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白の章

白十七話

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 エーデルはスターチス王の隠れ場所を知っていた。ある晴れた空の日、エーデルは城の裏側にある薬草の畑へ回った。そこには一つ粗末なベンチがあり、昼の散歩に出掛けたスターチス王が座っていた。手にはクラムディア産のキルシュのチョコレートの袋を持ち、それをつまんでいた。
「一つ頂けますか?」
 エーデルは明るく声を掛けた。王は隣の席を譲った。
「どうぞ。大丈夫ですよ」
 エーデルは譲られた席に座り、トリュフを一つ受け取った。
「ここは伝書鳩も来ない静かな所なのですね」
「エーデルも良かったらこの休み場所を使って下さい」
「お邪魔ではないですか?」
「エーデルならいいですよ」
 スターチス王はもう一つチョコレートを口にした。
「城に来る客人は女王がよくもてなしてくれると評判のようですよ」
「それは良かったです。王女の頃から城に来る客人をよくおもてなししていたので、慣れているのですよ」
「今のエーデルワイス王が玉座を継いで長いのですか?」
「エーデルワイス王家では、百六十才前後で王を引退します。だから四十年くらいでしょうか」
「それまで姉王を支えていたのですね」
「私は自由にしていましたよ。ふふ。でも仲の良い姉妹でしたね」
 エーデルは王からもう一つチョコレートを貰った。
「いいですね。兄弟がいるのは」
「誰か同じ年のいとことかいなかったのですか?」
「そうですね。親戚に会うこともありましたが、遊び相手は城の中の使用人の子どもですね。魔法の先生から習ったことを、遊び友達に教えたりしていました。父と母と直轄領の町に行った時は、町の子どもと遊ぶのが楽しかったですね。王子として世継ぎの問題がなくて良かったとも思いますが、兄弟というものにも憧れます」
 隠れ場所に来たスターチス王は、一人になりたい、と思うと同時に相談相手が欲しかったのではないか、とエーデルは思った。エーデルはそばにいた方がいいように思った。
「私も時々ここに来ますね」
 エーデルは明るく言った。
「ええ。歓迎します」
 スターチス王はチョコレートの最後の一個をエーデルに勧めた。
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