シャ・ベ クル

うてな

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人間ドール開放編

第二話 話をするならお茶淹れよ?

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 放課後、善光はロディオンに言われた通り、第二校舎三階にある『家庭科室っぽいけど家庭科室じゃない教室の隣』に向かった。
元々人が立ち入る事が少ない校舎で、廊下は歩く音が響くくらい静かだ。

廊下を歩いていると

「ん?」

善光は足の違和感に気づく。
その場で上履きを確認すると、なんと上履きには袋に包まれた噛み終えたガムがくっついていた。

「うげっ。なんだよこんな時に俺のこういう体質が災いするかな…つーか廊下にガムなんて誰が捨てたし…」

と善光はブツブツ。
彼はかなりの不幸体質で、日々地味に腹の立つ出来事に遭遇している。
善光は気を取り直して、目的の場所に到着。
この部室は小中高の教室に似た間取りで、今までは空き部屋だった。

「ちーっす。」

と善光が入室すると、目の前には退屈そうに善光を見る瑠璃が。
善光は瑠璃を見ると赤面して

「か…神様…!」

と言って、手に持っていたメモ帳になぜか化学式を書き出す。

そして善光の眼鏡はなぜか光を放つ、善光は化学式を書く時は決まって眼鏡が光り輝くようだ。
瑠璃は煙たいものを見る目で、善光の眼鏡の輝きから目をそらすと言った。

「ラディオン(ロディオン)、なんか来たぞ。」

すると教室の黒板に何か書いていたロディオンは、気づいて善光の方に来た。
ロディオンが目の前に来ると、善光の眼鏡の輝きは一気に失せてしまう。

「ようこそ『シャ・ベ クル』へ。善光の席はあっち。」

とロディオンが指した方向は、小学校でよくある班の体制となった机達。

「小学生かよ。」

と善光が率直に感想を漏らすと、ロディオンはジェスチャーも入れて説明を始めた。

「この素晴らしさがわからないか!?机同士をくっつけ合い、皆が対面できるようにされたイニシアチブを取るには最高の机配置。そして何よりエロいだろ!」

善光は瑠璃と並んで無表情になり

「お前は本当にそういうの好きだよな。」

と善光は言った。

ロディオンは下ネタやエロが大の好物らしい。
ロディオンは照れながら

「これから3○とかどうかな…」

と恥ずかしそうに言うと、瑠璃は

「それ、ピー音の意味をなしておらんぞ。」

と○(ピー音)について言ってくる。
更に善光は

「部活もエロも御免だ、家に帰せ。」

とキッパリ断った。
するとロディオンは駄々をこねるように言う。

「なんでそんな事言うんだよ~!このサークルはこの世界にとって大事なものになるんだからな~!」

「何が世界にとって大事だ。文化や政治じゃあるまいし。」

と善光がブツブツと文句を言うと、ロディオンは颯爽と黒板の前に来て言った。

「このサークルは不幸せな人々を救うためのもの!俺達の力で!世界中の人々を幸せにしないか!?ていうかしよう!」

目を輝かせて善光に言う。
善光は逆に潤いのない瞳のまま

「下らない事考え出すなよ。お前のそういう無責任な性格治した方がいいぞ。」

と現実を押し付けた。
ロディオンは少し眉を動かしてしまうと

「若干気に障る事言うなぁ善光ぅ。」

と言い、すぐさま余裕な表情を浮かべた。

「このサークルにいれば、瑠璃と長く一緒に過ごせるぞ?もしかしたら瑠璃の『不思議な力』も易々お目に掛けられるかもな~?」

それを聞いた善光は、固唾を飲み込んでから瑠璃を見た。

海外からのお土産である瑠璃は、実は人間ではないらしい。
ロディオンの話によると『地球に衝突した隕石』であり、魔法のような力を持つ女性なのだという。
善光はその力を見て化学の新しい可能性を感じ、瑠璃に興味を示しているのだ。

善光はシリアスな表情になるとロディオンに言う。

「話を聴こう。」

するとロディオンは笑顔になって

「おっけい!んじゃ瑠璃、隣の『家庭科室っぽいけど家庭科室じゃない教室』でお茶淹れてきて。」

と瑠璃にお願いをする。瑠璃は

「面倒だ。」

と断ると、

「俺が淹れてくるぞ。」

と善光が率先して隣の家庭科室っぽいけど家庭科室じゃない教室に向かおうとした。
それに対しロディオンは善光を止めた。

「可愛い女の子が淹れるから会議に花が咲くんだろ!もっと雰囲気大事にして!」

すると善光は眉をひそめ

「全校生徒の前でさらっと下ネタ言うお前が「雰囲気大事にしろ」とか言えた事かよ!」

とツッコミを入れる。
しかしロディオンは

「淹れるってエロいだろ!エロい雰囲気大事にしろって言ってんだ俺は!」

と言うので、善光は面を食らった様子で呟いた。

「意味わからねぇ思春期かコイツ…」

ロディオンは善光を止めたまま瑠璃に言った。

「お茶を淹れるついでに水も飲めるぞ!瑠璃は水が大好物だもんな!」

それを聞いた瑠璃は

「本当か…!」

とやっと表情を変えて目を輝かせた。
ロディオンは笑顔で「うん!」と言うと、瑠璃は急いで隣の家庭科室っぽいけど家庭科室じゃない教室に向かった。
善光は呆れた顔で

「ホント、人を動かす頭はよくキレるなお前。」

と嫌味混じりにロディオンを褒めた。
瑠璃の姿が消えると、ロディオンは溜息をついて

「水が好物ってのも楽々動かせて苦労しないな。」

と急に表情に活気が消える。

「いっつも海外で長旅して疲れてんのか?急に生気が消えた顔して。」

と善光が言うと、ロディオンはハッとして

「あ!ユーフォー!」

と教室の外を指差す。善光は後ろの窓に振り返るが、そこには何もない。
善光は嘘を付かれたのだと察すると、ロディオンを軽く睨みながら言った。

「そういう変な嘘は要らないから話続けろ。」

ロディオンは笑顔で

「ん~?瑠璃が『家庭科室っぽいけど家庭科室じゃない教室』から帰ってくるの待とうぜ~?」

と気楽。善光はダルそうな表情を見せながらも

「て言うか、その『家庭科室っぽいけど家庭科室じゃない教室』って名前どうにかなんねえのかよ。」

と言うと、ロディオンは答える。

「だって本当の事じゃん?キッチンや流しがあるのに、机は一切ないんだもん。ただの台所じゃん。」

善光は溜息をつくと

「だったら『台所』でいいだろ…」

と脱力するのであった。





瑠璃が帰ってくると、二人にお茶を出した。

「くれてやる。感謝しろ。」

瑠璃が上から目線に言うと、ロディオンは「ありがとおっほほ~」と笑いながらお茶を手に取って話を始めた。

「善光ってかなりの不幸体質だろ?俺はそんな善光を救いたくてこの部活に誘い、共に人々を助けようと考えたわけだ。」

とロディオンが説明しながら茶を飲むと、ロディオンは顔をしかめた。

「味薄くないか瑠璃?お湯しか入ってないじゃん!」

瑠璃は無表情のまま

「茶葉を入れればいいのだろ。」

と茶の淹れ方を知らない様子。
ロディオンは

「あー宇宙人に頼むんじゃなかったよ。俺が淹れ直してくる、善光のも貸して。」

ロディオンは善光の茶を手に取ると、今度は仰天して目を大きく開いた。

「オイ!?なんだこの空から見た針葉樹林は!!」

とロディオンが謎の感想を言う。
それもそのはず、そのカップには茶葉ではなく茶柱がカップにぎゅうぎゅうに詰められていたからだ。
瑠璃は無表情を保ったまま

「善光は不幸体質なのだろう?茶柱がいっぱいあれば幸せになると思ってな。」

と言うと、ロディオンは目に涙を滲ませながら

「瑠璃…!お前はなんて良い奴なんだ…!副部長の鏡だ…!でもこれじゃ茶を飲めないという不幸がな…!」

と渾身の感想を付け加えた。善光は苦笑して

「神様はいい人だ…。でもこれで俺の不幸が消えるとは言い難いな…」

と素直な感想を述べた。
ロディオンは自身の顔を皆から背け、体を僅かに震えさせている。
それを見た善光は

「おいロディオン!笑うな!さっさと茶を淹れ直して来い!」

と、実は笑うのを堪えていたロディオンを叱るのであった。
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