と言うエキスパートを加える事で、サポート体制が充実したと言えよう。
 
 地球に住む人間の中で、本気で魔法を信じている者は皆無であろう。
 例え青春時代の青臭い夢だとて、心の底では誰もが、常識では有り得ないと理解している。だから成長すると、黒歴史として過去を封じるのだ。
 
 しかし、魔法は実在する。地球では存在しなくても、異世界ロイスマリアでは。
 マナの活性は、異界から来た者達にも恩恵を与える。
 マナの薄い地球で、本来の力を十分の一も発揮する事が無かったクラウス、そしてレイピアにソニア。彼らが本気を出せるなら、一個小隊程度なら軽く壊滅させるだろう。

 そして前線に加えられなかった特霊局のメンバーの中には、攻撃に特化した能力者が存在する。炎を扱う雄二に、サイコキネシスを使うエリー。
 軍との戦いに置いて、中途半端な体術は通用しない。だが、彼らの能力はこの事態で、活きて来るだろう。
 
 更には、警察に反旗を翻した佐藤とその仲間達。彼らは、他のメンバーと比べて銃の扱いに慣れている。美咲が作った銃を、十全に扱い成果をだすだろう。
 
 最後に、彼らをまとめるのは、遼太郎である。
 どちらかと言えば、前線で戦うのを得意とする遼太郎である。ただ、それをサポートするのは、安西なのだ。
 遼太郎が不在の際は、代わりにメンバーをまとめてきた。遼太郎が前線に出た際は、連絡と調整役を熟して来た。
 安西がいるからこそ、遼太郎がリーダーとして、全力を尽くせると言っても過言では無かろう。

 アルキエルは、口角を吊り上げて、戦いが始まるの心待ちにしている。望んで諍いを起こさない冬也とて、これから始まる戦いに意気込んでいる。ゼルは体内にマナを巡らせ、準備万端といった様子である。

 そしてペスカは、静かに内に闘志を秘め、冷静さを保つ。だが、冬也は理解はしていた。ペスカがこれ以上もない位に、激しく怒っている事に。

 彼らは間違えた。決して手を出してはいけない相手に、刃を向けた。それがどれだけ愚かな事なのか、嫌と言う程に思い知る事に成る。
 後悔した時には、遅いのだ。神を語る人間が、本当の神に手を出したのだから。それなりの罰を受けて然るべきだろう。
 それぞれが持ち場につき、その時を待ち受ける。そして、戦闘機の到来により、戦闘は始まった。

 真っ先に動いたのは、アルキエルであった。
 新宿での戦闘は、アルキエルを満足させるには足りなかった。三堂との戦いもだ。無論、戦いの神を満足させるには、相応の力が必要になる。
 かつてのロイスマリアで、生物の頂点として君臨していたエンシェントドラゴンでさえ、アルキエルには手も足も出なかったのだから。

 期待をしてこの世界に来た。力を制限された状態にも関わらず、満足出来る戦いが出来なかった。完全な消化不良が続き、鬱憤が溜まっている。
 ただ、相手が人ではなくて、最新鋭の兵器ならどうであろう。しかも兵器内にいる人を、殺してはいけない条件が付いている。不利なほど熱くなるのが、戦闘狂というものだろう。

 アルキエルは高ぶっていた。今度こそ、自分を満足させてくれるだろうと。
 そして、アルキエルは飛んだ。瞬間移動と呼んだ方が、正解だろうか。音速で戦闘機の眼前に、突然アルキエルが現れれば、パイロットはさぞかし驚いたであろう。
 攻撃する間も無く、戦闘機はアルキエルに突っ込む。アルキエルは、音速で飛ぶ戦闘機を正面から片手で受け止める。そして逆の手で拳を作り、戦闘機を殴りつけた。
 
 アルキエルの拳は、軽々と戦闘機を貫く。戦闘機が爆発する前に、アルキエルはハッチをこじ開けると、パイロットを投げ捨てた。衝突の衝撃で、パイロットは気を失っている。投げ捨てられたパイロットが、自らパラシュートを開けるはずが無い。
 しかし、アルキエルはちゃんと考慮していた。パイロットはゆっくりと降下していく。アルキエルは、パイロットの重力を制御したのだ。そして降下して来たパイロットを、警察チームが拘束する。
 
 アルキエルの目に留まった戦闘機が不運だったのか。ただの不運でない事は、直ぐに証明される。

 隊列を組んで飛行する米軍の航空部隊。一機が簡単に破壊されても、戦いを止めないのは、軍人として正解なのかもしれない。
 だが本当の正解は、ここで尻尾を巻いて逃げ出す事だ。空中に突然現れて、戦闘機を片手で止めるなんて、正真正銘の化け物だ。逃げ出して何が悪い。何を咎められる。
 一機を製造し飛ばすのに、どれだけ金がかかると思っている。
 
 しかし米軍機は見事な隊列を組み、アルキエルに向けて一斉にミサイルを放つ。放たれたミサイルは、全てアルキエルに命中する。
 この地上に有る大抵の物なら、破壊し尽くすだろう。そんな破壊力を持った攻撃が、降り注いだのだ。痛がる素振りでもすれば、可愛げが有るというもの。だが、アルキエルは笑っていた。

「はっはっはっはぁ! ようやく、らしくなって来やがった! てめぇらは、スールよりものろまなんだ。せめて、あいつのブレス位は超えて見せろよ! この程度なら何百機集まろうが、エンシェントドラゴンにすら届かねぇぞ」

 無論スールは、エンシェントドラゴンを超越した神龍である。そして今や、完全な神へと至っている。そのスールと比べるのが酷というもの。しかし、エンシェントドラゴンは、あくまでも地上の生物である。アルキエルらしい比較だろう。
 だが続くミサイル攻撃が、アルキエルに通用する訳もない。単調な攻撃に業を煮やしたアルキエルに、全機が破壊し尽くされるのは、そう時間はかからなかった。

 圧巻、それ以外に言葉は不要であろう。音速で飛び回る戦闘機の前に現れては、簡単に破壊しパイロットを投げ捨てる。その繰り返しで、米軍の航空部隊は完全に沈黙した。
 
 しかしそれは、攻撃の第一陣である。本気の米軍が、戦闘機数機を飛ばしただけで、終わるはずが無い。横須賀に寄港していた空母から、次々と戦闘機が飛び立つ。巡洋艦からは、何発ものパトリオットが発射される。
 
「さっきの雑魚よりは、よっぽど面白そうじゃねぇかよ」

 飛んでくるミサイルを眺め、アルキエルは言い放つ。
 アルキエルが期待していたのは、進んだ科学が生み出した兵器の数々、その力がどれ程のなのか。自分を本気にさせる程の威力を持つのか、それを確かめたかった。
 戦いの神である、高揚して当然だ。しかしそれだけではない。神をして脅威と言わしめる物ならば、ロイスマリアの住人及び神々に警告せねばならない。

 やはり、文化を発展させる事は、世界を壊す事に繋がると。

 ただ今回に限り、杞憂で終わるだろう。
 宙に浮かぶアルキエルに、パトリオットミサイルが次々に命中する。衝突時の爆発と共に、ガスが辺りに充満する。
 音速を超える速度で飛び追突する衝撃力、衝撃と共に爆発する破壊力、最後にガスを持って死に至らしめる。
 そんな大量殺人兵器であっても、本物の神には通用しない。アルキエルの体から発せられる神気の膜を、突き破れはしない。

 アルキエルなら、ミサイルを躱す所か、迎撃する事も可能だっただろう。しかし敢えて全弾を受けたのは、見せしめる為。防御の必要すらないのだと。

 第二陣の戦闘機からは、次々にレーザーが投射される。それすらも、アルキエルには通じない。そして、あっと言う間に、戦闘機は破壊されパイロットは、放り投げられる。

 どんな攻撃も通用しないとしたら、それは悪夢でしかない。米軍の心を折るには、充分であったろう。しかしアルキエルが、戦意を喪失させるだけで終わると思ったら大間違いだ。

 どちらかと言えば、ペスカが得意としそうな技である。
 アルキエルの目は、巡洋艦と空母の詳細な位置を把握している。遠く離れた巡洋艦と空母に向かって、アルキエルは手を翳す。
 そしてアルキエルは、巡洋艦と空母に限定し、大気の濃度をコントロールした。乗組員達は酸素欠乏症を起こして、次々に倒れていく。
 乗組員が行動不能になれば、ミサイルを撃つ事は出来ない。新たに戦闘機を発射させる事も出来ない。米軍対アルキエルは、アルキエルの完全勝利で幕を閉じた。 

「まぁこんなもんだろ、人間に作れるもんはよぉ。兵器が戦うんじゃねぇんだ、極めた奴が一番つえぇ。そんな事すら忘れた奴に、俺を傷付けられると思うなよ。それとなぁ、ここにはシグルドの転生体が居やがるんだ。奴が成長して俺に戦いを挑んでくるまで、この国を壊せると思うんじゃねぇ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

処理中です...