3 / 7
自分の部屋と自由【ミラフィーナ】
しおりを挟む
「……! 大変だわ!」
ぐっすりと寝てしまった感覚に、私はぞっとして飛び起きた。
日の光が窓から差し込んでいる。
もうかなり明るい。寝すぎてしまった。
なんて事だ。
後悔にぐっと息が詰まりそうになるのを、目をつむりやり過ごす。
そんな事に時間を使っている場合ではない。
少しでも早く。
叩かれるどころでは済まないだろう、ともかく急がなくては。
慌てて着替えようと床に足をついたところで気が付いた。
地面が硬くない。
私の足の下には、毛足の長い絨毯が敷き詰められていた。
「そうだったわ。……ここは、あの部屋じゃないんだ」
柔らかな足に触れる上質な毛。そして、私は普段では考えられない事に、ベッドの上に居る。
ふわふわのベッドに、清潔な寝間着。
もう遅いからと貰った、温かいココアとかいう甘い甘い世にもおいしい飲み物。
ゆっくりと眠った身体は十分回復しているようで、いつもある倦怠感がさっぱりなくなっていた。
……昨日の出来事が夢じゃなかった事を、じわじわと実感する。
「健康ってこういうことなのかしら」
召喚されたという事実に、眠れない夜を過ごすような気がしていた。
しかし、与えられたふわふわのベッドが、どうにも眠りに深く誘うので驚いた。
疲れ切っていなくても。硬い床以外で寝るというのは、すぐに眠れるもののようだ。
大きな窓からは、明るい日差しが差し込んでいる。もう朝日が昇ってしばらくたっているようだった。こんなにゆっくり寝たのは初めてだ。
ゆっくりと、喜びが胸に広がる。
もしかしたら、これからこんな風に毎日を過ごせるのかもしれない。
……いや、期待してはいけない。
私は希望を振り払った。
希望を持つと、違った時に余計に苦しいともう知っていた。
私はベッドから降りると、のろのろとグラッスリドを探しに行った。
グラッスリドを見つけたのは、台所が付いた部屋だった。
食事用の机や棚があり、生活感を感じる。
そこで、何かを飲みながら本を読んでいた。
「おはようございます」
「……っ。そうか、夢じゃなかったか……」
グラッスリドは私の事をじっと見た後、驚きに目を見開いた後ため息をついた。
「私も夢じゃなかったと思っていたところでした」
私の言葉に、グラッスリドは苦い顔をした。
「何か食べるか」
しかし、その苦さは口にせずに、私に不器用な口調で聞いてくる。
「……どういうことですか?」
「食事をするか、と聞いている」
「あ、えっ。い、いただきます」
まさか、朝食をもらえるとは思っていなかったので、思わず驚きの声を出してしまった。
「何が好きなんだ」
問われて、私は考え込んだ。
変な答えはしたくない。でも、好きなものなど思いつくはずもない。
「特に好き嫌いはないです」
私は出来るだけ自然に、微笑んだ。
「そうか」
ぶっきらぼうな言葉に、私は自分が上手くやれたことを確信した。
彼が作ってくれた温かなスープは、あまりにもおいしくて、ゆっくりゆっくり、大事に食べた。
「苦手なものが入っていたか?」
いぶかしむような彼の声で、私は残ったスープを急いで飲み込んだ。
空になってしまったお皿が、さみしく感じた。しかし、スープの温かさは、その日寝るまで、私の身体を温めてくれた。
グラッスリドは、「無理するなよ」とよくわからない事を呟いた。
*****
その後の一週間は、あまりに、穏やかな日々だった。
グラッスリドは私の時間はすべて自由だと言い、部屋もくれた。
昨日寝た部屋を、そのまま使っていいと言ってくれたのだ。
初めてもらった私の部屋には、ベッドがあり、大きな窓がある素敵な部屋だった。
ベッドの寝心地はもう知っている、とてもいい。
更には、レースのカーテンがある。
部屋の隅には、小さなキャビネットもあるのだ。
「こんなに素敵な部屋、いいんでしょうか?」
私が訪ねると、彼はなぜか苦虫を嚙みつぶしたような顔になりながらも頷いた。
大事な部屋だったに違いない。
申し訳ない気持ちが沸き起こりそうになったが、グラッスリドがなぜか「後で花でも用意する」と言ってくれて、驚きが勝ってしまった。
そして、本当にすぐに森に自生しているという綺麗な黄色の小さな花弁の花を用意してくれた。
キャビネットの上に置かれた白い花瓶に飾られた黄色い花は、あっという間に部屋を明るくして驚いた。
「これがあると部屋が一日いい香りだと、聞いた」
目を伏せたまま、グラッスリドが飾ってくれた花は、本当にいい香りで、私は枯れるまで、なんどもなんども近づいては、匂いを楽しんだ。
私は、自分が役に立つことを示すために、城を少しずつ掃除していくことにした。
グラッスリドは私に興味があまりないらしく、一日研究室、と呼ぶ部屋に入り浸っている。
今日はキッチンを掃除することにした。
キッチンは簡素であり、初日グラッスリドが作ってくれたように彼は料理をする習慣があるようだった。
しかし、それにしても食器や調理機器が多い。
そのほとんどに布がかけられほこりが被っている。
「誰かと暮らしていたのかしら」
はっきりとはわからないが、グラッスリドが一人になって長い時間がたっているように思えた。
誰もいないのは、嬉しい。
一人であれば、安全だ。誰も私に暴力を振るわない。
苦しい思いをすることもない。
彼が私に興味がない事は、本当に幸運だった。
私は一日中、掃除をして過ごした。
おなかがすいたら、グラッスリドが使ってもいいと言ってくれたキッチンから、パンをもらって食べた。
パンは少し硬かったけれど、そんなこと、気にならないぐらいに嬉しかった。
キッチンの隅で座って食べるパンは、安心の味がして、思わず笑みが浮かんだ。
ぐっすりと寝てしまった感覚に、私はぞっとして飛び起きた。
日の光が窓から差し込んでいる。
もうかなり明るい。寝すぎてしまった。
なんて事だ。
後悔にぐっと息が詰まりそうになるのを、目をつむりやり過ごす。
そんな事に時間を使っている場合ではない。
少しでも早く。
叩かれるどころでは済まないだろう、ともかく急がなくては。
慌てて着替えようと床に足をついたところで気が付いた。
地面が硬くない。
私の足の下には、毛足の長い絨毯が敷き詰められていた。
「そうだったわ。……ここは、あの部屋じゃないんだ」
柔らかな足に触れる上質な毛。そして、私は普段では考えられない事に、ベッドの上に居る。
ふわふわのベッドに、清潔な寝間着。
もう遅いからと貰った、温かいココアとかいう甘い甘い世にもおいしい飲み物。
ゆっくりと眠った身体は十分回復しているようで、いつもある倦怠感がさっぱりなくなっていた。
……昨日の出来事が夢じゃなかった事を、じわじわと実感する。
「健康ってこういうことなのかしら」
召喚されたという事実に、眠れない夜を過ごすような気がしていた。
しかし、与えられたふわふわのベッドが、どうにも眠りに深く誘うので驚いた。
疲れ切っていなくても。硬い床以外で寝るというのは、すぐに眠れるもののようだ。
大きな窓からは、明るい日差しが差し込んでいる。もう朝日が昇ってしばらくたっているようだった。こんなにゆっくり寝たのは初めてだ。
ゆっくりと、喜びが胸に広がる。
もしかしたら、これからこんな風に毎日を過ごせるのかもしれない。
……いや、期待してはいけない。
私は希望を振り払った。
希望を持つと、違った時に余計に苦しいともう知っていた。
私はベッドから降りると、のろのろとグラッスリドを探しに行った。
グラッスリドを見つけたのは、台所が付いた部屋だった。
食事用の机や棚があり、生活感を感じる。
そこで、何かを飲みながら本を読んでいた。
「おはようございます」
「……っ。そうか、夢じゃなかったか……」
グラッスリドは私の事をじっと見た後、驚きに目を見開いた後ため息をついた。
「私も夢じゃなかったと思っていたところでした」
私の言葉に、グラッスリドは苦い顔をした。
「何か食べるか」
しかし、その苦さは口にせずに、私に不器用な口調で聞いてくる。
「……どういうことですか?」
「食事をするか、と聞いている」
「あ、えっ。い、いただきます」
まさか、朝食をもらえるとは思っていなかったので、思わず驚きの声を出してしまった。
「何が好きなんだ」
問われて、私は考え込んだ。
変な答えはしたくない。でも、好きなものなど思いつくはずもない。
「特に好き嫌いはないです」
私は出来るだけ自然に、微笑んだ。
「そうか」
ぶっきらぼうな言葉に、私は自分が上手くやれたことを確信した。
彼が作ってくれた温かなスープは、あまりにもおいしくて、ゆっくりゆっくり、大事に食べた。
「苦手なものが入っていたか?」
いぶかしむような彼の声で、私は残ったスープを急いで飲み込んだ。
空になってしまったお皿が、さみしく感じた。しかし、スープの温かさは、その日寝るまで、私の身体を温めてくれた。
グラッスリドは、「無理するなよ」とよくわからない事を呟いた。
*****
その後の一週間は、あまりに、穏やかな日々だった。
グラッスリドは私の時間はすべて自由だと言い、部屋もくれた。
昨日寝た部屋を、そのまま使っていいと言ってくれたのだ。
初めてもらった私の部屋には、ベッドがあり、大きな窓がある素敵な部屋だった。
ベッドの寝心地はもう知っている、とてもいい。
更には、レースのカーテンがある。
部屋の隅には、小さなキャビネットもあるのだ。
「こんなに素敵な部屋、いいんでしょうか?」
私が訪ねると、彼はなぜか苦虫を嚙みつぶしたような顔になりながらも頷いた。
大事な部屋だったに違いない。
申し訳ない気持ちが沸き起こりそうになったが、グラッスリドがなぜか「後で花でも用意する」と言ってくれて、驚きが勝ってしまった。
そして、本当にすぐに森に自生しているという綺麗な黄色の小さな花弁の花を用意してくれた。
キャビネットの上に置かれた白い花瓶に飾られた黄色い花は、あっという間に部屋を明るくして驚いた。
「これがあると部屋が一日いい香りだと、聞いた」
目を伏せたまま、グラッスリドが飾ってくれた花は、本当にいい香りで、私は枯れるまで、なんどもなんども近づいては、匂いを楽しんだ。
私は、自分が役に立つことを示すために、城を少しずつ掃除していくことにした。
グラッスリドは私に興味があまりないらしく、一日研究室、と呼ぶ部屋に入り浸っている。
今日はキッチンを掃除することにした。
キッチンは簡素であり、初日グラッスリドが作ってくれたように彼は料理をする習慣があるようだった。
しかし、それにしても食器や調理機器が多い。
そのほとんどに布がかけられほこりが被っている。
「誰かと暮らしていたのかしら」
はっきりとはわからないが、グラッスリドが一人になって長い時間がたっているように思えた。
誰もいないのは、嬉しい。
一人であれば、安全だ。誰も私に暴力を振るわない。
苦しい思いをすることもない。
彼が私に興味がない事は、本当に幸運だった。
私は一日中、掃除をして過ごした。
おなかがすいたら、グラッスリドが使ってもいいと言ってくれたキッチンから、パンをもらって食べた。
パンは少し硬かったけれど、そんなこと、気にならないぐらいに嬉しかった。
キッチンの隅で座って食べるパンは、安心の味がして、思わず笑みが浮かんだ。
19
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる