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web連載
蒼き衣
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「待たせたな!」
小一時間程人に店番をさせておいて、戻ってきたマスターが抱えていたのは大きな麻袋だった。
「酷いっすよマスター人に店番させておいて」
俺が軽く抗議するとマスターはギロリと睨みつけ、麻袋を調理台に乱暴において反論して来た。
「あんな客を連れて来るお前が悪い、そもそもうちの飲み屋をうどん屋にしやがったお前が何より一番悪い」
この話は長くなりそうなので、さっさと話を進めるか……。
「それが海老ですか? 随分沢山買ってきたんですね」
「お前は清々しい程人の話を聞かないな……、これがエビだよお前も食った事ぐらいあるだろ?」
麻袋の中身はどっこんどっこん調理台を叩きながら、袋ごと飛び跳ねている。
「ず、随分と活きの良い海老ですね……」
「おう、今朝捕れたてのエビが入荷してたからな、オークの連中が定期的に卸しに来てるんだとよ」
オーク? 何故オーク?
「へ、へえ新鮮な海の幸が天ぷらになるなんて贅沢ですね」
マスターはキョトンとした顔をして首をかしげる。
「何言ってんだお前? エビと言ったらエンガル名物ハッテンバー産のエビだろうが」
忘れてたああああ……海老じゃなくてエビですねええ、あのダンゴムシそっくりの見た目がファンシーな奴ですねえええ、すっかり失念していました。
「あ、あああ、あのエビ」
「あの海老以外となる、とユベツまで仕入れに行かないといけねえだろ? 輸送を考えると鮮度的にもコスト的にも合わねえな、それにこっちの方が味はいい」
味は確かによかったけど、ビジュアル的には二度と見たく無い代物です。
ダンジョンの中ではデックスが、既に〆てあるエビを俺の見えない所で捌いてくれたので何とか食べれたけど、どうなんでしょうか……。
「よしじゃあ、うどんの具になる様に捌くか」
マスターが麻袋の中に手を突っ込み、中から一匹の巨大なダンゴムシを取り出した。
「ギィギィ! ギシャアアアアア!」
ダンゴムシ様が御立腹です。
「あの、怒ってるみたいですから、今回は違う具にしませんか?」
「何言ってんだ? イント、活きの良い証拠じゃねえか」
チラリと覗き見ると目が複数ついてますね、ああ、怒ってらっしゃる、目が赤くなってます、怒りで我を忘れてらっしゃる……。
「色々試してみてえな、先ずはそうだな、素揚げだ」
マスターが煮えたぎった油の中に、生きたままのダンゴムシを放り投げた。
「しゃげええええええええ!」
油のダンゴムシが口から触手を数本吐き出し、俺に助けを求める様に腕に絡み付いた。
「ひいいいいいい!」
「おう、活きが良いな」
触手の先から自分の死を悟ったダンゴムシが、断末魔の叫びの様に卵を放り出した。
「ぶりゅりゅりゅりゅ!」
粘液にまみれた青い卵がそこら中に飛び散る。
「ぎゃあああああ、産卵が散乱でええええええ!」
「後で拾っておけよ、酢味噌で和えると美味いんだ」
青白い体表のダンゴムシが熱を加えられみるみる赤くなって行く。
「そろそろかな?」
マスターが菜箸で油の中のダンゴムシをつまみ上げ、カラリと揚がった赤いダンゴムシが湯気を立てながら皿の上に乗せられる。
H・R・ギーガーも裸足で逃げ出すダンゴムシの素揚げの出来上がりだ。
「よし! 食え!」
「何がよし! ですか! こんな素敵なデザインの食べ物初めて見たっすよ!」
真っ赤に染まったダンゴムシは、無数に伸びた躍動感溢れる足が、高温の油に揚げられて香ばしい香りを放ち、苦痛に蠢く様に四方八方を指差しながら時が止まったかの様にカリっと揚がっている。
口元から飛び出した未だピクピクと痙攣する触手が、活きの良さをアピールするかの様に皿から贅沢に飛び出している。
二リットルペットボトル程のたっぷりとした大きさは、地元の人間でも先ずお目にかかれないレアな大物であるそうだ。
まさに至高。
「どんな罰ゲームっすかこれは……ビジュアルが先ず暴力的です。
子供に食わすとオネショが再発しますよ?」
「うまけりゃいいだろ?」
「先ずビジュアルにも気をつけましょうよ!」
マスターは舌打ちをしながらもう一匹のダンゴムシを取り出す。
まな板の上にダンゴムシを固定すると、頭の中央に向かって一気に五寸釘を打ち付けた。
「ちょ……」
「こうしないと捌けないんだよエビは」
俺の中のエビが段々遠くへ行ってしまう様な悲しみで涙が滲む。
「しゃげえええええ! ぎいいいいいい!」
エビが怒りでくちばしをギチギチと鳴らす。
「イント! 尻尾を抑えておけ!」
「ひいいいいい! ごめんねごめんねごめんね」
ダンゴムシは背中に包丁を入れられた途端に、また金色の触手を勢い良く口から伸ばす。
「イント! 鍋で卵を受けろ」
ダンゴムシは鍋を視認した途端、卵の弾道を意図的にずらし俺に向かって射出した。
「いててててて! マスター! 被弾しました!」
「我慢しろ!」
包丁を背中に入れる度に、ダンゴムシからは青い体液が飛び散り、マスターの白い調理服を青く染め上げて行く。
俺はとうとう耐え切れずに、古き言い伝えを頭に思い浮かべながら気を失った。
「タスケテ姫姉さま……」
小一時間程人に店番をさせておいて、戻ってきたマスターが抱えていたのは大きな麻袋だった。
「酷いっすよマスター人に店番させておいて」
俺が軽く抗議するとマスターはギロリと睨みつけ、麻袋を調理台に乱暴において反論して来た。
「あんな客を連れて来るお前が悪い、そもそもうちの飲み屋をうどん屋にしやがったお前が何より一番悪い」
この話は長くなりそうなので、さっさと話を進めるか……。
「それが海老ですか? 随分沢山買ってきたんですね」
「お前は清々しい程人の話を聞かないな……、これがエビだよお前も食った事ぐらいあるだろ?」
麻袋の中身はどっこんどっこん調理台を叩きながら、袋ごと飛び跳ねている。
「ず、随分と活きの良い海老ですね……」
「おう、今朝捕れたてのエビが入荷してたからな、オークの連中が定期的に卸しに来てるんだとよ」
オーク? 何故オーク?
「へ、へえ新鮮な海の幸が天ぷらになるなんて贅沢ですね」
マスターはキョトンとした顔をして首をかしげる。
「何言ってんだお前? エビと言ったらエンガル名物ハッテンバー産のエビだろうが」
忘れてたああああ……海老じゃなくてエビですねええ、あのダンゴムシそっくりの見た目がファンシーな奴ですねえええ、すっかり失念していました。
「あ、あああ、あのエビ」
「あの海老以外となる、とユベツまで仕入れに行かないといけねえだろ? 輸送を考えると鮮度的にもコスト的にも合わねえな、それにこっちの方が味はいい」
味は確かによかったけど、ビジュアル的には二度と見たく無い代物です。
ダンジョンの中ではデックスが、既に〆てあるエビを俺の見えない所で捌いてくれたので何とか食べれたけど、どうなんでしょうか……。
「よしじゃあ、うどんの具になる様に捌くか」
マスターが麻袋の中に手を突っ込み、中から一匹の巨大なダンゴムシを取り出した。
「ギィギィ! ギシャアアアアア!」
ダンゴムシ様が御立腹です。
「あの、怒ってるみたいですから、今回は違う具にしませんか?」
「何言ってんだ? イント、活きの良い証拠じゃねえか」
チラリと覗き見ると目が複数ついてますね、ああ、怒ってらっしゃる、目が赤くなってます、怒りで我を忘れてらっしゃる……。
「色々試してみてえな、先ずはそうだな、素揚げだ」
マスターが煮えたぎった油の中に、生きたままのダンゴムシを放り投げた。
「しゃげええええええええ!」
油のダンゴムシが口から触手を数本吐き出し、俺に助けを求める様に腕に絡み付いた。
「ひいいいいいい!」
「おう、活きが良いな」
触手の先から自分の死を悟ったダンゴムシが、断末魔の叫びの様に卵を放り出した。
「ぶりゅりゅりゅりゅ!」
粘液にまみれた青い卵がそこら中に飛び散る。
「ぎゃあああああ、産卵が散乱でええええええ!」
「後で拾っておけよ、酢味噌で和えると美味いんだ」
青白い体表のダンゴムシが熱を加えられみるみる赤くなって行く。
「そろそろかな?」
マスターが菜箸で油の中のダンゴムシをつまみ上げ、カラリと揚がった赤いダンゴムシが湯気を立てながら皿の上に乗せられる。
H・R・ギーガーも裸足で逃げ出すダンゴムシの素揚げの出来上がりだ。
「よし! 食え!」
「何がよし! ですか! こんな素敵なデザインの食べ物初めて見たっすよ!」
真っ赤に染まったダンゴムシは、無数に伸びた躍動感溢れる足が、高温の油に揚げられて香ばしい香りを放ち、苦痛に蠢く様に四方八方を指差しながら時が止まったかの様にカリっと揚がっている。
口元から飛び出した未だピクピクと痙攣する触手が、活きの良さをアピールするかの様に皿から贅沢に飛び出している。
二リットルペットボトル程のたっぷりとした大きさは、地元の人間でも先ずお目にかかれないレアな大物であるそうだ。
まさに至高。
「どんな罰ゲームっすかこれは……ビジュアルが先ず暴力的です。
子供に食わすとオネショが再発しますよ?」
「うまけりゃいいだろ?」
「先ずビジュアルにも気をつけましょうよ!」
マスターは舌打ちをしながらもう一匹のダンゴムシを取り出す。
まな板の上にダンゴムシを固定すると、頭の中央に向かって一気に五寸釘を打ち付けた。
「ちょ……」
「こうしないと捌けないんだよエビは」
俺の中のエビが段々遠くへ行ってしまう様な悲しみで涙が滲む。
「しゃげえええええ! ぎいいいいいい!」
エビが怒りでくちばしをギチギチと鳴らす。
「イント! 尻尾を抑えておけ!」
「ひいいいいい! ごめんねごめんねごめんね」
ダンゴムシは背中に包丁を入れられた途端に、また金色の触手を勢い良く口から伸ばす。
「イント! 鍋で卵を受けろ」
ダンゴムシは鍋を視認した途端、卵の弾道を意図的にずらし俺に向かって射出した。
「いててててて! マスター! 被弾しました!」
「我慢しろ!」
包丁を背中に入れる度に、ダンゴムシからは青い体液が飛び散り、マスターの白い調理服を青く染め上げて行く。
俺はとうとう耐え切れずに、古き言い伝えを頭に思い浮かべながら気を失った。
「タスケテ姫姉さま……」
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