妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

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混乱の東京

390 邪神ロメリア ~世界平和宣言~

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 深山の能力ルーラーを利用した、邪神ロメリアとの繋がりが消え、洗脳された人々が世界中から消える。
 それでも始まった戦争が、止む訳では無い。振り下ろしてしまった拳は、どうやって収めればいい。
 それは、戦争を主導した者達から、終わりの合図が無ければならない。

 世界の中には、直接戦火に巻き込まれなかった国も、僅かにだが存在する。それでも、他国との戦争が無かっただけで、混乱や諍いは国内で起きていたのだ。

 洗脳から解放された人々は、混乱に陥りながらも、戦い続けている。何の為に怒っていたのか、それさえも今はわからなくなっている。
 国の為に殉ずるなら、まだ救いも有るだろう。家族の為に、仲間の為に、力を振るうなら、まだ意義も有るだろう。
 その一切が無く、ただ洗脳され、ただ命じられて殺し合う事に、何の意味を見出せる。それを地獄と言わずに何と言う。

 最初は、確かに何にも無く、戦わされていただけだったかもしれない。しかし、長引けば長引く程、遺恨を残す。悪意は増大する。そして、戦火が拡大していく。
 右の頬を叩かれて、左の頬を素直に差し出す馬鹿は居ない。それが人間なのだ。

 早くこの地獄から、人々を解放しなくてはならない。
 この日、国連加盟国百九十三カ国、更に国連未加盟国と未承認国家、自治領等を加えた世界中の国々が、同時に声明を発表した。
 
 ☆ ☆ ☆

 我々は、操られる様に戦い、必要のない血を流した。
 我々が憎み合ったのは、本当に操られていただけなのか。紛争が絶えず、貧困は増大し、飢えが加速する。互いが牽制し合い、戦力を増大させる。自国の利益のみを求め、貧しい国を顧みる事はない。
 我々は、自身の事だけを考え、他者に配慮をする事を怠った。それが、こんな悲しみを生んだ。

 世界は悲しみに満ちている。世界は憎しみに満ちている。だからこそ我々は今、立ち止まらなければならない。我々は今こそ、己の行動を省みなければならない。
 
 今この瞬間より、全ての戦争を禁ずる。
 全ての諍いを禁ずる。
 他国を脅かす兵器の所有を禁ずる。
 それでも諍いはなくならないだろう。その時、我々は対話を持って、それを収めよう。

 今この瞬間より、核兵器の保有を禁ずる。
 核兵器の保有国は、速やかにこれを破棄する事をここに命ずる。核は、文明の進歩の為に使用されるべきである。平和的な利用こそが、未来を切り開くのである。

 兵器を保有するのは、自国を守る為の最小限としなければならない。
 過度の軍備拡張は、他国に緊張を与える。一方が軍備を拡張すれば、他方も軍備を拡張せざるを得ない。それは、本来は対話で済む所に、疑念を植え付け、甚大な乖離を生じさせる。
 我々は、冷戦時代から今日に至るまで、この様な事例を多く見て来た。戦争行為に及ばない。それ以前に、諍いの種を作らない事が重要なのである。

 そして、これまで軍需産業で利益を得て来た者達は、その方向転換をしなければならない。軍需産業で得た技術を利用し、宇宙開発に取り組むべきである。我々は、その開発を全面的に協力しよう。

 今この瞬間より、全ての遺恨を水に流そう。
 長きに渡り過去の遺恨を盾に、他国を責め立てる。一方では、先進国の恩恵を受けて来たにも関わらず。それは愚の骨頂である。
 
 一切の遺恨を水に流し、手を取り合う事が、最初の一歩となる。互いに正しい歴史を後世に伝えよう。そして優和が永遠となる様に、互いに過去の過ちを省みよう。
 我々は友である。そして、我々は家族である。それを旨に、共に歩もう。

 貧しい国には手を差し伸べよう。乾いた大地には、雨を降らそう。

 貧しい国が不当な差別を受ける事があってはならない。
 奴隷の様な労働環境を強いてはならない。
 それには、先進国の働き手と同様の扱いをする事が肝要である。また、知識と教養を身に着けさせ、労働力となるべき人材を育てよう。
 同時に貧しい国も、先進国の恩恵に甘えるだけに止まらず、自らの力で立ち上がる事を望まなければならない。

 自国の利益だけを追求してはならない。
 他国の状況も鑑みて、正当な着地点を模索することが重要である。問題は、一つの国だけで収まらない。それは必ず、世界に影響を与える。ならばこそ、互いに理が有る地点を模索するのが肝要である。
 その行為を繰り返す事で、互いの信用が生まれる。信用足り得る国となる事も、目標に掲げるべきである。
 
 人種による差別を、全面的に禁ずる。
 宗教、または思想の違いによる争いを、全面的に禁止する。
 そして、戦争は犯罪行為であると、ここに宣言する。 

 国を問わず、この世界に住む人間は、須らく他者に対して、配慮をしなければならない。
 富める者は貧しき者に、健常者は障害者に。異なる文化、異なる価値観を尊重し合い、相互の理解を深めあう。
 一個人の、ほんの僅かな配慮が、世界平和を維持する。それを決して忘れてはいけない。

 憎しみの無い世界を作る事は出来ない。争いの起きない世界を作る事も不可能である。今この場で、どれだけ声を高らかにしても、いずれ痛みは忘れ去られる。だからこそ、不断の努力が必要になるのである。

 他人の為には、力を貸せずとも、友の為なら力を貸せるだろう。家族の為なら、立ち上がれるだろう。もう、他国の知らない者ではない。同じ地球に住む、家族なのだ。

 格差は無くならない。貧困は直ぐに無くならない。しかし誰もが平等に、努力出来る機会を作らなければならない。そして、その努力が花を咲かせ、やがて実とならなければならない。
 それが我々が直面する問題を解決する、一歩となるだろう。
 
 しかしそれは、一人の力では成し得ない。だから、助け合い、分かち合い、守り合う。共に切磋し、時に励まし合う。家族として認められるなら、新しい道も開けるはずだ。
 夢も希望も、この世界には有るのだと、輝ける未来が待っているのだと、皆が思える世界をつくろう。
 
 ここに世界平和を宣言する。

 ☆ ☆ ☆

 銃声が徐々に減っていく。武器を投げ捨てる者が増えていく。傷ついた者に、手を差し伸べる者が現れる。
 それが、声明に対する民意の声なのだろう。

 やがて、世界に充満する悪意が消えていく。争いが止んでいく。
 これが始まりなのだ。新しい世界へと、一歩を踏み出すのだ。

 ミストルティンの策謀により始まった大戦は、終わりを告げる。
 それは一つの奇跡。いや、大いなる奇跡である。

 そして全てを見届けたペスカは、戦いの場に赴く。邪神ロメリアを浄化する為に。
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