The Chess 番外編 王様の結婚篇

今日のジャム

文字の大きさ
14 / 50
赤の章

赤十三話

しおりを挟む
 メリルの郊外の赤バラの屋敷に招待されたデンファーレ王は、広いバラ園の中の東屋でスカーレット・ポルカとお茶をしていた。バラ園は赤バラだけでなく、色とりどりのバラが花を咲かせていた。高貴に凛と咲くバラもあれば、小さな茂みを作る華やかなバラもあった。所々アーチがあり、つるのバラが頭上から訪問者を見下ろしていた。
「私は先代のデンファーレ王とも話したことがあるよ」
 スカーレット・ポルカが紅茶をゆっくり味わいながら客に語った。お茶請けとしてスコーンとバラのジャムが饗されていた。
「楽しい王だった。賭けでは負けることがなかったよ。おや、この話は退屈だったかな?」
「私は先代の王より“庭”を広げようと思っている」
「それは楽しみだね。どうやって?」
「僧侶は王家に仕えるし、西大陸一の無国境団体でもある。そこからつてを広げて直轄領を増やそうと思っている」
 ポルカはテストの答えが正解だった時の先生のように満足そうな笑みをこぼした。
「へぇ、いいね。王は自由にできていいね」
「ポルカが王になれば良いのではないか?」
 デンファーレ王はポルカは年齢としてはチャンスがありそうに思った。ポルカは否定した。
「先代の赤バラの王が私の家の者だったので、私には出番がない。だから私には楽しみがある。次の王を選ぶことだよ」
 落ち着いた話の中で、ポルカは眼がらんらんと光ったようにデンファーレ王には見えた。
「結構なことだな。ライバルも多そうだが」
 きっとその戦いさえ、この目の前の子どもは勝ち抜くのだろう。そういう威容があった。王というより、宰相が似合いそうだった。
「今は支持できそうな王がいるのか?」
「いいや。これから生まれて来る者に期待しているよ。私は青年王を立てたリン・アーデンになりたい」
 七才の子どもの夢は大きかった。ポルカは話を変えた。
「私はカトレアよりデンファーレの方が大きく伸びる王だと思うね。胡蝶蘭もそうだけど、蘭族は人を魅了する美しさがある」
「同じ蘭族とはライバルとしてでも戦う気はない。蘭族は横の繋がりが深くて互いに世話をし合う気風だ」
 デンファーレ王の言葉は暗にバラ族とは違うという意味にも取れた。ポルカは自嘲したように笑った。
「バラ族は内部で喧嘩していると言う者もいるが、それは合っているようで間違っているんだよ」
 デンファーレ王は紅茶を飲んで話を聞いた。
「バラの王家は色別に分かれているけど、その中でも多くの名族が連合している。王は同じ家で続かないように親族で話し合って決められる。連帯感はあるんだよ。最近はバラ族でも少子化で王を継ぐ者の候補も少ない。チェスで戦う時もスポーツとして楽しんでいる」
「チェスには参加するのか?」
 デンファーレ王は話を変えた。
「そうだね。次の王の御代でチェスをするという話だから、私にも出番があるだろうね」
「ナイトか?」
「いや、私はポーンでいいよ」
 ポルカの答えは謙虚だった。
「たぶん、白の方も私みたいな変わり者がいるから、そちらもポーンを選ぶだろうね。チェスで戦うとは覚悟が必要だね」
「その者とは?」
 この気高い赤バラの者が一歩引く相手とはどんな者かデンファーレ王は話を聞きたくなった。
「この町にもよくいるから、町に行った時に教えるよ。私より一つ上だ。想像通りの話だろうけど、彼も王位を継げない。顔が広くて、盤上のチェスが得意だ。たぶんチェスではポーンとなって王の参謀になるだろう。私と同じだね」
 ポルカは一口紅茶を飲んで、話を続けた。
「ちなみに赤バラと白バラは気兼ねなく交流する。デンファーレとスターチスよりもだと思うよ。同族として親戚だと思っている。王家の名前も同じローズだしね」
 ポルカはデンファーレ王に与えた茶菓子の皿が空いたのを見て言った。
「それではこれから王族の休み場所へ案内するよ。ついてくるでしょ?」
 デンファーレ王は答えた。
「楽しみだな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...